僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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生八つ橋はラムネ味が好きです


31、旅館へ!

 

 

「ただいまー……」

「おかえり。その様子だと……」

 

 僕は椅子に腰かけて、イメージトレーニングをしていた。がちゃりとドアが開く音がしたので振り返ると、スペちゃんがお土産抱えて帰ってきたところだった。

 

「菊花賞、どうだった?」

「負けました~~~!!」

「あっ、そっかぁ………」

 

 うーん、ままならないもんだな。日本一のウマ娘を目指すなら泣くな。僕はハンカチを取ると、腰を上げ、スペちゃんの顔を拭ってやった。

 

「はむっはむっはむっ!」

「そんなに食っていいのかなぁ」

 

 土産物の生八つ橋をヤケ食いするスペちゃん。いやわかるよ。わかるんだけど練習メニューがどんどん追加されちゃうぞそれ。

 

「また太っちゃうのかぁ……」

「う゛……あ、明日から猛特訓しますから!」

「それはフラグというやつだと思うよスペちゃん……」

 

 盛大に伏線(?)を張ってくれるスペちゃん。ちょっとは手を止めてくれ。食うな。

 僕が言うとスペちゃんは気まずそうにしつつもはむはむっと生八つ橋を口に放り込むのを止めない。カロリー高そうだよなぁ、生八つ橋。

 

「うう、セイウンスカイさん、すごく速かった………全然追いつけなくて……」

 

 またたるんできたんじゃないの? とは流石に可愛そうなので言えないので、僕はふんふんと相槌を打つだけにしておく。

 

「スズカさんも食べますか?」

「僕は遠慮しておきます」

 

 私は遠慮しておきますのニュアンスを込めて言ったけどこれはネタが通じない可能性が高そうだ。

 

「天皇賞があるから、八つ橋は明日のご飯代わりに頂くよ」

 

 天皇賞。僕にとっての天王山、登竜門、マイルストーンになりうる、関門。出場すれば、僕は選手生命を絶たれるかもしれない、それが分かっているのに出場しようとしている。こればかりは、スペちゃんには言えない。墓場まで持って行くつもりだ。

 僕がカレンダーを指さすと、スペちゃんは肩を落とした。

 

「秋の天皇賞ですね、私も一度くらいはスズカさんと走りたいなぁ」

「……ジャパンカップ。ジャパンカップなら一緒に走れると思うよ。先に言うけど、ジャパンカップの後、結果次第だけど僕は遠征に出ることになってる」

「えええっ!? そんなに早いんですか!?」

「まあね。一緒に走れるかどうか、明日沖野さ……沖野トレーナーに聞いてみないと」

 

 何事もなければ、だけど………。

 

「さんってつけるようになったんですね」

 

 スペちゃんがほっこりとした顔で頬を緩めている。

 やめてください……。

 

「だってぇ………そのぉ…………さんってつけたほうがいいかなって……」

「ちゅーとかしたんですか!?」

 

 スペちゃんもやっぱり女の子だった。根堀穴掘り聞かれたので、僕は、誤魔化しという走法で逃げたのであった。

 

 

 

 

 数日後。

 校門前に集められた僕たちは、車に乗った沖野さんと遭遇することになった。ステーションワゴン車だ。それ私用車なんかなぁ。ナンバー白だし多分そうだと思うんだけど、実際はどうかわからない。

 

『打倒リギル』

 

 と書かれた鉢巻を巻いた沖野さんが、車内から紙切れを渡してくるので受け取る。

 

「雑ぅ!」

 

 思わず僕が唸ってしまうくらいの雑な手書き地図。旅館ココとか書かれてるけど、これはアレですか、合宿かなにかですか。

 

「いいかー? ゴールはそこだ!」

「え、つまり僕達に走って行けってこと?」

「そういうこと。じゃ俺は先に車で行ってるから。今は15時。18時までにたどり着けなかった場合、メシ抜きだ」

 

 容赦ないなあ。

 僕達が唖然としていると、あっという間に車で門から出て行ってしまった。

 

「旅館ココって沖野さん雑すぎませんかね」

「随分山の中ですわね……」

「何時間かかるの? これー?」

 

 だいぶ空気に馴染んできたマックイーンちゃんが僕が持っている地図を見て呟くと、テイオーも困惑気味に紙を覗き込んでくる。

 僕はさっそくスマホを取り出すと、地形を調べ始めた。

 

「オイオイガチで行くつもりかよ! アタシもちょいドン引きだぜこれは」

 

 ゴルシが困惑している。なんというレアショット。

 

「じゃ出発進行!」

 

 それらしい旅館を見つけた。目的地に設定すると、僕はいの一番に駆け始めたのだった。

 

「すっスズカさんに続かないと!」

 

 スペちゃんが後から僕のことをえっちらおっちら追いかけてきた。

 

 

 

 数時間後。

 

「きっつい………」

 

 2200mもきつかったけどこっちはもっときつい。沖野さんが車で出かける距離を僕たちは徒歩だもんな。流石の僕も最高速で走ったらすぐバテるのでマラソンの速度で行くわけだけど、初見の道を楽々踏破なんてできるわけもなく、あっちでもないこっちでもない、道を間違ったり、路地裏に行きついたりで迷う迷う。

 ようやくそれっぽいところが見えてきた。時刻はギリギリだ。

 

「あ、浴衣」

 

 浴衣姿の沖野さんが待っていた。風呂入ってたのか。

 リラックスした姿勢でベンチに腰かけている。顎で旅館の中を指し示す。

 

「おせぇぞお前ら。風呂入って汗流して来い!」

「その前にたっぷりとお礼はさせていただきますわ」

 

 マックイーン、キレた!

 見事に関節技を決めてかかる。これは……パロ・スペシャル!

 君プロレスとかも好きなの? あんまりやると可哀そうなのでその辺にしておきなって。僕は関節技をやんわりと解いてやった。

 顔を顰めた沖野さんの、腕のあたりを擦ってやる。

 

「いででで………サンキュな、スズカ」

「別に、いいけど。じゃ僕達風呂入ってくるね。覗くなよ?」

「しねぇよ!」

 

 そういうと、僕達は風呂場に直行したのだった。

 風呂場のシーンは特にないです。最下位でした。

 

 

 

「なるほど、話には聞いておりましたが、そういう関係なのですね………」

 

 

 マックイーンちゃん、聞こえてますよ? それ?

 そういう関係になりたいけどまだなってないので変な噂を流さないで貰いたいです。

 

「………っていうか話漏れてない?」

 

 僕は人の噂の流行性に恐怖を覚えたのだった。

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