僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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貯金は大切。


36、新年会!

 

 

 ある日のこと。

 

「スズカしゃぁぁん……」

「負けちゃった?」

「三着でした……」

「うん、テレビで見てたよ……」

 

 リハビリをしたいところだが、何しろやろうにも足の骨が治らないと歩くことすらできない。

 僕は日々勉強をしながら、時間をまったりと過ごしていた。歩くことができない以上車いすだ。トレーニングどころの騒ぎではない。処置が適切であったことから、数か月以内には立ち上がってリハビリに入れることは確定しているが、それでも数か月は大きい。僕はウマ娘用の筋トレグリップ(負荷100kg)をギチギチと言わせつつ、片手でスマホでブラウズしていたところ、スペちゃんが入ってきた。大粒の涙を浮かべている。

 

「三着かぁ……」

 

 悪くはないけど日本一って名乗るのに三着じゃ恰好が付かない。

 スペちゃん、確かに素質はあるんだけど経験がね……勝てる時は勝てるけど、負ける時は負けてしまう。勝負ってそんなものかもしれないけれど。

 スペちゃん怒涛の愚痴を聞いて時間を過ごしていると、疲れたスペちゃんは椅子に座って僕のベッドに身を投げ出す格好で眠ってしまった。

 

「どうぞ」

「スズカ、スペを見てないか」

 

 ノック。返事をすると、沖野さんが入ってきた。スペちゃんを見て頭を掻く。

 

「ここにいたのか……」

「スペちゃん、メンタル大丈夫かな? なんかこうね」

「足の骨折ってるスズカに言われるのもアレだが、大丈夫だろう。だめだったときは、その時は鞭を入れてやるさ」

 

 骨を折って、レースで号泣していた僕が言うのもあれだけどな。でも満足なんだ。前世での未練は断ち切ることができた。あとは、体を治して、やりたいことを探そう。わくわくしているんだ。

 スペちゃん、なんというか、相手に依存する傾向があるのよな。元気いっぱい天真爛漫少女って印象だけど、故郷では友達もいない独りぼっちだったわけで。寂しがり屋なんだろうな。

 僕はスペちゃんの頭を撫でた。涎はやめろ。

 

「毎日毎日来てくれるのはいいんだけど、限度ってものがあるなって」

「トレーニングはできてるが、から回ってる感じがな」

「うーん、あっトレーナーさん!」

 

 目を覚ましたスペちゃんの襟首掴んで沖野さんが部屋から出ていく。

 

「ジャパンカップの反省会だ!」

「す、スズカさーん!」

「がんばれ」

 

 僕は言うとひらひらと手を振ってみせた。

 

 

 

 

 

 年末年始だ。

 

「ウィンタードリームトロフィーかぁ」

 

 僕はスマホでテレビを見ていた。最近の病院はスマホもちゃんと使えるところがいいよね。というかなかったら暇で死んでる。もう筋トレグリップにぎにぎするの飽きたよ。

 

『勉強遅れると大変だからな』

 

 ということで、沖野さんに勉強は見てもらっている。流石教育者というか、夏合宿の時の教え方は正直拙かったけど、最近は慣れたもんだ。勉強は苦手だけど病院暇すぎて楽しいのが怖い。

 当然と言えば当然なんだけどウマ娘の学園ってバリアフリーがね……最低限なんすよ。通学も車いすじゃ苦行過ぎるし、そのたび沖野さんとかスペちゃんとか、あとは親にやってもらうわけにもいかんし、結局病院で勉強することになっている。

 

『年に二回のドリームトロフィー! 出走資格を得たスターウマ娘の競演です!』

『出走するだけでも、すごいことですからね!』

 

「いいなぁ……どんな子が出る事やら」

 

『それでは今回の出走ウマ娘をVTRにまとめています! ご覧ください!』

 

「シンボリルドルフかぁ……苦手なんだよなこのヒト」

 

 さてと。そろそろ、外出の時間だ。スマホを仕舞うと、看護師さんをナースコールで呼ぶ。車いすに乗ったウマ娘というだけあって病院をうろつくと視線をがっつり向けられるのがちょっと恥ずかしいけど、最近は見向きもされない。慣れってやつだ。

 ロビーで車いすで待っていると、冬っぽい恰好のスペちゃんがやってきた。

 

「お待たせしました! スズカさん、行きましょう!」

「うん。行こうか」

 

 僕は受付で外出許可証を提出すると、スペちゃんに連れられて表へと出たのだった。たまに車いすで外には出るけど、それは病院の中だけのことだ。久々の遠出である。

 

 待ち合わせ場所まで行ってみると、みんなが待っていた。みんな冬服だ。沖野さんもコートを一枚羽織っている。

 

「お待たせしましたっ!」

「おせーぞスペー」

 

 ゴルシがキテレツな恰好をするかと思ったら意外や意外普通のダッフルコートなのが面白い。外見だけなら美人な女だけに。中身は闇鍋だよ、魔女の鍋だよ。

 

「ばばーん!」

「ちょ……」

 

 スペちゃんがひざ掛けを取っ払ってきた。スカートめくられたみたいで落ち着かないな。

 そうなのだ。実はもうギプスはとれている。

 

「ギプスが取れてる!」

「ええっ!? じゃあもう走れるんですかぁ!?」

 

 スカーレットが無茶ぶりを言いなさる。いやーきついっす。

 

「なわけねーだろ」

「うむむむ!」

「ぐぬぬぬ!」

 

 頬の引っ張り合いをするウオッカとスカーレット。君たちほんと仲いいね。

 

「これからリハビリなのですね。わたくしも応援しますわ」

「今日はトレーナーの奢りで! うめーもんいっぱい食おうぜ!」

「おし! 新年会は俺に任せろ!」

 

 沖野さんが力こぶを作ってみせた。

 ああ、なんか嫌な予感しかしねぇや。いやおいしいもの一杯食えるのはいいんだけど、奢りでっていうのがもう……その……。

 沖野さん、貯金はしっかりしましょうね? 将来的に大変になるので。

 

「僕が」

「なんか言いました? スズカさん」

「なんでもなーい」

 

 僕は咄嗟に誤魔化すと、さっそくみんなでスーパーマーケットに入っていくのであった。

 ちょっとみんな買いすぎじゃないですかね。伊勢海老を買うのはやめろ。メジロ家の家庭じゃお安いもんだろうけど我々庶民には高級食材です。にんじんもモリモリ過ぎるでしょ。ウマ娘の食事量的には適正かもわからんけどさあ。

 

「僕もちょい出しますわ」

「サンキュな…………」

「お弁当、作ってあげられなくてごめんね。足治ったら作ってあげるから」

「期待して待ってるよ。最近はもやしがうまいくらいだからな」

「安いしね…………あ、料理はするようになったんだ」

「もやし炒めは料理に含まれるのか?」

「びみょー………」

 

 僕は財布から札を何枚か抜くと、沖野さんに手渡した。仕送り分をついに使う機会さえ失ってるので、渡せる余裕くらいはある。

 こんな感じで新年会がスタートしたのであった。

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