僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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ワイン:サイレンススズカが子供の頃親が飲んでいたので舐めさせてもらったお酒
 まずい、苦い、なにより何か恐ろしいものを感じて泣いてしまったという

人参シャンパン:お子様シャンパン。ウマ娘用に販売されておりこの時期はよく売れる。


37、新年!

 

『明けましておめでとう!』

 

 乾杯である。

 こういう時は酒飲むんだろうが―――――人参味のお子様シャンパンで乾杯である。

 大人になれば、ビールとか、チューハイとか、ワインとか………。

 一度親が飲んでるワインを舐めたことあるけど、腰を抜かすくらいまずかったなぁ。なんだろうね、まずいというか、怖かった。

 

「人参シャンパンかぁ。お酒……ワインは………なぜか嫌いだなぁ」

「え゛スズカさんお酒を飲んだことあるんですか!?」

「あぁ、スペちゃんもなかった? ビールの泡だけ舐めさせて貰ったり。あんな感じ」

「あります! お母ちゃんおいしいって言ってたけど、普通ににがくてびっくりしました!」

 

 思わずぼやくとスペちゃんが反応した。

 酒を飲んでいた頃の記憶はある。鮮明ではない記憶の中でワインをバカのように飲んでいたような気がする。とにかく悲しかったような覚えがある。誰の記憶(因子)かはわからない。

 僕の体はまだ未成年なので飲めないが、大人になって飲むならビールくらいにしておこう。ワインはダメな気がするのだ。

 乾杯しておいてから、鍋の蓋をあけて灰汁を取る。台所には立てないがこれくらいはしないといけない。ちなみに鍋は沖野さんが作った。まあ料理できないって言っても鍋くらいはね。鍋は独身の強い味方なのだ。ぶち込んで煮るだけなので、トレーナー時代もお世話になった記憶がある。

 僕はサイレンススズカ。ウマであって、ウマ娘であって、ウマ娘であって、トレーナー。

 こうして書くと気が狂ったような文になるけど、事実だ。

 

「なんで俺が準備しないといけないんだ」

 

 エプロン姿の沖野さんが材料抱えて持ってくる。似合ってるよ。私服じゃないのが残念だけど。

 

「新年会は任せろって言ったデショ?」

「エプロン結構似合ってるじゃない!」

「台所立てたら手伝いくらいはしてたよ?」

「スズカさんがやるなら私もやります!」

 

 僕が言うとスペちゃんが身を乗り出してくる。ほんと君僕のこと好きよねぇ。僕も好きだよ。ライクね。

 それにしても白いご飯が山になってるんですけど、体重管理とか大丈夫なんですかね?

 

「メジロ家では使用人の仕事です」

 

 いいご身分でらっしゃいますね……とは言わんけどね。

 

「スズカくらいか、優しいのはぁ」

 

 と沖野が言うとみんなが僕のことをなまぬるーい目で見てくるので、僕は人参お子様シャンパンを飲んで誤魔化した。

 

「はいはーい! しつもーん! ぶっちゃけスズカってトレーナーのこと好きなの?」

「すきだよー。トレーナーとして」

 

 テイオーが元気よく手をあげて爆弾を投げつけてきた。僕はすっとぼけた。

 沖野さんがじっとこちらを見つめてきたが、ややあって素材を乗せた皿を机に乗せると、自分も座った。

 僕の心中はもう、告白している。すっとぼけた理由もわかってることだろう。実際のところバレバレかもしれないけど、未成年との恋愛は危険性が高すぎてイエスとは口が裂けても言えないのだ。

 実際のところ、トレーナーと結ばれるウマ娘というのは珍しくない。ジュニア、クラシック、シニアを駆け抜けていく僕達にとって、トレーナーは人生の水先案内人に等しい。恋愛感情を抱いてもなんら不思議ではなく、卒業後に結婚する例を何度となく聞いている。

 沖野さんは、素晴らしい人だ。人の可能性を信じて徹底的に“放任”する。大けがした僕を諦めずに、復帰させようとしてくれる。そんなところが好きなのだ。ラブだ。

 

「ちぇーつまんないの。スズカこういうときはなんかミョーに大人っぽくなるんだよなぁ」

 

 大人です。記憶混ざってますけどね。

 

 ファンファーレが聞こえたのでテレビを見てみると、レースが今スタートしようとしていたところだった。

 ウィンタードリームトロフィー開幕である。

 

「芝2400mかぁ………」

 

 2200mが限界だったので2400mはつらい。先頭を維持できる気がしない。

 

『勝つのは“皇帝”シンボリルドルフか? シャドーロールの怪物ナリタブライアンか? スーパーカー、マルゼンスキーか? 二段ロケットのフジキセキか? 地方の怪物オグリキャップか?』

「カイチョー! がんばれー!』

 

 だが1600~2000mであれば…………僕は、例え“皇帝”であっても、追いつかせない。

 そうありたい。そのためには、怪我を治さねばならない。

 レースはシンボリルドルフが他の差しや逃げを圧倒する脚色を披露し、一人でライブをする結果に終わった。

 

「はわー……やっぱり会長かっこいいなぁ!」

 

 テイオーはカイチョーカイチョーほんと会長さん好きだね。僕は苦手なんですけどね。あの目が。

 

「俺たちもいつかここで走りたいです!」

 

 ウオッカが言うと、沖野さんはにこりとした。

 

「おっ、いい目標だなァ」

「そのためにはわたくし達も結果をださなければなりませんわね」

「その通りだ」

 

 沖野さんが自分もジュースを飲んで口を潤すと、人差し指を立てた。

 

「お前らがトゥインクルシリーズで勝ちまくればドリームトロフィーへのゲートは開く」

 

 G1で勝ちを重ねれば、きっといつかはいけるのだろうか? あの、皇帝と走ることができるのだろうか。

 

「わ、私も出たいです! 私も会長さんやスズカさんと走りたいです!」

 

 プリンを食べていたスペちゃんが耳をピンと立てて言う。

 

「スペ。ノッてる時のお前は確かに速い! だがムラがありすぎる。ダービーだけが日本一じゃねぇぞ」

 

 うんうんと僕は頷いた。スペちゃんなぁ、やる気の上下動なのか知らないけど強い時は抜群に強いんだけど、負けるときは負けるのがね。安定しないんだこの子。

 

「ウオッカ、スカーレット。同じチームに競い合えるライバルがいるってのは速さへの近道だ。だが、相手に負けるな」

『はいっ!』

 

 ライバルか。僕にライバルと言える子がいるんだろうか。逃げで言えばセイウンスカイちゃんとかになるのかな。でもあんまり接点ないんだよなぁ。うちのチームだとスカーレットが逃げ得意だけど、ライバルというより普通に後輩である。

 

「テイオー。お前の才能は誰もが認めるところだ。そこに甘んじるな。才能の向こう側を見つけろ」

「………うんっ!」

 

 向こう側。僕は、向こう側(げんかい)を見た。これから、まだ探し続けるつもりだ。速さの向こう側、さらに先の景色へと。

 

「マックイーン。お前はあの名門メジロ家の令嬢だ。ま、その名を知らしめるために、泥くさくても努力しろ」

「言われなくてもわかっています」

「ゴルシ!」

 

 沖野さんがゴルシの方を向く。

 なんて言うんだろ、ゴルシ………。

 なんか吹く予感がするので飲み物は口に含まないでおこう。

 

「ん、まあ好きなように走れ」

「オッケー」

 

 えぇ……。

 

「そして、スズカ」

 

 僕は沖野さんと目線を合わせた。

 

「去年俺はお前に夢を見させて貰った。だが、まだ足りない。もっと、お前で夢が見たい。これからも、お前の走っているところを見ていたい」

「うん」

「………そういうことだ!」

 

 どういうことだよ。テイオーがキャーキャーと鳴く。頬が赤らむのがわかる。

 みんながわくわくしながら僕と沖野さんを交互に見ている。ちなみにゴルシはルービックキューブを凄い勢いで揃えている。話聞いてんのかな?

 

「リハビリ、頑張ろうな。俺も手を貸してやるから」

「もちろん、これからもよろしく、沖野さん」

 

 テイオーがめちゃくちゃニヤニヤしてる。

 恥ずかしいので僕は急に鍋の火力が気になったように、コンロの火力を弄ったのだった。

 

「今年のスピカはリギルを超える! 気合で負けんじゃねーぞ!」

『おーっ!!』

 

「じゃ、行くかぁ」

 

 こうして新年会はお開きに。僕達は、新年ということで神社に向かったのであった。

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