僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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調教(おしえ)はどうなってんだ、調教は!

金取んのかよ!(120億円)くそったれ!


4、作戦会議

「はー……」

「お疲れ様、スペちゃん」

「はい……」

 

 放課後、練習終わり。食事を済まして寮に戻ってくる。

 スペちゃん、ガッツがあるなと思ったけど、一週間でそこまで体力が付くわけもなく、肩を落としてぐったりと言った様子だった。あんなにノリノリで雑談に興じていたのに、今日は言葉少なくほとんど喋らなかった。僕はそうでもないけど、ずっと練習やってきたわけで、比べるのは酷な話だ。

 スペちゃんは靴を下駄箱に入れるなりため息を吐きつつ階段をけだるそうに登っていく。あとでマッサージでもしてあげようかな。お節介か。

 

「スズカ、ちょっといいかな」

 

 寮長のフジキセキがやってきた。いつもの軽い調子ではなく真面目な様子だ。ちらっと階段上を窺うと、僕に話しかけてきた。

 

「スペシャルウィークのことでちょっと頼みがあってね」

「はあ、なんでしょうか」

 

 なんだろ。食事指導とか? うまい! うまい! ってボキャ貧すぎんだろそれって感想言いつつメシ食ってるから口出しはしにくいんだけどやれっていうならやるよ。

 

「彼女はその少し特別なんだそうだ」

「特別?」

 

 なんでしょ。出身が北海道のウマ娘とか? でも地方出身なんて結構いるしなあ。あの有名なハルウララちゃんとか高知出身だし。高知弁とかしゃべんのかな、あの子。

 

「寮生活のこと、ちゃんと見てあげて欲しい」

「それはもちろん。特別って言うのは?」

 

 フジキセキが逡巡の素振りを見せて口を開く。しかし、普段が普段だけにシリアスが似合わないなあなんて、失礼かな。

 

「実は彼女、生まれてから一度も他のウマ娘に会ったことがなかったそうだ」

「でも母親はウマ娘………あっ、ふーん……」

 

 察した。これは……聞けば教えてくれるかもしれないけど、生き別れちゃってるか、あるいは孤児だったのかね。その割にお母ちゃんお母ちゃん言うけど、人間の母親に育てられたのかね。

 僕はふーむと唸った。

 

「詳しい事情は私もよく知らない。ただ、近くにウマ娘も同世代の子供もいない田舎で育ったそうで友達もろくに作れなかったそうなんだ」

「なるほど……道理で、ウマ娘を見て興奮してたわけですね……つまり、面倒を見てあげて欲しい。友達にもってことですかね。いいですよ」

「ありがとう。その上明後日のデビュー戦もある。舞い上がっちゃってて見えなくなってることもあるだろうから、サポートしてあげて欲しいんだ」

「大丈夫です。任せてください」

 

 結構ヘビーな任務を任されてしまったが、友達になって支えてあげて欲しいというのはそんなに難しくはないように思える。あとは、本人次第だ。結果を残すのも、折れるのも、アスリートを目指すなら最終的に自分でなんとかしないといけない。

 

「入りまーす」

 

 部屋に戻ってみると、スペちゃんが机に突っ伏して寝ていた。手紙を書こうとして寝ちゃったらしい。

 

「仕方ないなあ、一つ貸しだぞ」

 

 僕はスペちゃんをベッドに運ぶと、少し時間が経ったら起こそうと思った。着替えないといけないしね。

 

 

 

「えーここからスタートしてぐるっと回ってここがゴールだ」

 

 作戦会議。さて先行か、あるいは逃げか。差しかもわからんし。でも実戦すら経験してない素人にそこまで頭が回るかって言うと……実際何かしら競技をやったことがあれば、格闘技でもいいけど、実戦になると作戦なんて頭からすぽっと抜け落ちちゃうもんだ。スペちゃんに作戦を考える余裕はないだろうと思う。

 僕は沖野トレーナーからカツアゲした飴をペロペロしながら話を聞いていた。まあ少なくともスペちゃん逃げじゃないしアドバイスも難しいしなぁ。

 メンバーはわいわいと作戦を勝手に推測している。逃げから追い込みまでバリエーション豊かだ。

 

「でー、スペ先輩の作戦は?」

「そんなの逃げに決まってるじゃない」

「確かに、僕と同じ逃げにすればいいかもしれないですね」

 

 逃げ。僕と同じか。逃げのいいところは駆け引きが少ないところだ。まあ失敗すると駆け引き強いられるんですけどね。

 沖野トレーナーはばんとホワイトボードを叩いて自信満々に言った。

 

「作戦は、なしだ!」

「なしィ!? ずばっとさぁ、最終のカーブと直線でブチ抜くの気持ち良すぎだろ! 教えはどうなってんだ、教えは!」

 

 ゴルシが憤慨する。それはお前の作戦だろ。お前の末脚エグ過ぎて真似ができないんだよなぁ。なんでグリップの効かない悪路でもゴリゴリ加速してんだよラリーカーかよ。

 

「ねェのかよぉ!」

「おぐぇ!?」

「抑えて抑えて」

 

 ウオッカのチョークスリーパーが沖野トレーナーにがっつり決まる。

 まあまあと僕はそれとなく助け舟を出す。腕を外してやった。沖野トレーナーは首を撫でつつ言った。

 

「スペシャルウィーク、駆け引きしようとなんて思うな。前でも後ろでもいい、お前の思う通り、ここだというタイミングで前にいるウマ娘を抜け」

「ここだというタイミング……わかるかな……」

「ま、生まれ持ったセンスもある。やってみないことにはわからないだろ。好きなように走れ」

 

 一理ある。デビュー戦、作戦を立ててもうまくいくとは思えないしね。一週間しか練習してないし。

 かくしてスペちゃんは作戦『なし』で出場することになったのだった。

 ま、お手並み拝見といきましょうか。

 

 

 ………しかし、何か忘れてる気がするな。

 こう、レースの後に何かをやった気がするんだ。

 

「あっ……」

 

 ライブの練習してねぇじゃん!

 僕は思わずマヌケな声を上げてしまったが、もう遅いことに気が付く。

 北海道生まれはきっとダンスもできるはずだ(?)し大丈夫、へーきでしょ。

 こうして当日を迎えたのだった。

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