僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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尽くすタイプなのでお願いすると着てくれます
何がとは言わないが


38、季節は巡り

 

 神社か。三女神様なんてものがいるくらいだし神社も本当にご利益ありそうなのがこの世界である。オカルトそのものでしかない僕が言うのもアレなんだけど、ここは真面目に誓約しておくか。

 ちなみに神社の場合、勘違いされやすいが願掛けというものは『これからこうするから、神様にすることを約束をします』という意味であって、唱えれば救われると謳った大乗仏教なんかとは根本的に違う。『身ごもった子は神様の子なので燃え盛る産屋でも出産できる』と願掛けした日本神話の女神様もいたりする。

 

「ぷはーっ!」

 

 甘酒を飲んだテイオーがおっさんみたいな声を上げている。僕、甘酒そんなに好きじゃないんだよなあ。よく飲めるなあ。味覚の違いって大きいなって。

 せっかくなのでと、沖野さんとおみくじを買いに行った。参拝が先? こまけぇことはいいんだよ。

 

「うわ小吉か……」

 

 沖野さんは結果がよろしくないのか顔を顰めて紙を見ていた。

 僕も開けてみると大吉だった。

 

「まーた大吉だ」

「すごいなスズカ。またってどういうことだ」

「マチカネフクキタルちゃんのおみくじとか占いすると毎回大吉なんだよね。ずるしてんじゃないのかって疑ってたけど、こうして全然関係ないところでおみくじ引いて大吉だと、運命的なものを感じちゃう」

 

 三女神様が僕に幸運でもくれたのかな? 幸運のクローバーのしおりが効いたとか?

 どれ、中身は。

 

『待ち人 既に来ている。縁を大切に』

『恋愛 必ず成就する』

『旅行 東の方角がよろし』

『探し物 慌てることなく』

『怪我病気 よき医者と信心で治る』

 

 いい占い結果じゃないか。僕は占いの紙をポケットに入れた。そして追及を始める。

 

「そういえばさっき」

「ああ」

「巫女の格好した売り子さん見てたけど」

「あ、ああ」

 

 沖野さんが目線を逸らした。美人さんだったからなあ、売り子さん。

 嫉妬じゃないです。嫉妬では、ないです。

 

「すきなの?」

「いや! そんなことはない」

「そっか、じゃ僕が着替えたらどう思う?」

「…………可愛いんじゃないか」

「そっかぁ……」

 

 よし、次の勝負服は巫女さんに……しねぇよ! でも例えばスカートにするのはいいかもしれない。

 “サイレンススズカ”のように。

 

 ………勝負服はともかくとして、沖野さんそういう服好きなんかな。着替えたら喜んでくれるかな?

 

「お守り、買って来ますね!」

 

 スペちゃんがお守りを買いに行った。効果があるかはわからないけど、オカルトあるくらいだしないわけでもないんだろう。知らんけど。

 

「サイレンススズカさんですよね!」

「あー、マネージャーというかトレーナーの者だけど取材とかは学園を通してもらえると」

「アットレーナーさんなんですか!? 普段どんな風に……」

「参ったな……」

 

 僕がぼんやりとしていると、お客さんだっただろう人たちに囲まれてしまう。沖野さんが間に入ってくれるも、今度は沖野さんに矛先が向き始める始末である。有名人の苦労がわかる気がする。いっそ眼鏡にマスクでもしてくればよかったかな。でも僕の場合車いすで目立つからなあ。それに髪色と、イヤーネットでばれそうだ。

 スペちゃんが小走りで戻ってきた。手には緑色のお守りが。僕の好きな色を知ってて買ってくれたのかな。

 

「スズカさん買って来ました!」

「あっスペシャルウィークだ!」

「ジャパンカップ残念だったねぇ」

「え? あはは……」

 

 あーあ。まあ仕方ないね。

 僕は沖野さんに車いすを押されて、境内をうろつくのであった。

 

「任せてください!」

 

 悲しいかなスロープなんてものはないのでスペちゃんが腕力で解決してくれました。こういう時ウマ娘って凄い。介護とか引っ越し業者やったら便利だろうなあ。

 んで、神社正面、本殿までやってきたのでお金を投じて鈴を鳴らして、みんなで手を合わせる。

 

「………」

 

 願い事。足が治りますように。必ず復帰します。サイレンススズカが成し遂げられなかったことを成し遂げて見せます。だからどうか、見守っていてください。

 

 それから、僕の、長くつらいリハビリが待っていたのだった。

 骨が接着するまでの数か月は少なくともまともに動かすことも出来なかった。しかも、治すために動かせないので、筋力量はどんどんと衰えるばかり、下半身は痩せていった。もともと痩せてたって? 筋肉はついてたよ。それすらなくなっていくのは我ながら辛すぎた。

 骨の接着がかなったとしても、一度破壊された骨と骨の接着点は違う骨になっている。要するに強度が違うため、強い圧力がかかった時に破断する危険性がある。さらに手術をしないといけないので、その体力消費も考えないといけない。

 

「スズカ、ゆっくりでいい。一歩一歩歩いていけ」

「わかってるよ」

「スズカさん応援してます!」

 

 リハビリテーションの専門家指導の元、スペちゃんと、沖野さんに見守られて僕は、ついに立ち上がれるようになった。最初は生活にかかせない歩行のための松葉杖を使う練習から。

 

「んしょ、んしょ……」

「サイレンススズカさん。焦らないでもいいんです。焦って返って負担がかかる方が問題なんです」

「はい、先生」

 

 専門家の先生の言葉に従って、僕は松葉杖を使う練習をした。走るためには、まずこれを使えるようにならないと。車いすは車いすで楽ちんだったけど、走るためにはまず立ち上がらないといけない。

 松葉杖が使えるようになった時は天にも昇る気持ちになった。歩けるって素晴らしいことだ。何せ今まで自分でトイレ行くときも苦労してたからなあ。気軽に風呂も入れないし。

 

「スペちゃんいくよー」

「はい、どうぞ!」

 

 僕はベッドから起き上がると、一歩一歩踏みしめながらスペちゃんに向かって歩いて行って、抱き着いた。やっと、重量をかけてもよくなってきた。

 スペちゃんには感謝してもしきれない。ルームメイトどころか介護士ばりに手を貸してくれたのだ。

 

 当たり前のことを、当たり前にできるようにする。そのために僕は、冬を越し、春になり、初夏へとリハビリを根気強く続けた。

 そうして、時間は巡っていく。

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