A.そんなものはない
Q.実家紹介イベントは?
A.そんなものはない
Q.どうすれば出てくる?
A.IFならばあるいは
僕は電話をしていた。
「あ〜はいお母さん? うん、うん、いやまずいでしょ。連れてこい言われてもなあ……そうかなあ、教えらんないなあ………だめ!」
最近母親がしつこい。なにが? トレーナーを連れてこいとうるさいのだ。よからぬ噂立てたくないしこれに関しては僕と沖野さんが決めることだ。とやかく言われるつもりはない。
「いい人だよ。尊敬してるし。だからさあ……はいはい、体には気をつけるから勘弁してくださいな。じゃ切るよ」
電話を切る。両親に紹介したいのは山々だが沖野さんがイエスと言うかどうか。というか僕がイエスと言わないからな。
まあやるとしたら卒業してからだと思う。やるならば、だけど……。沖野さんは決して答えてくれないからなあ。一線を踏み越えることだけはしない大人だ。
休養ということで僕は暇を持て余していた。走りも禁止ならアウトドアしかないが、アウトドアすると結局走ってるから勉強するくらいしかない。
休日なので学園の図書館で時間つぶしていたが、まあつまらない。スペちゃんもいないしな。ついていけばよかったかもわからんけど、ついていくと絶対走っちゃうからなあ。いいなあ北海道。ツーリング(人力)したいなあ。
「沖野さん」
「あぁ」
「今日ってお休みなんですよねぇ」
「………ああ」
「なんで出勤してるんですかねぇ?」
トレーナー室。僕はたづなさんと偶然会って、書類を運ぶことを任された。彼女には感謝してもしきれない恩義がある。なので休日偶然出会って、手伝うこと自体は問題はない。
トレーナー室に入ると、うんうん唸っている人がいた。僕は目的の机に書類を置くと、その声の方角に行ってみた。案の定沖野さんがパソコンをにらんでうんうん言っている。たしか今日は休日のはずで。僕達のトレーニングもないので休んでいてもいいはずで。
思わず敬語(?)が飛び出してくるくらいには、僕はいらっときていた。
「しかもこれよ………こんなカパカパ飲んでいいわけないでしょ」
「い、いやそれはだな」
山積みになったエナジードリンクの山が、ゴミ箱に入りきらずに床にまで置かれている。
沖野さんが気まずそうに頭を掻く。
「僕達に休養って言ったよね。自分は休養しないの?」
「休養明けのトレーニングの………」
「はいはい! 終わり! 終わりったら終わり!」
僕は強引にパソコンを弄って開かれていたファイルを保存すると、ぱたんと閉じた。
沖野さんの背中を押して立たせようとする。
「コンプライアンス的にもまずいし帰るの! ね?」
「わかった、わかったから押すなって。しかしコンプライアンスなんて小難しい単語よく出てくるなァ」
中身がね、元トレーナーの社会人なんで。ウマやらウマ娘やらと混ざって境界線わかんなくなってますけどね。
「じゃ休まないなら少し付き合ってよ」
「どこに?」
「というか買い出しいこうよ」
「なんの?」
「健康で文化的な生活のための買い出しだよ。ビールとかしか入ってない冷蔵庫に食材をぶち込むんだよ! どーせゴミも溜まってんでしょ?」
沖野さんが苦笑いした。
「なんでこうも的確に俺の私生活わかるんだかなあ……」
「色々ね。想像が簡単なんだもん。トレーナー寮は独身寮だしね、同居人いないならてきと〜な生活してきそうだし」
実際僕がそうだった。自分しか使わないから、部屋は荒れまくっていたわけで。
沖野さんはやれやれとパソコンを鞄にしまったのだった。
独身寮前で待つこと十分。ちなみに僕もラフな格好だ。セーターにジーパンである。
「悪い待たせた」
「僕も今来たとこ」
沖野さんが出てきた。いつもの黄色のYシャツに黒ジャケット姿ではなく長袖ポロシャツにジーンズに黒いキャップをかぶっている。だいぶ印象が違うなあ。若く見える。これで煙草咥えさせたら渋くてかっこいいんだろうけど絶対に吸わないだろう。
シャツにジャケットの組み合わせは自分なりの制服なんだろうな。夏合宿中は流石にシャツと短パンだったけど。
「じゃー買い出しにいくぞー!」
「しかしねぇ、スズカお前彼氏の一人でも作って休養日に遊べばいいんだろうがなあ」
「そっちこそ彼女の一人でも作っていちゃつけばいいじゃん」
「痛いところを突きやがる」
等と会話しながらスーパーに行き、食材を買うのだが。
酒コーナーに来て安い発泡酒を入れまくるのだ、沖野さん。ビールじゃないところが懐事情が分かって悲しくなる。
「酒ばっかじゃないか!」
「いやぁ煙草はやらんけど酒くらいは………」
これだから大人ってやつは。
僕は沖野さんの肩をぽかぽか叩いた。
「野菜を食うんだよ! いい歳ぶっこいた大人が!」
「怒るなって! わかったわかった!」
ということでサラダを買わせる。毎日買えって言ったら目線反らして金がねって、だったら僕達にスイーツ食べ放題奢ってる場合じゃないんだよ! アホ!
いろいろ買って独身寮前まで来たが――――問題がある。そう、見られた場合である。そこまでは考えてなかったな。仕方がない。
「とにかく毎日野菜を食べること。僕達にあれこれ指導するならそれくらいやってみせろよ」
「スズカの将来の旦那は大変そうだなァ」
独身寮に帰っていくのを見送って、僕は自分の頬を手で押さえ込んだ。
「大変にしてやるんだよ…………ふんっ」