「走りたい………」
休養日二日目にして僕は死んでいた。部屋で銅像と化していた。
暇すぎる。自室でスペちゃんと雑談も出来ないし、走れないし、勉強はくっそつまらないし、友達と遊ぶのもいいのかもしれないが、やっぱり走りたいと思う。休養日が大切なのは理解しているがしかしこれは……。
そうだいいこと考えた。走ったらいけないなら………運動だ、他の運動をすればいいのだ! 水泳とかよくないすかね?
ということで室内プールまでやってきたのだが、神は二物を与えないということがよくわかった。シット!!!!
一通り泳いでみたのだが、やはり速度が遅いせいかしっくりこない。うーん。うーん。
「あ」
「お前なぁ………」
プールから上がって着替えて外に出てみると、廊下でばったりと沖野さんと会ってしまった。仕事服を着込んでいる。
「走るの禁止だから水泳しに来たのか?」
「う゛、じゃ、じゃあ」
「ウォーキングか? 競歩みたいなスピードでやればいいとかトンチじゃあるまいしやめろ」
淡々と追及してくるので、僕は頷くしかなかった。
沖野さんは腕を組み、顎を撫でた。
「よし言い方を変えよう。しばらく運動禁止だな」
「ひどい!」
「酷いじゃないよ、スズカさあ………メリハリつけろとか言ってたのはどこのどいつなんだ。休養日なのに運動してどうすんだ。それよか勉強とかどうなんだ? どうせ一夜漬けかなにかなんだろテスト開け酷い顔してるもんなぁ」
「なぜそれを………」
「せっかくの休みだから勉強でもしておくんだな。諦めろ」
「ぐぬぬぬぬ………」
理詰めで逃げ道を塞がれてしまうとどうにもこうにも………。
「フーンじゃあ教えてくださいな」
「いいぞ」
「え゛」
「スケジュールも立て終わったから見てやるよ」
「用事を思い出して………」
僕が逃げようとする前に首根っこ掴まれた。あばばば。本気で抵抗すりゃ余裕で解けるだろうけど、それもどうかと思うので……。
「図書館行くぞー」
「ぎゃああああああ! いやああああ!」
こうして僕はつきっきりで勉強を教えられることになったのだった……。
勉強の教え方は余りうまくない沖野さんだったけど、最近は教え慣れてきたのかなかなかうまい。スポーツ医学とかそっち方面であればトレーナーとしての記憶があるので得意なんだけど、それ以外はまあそういうことです。
それである日。
「はっ、はっ、はっ、はっ!」
やっと休養日が解除されたので、僕は走っていた。
筋トレなんかの成果もあって、体力的には戻ってきている。あとはレースの感覚を取り戻して、先頭を取るだけである。
「おーいいタイムじゃねぇかスズカ!」
タイムを計測していたゴルシがストップウォッチを見せてくる。速度的には、もう一年くらい前と同等くらいは出ている。あとは、レースでいかに戦うかか。
「ぜえっぜえっぜえっ!」
僕が次を走ろうと定位置に戻ろうとしていると、沖野さんが息を切らして走ってくるのが見えた。
「一か月半後のオープン特別……スズカの復帰レースだよ! 決まったんだ」
「え、マジ?」
「マジでぇ!?」
結構早かったな。僕とゴルシは身を乗り出した。
「っし! これでやっと復帰できる」
「よかったじゃねぇか! スズカ!」
僕が拳を手のひらに打ち付けて喜ぶと、ゴルシも万歳して喜んでくれる。変人であるのはかわりないけど、こういう時はきっちり感情表現してくれるので、見ていて面白い。
沖野さんが飴を指代わりにゴルシを指し示す。
「まだ正式発表してないから誰にも言うなよ?」
「わかった! わかったよーん!」
ゴルシが柵乗り越えて走り始めてしまった。あーあ、これ言いふらす気だわ。
「ということで沖野さん。ビシバシとやってくれる? 復帰レースで無様な姿は見せたくないしね~」
「その意気だ。レースとなればコーナーでの駆け引きもある。実践をイメージして、並走トレーニングもしていこう。まずは走り込みからやるぞぉ!」
「おー!!」
こうして僕は、復帰レースに向けての最中調整に入ったのだった。
で。
「ええーほんとに決まったんですか!」
「ま、そういうこと。オープン特別だけど復帰レース決まったんだよね」
「いつですか!」
「スペちゃんが出るジャパンカップの前日だよん」
僕は寮のクソデカ受話器を使って話していた。ウマ娘用の電話機は、受話器が縦長である。耳の位置が遠いからね、仕方ないね。
「私、応援します!」
「みんなも絶好調やしね、僕も負けてらんないよ。誰かに喝されて目も覚めたしね。あれは効いたなー」
「あ、あれは! ほじくり返さないでください………」
「あはははは!」
チームメンバーも絶好調なのだ。テイオー、ウオッカ、スカーレット、マックイーンにゴルシに、みんな一着取ってるしね。あの不調っぷりがなんだったのか。
「帰ったら土産話も期待してるよ。じゃあこっちで会おう」
「はい!」
受話器を置いた僕は、夕方の腹ごしらえに軽く走り込みしようと、寮の外に出たのだった。