スペちゃんが帰って来た。ザクザクとお土産持って帰って来た。じゃがいものお菓子とか、いくらとか、いかさしとか、北海道ラーメンとか、そういうものだ。
もちろん白い恋人もあります。恋人はまだいませんけどね、僕。
「セイコーマートで買った?」
「あ、知ってるんですかスズカさん。セイコーマートは道民の生命線ですよ!」
「惜しむべきはアレがないことだね。白いの」
「カツゲンですね! 冷蔵品なので……あ、冷蔵じゃないのもあったかもしれません! おいしいですよね」
「わかる。いいよねカツゲン」
あ、やっぱりそうなのか。北海道に行けば分かるがセイコーマートから逃げることはできない。某なんとかイレブンも北海道に関してはサプライチェーンが構築できないのか、認知度の問題なのか、ほとんど出店していない。
北海道は行ったことがある。とにかく広くて移動で一日終わってた記憶がある。あとセイコーマート。
「どうでしたか? 北海道は」
「ばっちり休んできましたトレーナーさん! さっ早くトレーニング行きましょう!」
マックイーンが聞くと、スペちゃんはサムズアップした。絶好調って感じだな。もう一人のお母ちゃんと家族の会話をしてきたんだろう。
さっそく足踏みを始めるスペちゃん。やる気十分だなぁ。これは期待できそうだ。
「うわあっ!?」
くるりと回れ右した勢いでぶっ倒れるスペちゃん。受け身取ってないけど大丈夫すかね。
「里帰りして色々初心に戻ったみたいだな」
沖野さんがしみじみと言う。
僕は口元を押さえて笑った。
「最初の頃のあの危なっかしいスペちゃんが懐かしいなあ」
『お前が言うな!』
なんか総動員で突っ込まれたんですけど、僕そんなに危なっかしい感じしてましたか?
「天皇賞まであと少し。完璧に仕上げるぞ!」
「はいっ!」
スペちゃん、スタンドアップ! 起きてから返事をしよう!
ということで、練習を開始。
それなりの期間トレーニングを休んでいたせいか、返って体の調子がよく感じられる。
もう、僕は迷わない。全力で走って、走って、走りまくるのだ。
「シッ!」
スペちゃんと競争をすることになった。と言っても1kmもない短距離だが。僕もスペちゃんも適正距離とは言い難い。まあ練習だからね。これだけ短いともう差しとか逃げが余り関係がない。しかも二人しかいないし。人間の短距離走みたいなものだ。
「スズカさん負けませんっ!」
「え、スズカだって!?」
「あああああっ! その話はほじくらないでくださいっ!」
呼び捨てにされたことを何度でもネタにしてやる。これがまた面白いんだ。というか別に呼び捨てにされても別にいいんだけど、スペちゃんそういうの厳しそうだからなぁ。育ちの良さがにじみ出てるからなあ。
「はああああっ!」
「行きますッ!!」
スペちゃんも僕と同じくらい体を前傾させて走り抜ける。僕も負けるものかと、全力を出した。
体力配分を考えない全力疾走だ。高速道路で走っていてもそこまで違和感ないレベルには速いと思ってくれていい。
「これでも、だめっ……!?」
「スピードで負けるわけにはいかないんだよぉっ!」
僕はスペちゃんを大きく引き離してゴールラインを踏んだ。スピードで負けたら異次元の逃亡者の二つ名が泣くからな。
肩で息をしていたスペちゃんが口元に笑みを浮かべて言った。額からは汗が伝っている。
「もう一度お願いしますっ!!」
「おうよ!」
そして僕達は、とにかくトレーニングをしまくった。走って、くそでかいタイヤ(これなんのタイヤなのだよ)を引っ張ったり、坂道を登ったり………。充実した一日であった。
やっぱり走ることは楽しいと改めて実感した次第である。明日からも毎日走ろう。
「できましたスズカさん」
「それは……? めざせ日本一?」
自室にて。
何やらスペちゃんがパジャマ姿でブーツの調整をしていた。熱心にやっているので声をかけないでいたところ、それを見せてきた。何の変哲もない蹄鉄に見えたが、めざせ日本一と刻印されている。特注品なのかな?
「お母ちゃんのために?」
「最初はそうでした。今はお母ちゃんもそうですけど、チームのみんなやトレーナーさんに喜んでもらいたいです。でもなによりも私はスズカさんに喜んでもらいたいです」
……ちょっとうるっと来てしまうところだった。
「天皇賞に勝って、ジャパンカップも勝って、日本一のウマ娘だって言われるようになって、そしてスズカさんと勝負をして―――勝ちたいんです!」
「
「きゃっ、きゃっちみー…………なんか、かっこいいです!」
「でしょ。最近は英語も勉強しててさー………やるからには、僕はスペちゃんにだって先頭は譲らないよ。世界中の人に言わせたいんだ。
僕は手を差し出した。
「真剣勝負をしてくれる? 一回限りのね」
「もちろん、受けて立ちます!」
僕達はがっしりと手を握り合って、バチバチと火花を散らした。
もう、スペちゃんは僕の背中を見てるだけのウマ娘なんかじゃないんだ。友達で、仲間で、ライバルなんだ。そして僕も、怖気ついていたあの頃とは違うんだ。
僕達はしばらくそうしていたが、なんだかおかしくなってきてしまって、手を握ったまま笑いあったのだった。