僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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It's my life
It's now or never
I ain't gonna live forever
I just want to live while I'm alive
(It's my life)
My heart is like an open highway
Like Frankie said
I did it my way
I just wanna live while I'm alive
It's my life

Bon Jovi『It's My Life』



49、フランスからの刺客

 

 

『オープンとは思えぬほど満員の東京レース場。ゲート前にウマ娘たちが出てきました!』

『今日は特別なレースですからね』

 

 本番だ。ランクで言えばオープン級つまり、G3レースのさらに下のランクのはずだ。というのに、大勢の観客が座席を埋め尽くしていて、僕の肩にかかっている期待の大きさが計り知れる。みんなは、完全復活したサイレンススズカを見に来ているのだ。情けない真似等、できるはずがない。するつもりもない。誰一人、僕に並ぶことなど、許さない。

 

『そうですね、何と言っても注目は………』

『サイレンススズカです! サイレンススズカがレースに帰って来たんです!』

 

 僕は地下道を歩いていた。ランクがランクなので勝負服ではなく、体操服だ。そもそも着たくても勝負服は盛大に血で汚してしまったせいで新しく発注している最中だ。血の汚れ程取れないものはないので。

 

「…………」

 

 まただ。また、左足の靴紐がほどけている。デジャヴを覚えた。これもまた試練なのか。乗り越えるべき壁なのか。いいだろう。僕は、靴紐をしっかりと結びなおした。

 

『あの時から一年一か月―――サイレンススズカは果たして本当に復活できるのか?』

 

 三女神様。どうか、どうか、見ていてください。手助けはいりません。僕は、勝ちます。

 サイレンススズカのために。

 

 僕がターフに出ると、どっと観客席が沸いた。

 見たいなら見てくれ。笑いたいなら笑ってくれ。拍手してくれてもいい。

 これが僕の人生だ(It's my life)

 

 

 

 

 時間は、少しだけ遡る。

 

 レースに向けて、僕は準備に余念がなかった。たかが一レース。されど一レース。僕にとってのメイクデビューが一回きりだったように、運命の天皇賞秋がそうであったように、この復帰戦もまた一回限りだ。一が並んでいると不吉さを感じるが、それでもかまわない。

 その場で足踏みして体を温める。季節が季節なので。エンジンと同じように暖気しないと、筋肉は性能を上手く発揮できない。

 

「しかし、あいつらますます真面目だな」

 

 マックイーンと柔軟体操をしていたゴルシが言った。

 真面目に不真面目やってる君には言われたくないよと思うけど、あれはあれで彼女なりのやる気維持術だと思っている。練習中に急に将棋を打ち始めたりするの、よくわからんけど……。

 マックイーンが『なにいってんだこいつ』みたいな顔をする。この子意外と感情表現豊かなんだよな。口も悪いし。お嬢様の皮被った面白い女という認識でいる。

 

「あなたと違って、前からあの二人は真面目でしたわよ?」

 

 …………そうかな。そうかも。そうだったかなぁ。僕は好きで走ってるだけで、不真面目な時でも走ってるからよくわからないや。

 

「ギャー!!」

 

 おもむろにヘッドロックをかけ始めるゴルシを尻目に、僕はイメージトレーニングとしてぶつぶつ何かを呟きつつターフをうろつくスペちゃんを見た。スペちゃんもずっと真面目だったと思うけどなあ。まあメシは大量に食ってたけど……。真面目じゃないスペちゃんというのが想像しにくい。実家だとお母ちゃんに甘えまくってたりしてね。まさか!

 

『いちにっ、いちにっ!』

 

 そうしている間にも、スカーレットを先頭にウオッカとテイオーもアップを始める。

 僕は駆け始めた。まずは、遅く。慣れてきたら、速く。そしてレースと同じように、並走で。

 

「おーいみんな! 集まってくれー!」

 

 一周して戻ってくると、沖野さんが手を振っていた。何事かと戻ってみる。

 

 

「ブロワイエ………やっぱり、違う世界、並行世界なんだなぁ」

「はい? 何か言いましたかスズカ先輩」

「んにゃこっちの話」

 

 行ってみるとなにやらタブレットで動画を見せてくる。隣に座って、タブレットを覗き込んでみると金髪の美人さんが何やら喋っていた。

 僕はスカーレットの質問に首を振った。知らない女だ、やはり。僕の世界ではこのポジションはモンジューという上腕二頭筋が凄かった記憶のある女のはずだ。

 

「す、スズカさんなんて言ってるんですか!?」

「いやスペちゃん英語はともかくフランス語はわかんないよ……」

 

 スペちゃんや、僕のことをトライリンガルかなにかと勘違いしてませんかね。英語もネイティブと会話は不可能なレベルしか勉強進んでないぞ。

 

『あなたは凱旋門賞の覇者ですよね なぜジャパンカップに?』

『見せつけてあげようと思ってね……本当の強さを!』

 

 ブロワイエが迫真のドヤ顔をする。いい顔してるよ。役者みたいな美人さんだ。

 しかしこんだけドヤ顔して負けたらどうするのか。うーん、フランス人はフランス人だな。とか言うと差別主義者とか言われるので心中に秘めておくとして……。

 

「スペ、しばらく休む時間はないぞ」

「はいっ!」

 

 僕もそのつもりだ。というより僕に休む時間なんて、もう残されていないんだから。

 敗北は許されない。

 僕は立ち上がると、スペちゃんの横まで移動して、その肩を軽く撫でてやったのだった。頑張れスペちゃん。日本一のウマ娘になる為の試練だ。やってみせろよ。

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