僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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キミと夢をかけるよ
何回だって勝ち進め 勝利のその先へ!

『ユメヲカケル!』


最終話 行ってきます!

 

 ファンファーレが鳴り響く。

 スペちゃんが、ジャパンカップに出場しようとしている。

 僕のレースが終わった翌日のことである。僕は倦怠感の体を引きずって、スペちゃんのお母ちゃんに会った。この母あってこの子あり、もちろんいい意味だ。快活で好印象な女性であった。スペちゃんのことを心から愛していることがわかった。愛は、血の繋がりだけが全てではない。僕も、それは知っていた。

 ブロワイエとの一騎打ちになるか、他のウマ娘が差すか。

 

『ジャパンカップ、いよいよスタートです!』

 

 ゲートが、開いた。

 

 

 

 

 

 

 成田国際空港。

 僕は、アメリカ行きの便に乗ろうとしていた。

 思えば遠くまで来たものだ。最初はわけもわからずサイレンススズカとして成長して、サイレンススズカになって、サイレンススズカを超えて、サイレンススズカとして、アメリカに行ってみんなの夢を背負おうとしている。これがサイレンススズカの夢、そして、“僕の夢”だ。

 スペちゃんはジャパンカップでブロワイエに勝った。日本を背負う“日本総大将”として、見事な勝利を収めた。まァ、有馬記念でグラスちゃんにまた負けちゃってたけど、それでもあのブロワイエに勝ったということは大きい。勝負の世界は、勝ったり、負けたりするものだ。

 僕もそうしよう。負けない。負けたとしても、次は負けない。粘り強く戦い続けよう。それが僕に科せられた使命、運命、そして願いなのだから。

 見送りにはみんなが来てくれた。スピカ、リギル、トレーナー陣もほとんどが来てくれた。

 

「負けるんじゃないわよ……」

「サンバイザーちゃんこそ、頑張って」

 

 あんなにアプリではいかないとかなんとか言ってたサンバイザーちゃん(あの後連絡先交換した)は、結局見送りに来てくれた。めっちゃ泣いてるけど、本当にもう、ツンデレなんだから。

 

「スズカ先輩! 俺応援してます!」

「あたしも応援してます!」

「おう、スズカぁ! 毎日納豆食って健康維持しとけよなー。からし入りで」

「スズカさん、わたくしも応援してますわ!」

「ガンバッテネー!!」

 

「スズカさん!」

 

 僕はスペちゃんと抱き合った。スペちゃん、なんとなくだけど一回り大人の女性になった気がする。曰く、人は試練を乗り越えるとより強くなるらしい。ニーチェだったかな。最初会った時の彼女はまるで上京したての子供にしか見えなかったけど、今は立派な女性として見られるようになった。

 

「体には気を付けてください。毎日、メールしますね!」

「うん、スペちゃんこそ体には気をつけて……」

 

 するとどうだろう、どやどやと次々みんなが帰っていくではないか。え、そんなあっさりしてるの?

 と僕が思っていると、スペちゃんが沖野さんの背中を押してやってきた。沖野さんはなんだか気まずそうだ。

 

「私たちは先に帰りますね、トレーナーさん」

 

 スペちゃんがほっこりとした、謎の笑みを浮かべつつ沖野さんにそんなことを言っている。

 沖野さん、運転ありがとね、ほんと。毎回毎回。僕も運転できればいいんだけどね。

 

「おい、スペ。そんな変な気の使い方しないでもよぉ………」

「先に車で待ってます!! スズカさん、本当に、元気で!」

 

 スペちゃんが涙をぬぐいながら、小走りで出口へと駆けていく。

 残された僕と沖野さんは、搭乗口ロビーへと向かった。もうじきしたら、搭乗開始だ。そうなれば、しばらく会えなくなってしまう。

 

「少し歩こ」

「ああ」

 

 僕達は、ロビーから窓際に向かった。僕の乗る飛行機含め、色々な飛行機が羽を休めているのが見える。

 

「ありがとうな、夢を見せてくれて。お前の走ってる姿を見て、心底楽しかったよ」

「…………沖野さん」

「なんだ」

「なんでもない」

 

 搭乗時刻を告げるアナウンスが鳴り響く。搭乗しないわけにもいかない。沖野さんともう少しこうして話していたいが、これは永久の別れなんかじゃない。だから、僕は大丈夫だ。

 僕は沖野さんの手を掴むと、とことこと歩いた。搭乗案内口まで止まって手を離す。

 

「スズカ………うおっ!?」

 

 沖野さんが頭を撫でようとしてきたので、僕はそれをするりとかわすと、沖野さんの口から飴を引っこ抜いて奪った。

 それから、舌を出して、あかんべーしてみせる。子供っぽい? いいんだよ、だって僕子供だしね。

 

「帰ってきて、僕が卒業したら、答えをください。行ってきます!」

「………行ってこい! スズカ!」

 

 僕は飴を口に入れた。甘いはずなのに、甘くない。しょっぱかった。

 僕の目からは大粒の涙が零れ落ちた。無理して笑顔を作る。僕は上手に、笑えていますか?

 

「…………だいすき」

 

 聞こえないように声量を絞ってから、口にする。

 沖野さん。大好きです。どうか、僕が帰ってきて、卒業してしがらみがなくなったら、一人の女性として、愛してください。どうか、お願いします。

 そんな祈りを込めて、僕は視界の中の沖野さんが歪むのを見つつ、ゲートを潜って飛行機へと乗り込んだのだった。

 

 さようなら、日本。みんな。沖野さん。お母さん。お父さん。

 

 夢を、叶えてきます。

 

 

 

 

 こうして、僕の日本での夢は、煌めきと共に終わった。

 アメリカでの夢が始まる。

 勝てるだろうか。負けるだろうか。楽しみだ。




 これで最終回となります。読んでくださいましてありがとうございました。
 『沖スズ』が読みたい。性転換ものもやりたい。僕娘のスズカとか最高じゃねぇの?
 というよこしまな発想からスタートしたこの作品ですが、完結まで持って行けたことを喜ばしく思います。
 彼女の夢は、みんなの夢を背負って走ること。サイレンススズカの無念や思念を背負って、走ること。そして、沖野に一人の女性として愛されること、です。かなえられたかどうかは、この後投稿するアフターで描きたいと思います。

 応援してくださってありがとうございました。
 キサラギ職員の次回作にご期待ください。
 エタってるのあるから書け? ごもっともです。
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