届け ゴールまで
輝く未来を 君と見たいから
駆け抜けてゆこう
君だけの道を
もっと 速く
I believe
夢の先まで
『Make debut!』
ビジネススーツよし、イヤーネットよし、カバンよし。あと“これ”つけて。忘れ物はないね。
かつて通っていた道を走って通勤する。見慣れた学園。門をくぐって中に入っていく。理事長室の扉を叩いて中に入る。
僕は、僕よりだいぶ身長の小さい女の子にぺこりと頭を下げた。
「本日付でトレーニングセンター学園に着任しました、サイレンススズカです」
「感動っ! かつての名選手が部下として着任すること程嬉しいものはないっ!」
僕は、引退した。
あの後アメリカで走って、結果を出した。日本のヤマトナデシコとか呼ばれたっけなあ。懐かしい。それももう、何年も何年も前のことだ。僕は確かに速かった。けれど年齢を重ねるごとに、勝てなくなってきた。ウマ娘の旬は短い。本格化が始まって数年で燃え尽きてしまう選手も多くいる程だ。
だから引退した。もちろん走ることは続けているけれど、成績の出せない選手では、どこも雇ってくれない。趣味として走ってるのだ。
いろんな方面から、トレーナーとして就職しないかという引き抜きはあったけど、僕はトレセン学園を選んだ。中央だ。試験を受けて、面接をした。僕の知る彼女よりだいぶ背丈が伸びた(それでも小さい)秋川やよい理事長が面接に出てきた。
『再会! 久しいなサイレンススズカ!』
『お久しぶりです、理事長』
『夢を叶えたのだな! す、すまん、涙が……』
『もう理事長。涙を拭いてください』
『すまん、たづな……』
面接でボロ泣きしてたけどね、理事長。ちなみにたづなさんウマ娘ってのは知ってたけど、理事長も実はウマ娘だった。面接でこっそり帽子を取ってくれた。本当にウマ娘だったね。それは知らんかったよ。ウマ娘としての名前はノーザンテーストというらしい。
僕は、セカンドキャリアを、トレーナーになることを選んだ。かつての僕がトレーナーだったように、今回もトレーナーになったのだ。
“あの”サイレンススズカが!
アメリカ遠征から帰ってきて、“日本総大将”スペシャルウィークと熾烈な戦いを繰り広げた名選手、“異次元の逃亡者”サイレンススズカがトレーナーになる!
と言うことを聞いて、記者が押し寄せて来て大変だったけど、そこは理事長がなんとかしてくれて、着任日は静かなもんだった。
まずは“同僚”に挨拶しないと。トレーナー室に入ったところ、トレーナーたちが集まって何やら話しているのが見えた。僕の着任を聞いていたんだろう。
「お久しぶりです、東条さん。これからは同僚としてよろしくお願いしますね」
「………話には聞いていたけれど、本当にあなたトレーナーになったのね」
僕の知っているおハナさんより少し歳を取ったおハナさんが目を見開いている。化粧が少し濃くなったかな。昔は迷惑かけちゃったからなあ。少し気まずい。あの時、僕も若かったんだ。反抗して指示無視したりしてごめんね。僕は逃げがやりたかったんだよ。
僕は次のトレーナーに目を移した。
「お久しぶりです、南坂さん」
「お久しぶりです、サイレンススズカさん。これからは同僚として仲良くしましょう」
南坂トレーナー。僕の知ってる彼と比べると少しお腹が出たかな。僕達は握手をした。
チーム・カノープスのトレーナーだ。多分一番、謎の多い男だと思う。
「よぉ。まさかな………冗談の類かと思ってたぜ」
「黒沼トレーナー。よろしくお願いします」
黒沼トレーナー。相変わらず個性的な恰好をしている。グラサンに帽子に腹筋と胸筋丸出しの格好である。寒くないのかな。まあ肉体は精神で超えられる云々言ってるし、本人もそれを実践しようとしてるんだろう。
僕は、次々とあいさつしていった。そして最後。その人に挨拶をする。
「お久しぶりです」
「いや今朝会っただろ………」
「いやぁ、ここは言っておくべきかと思って」
沖野さん。その指には、僕とおそろいのエンゲージリングが光っている。
…………………つまり僕の、旦那さんである。最近白髪が出てきたり、腹が出て来て困ってるその人である。
沖野さん、―――さんは、僕を見つめて言った。
「なんだか感慨深いなあ。あの、サイレンススズカがトレーナーになるなんてなぁ………」
「改めて惚れ直しちゃった?」
「まあな」
『好きです。僕と、お付き合いしてください』
あの後、僕は卒業式が終わったその足で、制服のまま、沖野さんに告白した。行動で告白はしていても、直接、直球で言ったことはなかった。
『……スズカ。俺は言葉で言うのが苦手なんだ』
『うん』
『だから……』
こうして、僕のファーストキスならぬセカンド“も”、彼にあげることになった。
ちなみに。
『スペちゃん、尻尾見えてるんですけど』
『ひゃい!?』
『んだよースペェ! しくじってるんじゃねぇよぉ!』
『ゴルシ、ってことはあれか、みんないるのか………』
『スズカ先輩に先越されるなんてー! 彼氏欲しい!』
『俺みちゃったよ、キスシーンみちゃったよ……』
『ボクも見ちゃったよ……』
結局現場をみんなに見られてしまったんですけどね。どうしてスピカどころかリギルのメンバーもちょいちょいいるんだよ。
「はっ、破廉恥なっ!」
「oh,Loveですネ! 愛する二人が口づけし合うことのどこにも問題はありまセーン!」
エアグルーヴとタイキもいたし。エアグルーヴ、破廉恥って言うならなんでめっちゃ僕達のことガン見してるんですかね?
その辺タイキシャトルはおおらかだ。愛情表現を大っぴらにする国出身だけはある。
「お、お前らぁぁぁぁっ!!」
とキレた沖野さんが怒鳴ると、みんなウマ娘特有のトンデモ脚力で逃げて行ったとか、なんとか。
『結婚してください』
『仮にしないと言ったら?』
『死んでやるよ』
そう沖野さんから持ち出されるようになるまでは、数年かかった。お互いの、性格は知り尽くしている。あとは、実際に同棲してみて、それから……それから……察してください。
確認は大切だ。結婚って言うのは衝動的にやっていいものじゃないから。
それにしても結婚してくれないと死ぬってなかなかすごいプロポーズの仕方だよなって。
『言うわけないでしょ。喜んで。よろしくお願いします』
と僕はこう返したわけなんだけどね。
式には、家族と、あとウマ娘の友達が勢ぞろいした。鼻水垂らしながら祝辞を読み上げるスペちゃんは本当に見ものだったけど、お前結婚式でもそんなに食うんだってくらい食っていたのは笑ったね。
ちなみに理事長も挨拶にやってきたり、地方からウマ娘が見に来たり、記者が押しかけてきたりとんでもないことになったんですけどね。
そして今。僕は彼と一緒の職場に働けることになった。
さて、メイクデビューの季節だ。
僕もトレーナーとして、誰かの担当にならねば。
僕は一人の子に目星をつけた。
真っ白な髪の毛。真っ白な肌。左耳に黄色と青の髪飾り。青いイヤーネット。白い尻尾には、赤いリボンがついている。これは……芦毛じゃないな! 白バだ! 珍しい! 目は桜色だった。
彼女は、メイクデビューで走っている子たちを見つめている。走りたくてうずうずしている、ように見える。どれどれ………僕は下半身に注目した。
「おお………」
なんといってもそのトモ! 素晴らしく仕上がっているトモを見て興奮しないわけにはいかない。
僕は後ろで屈みこむと、トモを触った。
「ひっ!?」
「うーんよく仕上がったトモだなぁ………これは……芝で発揮できる感じがする。あ、でもダートでもいける感じのいい素質のぶべらぁっ!?」
キックを食らった。すげぇ痛い。これウマ娘じゃなかったら首もげてるんじゃないの。
僕は鼻血を拭くと、その子ににじり寄った。
「君、いい足してるね。僕の担当にこない?」
「誰なんですかぁ!? あなたぁ!?」
その子は自分の体を抱きしめるようにして後退していく。
僕は一歩進むと、手を差し出した。
「僕はサイレンススズカ」
The End.
・白馬
・桜色の瞳
・青と黄色の耳飾り
・牝ウマ
・尻尾にリボン
元ネタはあの子です
読んでくださってありがとうございました。つぎはアプリ時空でなんか書くかもしれませんが、ひとまずは幕引きを。次は何にしましょうかね?
『沖野スズカ』
日本ウマ娘トレーニングセンター学園のトレーナー。栗色の髪の毛を緩やかに腰まで流した優しそうな印象のウマ娘。ビジネススーツを着込み、出退勤は常に自力で走っている。放課後生徒に混じって校庭を走っている姿が目撃されることもある。
日本一と名高い成果を挙げたチームスピカのサブトレーナーとして着任後、自分のチーム「チーム・シリウス」を立ち上げて、スピカやカノープスやリギルと熾烈な競争を繰り広げることになる。
ウマ娘としての名前はサイレンススズカ。影も踏ませないと呼ばれた大逃げの名手で、主にマイルから中距離を得意とした選手であった。かつて天皇賞秋で大怪我を負い、再起不能とも呼ばれたものの、奇跡的な復活を遂げアメリカ遠征を行い、現在では北海道で農家を営んでいるスペシャルウィークと日本一の座をかけて戦ったことで知られている。
完結したけど
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掲示板方式欲しい
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おまけ欲しい
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アフターが欲しい
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幕間を追加してほしい
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まんぞく……(成仏)
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デジたんが死んでおられるぞ!
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その他