僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

7 / 60
夢判断:心理学書。フロイト著から。夢は願望の充足をめざす潜在意識が、象徴化、視覚像化、変装、歪曲されて意識化したものと規定する。


7、弥生賞に向けて

 

 やはりというか、スペちゃんの素質はすごかったようで、初戦の緊張っぷりがなんだったのかというくらいにあっさり二勝目を挙げた。

 ウオッカも、余裕を持ってメイクデビューを飾った。

 ダイワスカーレットも余力を持って勝利。

 ゴルシは………ひやっとさせたけど、あれ絶対わざとだ。生粋のエンターテイナーらしい。後方から猛烈な末脚を使ってライバルをごぼう抜きである。

 そして僕。

 

 『前途洋々』、直線で一息入れてからの………逃げて、差す。追いすがるライバルを尻目に最終直線で再度加速を入れて、限界まで加速する。ゴールラインを踏んで後ろを振り返ると、10バ身は離れてゴールしていることがわかった。うーん、流石僕である。もっと速く走ってみたいところだ。

 僕も、こうして勝利を重ねることができたのだった。

 部室にて。

 

「お前ら………なかなかやるな!」

 

 おおっと皆で声を上げる。

 

「ウオッカ、スカーレットがジュニアでそれぞれ一勝づつ。スペが二勝、ゴルシとスズカも連勝だ。この調子ならおハナさんのチーム・リギルに追いつくのももうすぐだ」

「あたしたちならよゆーよゆー!」

 

 ゴルシがそう返すと、トレーナーがちっちっちと言わんばかりにわずかに肩をすかした。

 

「だが、注目されているのはレース結果だけじゃない」

「私たちがかわいいってこと!?」

 

 スカーレットの自信家っぷりはすごいよな。実際可愛いけどね。大きいし。大きいし!

 そこで沖野トレーナーが新聞を取り出した。もうやめてあげてよぉ! スペちゃんの棒立ちシーンは死ぬほど見たじゃないですか。

 

「スズカ以外四人、ライブもしっかりしろ!」

 

 ライブの悲惨な有様ががっちりカラーで印刷されてしまっている。ひっくり返るウオッカとか、倒れてるスカーレットとか、ブレイクダンスしてるゴルシとか。

 ……僕もうまいとは言えないけど、一通りはできる。ウオッカもスカーレットもひどかったなぁ、ダンス。ゴルシだけはノリノリのブレイクダンス披露してくれたけどそういう催しじゃねぇからこれ!

 

「ウィニングライブをこなしてこそ、勝利が完璧なものになるんだ!」

「しょうがねぇだろ!」

「あんたがなんとかしなさいよ! トレーナーでしょ!」

「ごもっともな意見だと思うんですけど、ね、沖野トレーナー?」

 

 僕は横合いから差した。差しにも自信はあるんですよ。僕。

 

「うぐっ、そうだ俺の責任でもあるんだ。だからこれだ。今日からライブの練習もみっちりやっていくぞ」

 

 そこで取り出したのはカラオケの割引券である。カラオケで特訓でもするんだろうか。

 

 

 で、カラオケ屋に行ってみるとトウカイテイオーがライブさながらに踊りながら歌を歌っていたとさ。軽快なステップ。この異様に柔らかい関節の動きが爆発的な加速力を生むらしく、レースではいつも快速を飛ばしている子である。柔らかさにかけては負けないつもりなんだけど、この子には負けてしまうんだよな。

 

「うぉー……これが噂のテイオーステップかぁ」

「すごいです!」

 

 感嘆の声を上げるウオッカとスペちゃん。

 

「なんでテイオーがいるんだよぉ」

「俺が呼んだ」

「なるほど、先生ですかね? 沖野トレーナー」

「そういうこったぁ。テイオーは歌も踊りも完璧だ。先生としては打って付けだろ?」

「スパルタで教えてあげるから安心してヨー。あと会長命令でもあるからね」

 

 テイオーが咳ばらいをすると声を低くした。

 

『ウィニングライブをおろそかにするのは学園の恥』

 

「……だってさ」

 

 似てるなぁ。声が柔らかくて高い印象的な喉をしているだけある。変幻自在なんだろうなあ。良くも悪くも細い声しか出ない僕とは全然違うね。

 

 こうして特訓が始まったのだが。

 ダンスで倒れるわ、点数がヤバイことになるわ、ゴルシが座禅し始めるわもうしっちゃかめっちゃかである。

 

 帰り道。

 

「ええーっ!」

「ホラ、お前の目標はなんだ?」

「スペちゃん、もちろん……」

「日本一のウマ娘に………」

 

 しっかりしてくれ。僕はスペちゃんの肩を撫でた。

 

「だろ? 皐月賞、日本ダービー、菊花賞。この三冠制覇は日本一のウマ娘になるための最短ルートだ」

「三冠ウマ娘……」

 

 日本一を名乗るからには、大きなG1レースで実績を残さなければならない。今上がったレースは中央競バ クラシック三冠レースである。ここで実績を残せば日本一を名乗っても文句ない実力があると認められるだろう反面、ここを突破できなければ名乗れない険しい道だ。

 日本一。僕も興味がないわけじゃないけど、走れれば、それでいい。

 しいて言うなら天皇賞とかは狙ってみたいかなって思っている。今から準備すれば、きっと間に合うだろうし。

 

「スペちゃん。お母ちゃんと約束したんでしょ。日本一になるって……」

「はい!」

「そのためには皐月賞の前哨戦、弥生賞を取るぞ!」

「そのためには特訓ですね。スペちゃん、明日からトレーニング、頑張りましょうね」

「はいっ! スズカさん!」

 

 いいなあ、キラキラしてて。母親の遺志を受け継いで走るウマ娘か。

 ウマ娘は、意志の生き物であると言われる。ウマソウルからの影響なのか、強烈な願いを持って生まれてくるものが多いらしい。

 そうなると僕は、からっぽの僕はどんな願いがあったんだろう。記憶が欠損しているけれど、思い出せればいいのに。

 

 こうして、弥生賞に向けたトレーニングが始まったのだった。

 

 

 

 

 その夜、僕は悪夢を見た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。