霊光郡の平野部を時速約80km程度の巡航速度で南下した突撃級の先頭集団は、そのまま咸平郡北辺の山間部を通過する幹線道路跡――対戦車地雷原に雪崩れこんだ。瞬く間に最先鋒の数体が脚を吹き飛ばされて擱座。後続の個体がそれに激突する。その後ろの個体は擱座した突撃級を乗り越えて前に出るが、その途端に対戦車地雷の餌食となった。
突撃級や要撃級の侵攻路の予想と、避難が終了した地域から文字通り対戦車地雷をばら撒いた大東亜連合軍の戦術的判断が効を奏した形だ。120mm弾さえ容易には通さない正面生体装甲を有する突撃級であっても、脚部や腹部は極めて柔らかい。その上、彼らは地雷を回避したり、処理したりすることがないため、擬装の必要がない。
炸裂した対戦車地雷の破片を腹部に受け、力なく崩れる突撃級。横転した状態でもがき、他の個体の邪魔をする個体。後続はそれを避けるように迂回して前に出ようとする。その先でまた対戦車地雷が次々と炸裂し、突撃級がそのまま擱座して障害物となっていく。
それでも彼らは地雷原を、最終的に物量で押し切ってしまう――その前に、前進速度が鈍った突撃級の群れに向けて、多連装ロケット砲、榴弾砲、重迫撃砲の連続射撃が浴びせかけられた。再編成が終わっていた国連軍・大東亜連合軍の砲兵部隊による反撃。
が、その弾頭は曲射弾道の頂点を迎えたところで、遥か北方から放たれた光芒によって蒸発した。
光線級によって守られた突撃級の突進。その先に待っているのは、国連軍・日本帝国本土防衛軍・大東亜連合軍が主戦場と定めた咸平郡の平野部である。
「トルネード、かかれ!」
「了解ッ――」
即座に戦術機と突撃級が入り乱れる乱戦となった。これは人類側の故意である。KF-16、F-5Eといった戦術機が躍り出たかと思うと、突撃級と突撃級の間隙を縫って一撃必殺の突進を躱す。それに気づいた突撃級は、急制動をかけて旋回しようとするが、あまりにも小回りが利かなさすぎる。戦術機の背中に食らいつく前に、主腕・副腕の突撃砲が放つ36mm機関砲弾が、容易く突撃級の背面や側面を粉砕していた。
「まずっ」
一方で次々に押し寄せる黄緑の色彩に対応しきれず、“ひっかけられる”戦術機も当然現れる。紙一重の回避を繰り返していたF-5Eの肩口が、突撃級の横に張り出した外殻の一部に接触した。あくまでも掠った程度。が、それで僅かに態勢を崩したことで、時速170kmで突っこんでくる後続の突撃級に激突した。胴部ユニットが拉げた状態で宙を舞ったF-5Eは、そのまま畑地のど真ん中に放り出され、そのまま突撃級に轢かれた。
「スピアー各機ッ、無理せず飛び越えろ! まだ大丈夫だ!」
突撃級の頭上に活路を見出す衛士も少なくない。中衛集団が未だ山地に達していない、より正確にいえば稜線の向こう側から光線級が頭を出していないことを願いながら、短噴射で突撃級の頭上を飛び越えて、攻撃を回避する。
突撃級から成る先頭集団に対し、損害必至の混戦に持ち込んだのは戦術機を囮として突撃級の足を止めるためだ。
人類側は、そうせざるをえない。
なにせここから木浦港までは、直線距離40kmもない。突撃級の巡航速度なら30分程度で踏破できてしまう。戦略的に死守しなければならない重要施設との縦深が、あまりにも短すぎた。
「こちらバルディッシュリーダーッ、中衛集団先頭は旧新光面役場前に達した!」
高地を守る機械化装甲歩兵が、オープンチャンネルで怒鳴る。
中衛集団は要撃級・戦車級・光線級が主体だ。スピアー中隊の中隊長・許起範大尉は、目の前に迫る突撃級をいなして側面に機関砲弾を叩きこみながら「あと10分で中衛集団が来るぞ」と注意喚起した。
と同時に、再び後方の砲兵部隊が砲撃を開始。当然ながら、全弾が迎撃される。が、これでいい。高地に布陣する機械化装甲歩兵や設置された監視装置が、光線級が放つ大出力のレーザーによって生まれるプラズマを追って、その所在を特定するための布石だからだ。
「……」
後方に控えて戦況を見守る大島将司大尉は、CPからゴーサインが出るのを待っていた。急く心を、抑える。突撃級が主力の先頭集団に対して127mmロケットランチャーを撃ちかけても効果は薄いことを、CPもよくわかっている。このバトル・シスターズが最前線に投じられるのは、中衛集団が平野に現れてからだ。
実際、そうなった。
戦術機と突撃級の格闘戦が続く平野に、要撃級と戦車級の群れが出現するとともにF-8Eクルセーダーから成る帝国陸軍第92戦術機甲連隊第22中隊に、攻撃命令が下った。
「シスター各機、ハンマーヘッド・ワンッ! 続けッ!」
中隊長の命令に「了解」と威勢よく返事をし、短噴射跳躍の連続で前進を開始したものの、シスター8――雨田優太少尉はたじろいた。
「乱戦じゃねえか」
友軍を示す青いマーカーと、要撃級以上と戦車級の群れを表す赤いマーカーは混淆している。周辺の高地では歩兵部隊が戦車級や闘士級から成る群れに対して踏ん張り、光線級の登攀を妨害していることがわかる。突撃級とドッグファイトを繰り広げていた韓国軍機は退いたが、退いた分だけ要撃級が進出し、戦術機に戦車級の群れが追い縋っていた。
F-8Eの直掩につくフラッシュ中隊――帝国陸軍のF-4J撃震は生き残りの突撃級や、押し寄せる要撃級を駆除し、進路と射点を切り拓いた。
そしてハンマーヘッド・ワン。A小隊が横一列に並び、B・C小隊が側面を警戒する陣形で、127mmロケット弾の連続射撃が始まる。
短噴射跳躍で後退する韓国軍機。それを追う要撃級の顔面に、127mmロケット弾が直撃する。戦車級の群れの鼻先でばら撒かれた子弾が、赤い色彩の奔流を滅茶苦茶に引き裂いた。死骸と体液がわだかまる屍山血河。そこへまた新手の戦車級の群れが現れ、再びロケット弾で吹き飛ばされる。
全ッ然、数が減らねえ! と雨田優太少尉は叫びだしたくなった。
ともすれば設定した交戦距離800mよりも内側への接近を許しそうになる。
遥か後方の務安郡庁周辺に展開した155mm自走榴弾砲によるAL弾と榴散弾を併用した支援砲撃も始まり、迎撃のレーザー照射と重金属雲が発生する。
「CP、こちらレイピアリーダー。山頂を維持できない――!」
「マチェーテリーダー、こちらバルディッシュリーダー。貴隊の現在地を報せ。繰り返す、貴隊の現在地を報せ」
「CP、こちらダガーリーダーッ! 白雲山が奪られた!」
戦線のほつれは、歩兵部隊が防衛を担う高地から始まった。高地に攻め寄せる戦車級を重機関銃で薙ぎ倒し、近づく要撃級を無反動砲や対戦車擲弾で撃退していたものの、物量に抗しきれずにBETAに奪われる高地が出てきたのだ。
そして、試練の瞬間が訪れた。
「フラッシュリーダー、フラッシュ4ッ! 回避運動をとれ! 予備照射を受けているぞ!」
平野部を見下ろす稜線から放たれた予備照射が、電子機器の塊であるF-4J撃震に纏わりつく。回避機動に移る撃震を、稜線から頭を出した光線級は、冷徹に追尾する。予備照射の出力が向上し、本照射となっても撃震はこれを振り切ることができず、最後には真っ白なプラズマに呑みこまれた。
戦況は、一変した――否、一変する。
このままでは光線級によって、平野部一帯が完全に制圧される。
「バトル・シスターズ――光線級吶喊用意!」
その未来が予測できた故に、大島将司大尉は1秒とかからず決断した。
フラッシュ隊を除けば、光線級に最も近いのはこの第22中隊だ。猶予はほとんどない。12秒後には、次の照射がくる。
いま動かなければ、戦線は瓦解するかもしれない。
いま動けば、戦線は保つかもしれない。
だからこそ、彼は隊を危険に晒すことに決めた。
「ウェッジ・ワン! シスターアルファ、シスターブラボーは指定エリアに全ロケット弾を連続発射後、ランチャーを投棄。チャーリーは11秒後、指定座標にロケット弾を発射。以降、対光線級発射間隔で射撃を継続」
マジか、と経験の浅い少尉たちは思ったに違いなかった。そんな感想を抱きながらも、思考と身体は勝手に動き出す。
数十発の127mmロケット弾が、第22中隊と高地の間に居合わせたBETA群に向け、一気に投射される。数秒後、用なしとなった16個の箱型ランチャーが、切り離されて転がった。両肩部の多連装ロケットランチャーをパージしたことで、A小隊、B小隊の8機は多少身軽となる。あとは2門の突撃砲だけが頼りだ。C小隊は光線級の迎撃を誘発させて時間を稼ぐための長距離砲撃戦に臨む。
「かかれッ!」
C小隊がロケット弾を曲射する――それに遅れて、稜線が輝いた。予備照射が、速やかに弾頭を無力化できるレベルの出力にまで増大する。爆発四散する127mmロケット弾。その直下を、8機のF-8Eが翔ける。生き残りの要撃級の前腕を躱し、追い縋る戦車級を機関砲で撃破する。
「アルファ、キャニスター! 撃て!」
120mmキャニスター弾が進行方向の戦車級を一掃、各機は血肉の道を高速突撃する。
10秒後、再びC小隊が127mmロケット弾を宙に放った。光線級による正確無比の迎撃。これでまた12秒稼げる、と雨田優太少尉は思った。それだけではなく、この照射が彼ら光線級の命取りとなった。F-8Eの頭部センサーは、光線級のレーザーが発生させたプラズマを追跡し、容易く光線級の位置を特定していた。
「距離300ッ、指定目標を狙撃せよ!」
自機と好射点の合間に横たわる戦車級、要撃級の群れを切り抜けたA・B小隊の7機に、目標が自動で割り当てられる。
「シスター8、FOX1!」
丘陵に突き刺さる36mm機関砲弾。
F-8Eを見つめていた瞳に機関砲弾が飛びこみ、次の瞬間には破裂する光線級。その脇では上半身を切断された個体が、斜面を転がり落ちていく。稜線から上半身だけを出していた光線級は、120mmキャニスター弾が放った無数の鋼球を浴びて粉砕された。木々の合間から顔を覗かせていた数体の光線級が、機関砲弾のシャワーによって土煙とともに四散した。予備照射に移ろうとしていた光線級の脚が機関砲弾の擦過によって千切れ、バランスが崩れた上体に2発目、3発目の機関砲弾が直撃する。
……それでセンサーが捉えた光線級は、約10秒の間に片がついた。
「シスター、こちらフラッシュ2――助かったぜ!」
「フラッシュ2、こちらシスターリーダー。なんとかな。援護を頼む、周囲はBETAだらけだ」
「こちらCP、シスター各機よくやった。バルディッシュ隊、ダガー隊は指定エリアへ移動せよ。防衛線を敷き直す」
やった、と詰まる息を吐いた雨田優太少尉は「楽勝だぜ」とつぶやいて、あることに気づいた。
「シスター7? どこだ? ……おい! 藤井少尉! 藤井!」
光線級吶喊開始直後は確かにあったマーカーが、ひとつ消えていた。