【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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◇◆◇



記憶違いであったら申し訳ないのですが桜花作戦の前に00ユニットは地球上の全ハイヴの構造情報を入手していたと思います。

(そのためA-01およびA-04はオリジナルハイヴの構造を知った状態で桜花作戦に臨むことができた)

つまり桜花作戦の失敗によってオルタネイティヴ5が発動する確率時空であっても一部の人間はオルタネイティヴ4の有用性を知っていてもおかしくないかな、と。

また本話ですが握力300kgを超えるサイバネ野郎がいるのは公式設定なので……お目こぼしいただければ幸いです。



◇◆◇



■101.――鉄屑!

 

「中華製のオンボロがッ!」

 

 クロス2・77式撃震を駆るマイク・C・マッコーリンの目の前で、殲撃八型は炎上しながらも崩落せずに形を保っている第1大隊用格納庫を盾として、突撃砲の直射を防いだ。そうして無数の弾痕が残るその壁の向こう側から、殲撃八型は120mm弾を曲射で撃ちかける。

 空中で炸裂し、破片をばら撒く120mm弾。

 命中するはずがないが、それでも2機の撃震は動かざるをえない。

 

「クロス2、冷静になれ。すぐに増援が――」

 

 静から動へ。

 殲撃八型はサーフェイシングで第1大隊用格納庫から倉庫の合間を翔け、突撃砲を連射しながら――突如として跳躍する。空中で身を捩らせながら、赤い複眼が奔る。遅れてトップヘビーの77式近接戦用長刀、その刀身が棒立ちの77式撃震に迫っていた。

 

「国が違うとはいえ、先達として後輩に格好悪いところは見せられん」

 

 元・衛士の夏露は、77式近接戦用長刀で以て77式撃震の右主腕を叩き斬りながら着地し、同時にもう片腕で保持する突撃砲の砲口を無防備な鋼鉄の脇腹に突きつけていた。

 

「クロス1ッ!」

 

 鈍色の破片が散り、火焔が噴き上がる。

 マイク・C・マッコーリンが突撃砲の砲口を指向したときには、すでに殲撃八型は後方へ短噴射で退いている。

 その着地点へ彼はフルオートで砲撃を叩きこんだ。

 鋼鉄のシャワー。36mm機関砲弾は殲撃八型の肩部装甲を穿ち、装甲を支える副腕を貫徹し、頭部ユニットの装甲板が弾ける。左主腕のナイフシースが粉砕され、納められていた短刀の刀身と弾丸が激突した。

 ……しかしながら、肝心の胸部ユニットは無傷であった。

 夏露は長刀を棄てながら左主腕で戦術機の弱点のひとつ、胸部ユニットを守っていたのである。その格好で無傷の右主腕――その先にある突撃砲の砲口を突き出し、77式撃震にフルオート射撃。

 

「鉄屑め」

 

 77式撃震は跳躍し、36mm機関砲弾を躱す。

 頭部装甲が破砕され、赤色のセンサー類が露わとなった殲撃八型はその機影を捕捉し続けていた。

 夏露は特に大したことを考えていない。ただ彼女は政治委員であると同時に、生粋の前線衛士であり、前線衛士というのはこうした陰謀や暗闘が大の嫌いなのだ。そして多少なりとも関係がある衛士たちが、無抵抗のままやられるさまを黙ってみていられるほど大人しくはない。

 

「いまだ」

 

 この間、第92戦術機甲連隊の衛士たちは動き出している。

 賊の戦術機がたった3機のみという保証はない。

 幸運なことに第3大隊用格納庫、予備機用格納庫はまったくの無傷である。

 

「衛士どもを止めろッ!」

 

 それに気づいた数名の賊が、手近な衛士たちに銃口を向ける。

 

十六(いざ)さん、頼む!」

「ラビット1。プリズナー3、了解した」

 

 次の瞬間、その衛士の中から十六良世少尉が突出した。

 投げ棄てられたサングラスの下から現れた鈍色の瞳が、短機関銃の銃口を睨む。

 発射される銃弾。その中でも5発の弾丸が、彼女に直撃していた。

 が、彼女は止まらない。5発のうち4発は人工培養された疑似生体の皮膚を貫いていたが、その下の強化フレームで停止している。1発だけは致命的なダメージを及ぼすことが予想できたため、左拳で防いで逸らしていた。

 

「こいつ、サイブ――」

 

 衛士と最も距離が近かった男は、複合材が入っている膝の一撃で腰盤を破壊されていた。

 慌てて銃口を向け直す賊とは対照的に、苦悶する男の襟を掴んで肉の盾とした彼女は冷静に右手で自動拳銃を抜いた。彼女の鈍色のセンサーと、右掌は完全に同期している。

 乾いた2発の銃声が鳴り響き、ふたりの男が顔面を破壊されて倒れた。

 

「機械野郎だろうが関係ねえ」

 

 残るひとりの賊は破片手榴弾を投擲しようとしていたが、その手首は飛来した7.62mm小銃弾によって切断された。

 激痛とともに悲鳴を上げ、彼は数秒後の未来を認めてまた悲鳴を上げた。掌からこぼれた破片手榴弾は彼の足下に転がっていた。足で払いのけようとした瞬間、それは炸裂して無数の破片で彼の全身をズタズタに引き裂いた。

 

「さすがですね」

 

 瓦礫の山、その脇。

 奪った小銃で敵の手首を狙撃してみせた第11中隊の打撃支援(ラッシュガード)・浦江滋雄少尉を、イツマデ12・弓家田亜矢少尉は称賛した。

 が、彼はつまらなさそうに言った。

 

「10km先の光線級の方が厄介だろ」

「……そんなものですか」

「集中すりゃなんとでもなる」

 

 そのふたりの会話はけたたましい銃声に掻き消されていく。

 軋む無限軌道。12.7mm重機関銃と7.62mm機関銃を連射しながら、隊舎目掛けて突進してきたのは60式装甲車である。衛士の救出から後方警備にまで活躍する箱型のAPCは、隊舎に押し入ろうとしていた数名の工作員を機関銃弾の嵐で切断してしまった。

 

(バッタの意地、見せてやる)

 

 満身創痍の殲撃八型に対して、2門の突撃砲を操って火力で優る77式撃震。

 前者は跳びまわって回避に徹しており、一方の後者は足を止めて連続射撃に夢中になっている。

 だからこそ瓦礫の中を走りまわる人影に、77式撃震を操る賊は気づかなかった。

 

(そのまま動くなよ)

 

 戦術機に比べれば、吹けば飛ぶような生身の兵隊たち。

 が、彼らはこのとき賊の車輌から奪った使い捨て型の対戦車ロケットと、警備部隊の意地を持ち合わせていた。

 77式撃震の背後に忍び寄った彼らは、その砲口を持ち上げる。

 重量3kgもない簡便な対戦車火器。弾頭もまた66mmのそれに過ぎない。

 が、戦術機を殺すには十分すぎる。

 

「なに」

 

 警備兵たちがトリガーを引いた瞬間、77式撃震を操るマイク・C・マッコーリンは、警報を耳にした。

 そして1秒もせず、彼は尻を蹴り上げられるような衝撃に襲われる。

 3発の内、2発の66mmロケット弾は腰部ユニットに命中。

 そして最後の1発は、戦術機の泣きどころ、跳躍装置に直撃していた。

 

「馬鹿な」

 

 ぐらりとバランスを崩した77式撃震は次の瞬間、跳躍装置の爆発とともに前のめりに倒れ伏し、爆炎を噴き始めた。

 よっしゃあ、という警備兵の叫びとともに鋼鉄の巨兵が断末魔を上げる。大爆発。千切れた腰部ユニットの装甲板と、背部兵装担架が炎を曳きながら宙を舞い、喜び浮かれる警備兵たちを驚かせた。

 

「クロス1、こちらソーン1。作戦の進捗状況を報せ。繰り返す。クロス1、こちらソーン1。作戦の進捗状況を報せ」

 

 20分後、十数機の戦術歩行戦闘機が国道443号線直上を翔けながら、八代基地に向かっていた。

 再生した82式瑞鶴や89式陽炎から成る“本隊”である。

 機体回収に偽装した工作部隊で八代基地の基地機能を麻痺させた後、宮崎県を発した戦術機部隊、洋上から上陸する機械化装甲歩兵・強化装備の歩兵部隊が八代基地を占領する。

 それが重工エンタープライズの作戦であった。

 

(この作戦が成功すれば、戦争は終わる――)

 

 作戦に参加する元・衛士の賊たちは、本気でそう思っていた。合成種を奪取すれば、人類救済の道が拓ける。洗脳された一部の狂信者に至っては、人類は神の御使いであるBETAになれるのだと信じこんでいた。

 

――全人類BETA化構想。

 

 確かに全人類が合成種となれば、BETA大戦は終わる。

 

 が、真っ当な人間ならば、誰もがわかるだろう。

 それはBETAとの共存ではない。BETAからお目こぼしをもらって生き延びていくにすぎない。奴隷に近しい存在だ。BETAに使役されることはないが、BETAの勢力圏となった地球で文明を再建することなど許されない――作ったそばからBETAに破壊されるだけだ。合成種になったところで、待っているのは急激な衰退と緩やかな絶滅の道である。

 

「ソーン1、こちらリンボー1だ。黒煙を認めている」

「成程、作戦はうまくいっているようだな」

「おそらくこちらの妨害電ん」

 

 無警戒に先行していた4機の89式陽炎が、空中で爆散した。

 

「リンボー小隊が」

「高度を落とせえ――!」

 

 無人のままの八代市街から放たれた火網が、瞬く間に空中の戦術機たちを捉えた。叩きつけられる36mm焼夷徹甲榴弾。その弾速は、通常の突撃砲よりも遥かに優速だ。破壊力も速度も、戦術機を屠るには十分すぎた。

 反転降下しようとした82式瑞鶴が、空中で弾けた。純白の装甲板がみるみるうちに引き剥がされ、フレームが砕ける。生まれた無数の風穴から火が噴き出て、無残な残骸は荒れ果てた田畑に叩きつけられた。

 その上方にいた89式陽炎は右主腕と右主脚を吹き飛ばされた挙句、機体をスピンさせながら墜落し、派手に爆発炎上する。

 

「レーダーに反応なしッ!」

「モードを切り替えろ! 発砲炎の赤外線を捉えるんだ!」

「ソーン1。こちらは92TSFR 33中隊“ファイアラビッツ”だ」

「なに……」

 

 舐めた真似を、と賊たちは歯噛みした。空中から遮蔽物のある市街地に降り立つことができた戦術機は、わずか7機。ろくに反撃もできぬまま、戦力は半減していた。

 

「第33中隊といえばA-10だ。勝ち目は十分にある」

 

 隊を率いるカナダ系のフィン・B・ロビンソンはそう左右を鼓舞したが、同時に彼らを誤解させた。

 A-10が備えるGAU-8は長大な砲身を誇るため、突撃砲より威力も高く、射程も長い。だからこそ遮蔽物の多い市街地に入ってさえしまえば、その相手方のメリットを潰せる。そう考え、彼らは八代市街へ吶喊した。

 その市街地で彼らを待っていたのは、伏撃であった。

 

「こいつ、どこから――!」

 

 最小の部類に入る北欧製戦術機JAS-39CBが、無慈悲なクロスファイアを浴びせる。

 やむをえず上方へ逃れようとした89式陽炎の御者は、空中に漆黒の機影を見た。

 

「A-10……じゃない」

 

 A-10NTは89式陽炎が放つレーダー波をデタラメな方向へ乱反射させながら、両肩部のGAU-8アヴェンジャーの砲身を高速回転させた。

 

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