【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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ネタばらしをしますが西部方面司令官は12.5事件が白銀武の精神に影響を及ぼすことを知らず「CIAの尻尾を掴むと同時に、帝国と殿下の在るべき姿を取り戻すためとはいえ」と戦力を無為に失うクーデターを苦々しく思っているクチです(そもそも彼はタケルちゃんが勝敗を決することを知らない)。

12.5事件がないとタケルちゃんが最後に撃てない可能性がなくはないですが(撃てなくても冥夜が見せた「女の覚悟」に応えてみせた純夏がコントロールを乗っ取って撃つのでは……)そちらはなんとかするつもりです。

また原作キャラクターの活躍がなくなり、本来ならば戦死するキャラクターが生存する可能性がございます。
ご了承ください。

◇◆◇



■103.武御雷二一型

 

「武御雷……!」

 

 武御雷二一型を迎えた八代基地は若手の衛士を中心に沸いていた。

 

「初めて見た」

「俺も。ペーパークラフトでしか見たことないわ」

 

 施されている鈍色の塗装は、まさしく帝国軍の所属であることを表している。

 支援車輌に支えられる形で武御雷が駐機場に起った瞬間、歓声が上がる。

 前述のとおり斯衛軍に配備されている武御雷とは、細部を異にしている。烏帽子を連想させるセンサーマストは一回り小さい。それはブレードエッジ装甲で(よろ)われていないためであり、烏帽子というよりも三角帆のような角にみえた。センサーマストと同様に腰部ユニットや主脚からもブレードエッジ装甲が廃されており、外観の刺々しさは減じられている。具体的にいえば楔形をしていた腰部正面装甲は不知火のそれと同様に、緩やかな避弾経始を備えたものとなっている。実際、武御雷二一型は、オリジナルの原型である94式不知火のパーツを再び採用することで、整備性を向上させていた。

 

 それでも武御雷は武御雷。

 死地における密集戦闘に長けた極めて強力な戦術機である。

 故にこの武御雷二一型、日本帝国本土防衛軍西部方面隊への供給数は20機に満たなかった。

 

――年内に佐渡島ハイヴを攻略しなければ、本州は滅びる。

 

 現在、帝国軍参謀本部は甲21号目標攻略作戦を計画中であり、そうした事情から武御雷二一型は日本帝国本土防衛軍東部方面隊へ優先的に配備されることとなった。武御雷の改良型を巡って珍しく国防省が一致団結して西部方面司令官を援護したのは、佐渡島における決戦に1機でも多くの最精鋭機を欲したからであった。

 

「武御雷配備が進めば、東亜反攻は成る」

 

 市ヶ谷の喫煙室に大伴忠範中佐の愉快そうな声が響いた。

 国粋主義者のみならず、帝国軍参謀本部の見解は一致していた。

 国連、大東亜連合、米国。様々な陣営に振り回されたことで、遅延に遅延を重ねる結果となった明星作戦と同様の轍を踏むわけにはいかない。もちろん国際的な取り決めで一国家によるハイヴ攻略作戦は禁止されているが、甲21号目標攻略作戦において主導権を握るには、他陣営に「やろうと思えば日本帝国は単独でもハイヴを攻略できるのだぞ」と啖呵が切れるほどの戦力を揃える必要があろう。

 

「巌谷が推進する94式不知火の新型は間に合わん。ようやく現地の開発責任者が決まった(てい)たらくだからな」

 

 国粋主義者で知られる大伴中佐は鼻で笑い、紫煙を吐いた。

 が、その横顔に微妙な感情が入り混じっていることに、土田大輔中佐は気づき、口の端を歪めた。

 代わりに大伴中佐が嫌う西部方面司令官が推す戦術機が、東日本の戦術機甲部隊を充足し、それどころかF-4J撃震をハイヴ攻略作戦に投じられるであろう前線部隊から駆逐し始めている。

 

 従来、77式撃震・89式陽炎・94式不知火の3機種体制でやってきた野戦部隊は、冬には94式不知火・00式星青(F-2A)の2機種体制にできる予定であった。F-2Aは外観こそF-16Cであるが、内部構造等のパーツの多くは94式不知火のそれであるため、後方支援の負担は多少軽減されるはずだった。

 

 これから配備が本格的に始まる武御雷二一型については、年末まで待ったとしてもまとまった数にはならない。

 であるから帝国軍参謀本部は冬までに新造される武御雷二一型を、陽動や前線の押し上げ、│門《ゲート》の確保を担う野戦部隊ではなく、ハイヴ坑内の制圧や反応炉破壊を支援する決戦部隊に供すると決めていた。

 また旧ゼネラルダイノミクス社の担当者からは、西部方面司令官を通して、夏にはF-2A星青の発展改良型を供給できると連絡を受けていた。ただしこの改良型F-2Aについてはあくまでも戦術歩行火力支援戦闘機であり、地上での面制圧や長距離砲撃戦に長けた機体であるため、決戦部隊には配備されない。代わりに渡洋攻撃の際には92式自律多目的誘導弾システムで殴りこみをかけ、A-6Jから成る帝国海兵隊を援護、橋頭堡を盤石なものにするという重要な任務を任されることになるだろう。

 予定されている佐渡島ハイヴ攻略作戦の陣容をみれば、第2.5世代・第3世代戦術機が占めている。

 

 砲弾や燃料といった軍需物資の確保も、予想以上にうまくいっていた。

 この半数近くは、西部方面司令官が直接的・間接的に捻りだしたものだといっていい。九州地方で戦禍に見舞われることがなかった大分県、宮崎県、鹿児島県の軍需工場が全力で砲弾と燃料を供給している。加えて98年時に九州地方、南西諸島に居合わせた船舶、航空機、種子島の再突入艇が、西部方面司令官と結託した帝国情報省・帝国外務省が海外――その大部分はAUの後方国家製――で買いつけた軍需物資を輸送していた。

 一方で民需物資も続々と関東地方以西に輸入されており、避難民が収容されている施設の事情はかなり改善されている。

 

「西部方面司令官様様、だ。閣下がいて助かったな」

 

 土田大輔中佐の言葉に、大伴中佐はむっとした表情になったが、彼をしてもそれは否定できない。

 

「……国賊め。多少の善行でマイナスからゼロに近づいただけだ。俺は褒める気にはなれん」

 

 大伴中佐は紙巻を灰皿に押しつけると、腕組みをした。

 

「それにどういう了見だ。92連隊は佐渡島には出すつもりはない、とは!」

 

「八代基地襲撃からの回復が間に合わないということだったが」

 

「それは表向きの理由だろう。1個大隊でも出せばよいものを」

 

「代わりに西部方面隊(ウィスキー)は第4、第8師団をはじめとした過半数が打って出ることになっていたな」

 

「そのとおりだがここで切り札を切らないでどうする。一部の弾薬を抱えこんでいるのも気に食わん。決戦準備の“ん号作戦”だと――佐渡島が決戦ではなくて、何が決戦なのだッ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ここから先は、良い企みも悪い企みも一緒くたに潰させてもらう」

 

 西部方面司令部では昏い瞳をした男と、灰色の背広の男が正対していた。

 

「なんのことやらわかりませんな」

 

 座する西部方面司令官からかけられた言葉を、背広の男は一笑に付した。

 

「私はしがない貿易会社の課長にすぎませんよ」

 

 それなら結構、と西部方面司令官は机上の紙に目を落とす。

 “戦略研究会”――沙霧尚也なる一衛士が主宰する青年将校の勉強会であり、その参加者層の関係から反米・反国連的な思想の持主が多く集まっている。しかしながら現時点では、戦技を中心にした情報交換が主になっていた。沙霧尚也をはじめ参加者の多くは、“望月作戦”に援軍として駆けつけた経験をもっており、海外製戦術機への関心が高い。

 現時点ではクーデターの計画を練っている様子はない。武御雷の試験衛士が引き起こした暗殺未遂や、重工エンタープライズの襲撃事件によって、国内の監視体制が強化されたため、今後動こうと思っても動くことは容易ではないだろう。

 

「ならばいい。ずっと海外を飛び回っていてくれ」

「そうしたいのも山々なのですが久しぶりに日本に帰ってみると、やはり日本はいいものですな。どうしても長居したくなる」

「課長がこの国を憂い、そして膿を出し切ろうと考えているのはわかる。だが膿を出すための傷は大きすぎてはならない。たとえばその過程――軍事衝突でも起こしてみろ、膿を出すために腕を斬り落とすようなものだ」

 

 貿易会社の課長は、わざとらしく肩を落としてみせた。

 

「しかし、アレですな」

「……」

「エンタープライズを野放しにしていた貴方に説教される日が来るとは思いませんでした」

 

 西部方面司令官は溜息をついた。

 

「私も陰謀によって少なからず犠牲者を出していることは認めよう。が、エンタープライズの実働部隊と、帝国軍の衛士たちは違う。彼らは未来ある若人(わこうど)だ。同士討ちで散らしていい生命ではない」

 

「ほう。生命の価値に軽重があると」

 

「私は日本人だ。人が赤の他人よりも家族を優先するように、私も優先順位をつけている。これは当たり前のことだ」

 

 クーデターによる消耗は不確定要素が多すぎる、と西部方面司令官は考えている。

 最終決戦に勝利したとしても、“戦後”を日本帝国が生き残れなければ意味がない。多少の矛盾、齟齬を抱えてでも要らぬ消耗を避け、当座の戦力を残しておきたい、というのが本音だった。

 ここから先はただでさえ“運”任せなのだ――。

 オルタネイティヴ第4計画の成否に関係のない軍事衝突だけは絶対に避けなければならない。

 

「人類を救い、いびつであっても帝国を未来に残し、この九州を守る。それが私の意思だ」

 

「……」

 

「高潔で完璧な国家など、この地球上にどこにも存在しない。どこかで問題を抱えているものだ。それに目を瞑って、少しでも明日を善くするために進むことができるのが、大人だ」

 

「……そうですか。では、どうやら私のような悪ガキの出番はないらしいですな」

 

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