【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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F-2A ジアース(没)
F-2A ブルーインパルス(没)



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■104.F-2SK

 

 ボーニング社戦術関連部門の面々は焦っていた。

 

 米国の軍事政策と世界的情勢がそうさせている。

 対BETA戦ドクトリンの転換と、無傷の国土と新型爆弾を背景にした絶大なる国力で、戦後を安泰にするという構想の下、戦術機関係予算は削減されている。そうして縮小するパイの中でも、ボーニング社は厳しい戦いを強いられている。

 現在、現役あるいは開発中の第2世代・第3世代戦術機に注目すると、ボーニング社製戦術機の代表はF-15系列とF-18系列である(どちらも正確にはボーニング社と合併した旧マクダエル・ドグラム社製だ)。

 対するライバル企業、ロックウィード・マーディン社はF-16系列・F-22・F-35というラインナップとなっている。

 こうしてみると一目瞭然で、ボーニング社は第3世代戦術機を世に送り出せていない。いまのところは第2世代戦術機の需要も多く、F-18系列も大東亜連合・オーストラリア双方との新規共同開発が進んでいる。しかしながら第3世代戦術機については、大きく水をあけられている。いずれ米軍のF-15EはF-22に、米国と海外のF-18系列もF-35の実戦化と輸出攻勢が始まれば、次々と置き換えられていくだろう。

 

――いまは第2世代戦術機でつなぐほかない!

 

 故にボーニング社は第2世代戦術機であるF-15系列を第3世代戦術機の水準まで安価にアップデート、という構想を推進しているわけだが、ここのところ世界各国で戦術機の開発研究が加速しており、安泰とは到底言えない状況だった。

 

「なんとしても3月中に最新鋭機を92TSFRに送りつけるんだッ」

 

 新年とともに悪い報せを彼らは受け取っていた。

 ユーロファイタスが統一中華戦線の中華民国閥に接触を図っているという噂が流れており、確かめてみると中華民国国軍が第92戦術機甲連隊へミラージュ2000-5を放逐して空いた穴を埋め、保有する第1世代戦術機を全機更新する機体として、EF-2000タイフーンの高温多湿適応型を提案しているのだという。

 ……それだけではなく実績づくりのために、同時にユーロファイタスは日本帝国にも同機を中隊規模で提供することを持ちかけているらしい。

 

「台湾も日本も奪られるわけにはいかん!」

 

 台湾はF-18をベースにしたボーニング社製F-CK-1経国が配備されており、ボーニング社上層部の戦術機閥は狂乱した。

 特別、F-CK-1の更新が急がれているわけでもなく、“F-15E以上の兵装搭載量を備えたF-15SE(仮称)”が一早く完成したからといって、即座に事態が好転するわけでもないのだが、長期に亘って焦燥の火に焙られ続けてきた彼らは半ば正常な思考を失っていた。

 上がそうなれば、下もそうならざるをえない。

 一日でも早くF-15SEとF-15EXの長所を併せもつ戦術機を世に送り出すべく、突貫作業で試作機が新造され、エラーの洗い出しが行われていた。

 

「あの」

「なんだ、君……!」

「F-15最新鋭機のシリーズ記号なんですけど……」

「君、そんなものはどうだっていいんだよ。採用国も前線衛士たちもシリーズ記号なんか気にしちゃいないさ。適当に決めたまえ」

 

 その中で機体の名称を決める作業もあったが、問題は戦術機閥の役員がそれに無頓着だったこと、そして不休の開発陣が戦術機開発の正念場で、現場以外の事柄については所謂“深夜テンション”、小学生並みの発想しか持ち合わせていなかったことだろう。

 

 一方、F-2の発展改良機を完成させた旧ゼネラルダイノミクス社・ロックウィード・マーディン社戦術機開発部門は、ボーニング社とは対照的であった。

 

「日本帝国軍は戦術機に自然現象の名前をつけるそうだ」

「日本人の文化、ともいうべきだな。撃震(Gunshot)吹雪(Blizzard)……」

「弊社と共同開発したF-2は星青(The Earth)だそうです」

「これは大きく出たな」

 

 シリーズ記号とこちらから提案する公式の愛称を決めるべく、彼らは短くない時間をかけた。

 このあたり、ボーニング社よりも一枚上手である。

 ファイティングファルコンという愛称を提案し、米軍衛士から総好かんを食らった経験から(米軍関係者はみなF-16をファイティングファルコンとは呼ばず、戦意高揚娯楽SFドラマの宇宙戦闘機からバイパーと呼ぶ)、実も名も重要だと彼らは学んでいた。

 そのため彼らは、日本語を調べながら議論を重ねていった。

 

「しかし星青――もっと細かくいえば地球の海の色、か」

「これを超える愛称はないでしょうね」

「海は日本語でなんという」

(Kai)みたいですね。この壁にかかっている地図にも日本海(Nihon kai)とありますし」

「Kai、というのは聞いたことがあるな。改善(Kaizen)のKaiだ」

「Kai、なるほどダブルミーニングになるな……」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「米国人は我々を馬鹿にしているのかッ!」

 

 ロックウィード・マーディン社戦術機開発部門が自信満々に送り出したF-2の発展改良機が日本帝国に到着するなり、帝国軍参謀本部の一部は激怒した。

 

「F-2A星青――青い星の輝きを守る翼は、この21世紀を護るため、日米の協力の下で新たな力を手に入れました」

 

 テレビ画面の中では、最新鋭機とともに帝国の地に降り立ったロックウィード・マーディン社CEOが、自信満々に演説をぶっている。

 

「この星の7割を占める母なる大(Kai)を纏ったF-2A星青。それを超越する新戦術機――」

 

 彼はもったいぶってから、拳を突き上げた。

 

「F-2 Super-Kai!」

 

 ハンガーの前に張られていた横断幕が取り払われ、外観上はF-16Cとほとんど変わらない機体が姿を現す。

 実際にはF-2Aよりも大型化がなされており、機体規模はF-16CどころかF-15Eを超えている。腰部には中距離戦・近接戦時には脱着可能なコンフォーマルタンクが備えられており、これにより航続距離が延びるように工夫されていた。最も目立つのは肩部ユニットであり、ミサイルランチャー4基装備時の安定化のために更なる拡張が施されている。

 

「す、スーパー改」

「F-2スーパー改って」

「確かにF/A-18E/Fもスーパーホーネットだしな」

 

 帝国軍参謀本部のスタッフたちは、怒気を発しているか、苦笑いを浮かべているかのどちらかである。

 

「スーパーと海か」

「スーパージアースよりはマシだろ」

「これスーパー改って言ってやらないと連中の面子潰しちゃうよな」

「公的な場ではスーパー改って言ってやるか……」

 

 F-2スーパー改――帝国軍参謀本部の間で駆け巡った最初の衝撃こそ強烈だったが、少し時間が経てば、“まあ微笑ましいではないか”といったところに落ち着いた。

 

 ……同時刻、深夜のボーニング社は狂乱状態であった。

 

「帝国は普遍的な事象を愛称にするらしいぞ!」

 

「嘘だろ――うわこいつらF-4に撃震(Fire)って名づけてやがる!」

 

「日本にちょっと前に配備されたロックウィードの新型機は地球の青だったよな!」

 

「地球か……地球に勝てる、地球よりも大事なものといえば!」

 

「くそっ思いつかねえ」

 

「地球に勝てるものなんかそう簡単に……」

 

「この地球の海や空と同じように、俺たち人類にとって大事なもの」

 

「常にあるものといえば――」

 

「なあ、もう俺帰っていいか? 家族が――」

 

「それだ!」

 

「愛だよ愛!」

 

「スゲー愛って日本語でなんていうんだ!?」

 

「スーパー愛じゃない?」

 

「スーパーは英語だろ!? 日本語じゃ……」

 

「ああ、俺は知ってるぜ。“マブ”ってんだ」

 

 かくしてボーニング社の最新鋭機によって、今度こそ帝国軍参謀本部のスタッフたちはキレ散らかすことになる。

 

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