【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■107.F-3Iテンペスト(1)

 

 ファイター3Iとは欧州連合と東欧州社会主義同盟が共同で発表し、開発中の新型戦術歩行戦闘機の名称である。

 

○国際化(Internationalization)

 欧亜大陸における対BETA戦線は今後数年のうちに、防衛線の整理から大々的な反攻に切り替わっていくことが予想される。その際に欧州に配備されている戦術歩行戦闘機というのは、導入した国家が自国領内の奪還と防衛に使用するだけではなく、隣国との連携やより内陸への反撃に堪えうるものでなくてはならない。

 

○情報化(Informatization)

 現時点で戦術機は優れたセンサーと情報処理能力を有する情報ノードとなっており、戦術機同士は勿論、他兵科との情報共有が可能になっている。この情報戦能力を強化し、大量散布型センサー、無人航空機、無人戦術機との連携を実現、将来生起するであろう欧亜大陸をめぐる武力紛争において敵性勢力を圧倒する能力をもたなければならない。

 

○即応化(Instantaneousness)

 過去、欧州での対BETA作戦が失敗に終わってきた外的要因は、BETA側の迅速な用兵にある。故に欧亜大陸における攻防戦では、いかなる環境の前線基地であっても即応態勢を維持し、またあらゆる補給拠点で戦闘力を維持しながら機動戦を実施できる戦術機が求められる。欧州製戦術機用装備は勿論、海外製戦術機用装備を使用可能とするだけではなく、被撃破機からの補給を可能とするような極めて高度な継戦能力をもたなければならない。

 

 上記の3つの“I”を兼ね備えた戦術機、故にファイター3I、というわけである。

 とはいえラファールがロールアウトして未だ数年の欧州連合(EF-2000タイフーンに至っては実戦配備から1年程度しか経っていない)、第3世代戦術機さえ満足に配備されていない東欧州社会主義同盟が、この夢のような戦術機を速やかに開発できるはずがなかった。

 いまはラファールやタイフーンを改修して、ひとつひとつファイター3Iの要素を確立している最中である。

 

 そして、いずれファイター3Iに連なることになるだろうタイフーンの改修型が、“テンペスト”である。

 改修点は機体各所の欧州の冷涼で乾燥した空気から、高温多湿の環境にまで適応化、またOS書き換えの高速化、接続基部の汎用化による海外製背面兵装担架との交換に対応――など多岐に亘るが、全般的にいえば海外での運用性の向上を主目的としている。3Iの中の国際化と即応化に主眼をおいた改修機、といえるだろう。

 とはいえ単なる技術実証機ではもったいないので、ユーロファイタスはオーストラリアや大東亜連合、統一中華戦線の台湾閥、日本帝国に対して売りこみをかけていた。担当者は中隊定数分と予備機を無償提供さえする、と公言しているのだから豪気なものである。

 

「テンペストとは激しい嵐――暴風、暴嵐(ぼうらん)、霹靂を意味します」

 

 ユーロファイタス担当者の一言で、なぜか帝国軍関係者――特に制服組――は「す、すばらしい……!」「これぞ本邦の戦術機の名にふさわしい」と感動していたが、日本帝国本土防衛軍の次期主力戦術機候補は引く手あまたである。

 夢にまでみた超高性能機の量産型、00式武御雷二一型の生産の滑り出しは好調だったし、現在開発進行中の94式不知火弐型にも期待がかかっている。00式星青スーパー改も、ミサイルランチャーを投棄した後の機動性、近接戦闘能力はまさにマルチロールファイターの鑑といえた。試01式眩愛もその威容と性能は主力戦術機然としたものがあった。

 運用実績のあるこれら日本製・米国製戦術機と比較した際、テンペストはどうであろう――。

 

 帝国軍参謀本部の面々が躊躇う中、やはりひとりの男が手を挙げた。

 

◇◆◇

 

「シスター1。こちらライター1です。定時連絡です」

 

「ライター1。こちらシスター1、感度良好」

 

「シスター1。こちらライター1。現在、広間(ホール)N15にて縦孔から湧き出した戦車級200を殲滅しました」

 

「ライター1。こちらシスター1、了解した。こちらは異常なし――」

 

 中隊長同士のやりとりを耳にしながら、シスター3・荒芝双葉少尉は自身の呼吸が浅くなっていることに気づいた。

 人工の瞳を通して見る外界は、超自然的な深緑に彩られている。

 ハイヴ坑内の圧迫感は重厚なる愛機でも、信頼する戦友と一緒にいても、退けることができない。

 第22中隊の現在の任務は占拠した広間N11の確保、要は前進してルートスキャンを実施する各隊の後方警戒である。戦闘の連続――とは言い難い。

 しかしながらハイヴ坑内独特の緊張感は、彼女の集中力と体力を確実に削いでいた。

 過去の作戦でハイヴに突入した部隊の損耗率を思えば、ここはBETAの腹の中だといえる。その事実が、待機しているだけでも衛士たちを消耗させていく。では短期決戦が適うかといえば、そうではない。ハイヴ坑内での兵站確立を無視して前進速度を速めたとしても、ハイヴの内部構造は複雑怪奇。ルートスキャン、戦術機の行軍に適した横孔や縦孔の選定には、どうしても時間がかかる。

 

「シスター1、こちらラビット9ッ――そちらにBETAが」

 

「ラビット9、こちらシスター1。規模と方向を報せ!」

 

 そして状況は、刻刻と変化する。第22中隊の面々が部隊内データリンクを見れば、大音響の塊が側面横孔の先に集結しつつあることがわかった。大型種を含む大隊規模。

 死骸を吹き飛ばしながら高速で突進してきた突撃級の影を見るや否や、すでにランチャーを投棄して身軽になっているF/A-14Nは跳躍し、その背中に36mm機関砲弾を叩きこむ。

 着地。

 と同時に、乱入してきた要撃級と抜刀したシスター9・海原一郎中尉機が、近接戦闘にもつれこんでいた。要撃級の前腕を最小限の短跳躍で躱しながら、長刀の切っ先で不細工な頭部を叩き割る。飛びかかった戦車級は、逆手に持ちかえた長刀の一撃で血飛沫に変わっていた。

 僚機の花上和伸少尉は突撃砲を単射モードに切り替えて、彼を援護していた。

 この閉所でフルオート射撃をすれば、誤射の可能性が出てくる。

 

「ラビット。こちらゼノサイダリーダー。指定したルートで広間N11に向かい、BETAを挟撃せよ」

「ゼノサイダリーダー。こちらラビット1、了解した! 全員ついて――まずい、擬装横孔だ。逆方向から新たに大隊規模のBETA群がN11に向かってる」

「ラビット1。こちらゼノサイダリーダー、了解した。ラビットに対する命令に変更はない」

 

 次の瞬間、広間N11に新手が押し寄せる。

 

「え」

 

 突撃級の波濤が荒芝双葉少尉機を掠め、僚機のシスター4・文山汐里少尉機を宙に放り投げた。装甲板を捲りあげながら虚空を舞う同機は、空中で姿勢を立て直す暇もなくハイヴの床面に叩きつけられたかと思うと、コンマ数秒後には突撃級によって踏み潰されている。

 

「荒芝ァ、ボサっとするな!」

 

 大島将司大尉の檄が飛んだが、荒芝双葉少尉は動けない。

 文山汐里少尉機を踏み潰して停止した突撃級の背中を、櫛渕博喜中尉は背部ガンマウントで砲撃し、続いて現れる突撃級の脚部を主腕で保持する突撃砲で狙撃し、僅かであるが彼らの攻撃を停滞させた。

 擱座する突撃級。その両脇から無数の戦車級が湧いて現れる。

 

「シスター3、FOX2ッ!」

 

 反射的に荒芝双葉少尉は2門の突撃砲を連射して、その赤き波濤を撃ち砕く。

 その肉片と血飛沫の中、現れる新手、新手、新手。

 電子上の仮想空間にもかかわらず、荒芝双葉少尉は悲鳴を上げていた。

 

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