【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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(桜花作戦の発動と成功、人類の勝利は絶妙なバランスで成り立っている、という立場をとらせていただきます。たとえば横浜基地防衛戦がうまくいきすぎると桜花作戦は生起せず、BETA側に情報が漏洩していることに気づかないまま、甲21号作戦から最短2週間で甲20号目標攻略作戦が発動――結果、XG-70やG弾が早期に無力化されて人類は窮地に陥るという考察の下、話が進展します。ご了承ください)



■108.F-3Iテンペスト(2)

 

 帝国軍参謀本部および本土防衛軍西部方面司令部の命令の下で実施された第92戦術機甲連隊によるハイヴ単独攻略シミュレーションの結果は、成功とも失敗とも言い難いものであった。

 シミュレーション中止時の第92戦術機甲連隊の被撃破率は約40%。この時点でフェイズ4ハイヴの過去最高到達深度を大幅に更新していたが、連隊各機の弾薬は底をついており、近接戦用長刀で大型種を斬り殺し、小型種を踏み潰しながら前進するような格好になっていた。最精鋭の第92戦術機甲連隊を以てしても、ハイヴ坑内での兵站を確立することがないまま突入すれば、反応炉到達前に継戦能力を失ってしまうというわけだ。

 

(やはりオルタネイティヴ4の成功がハイヴ攻略の鍵を握る)

 

 深度約900mに達しようかという第92戦術機甲連隊の異様なまでの粘りに、何も知らない帝国軍参謀本部のスタッフたちはみな一様に驚愕したが(フェイズ4最大到達深度は約500m)、西部方面司令官は無表情のままに落胆した。

 第92戦術機甲連隊の弾薬が尽きた理由は、前述のとおりルートスキャンに時間がかかったためである。

 これがオルタネイティヴ第4計画の成功によって、地球上の全ハイヴの構造情報とBETAの配置を盗み出すことができれば、速やかに攻略ルートを確立することが可能になる。

 

(……が、それでも第92戦術機甲連隊一手での、甲1号目標の攻略は難しいか?)

 

 西部方面司令官は何度も繰り返した過去――否、オルタネイティヴ第4計画が地球上の全ハイヴの構造情報の入手に成功したものの、オリジナルハイヴの攻略に失敗し、第5計画が即時発動する“未来”で、オリジナルハイヴの全貌を知る機会があった。

 

(甲1号目標の最大深度は4000m)

 

 いくら効率の良い最短経路を辿ったとしても、軍集団規模はいるであろうBETA群のいる敵一大策源地を4000mも潜るのは不可能に思える。

 それでも西部方面司令官が、第92戦術機甲連隊という決戦部隊にすがったのには、理由があった。

 

――オルタネイティヴ4は、よくわからない。

 

 時間遡行を経験するたびに思うことだが、オルタネイティヴ4の結果にはバラつきが生じる。

 何の成果も出せないままオルタネイティヴ5へ移行することもあれば、オルタネイティヴ4による対BETA諜報に成功する場合もある。対BETA諜報に成功した後の未来も様々だが、西部方面司令官が“わからない”と思うのは、何が対BETA諜報の成否を分けているのか――もっと言ってしまえば00ユニットの完成とオルタネイティヴ4の計画前進に何が絡んでいるのか不明な点である。

 単純に地理的に離れていること、オルタネイティヴ4の動きが加速するのが2001年冬頃と破滅まで時間がほとんどないこと、香月夕呼のガードが固いこと、こうした要因で彼は未だに謎を解き明かせていない。

 が、そこを悩んでも仕方がない。

 

(BETAと人類の諜報戦は双方向で行われる。ならばオルタネイティヴ4の対BETA諜報を成功させる同時に短期決戦――オリジナルハイヴ攻略作戦を生起させ、人類の全力を叩きつけるほかない)

 

 このとき彼の構想は未だ誰も知らず、そして彼もまさか人類(ひと)の愛や成長がオルタネイティヴ4の成否を決めているとは知らない。

 

 故に彼はオリジナルハイヴ攻略作戦が発動した年末ぎりぎりまで、日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊を中隊単位で東日本へローテーション派遣し、オルタネイティヴ第4計画を可能な限り援護。

 一方でオリジナルハイヴ攻略作戦を惹起するきっかけとなる甲21号攻略作戦には、西部方面隊第4師団・第8師団をはじめとする西部方面隊全力を投じるが、第92戦術機甲連隊は引き揚げさせて決戦に備えさせることに決めていた。甲21号攻略作戦からオリジナルハイヴ攻略作戦は、最短で数日の間隔しかないためである。

 

 2001年は夏を越えて、秋へ。

 橙と黄の色彩に染まりつつある日本帝国本土防衛軍西部方面隊・大矢野原演習場では、漆黒の戦術機と風雪の戦術機が対峙していた。吹き荒れる機関砲弾の嵐。瞬く間に蛍光色に汚れていく大地を、F-15SEX眩愛が蹴った。

 その着地点は、風雪の色彩を身に纏った不知火の衛士たちの予想から大きく外れている。

 

「やはりただの陽炎ではないッ――!」

 

 富士教導隊の衛士はレティクルから脱した機影を見やり、彼らは垂直方向に飛び上がった。2、3秒遅れて反撃の機関砲弾が通過していく。それを眼下に、赤い星を右肩に輝かせた不知火は地を這うF-15SEXに砲弾の雨を降らせた。

 

「あいつら遠慮ねえ!」

 

 空を仰ぐF-15SEX――それを操るプリズナー4・長石勝康少尉は苛立ちから声を上げた。

 帝国軍参謀本部と西部方面司令部の共同でセッティングされた第92戦術機甲連隊第23中隊と富士教導隊の対人演習は、仮想敵の富士教導隊側に有利なレギュレーションで実施されている。具体的には近傍に敵地対空ミサイルシステムが存在するという想定で、第92戦術機甲連隊第23中隊には制限高度が設けられているにもかかわらず、富士教導隊側にはそれがない。

 故に一方的に撃ち下ろされる、という展開が許されている。

 さらに第92戦術機甲連隊第23中隊にとっては、“演習”というシチュエーション自体が不利である。いくら広大といえども、「必ずどこかに相手がいる」とわかっている演習場では、F-15SEXのステルス性は半分殺されているようなものだ。

 

「退け!」

 

 しかし94式不知火とF-15SEXの間において、それは優勢・劣勢を決定づけるものではない。

 氏家義教大尉が指示を飛ばすとともに、漆黒の機影は小隊単位で後方へ跳躍する。

 同時にF-15SEXは半ば死んでいる隠密性をかなぐり捨てた。肩部装甲の先端からフレアを放射しつつ、94式不知火から発射されているレーダー波に酷似した電波を、敵機に叩きつけた。

 電子攻撃(EA)だ、と富士教導隊の衛士たちは歯噛みした。

 ほんの一瞬だが、94式不知火からみたF-15SEXの位置情報がデタラメになる。

 その隙を衝いてF-15SEXの群れは、得手とする長距離砲撃戦に移行した。

 背面ガンマウントが展開する。脇の下を通す日本製戦術機のダウンワード式ではなく、肩の上を通すオーバーワード式――地を這う近距離のBETAを狙うには不便だが、前方の対空目標を狙うにはちょうどいい。

 

 彼我、最初の被撃墜機は94式不知火となった。

 電子戦からハード面に至るまで、設計思想の違いが如実に出た結果だ。

 レギュレーション、機体性能、衛士の技量が複雑に絡み合って出されるキルレシオについては、ほぼ互角かややF-15SEXの方が優る、という格好になった。

 

「……」

 

 演習の結果に、帝国軍参謀本部のスタッフは閉口した。

 彼らが富士教導隊を大矢野原演習場へ送り出した理由は、94式不知火を擁する富士教導隊を以てF-15SEXを圧倒し、先述した“万が一”の可能性を潰しておくためである。

 ところが絵に描いた餅は、絵のままになった。

 

 一方、西部方面司令官は演習の勝敗に興味がない。

 彼はただ単にF-15SEXを釣り餌として、富士教導隊を帝都から引き離さればそれでよかったのである。

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