【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■114.あいとゆうきのおとぎばなしなら、ひとりやふたり、拾ってみせろッ!

 

「あれがホンモノか」

 

 贋作といっていい核決戦航空機動要塞あらため核戦略長距離偵察機Tu-119に対し、XG-70b凄乃皇弐型はまさしく“要塞”であった。

 国連宇宙総軍による軌道爆撃と帝国海軍連合艦隊、国連太平洋艦隊がAL弾で濃密な重金属雲を展開――その重金属雲が低空まで下がってくると同時に、XG-70b凄乃皇弐型は作戦開始早々に佐渡島近海に姿を現した。

 本来ならばXG-70b凄乃皇弐型は、

 

① 西部方面隊(ウィスキー)東部方面隊(エコー)所属戦術機甲部隊による陽動作戦

 

② 陽動作戦の成功後、国連宇宙総軍第6軌道降下兵団によるハイヴ突入および、西部方面隊別働隊の反転突入

 

 上記からなる通常戦力の攻略が失敗した場合のみ、前線にて攻撃的テストを実施することになっていた。

 が、香月夕呼が土壇場で作戦を切り替えたのである。

 

(スポンサーを喜ばせるため、多少のリスクは目を瞑るしかないわね)

 

 オルタネイティヴ第4計画の結果――所詮、これも副産物にすぎないのだが――による“人類生存の具体的な可能性”を誇示するため、である。オルタネイティヴ第5計画が支持するG弾、またオルタネイティヴ計画に見切りをつけた国連関係者が推進するプロミネンス計画を牽制するには、新型OSや対BETA諜報だけではなく、目に見えてわかりやすい結果が必要だった。特に日本帝国第92戦術機甲連隊の成功を受けて、国連内に一定数いる現実主義者たちは「夢物語に費やされる予算を、戦術機に廻せ」とプロミネンス計画を推すようになっている。

 故に香月夕呼は作戦発動直後から、XG-70b凄乃皇弐型を最前線に投じることを決断していた。

 

 神性の名に恥じぬ働きである。

 上部ユニット前面装甲が開放された次の瞬間、眩い光が奔る。超高速で吐き出される荷電粒子。設定された射線軸とその周囲は、瞬く間に莫大な熱量と電磁波の奔流に晒される。衝撃波で突撃級が宙に吹き飛び、要撃級や戦車級は地形ごと消滅していた。要塞級も例外ではなく、薙ぎ倒された。

 万単位のBETAを地形ごと抉りとる第一射。

 目の前の光景が信じられないとばかりに、地表の将兵が静まり返った。あまりの破壊力を前にして、これが重光線級の照射攻撃なのか、何らかの特殊な事故なのか、それとも――人類兵器の攻撃によるものなのか、まったく判別がつかなかったのだ。

 

「ヴァルキリー・マム、こちらシュービルだ。いまの一撃で砲撃対象エリアの重光線級、光線級は全滅した」

 

 そんな中、Tu-119に搭乗している櫻麻衣大尉は、XG-70b凄乃皇弐型を担当するCP将校につないでいた。

 

「シュービル。こちらヴァルキリー・マム。続く砲撃対象エリア候補を報せ」

 

 4分後の第2射は、光線級、重光線級がわだかまる佐渡島ハイヴ地表構造物周辺に対して放たれた。一方的である。光線級・重光線級は要塞級や突撃級に阻まれる格好でXG-70bを攻撃することができないが、XG-70bは多少の地形、大型種、そしてハイヴ構造体を無視して光線級・重光線級に有効打を与えられる。

 憎悪とともに、XG-70bが咆哮する。

 大型種が爆風で粉々になり、千切れた生体装甲が四散した。射線軸に居合わせた重光線級、光線級は一瞬で蒸発し、XG-70bが放った荷電粒子の奔流は、ハイヴの地表構造物を突き崩した。

 

「お、お――」

 

 突き崩した?

 否。荷電粒子砲を受け止めた漆黒の地表構造物――その周辺で大気が一瞬でプラズマ化し、大地も、BETAも、地表構造物も一緒くたに爆ぜた。核攻撃でさえ砕けない堅牢な構造物が、跡形もなく消滅したのである。

 

「ハイヴが、砕けた――」

 

 甲21号目標作戦参加将兵は、これによってすべてを理解した。

 BETAに反撃さえ許さない絶大なる火力――夢でも幻でも、魔法でもない。人類の科学力の産物だ。そして科学兵器は、“量産”できる。人類勝利の日は、近い。

 

 歓喜の声の中、地表に出現した増援を狙ったXG-70bの第3射が複数の門と横坑の一部ごと、師団規模のBETAを削り取る。

 

「一方的ですね」

 

 宿野部東中尉はTu-119を緩旋回させながら、佐渡島ハイヴが存在していた場所を眺めた。櫻麻衣大尉も頷いたが、我ながら意外にも驚きの感情は薄かった。この光景を、知っていた。

 

「十六少尉、いまの砲撃で音響センサー網が沈黙したエリアがないか確認してくれ。状況によっては本機で再敷設する」

「了解」

 

 十六良世少尉はBETAのハイヴ坑内での行動や地中侵攻を察知するためのセンサー網から、観測情報が上がっているか確認を開始した。

 

「シュービル、こちらヴァルキリー・マム。30分後、国連宇宙総軍第6軌道降下兵団(オービットダイバーズ)の再突入が予定されている。危険空域を確認せよ」

「ヴァルキリー・マム、こちらシュービル。了解した」

 

 ヴァルキリー・マムから秘匿回線で送られてきたタイムスケジュールでは、このあと数度に亘ってXG-70bが荷電粒子砲による攻撃を実施し、その後軌道降下兵団、西部方面隊第4師団・第8師団が突入することになっていた。

 が、そう容易く事態が進展しないことを、彼女は知っていた。

 

「ヴァルキリー・マム、こちらシュービルだ。メインシャフト直上から少なくとも師団規模のBETA群を観測。第4射はどうした」

「シュービル、こちらヴァルキリー・マム。……マシントラブルが発生した。現時刻を以て、第4射および第6軌道降下兵団の強襲によるハイヴ攻略プランを破棄する」

「ヴァルキリー・マム、こちらシュービル。了解した」

 

 Tu-119は時折ふらつきながら、佐渡島上空を緩旋回する。

 眼下では、刻一刻と状況が変わりつつあった。佐渡島の地形ごと約10万近いBETAを粉砕したにもかかわらず、メインシャフト跡から4万近いBETAが溢れ出しており、また周辺の門からも旅団規模単位でBETA群が出現している。確かにこの状況で第6軌道降下兵団に強襲させても、今後の展開は厳しいものがあるだろう。

 

 一方、頼みの綱のXG-70bは擱座状態に陥っていた。

 原因は不明である。香月夕呼博士らはやむをせず、00ユニットの離脱と回収を最優先とした。凄乃皇は弐型の予備機が1機、最終調整を残すばかりの四型もまた横浜基地にあるが、00ユニットだけは替えが利かない。

 XG-70bは第1戦術戦闘攻撃部隊の伊隅みちる大尉が残り、爆破を試みることになっていた。BETAに鹵獲されてしまっては、速やかにXG-70bへの対策が採られてしまうだろう。が、なかなか自動爆破プログラムを立ち上がらずにいた。

 

「ヴァルキリー・マム、こちらシュービルだ。A-02の方向に震源が移動している――」

 

 それだけではない。

 XG-70bの周囲にBETAが湧き出し始めていた。

 宿野部東中尉や十六良世少尉が知る由もないが、XG-70bはこの時点で主機の再起動には成功していた。ただし絶対防御を可能とするラザフォード重力場は展開していない――00ユニットなしでは、直掩に就く柏木晴子少尉を巻きこむ可能性があるためだ。

 

「要塞級出現――大尉!?」

「柏木、貴様だけでも離脱しろ。いま自動爆破プログラムが立ち上がった――副司令、プランGへの移行を進言いたします」

 

 伊隅みちる大尉はコンソールを眺めていた。

 立ち上がったのは、ハルマゲドン・モード。主機を自動暴走させ自壊――それに伴い周囲半径数十kmを消滅に導く。これなら佐渡島ハイヴ、BETAを抹消し、日本帝国への脅威を減じることが可能である。

 

「伊隅大尉、馬鹿言ってないで脱出してください!」

「馬鹿は貴様だ! ……この状況で脱出は不可能だ。貴様だけでも行け!」

 

 伊隅大尉の不知火に乗り換えていた柏木少尉は、120mm弾のバースト射撃で要塞級を突き崩し、XG-70bに向かう突撃級の後背へ跳躍して連続射撃を食らわせた。

 網膜に投影されている外部状況は、確かに絶望的だ。

 XG-70bには数体の戦車級が取りついている。重装甲を誇る同機ならば、戦車級や要撃級に致命的ダメージを受ける前に、自爆シーケンスを完遂できるであろう。そこは心配ない。が、この状況では脱出した伊隅大尉を拾う余裕など、あるはずがなかった。

 飛びかかってくる要撃級を柏木少尉は空中で射殺し、死骸の合間を突進してくる戦車級をフルオート射撃で粉砕していく。

 この調子じゃキリがない、と彼女は唇を噛んだ。

 

「伊隅大尉! とにかくハッチの敵を排除します! 早く上がってきてください!」

 

 とにかく機内エレベーターの出入口、その周囲にいる戦車級を排除しなければ。

 柏木少尉がXG-70bの上部にレティクルを合わせる――と同時に要撃級が脇合いから殴り掛かってきたため、彼女は回避機動をとらざるをえない。

 

「柏木……!」

 

 そのとき、である。

 伊隅大尉が何かを言う前に、新たな声が割りこんできた。

 

「A-02、こちらシュービル。そちらの指揮官はイスミか?」

 

 え、と柏木少尉は要撃級を120mm砲の一撃で黙らせながら、無線のチャンネルを確認する。うっかりしていた。伊隅大尉との会話に夢中になっていて、いつの間にか彼女が送信に使っている回線が、秘匿回線からオープンチャンネルに切り替わっていることに気がつかなかった。

 

「シュービル、こちら国連軍少尉の柏木晴子です。確かに指揮官は伊隅大尉です」

 

「イスミ大尉の率いるヴァルキリーズには、横浜では世話になった」

 

「……シュービル、いまどこに」

 

「上だ」

 

 不格好な鋼鉄の塊が、緩慢に高度を下げてくる。

 棒状の両主腕に備えた巨大なフェーズドアレイレーダーが、最大出力で自身が“存在”であることをプロジェクションし、完璧な対BETA欺瞞を完成させていた。ただしこのTu-119にBETAを排除する装備はない。BETAを1体でも攻撃したが最後、化けの皮は容易く剝がれてしまう。

 

「スェーミナ」

 

「存在はX-1システムの使用とA-02の構成要素の救援に反対する。根拠を提示する。92TSFRの構成要素とTu-119およびX-1の価値と、A-02の構成要素の価値を比較。前者と後者では、前者が高価値であり、前者を危険に晒す必要性を認めない」

 

「ではスェーミナ、命令する。X-1を使用せよ」

 

「了解した」

 

 故にTu-119は、地に降り立ちながら叫ぶ。

 

「存在は存在に求める。情報照合のための形式を送信せよ」

「存在は個体情報形式の送信後、存在が送信する行動指令を受信せよ」

「行動指令が重複する存在は、反応炉(リアクター)にて指令を確認せよ」

 

 柏木晴子少尉は、呆けた。

 Tu-119が放つ強力なジャミング波――種が割れれば容易く対処されるであろう欺瞞信号を前に、戦車級たちが緩慢な動きでXG-70bから離れていく。同時に柏木晴子少尉が駆る不知火に向かっていた突撃級や要撃級は足を止め、メインシャフトの方向へ転進した。

 

「怪しまれれば終わりだ。A-02は本機に移乗せよ」

 

 XG-70bが荒ぶる破壊神であれば、Tu-119は偽りの機械神。

 

 故にこの日、Tu-119はろくな戦果も挙げられないまま、ふたりの衛士を救うだけに留まった。

 

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