【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

116 / 125

旧町田市は東京都(東京府)なので戦力に余裕があれば本土防衛軍はバリバリ戦います



■116.発動――(後)

 

 2001年12月29日午前2時頃。

 佐渡島ハイヴを失ったBETA群数万が旧町田市に出現。

 

 国連太平洋方面第11軍は関東圏内の国連軍基地にデフコン2を発令する一方、旧町田市に出現したBETA群に対しては、都内の日本帝国本土防衛軍第1戦術機甲連隊をはじめとした機動部隊が迎撃にあたった。

 帝国軍参謀本部は早々にこれがBETAの帰巣行動であり、旧甲22号目標――つまり国連横浜基地がBETAの侵攻先であると見抜いていた。

 が、BETAが横浜基地ではなく人口密集地へ転進する可能性を無視しきれず、また第1戦術機甲連隊、富士教導隊、さらに日本海沿岸の基地機能が失われたことで内陸部へ移駐していた戦術機甲部隊と、積極的な機動防御を実施するだけの戦力が手許にあった。

 

「まあ……当たり前よね。町田もれっきとした東京なんだから」

「香月博士、町田は――神奈川県では。それとも私の勘違いかね?」

「……」

 

 横浜基地の防衛指揮を執る香月夕呼とラダビノッド司令からしてみれば、旧町田市が現・東京都(旧・東京府)であるか、神奈川県であるかなどどうでもいい。

 とにかく横浜基地からみた第1防衛線を日本帝国本土防衛軍東部方面隊が構築したので、横浜基地に駐屯する7個戦術機甲大隊を、基地外縁部の第2防衛線と基地施設の第3防衛線に振り分けることが可能になった。

 そのため第2防衛線をF-15から成る横浜基地第1・第2大隊で、第3防衛線をF-4が主力の横浜基地第3・第4・第5・第6・第7大隊で構築することができた。

 

(西日本での戦闘を見るに、BETAの用兵は進歩している。物量任せの密集突撃だけ、とみるのは危険だ)

 

 第3防衛線が5個大隊から成っているのは、臨機応変に動かせる予備部隊を手許に多く残しておきたいとラダビノッド司令が考えたからである。戦術機甲という兵科は機動性が高い。BETAの動きをみて適宜、第2防衛線に増援に出そうと思ったのである。

 またこの横浜基地防衛部隊以外にも、2個中隊から成るA-01部隊と帝国斯衛軍1個小隊、また甲21号目標作戦終了後になぜか横浜基地での補給を要求してきた西部方面隊所属部隊が国連オルタネイティヴ第4計画司令部の権限の下、防衛部隊に加えられていた。

 

「こちらシャーク1――コード911ッ!」

 

 西日本の戦訓を頭に入れていたラダビノッド司令の読みは、半ば的中した。

 BETA側は旧町田市にエネルギーが枯渇した個体を出現させて囮とし、第2防衛線の横浜基地外縁部に地中侵攻。続けて第3防衛線の後背にあたる第2滑走路に第2波地中侵攻を仕掛けてきたのであった。

 

「アタッカー各機、こちらアタッカー1! 佐渡島じゃ楽した分、ここじゃ給料分働け!」

「了解!」

 

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第3対戦車ヘリコプター隊のAH-1Sコブラは、シャトル打ち上げ場を盾にしながら横浜基地北部のAゲートおよび西部のメインゲート周辺を俯瞰した。

 

(なんだってこんなことに――!)

 

 見渡す限りの異形の群れにレティクルを合わせ、70mmロケット弾を叩きこんで一撃離脱――巨大な打ち上げ施設の影に隠れる。HQによれば光線級は存在しないらしいが、脆弱な機体を操るヘリパイロットの身に染みついた習性だった。

 その下では打ち上げ施設の合間に立つ西部方面隊第8師団所属の不知火が突撃砲をフルオートで撃ち放ち、メインゲート側を固める国連カラーの撃震とクロスファイアをBETAの群れに浴びせていた。

 

「阻止しろッ! 新兵器をやらせるな!」

「奴らも本気……ってコト!?」

 

 第2滑走路を駆けてきた要撃級の一部が、メインシャフトに繋がるメインゲートではなくシャトル打ち上げ施設の方へ逸れてくる。

 

「とにかくゲートを守るのが最優先だ、こちらに誘引するぞ!」

 

 それを見た鈍色の不知火たちは200mの距離を維持しつつ後退し、大型種の一部をゲートから引き剥がすことに成功した。巨大な箱状の打ち上げ施設の合間を縫って西進してきた要撃級を、数機の不知火はフルオート射撃で瞬く間に片づけてしまう。

 

「アタッカー、こちらハーミット1ッ! 支援を!」

「ハーミット1、了解したッ!」

 

 立錐する打ち上げ施設を盾にしながら、AH-1Sコブラの群れは横浜基地南部にあるBゲート、第2滑走路直上に進出する。本来ならば前線最後方に位置する第2滑走路。戦車部隊、砲兵部隊と奇襲を仕掛けてきたBETA群が混淆する眼下をわざと見ないようにしながら、第3対戦車ヘリコプター隊は残り僅かとなった70mmロケット弾を発射した。

 

「全隊に告ぐ、司令部はAゲート、Bゲートの充填封鎖を決定した」

「こちらHQ、西部方面隊所属戦術機部隊(ウィスキー)は打ち上げ施設側からメインゲート防衛部隊を支援せよ」

「了解!」

 

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第8師団の94式不知火の衛士たちは、このとき勝算有りとみていた。

 戦力差は歴然としているが、AゲートとBゲートの封鎖が叶えば、防衛戦力をメインゲートのみに集中できる。また現時点で、メインゲートにはかなりの精鋭部隊が配されているらしく、国連カラーの不知火や少数の武御雷が次々と要塞級を膾切りにしてみせていた。これに両ゲートの防衛を担当する4個大隊が加われば、増援の到着まで粘れそうだ(すでに第7大隊は最悪を見越して基地施設内の防衛部隊に合流していた)。

 

「HQ、こちらアタッカー1! もうハイドラがなくなった! 補給先を報せ!」

「こちらガングリフォン! 給弾ポイント報せ! 繰り返す給弾ポイントを報せ!」

 

 第2滑走路端、有翼獅子を砲塔に描きこんだ90式戦車が高速で後進し、シャトル打ち上げ施設にまで後退してきた。それに引きずられるように戦車級の群れが殺到するが、次の瞬間にはリモート式の12.7mm重機関銃が吼え、続いて自動作動式のアクティブ防御システムが作動し、砲塔前面から無数の鋼球が発射され、戦車級を醜い肉片に変える。

 

「ガングリフォン、こちらカブトガニ――そのままこっちに下がってこい!」

「ガングリフォン、こちらHQ。戦車部隊の給弾ポイントは演習場の――」

「アホ抜かせッ! もうそこは戦車級の養殖場だぞ!」

 

 後退してきた90式戦車と入れ違いに横浜基地所属のレオパルト2A6戦車が120mmキャニスター弾と徹甲弾を連射し、小型種、大型種を問わずに激しい攻撃を加えていく。さらにシャトル打ち上げ場へ退避してきた戦車部隊を援護するように、94式不知火は突撃砲を連射し、Bゲート、メインゲートから逸れたBETAを射殺していった。

 

「カブトガニ1、こちらカブトガニ2――おかしい。数が減ってねえぞ!」

「落ち着け――小型種が多いってだけだろ」

 

 言いながらもカブトガニ1――第8師団の衛士は気づいていた。連中が空けた穴から、まだ後続が出現し続けている。

 兵士級から戦車級までの小型種だけならともかく、実際には要塞級まで新手として姿を現しているから異常だ。

 特にBゲート側ではBETAの個体数が微増している。

 

「照射警報?!」

「ハア?」

 

 光線級はいないはずじゃなかったのか、と疑問を口にする前に、青白い光芒が一閃した。

 

「こちらHQ、被害状況報せ!」

「こちらロータス1! まずい……Bゲートに本照射が直撃!」

「こいつら、俺たちを無視してBゲートを!」

 

 充填作業が始まっていたBゲートは、数秒間の本照射を浴びた後だった。

 あくまでも基地施設のゲートは風雨を防ぎ、不法侵入者を妨げるためのものであり、直接的な対BETA戦を想定したものではない。

 対レーザー加工がされているわけもなく、本照射を浴びたBゲートは溶解――そして内部で充填封鎖作業にあたっていた工兵部隊は、物質がプラズマ化するほどの高温に晒され、文字通り蒸発していた。

 

「HQ、こちらカブトガニ! Bゲート前の光線級をやる!」

「待て――!」

「HQ、こちらヴァルキリー1! メインゲート前にも光線級――間に合わん!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「では作戦中止ですか」

 

 2001年12月29日正午、東敬一大佐ら第92戦術機甲連隊本部のスタッフたちは、八代基地にて西部方面司令官から甲20号目標作戦の無期限延期を言い渡されていた。

 

 12月29日午前4時、横浜基地防衛戦は辛うじて人類側の勝利で終わっていた。

 横浜基地の地上戦は熾烈を極め、演習場、第1滑走路、第2滑走路、シャトル打ち上げ場、Aゲート(充填封鎖により半年機能停止)、Bゲート、メインゲートと、全地上施設が破壊され、基地施設内への小型種の浸透を許す形となった。

 Bゲート、メインゲートが破壊された時点で横浜基地司令部は、戦力を二分した。

 西部方面隊所属部隊をシャトル打ち上げ場に残して大型種の増援を阻止させ、一方で横浜基地所属部隊を破壊されたBゲート、メインゲートから基地施設内の防衛に振り分けたのである。

 よって最終局面まで地上戦と基地内戦闘が並行して行われた。

 これにより大型種の過半を阻止することに成功したが、一度基地内に侵入した小型種を完全に排除するには至らず、やむをえず横浜基地司令部は、二度と再起動できない可能性を承知の上で早々に反応炉の停止に踏み切った。

 停止には想定以上の時間がかかったが、横浜基地駐屯部隊を防戦に集中させたことと、A-01の2個中隊の活躍もあり、なんとかうまくいった形である。

 

 しかしながら前述の通り横浜基地は甚大な損害を被り、甲20号目標作戦の発動は危ぶまれる状況になっていた。

 ……加えて、この横浜基地防衛戦の最中、横浜基地司令部は人類に残された時間があと10日もないことを理解している。

 

(G弾は当然、佐渡島ハイヴに投入されたXG-70bのデータはすでにBETAに渡っている)

 

 西部方面司令官はそのあたりの事情を香月夕呼博士から教わらなくとも知っていたが、ここでは口にしなかった。

 

「甲20号作戦は無期限延期だ。が、種子島基地への移動はスケジュールどおりに行う」

 

「……航空宇宙軍の再突入駆逐艦への搭載作業も、ですか」

 

「ああ。現時刻を以て、決戦準備“ん号作戦”および甲20号目標作戦を次段作戦に移行」

 

「……」

 

「作戦名は――」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。