【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■117.鉄屑連隊。

 

 2001年12月30日、朝。

 日本帝国航空宇宙軍種子島基地はアジア最大の宇宙軍基地であり、物資補給用カーゴや再突入駆逐艦用の電磁カタパルトを備えた滑走路を複数有している。すでに第92戦術機甲連隊の戦術機は再突入殻(リエントリーシェル)に格納され、さらに再突入用戦術機カーゴに搭載されていた。双方ともアクセスハッチがあるため、後からでも衛士は戦術機に搭乗することが可能である。

 

(正気じゃない)

 

 それが種子島基地に移動した第92戦術機甲連隊の衛士、本部スタッフの偽らざる心情であった。

 ブリーフィングルームの壇上に立っているのは、第92戦術機甲連隊本部の作戦担当幹部ではなく、西部方面司令官本人である。その背後のモニターには、同時接続している香月夕呼博士が映っていたが、誰もその名前を知る者はいなかった。

 

「以上が、作戦の概要となる。何か質問は」

 

「一足飛ばしどころか、二十足は飛ばしてますケド」

 

 第92戦術機甲連隊第33中隊の中隊長、五十嵐良則大尉の抗議ともぼやきともとれる発言に、隣に座る民部紀美少尉も頷いた。

 

 甲20号目標の代わりに甲1号目標・オリジナルハイヴを攻略する。

 百歩譲って、ここまではまだいい。

 しかしながら作戦発動は2002年1月1日――つまり2日後には第92戦術機甲連隊は軍団規模、軍規模どころか軍集団規模のBETAがひしめくフェイズ6のハイヴに再突入しているという。

 

「司令官閣下、副司令閣下。BETAが新型爆弾や新兵器の情報を握っており、早急に決着をつける必要があることは理解しました」

 

 挙手をしたのは第92戦術機甲連隊・連隊長の東敬一大佐である。

 

「しかし甲1号目標に対する軌道上からの挺身攻撃、失礼ですが……これは勝算あっての作戦でしょうか。その勝算を示していただきたい。またいまの説明では作戦成功後の離脱が抜け落ちています。作戦成功後、連隊機がいかにして戦域を離脱すればよいのか、明確に指示をしていただきたい」

 

 甲1号目標攻略作戦――通称“桜花作戦”は、第3段階から成る。

 

 第1フェイズは欧亜大陸の全戦線において、人類軍が地球規模の陽動作戦。

 

 第2フェイズは国連宇宙総軍の反復軌道爆撃と、国連軌道降下兵団および米地球規模攻撃軍団、そして日本帝国大陸派遣軍第92戦術機甲連隊の軌道降下強襲から成る。

 第92戦術機甲連隊は侵攻の始点となる(ゲート)SW115周辺の光線級、重光線級を殲滅し、同門を確保。2個師団から成る国連軌道降下兵団はSW115周辺の個体を漸減しつつ、陽動作戦に移行する。米地球規模攻撃軍団の2個大隊はSW115に先行突入し、ハイヴ坑内における陽動作戦準備を開始する。

 

 第3フェイズで国連宇宙総軍は第二次反復軌道爆撃を実施し、再び重金属雲を展開。

 そして前述のとおり、艤装がすでに完了しているXG-70凄乃皇四型が単独降下――米地球規模攻撃軍団および第92戦術機甲連隊とともにハイヴ坑内へ突入。途中、米軍機は陽動も兼ねて戦略目標・い号標的の占領に向かう。

 一方、XG-70凄乃皇四型と第92戦術機甲連隊は反応炉・あ号標的に向かい、これを破壊する。

 

(良くも悪くも、可能性がわからない作戦だ)

 

 説明を聞いていた園田勢治少佐は、そう思っていた。人類史上、といっても過言ではない規模であり、軌道降下強襲を仕掛ける戦術機の頭数も過去最大であろう。比較できる作戦がない。

 しかし作戦遂行が困難だという要素ならば、すぐに思い浮かぶ。

 軍集団規模のBETAを無視しても、まずあ号標的なる反応炉が4000mを超える深層にあること。ハイヴ坑内の補給はXG-70dが搭載するコンテナで実施する――つまり坑内兵站は最低限のレベルでしかないこと。この2点が即座に挙がる。

 

「東大佐、勝ち目はありますわ」

 

 一方の香月夕呼副司令は、ホワイトボードに何やら書き始めた。

 

「見えるかしら」

 

■ルートスキャン不要

(諜報成功→地下構造把握済○)

 

■90%以上の最深層到達率

(XG-70d TSF×20機の突入シミュ)

 

「……」

 

 うーん、と数名の衛士がうめいた。

 BETAの頭数さえ考えなければいけそうな感じもする、というのが彼らの感想だった。

 数的有利は向こうにあるとしても、こちらもかなり頭数を揃えている。国連軌道降下兵団2個師団の編制については知らないが、要は400機から最大600機はいるわけだ。それに米軍機約70機が加わり、佐渡島ハイヴ攻略に一役買ったXG-70dまで付くとなればそう簡単にやられるとも思えない。

 

「作戦成功後については私から説明する」

 

 続けて西部方面司令官が口を開いた。

 

「まずあ号標的を破壊することで、反応炉を失ったBETAはすべて周囲のハイヴへ速やかに撤退を開始するはずだ。この時点で突入部隊の生存は保証される。BETAを誘引する性質をもつ国連軍新兵器・XG-70d凄乃皇四型は成功時点で放棄――搭乗者は装甲連絡艇で脱出する。衛士もまた戦術機で地表まで脱出。その後は戦術機補給コンテナとサバイバルコンテナを軌道上から投下する」

 

「まるで月面だ」

 

 オティルバト義春少尉の漏らした言葉に、西部方面司令官は小さく頷いた。

 

「そのとおりだ、少尉。最短で18時間、最長で7日間はその場に留まることになるだろう。自衛戦闘が生起する可能性もあるが、可及的速やかに迎えを遣る。対BETA欺瞞が可能な航空機と人員は、Tu-119とスェーミナだけではない」

 

「そういやアメさんはどうなるんですかね」

 

「米軍機はい号標的を占領後、その場に留まる」

 

「うへえ」

 

 オティルバト義春少尉の呻き声に反応することなく、西部方面司令官は東敬一大佐を見た。

 

「他に質問は」

「……ございません」

 

 自殺攻撃ではない、ということがわかるとともに、戦術機操縦適性とその腕前だけで集められた第92戦術機甲連隊の衛士たちは復讐に心を焦がしている。

 ここに至るまでに家族も、友人も、戦友も、故郷も、多くのものを失ってきた。

 例外があるとすれば、湯川進中尉のような人種であるが、彼らも

 

(まあ命令だしなあ……)

 

 という形でしぶしぶ納得している。

 

「はっきり言うわ」

 

 モニターの向こうで、香月夕呼副司令が声を上げた。

 

「ここで勝たなければ人類に未来はない、と思ってちょうだい」

 

 どこまでも真面な声色に、どちらかといえば士気が低い衛士たちはこちらの方が響いた。

 

「このXG-70d、この桜花作戦に至るまでに、多くの人間が血を流してきたわ――そしてハイヴに突入する瞬間でさえ、全世界で多くの人々が血を流す。奮励努力も、粉骨砕身も要らない。要るのは勝利だけよ」

 

 続けて、西部方面司令官が声を上げた。

 

「作戦前の訓示だ。鉄屑連隊というあだ名を、俺は気に入っている」

 

「いまでは最新鋭の戦術機を揃えるまでになったが――」

 

「それでも100年後、200年後には、武御雷でさえ博物館に飾られるだろう」

 

「そしてそれを見た誰もが“BETAとこんな鉄屑で戦ってたのか”と指さすようになる」

 

 西部方面司令官は昏い瞳で、ひとりひとりの顔を見た。

 

「戦術機という現代兵器が鉄屑と嗤われる――」

 

「そんな未来(あす)のために、俺は貴官らの勝利を望む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【日本帝国作戦名】

 

鉄屑作戦(オペレーションスラッグ)

 

 

 

【参加主戦力】

 

日本帝国軌道決戦軍第92戦術機甲連隊

 

 

 

【作戦目標】

 

①オリジナルハイヴ(ゲート)SW115の確保

 

②戦略航空機動要塞XG-70dの随伴・直援

 

③あ号標的の破壊

 

 

 

【作戦目的】

 

九州防衛

 

帝国防衛

 

人類防衛

 

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