【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■118.ファーストダイブ、ファーストバトル!

 

 異形蠢く荒野から空を見上げる者がいたとしたら、その光景に絶句しただろう。

 白み出した空を、赤熱しながら翔ける人工の流星群――それを目撃した巨大な瞳は見惚れることもなく、即座にその軌道を見据えた。

 奔る光芒。

 爆発する大気。

 重金属の塊は朝日とともに、空に解けていく。

 解けるだけではない。払暁の空を濁らせていく。

 その中をまたひとつ、またひとつと鋼鉄の柱が重力に曳かれ、膨大な熱量を前に大気に解けていく。

 地表から破壊光線が奔る度に、重金属でできた雲がまばゆく輝く。

 そしてその度に、人工の積雲は発達していった。

 

 光線級、重光線級の放熱と大熱量の本照射によって生じる水蒸気の雲(レーザークラウド)と、低く垂れこめる重金属雲。

 天地から生じた雲雲が混じりあったとき、再び重金属の塊と数百の鋼鉄が低軌道上から降り注ぐ。減速しないまま突っこんだAL弾が最初に本照射を浴び始めるが、この段に至ってはもう宙に解ける前に地表に至るものが大半だ。超音速で地表に激突した質量エネルギー弾は、地表を抉って半ば地中に埋まった状態で止まる。

 いま、ほとんど無傷の一弾が要塞級に直撃した。

 上体を引きちぎられる要塞級。しかしながらそれくらいではAL弾の運動エネルギーはほとんど失われない。要塞級を破壊したAL弾はその後背の地表に居合わせた数体の戦車級を轢殺し、大地を抉りながら光線級と要撃級と土砂の混淆物を作り出して停止した。

 そして異形の眼球が見据える空、鈍色の濁った空に猛然、再突入殻が逆噴射をかけながら進入――次々と分離して再加速していく。

 

「イツマデ1、こちらイツマデ2! トイレパックがいっぱいで機動力が5%減!」

 

 血肉、砂塵、重金属微粒子が舞う中に赤い瞳が輝いた。

 と、同時にその有機物と無機物のカーテンの向こう側から、機関砲弾の嵐が吹き荒れた。急接近する高性能CPUに反応していた戦車級と要撃級の群れが瞬く間に肉片に変わり、その血肉と泥土の中に2機の戦術機が着地する。

 

「馬鹿を言っている場合じゃない!」

 

 イツマデ1――服部忠史大尉はスパイク付の主脚で兵士級を踏み潰しながら、センサーを奔らせた。重金属の粒子が充満している中でも、光線級の放つ高温を捜索するパッシブセンサーが高脅威目標を速やかに捕捉する。次の瞬間には背面ガンマウントが稼働し、自動砲撃を開始していた。

 

「イツマデ1、こちらイツマデ9! エアカバー入ります!」

「イツマデ9、10秒で降りて来いッ!」

 

 重金属雲の濃度をみて、第12中隊後衛小隊の小隊長・荒若幸伸中尉が滞空精密射撃を開始する。

 パッ、パッと光線級、重光線級が狙撃で肉塊に変わる中、その近傍に2機、4機と戦術機が落着する。その頭上を砂塵の中、2発の誘導弾が翔ける。光線級の遮蔽となる要塞級を盾にしたスマートな弾頭は、その要塞級の直下で電子信号とともに起爆する。

 

「ヤバ、これS-11!?」

 

 瞬間、火球が生じる。暴虐的な衝撃波に薙ぎ倒される要塞級。火球から放たれる熱線は、光線級の瞳を焼き、戦車級や闘士級の表皮を炭化させた。

 

「ブリーフィング聞いてました!?」

 

 真栄城保少尉のツッコミに、にやりとF-2星青スーパー改を駆る丹羽歩武中尉は笑った。

 

「ジョーク、ジョーク!」

 

 僚機の真栄城保少尉機や傍に居合わせた2機のF-3テンペストが突進してくる要撃級を撃退する中、丹羽歩武中尉はS-11弾頭から成る誘導弾を撃ち切ると、さっさと4基のミサイルランチャーを投棄してしまった。

 

「ライター中隊が派手にやってんなッ!」

 

 生じたキノコ雲を目印に他の連隊機が次々と着地し、空隙を広げていく。落ちてくるのは戦術機だけではない。重金属雲の中を突っ切りながら、F-2やF/A-14は次々と誘導弾や噴進弾を発射し、自機や友軍機の着地先を作っていく。

 

「湯川中尉! ここどこですかァ!?」

「パッパ6、(ゲート)SW115から東に8000mだ――まあこんなもんだろ!」

 

 軌道降下強襲の性質上、全機が同じポイントに降下することはできないし、すべきではない。分隊単位で降り立った戦術機たちは、速やかに他の分隊と合流し、部隊ごとの集結ポイントへ移動を開始する。

 

「湯川さん、ご一緒させてもらいますよ!」

「こちらこそ心強い!」

 

 突撃砲で戦車級の群れを掃射し、死骸の山から飛びかかってきた要撃級を斬殺する湯川進中尉のテンペスト。その脇に長大なガトリング砲を有するA-10NTが立ち、真正面から襲いかかってくるBETAの奔流目掛け、全力の連続砲撃を開始する。第92戦術機甲連隊が様々な戦術機から成る強みがここで活きていた。

 

「ライター9、ライター10。こちらゼノサイダリーダー。貴様らが最もSW115に近い。吹き飛ばせ」

「ライター9、了解」

「ライター10、了解!」

 

 第92戦術機甲連隊の集結ポイントは門SW115である。そこを集結ポイントに選んだ理由は侵攻路の起点であることもあるが、守りやすい地形だからでもある。周囲には戦術機が隠れられるような地表構造物がそり立っており、光線級の視線を切ることができる。

 ライター10・荒倉恋少尉機がS-11弾頭の誘導弾をSW115の直上へ放つ――重金属雲を引き裂いた弾頭は、予想通りの大破壊をもたらした。下方へ放たれた爆風はSW115を這いあがってきたBETAを再び地の底へ叩き戻し、周辺の小型種を焼いた。爆風に煽られて倒れる突撃級。炎を曳きながらずるずる歩く兵士級。右脚のすべてを失った要撃級が、左脚だけでぐるぐると円弧状に這いまわっている。

 

「ライター10、来るぞ」

 

 S-11弾頭の発射を支援していたライター9・仕手功一中尉は、生じる巨大なキノコ雲を背景に飛び上がる影を視認していた。彼は躊躇わずにS-11弾頭が収められているミサイルランチャーと、腰部装甲の一体型増槽を投棄して機体を軽くする。それから流れるように、近接戦用長刀を構え直した。

 

「ゼノサイダリーダー。こちらライター9。戦術機(タクティクス)級だ」

 

 端的に言えば、羽虫。兵士級じみた地肌にけばけばしい色の生体装甲を纏った怪物が、逆関節の脚で地を蹴って跳躍しながら突進してくる。

 が、その姿を見ても仕手功一中尉は驚かなかった。

 ブリーフィングですでに西部方面司令官からオリジナルハイヴに新属種が出現する可能性が高い、と聞かされていたためである。

 

「レアですね……っ!」

 

 ミサイルランチャーを除けば強襲前衛(ストライクバンガード)装備の荒倉恋少尉機と、ライター9・10を援護していた2機のラファールMADが36mm弾で迎撃したが、戦術機級は突撃級の外殻じみた盾でそのすべてを防いでしまう。

 それを見ていた仕手功一中尉は、自機を前に押し出した。深緑と黄緑の入り混じったけばけばしい――突撃級の殻じみた盾と生体剣を構えた怪物と、地球の青を纏ったF-2が交錯した。

 

「あかんわこのパチモンども――!」

 

 武御雷二一型から成る第11中隊は分隊単位で戦場を駆けずり回り、要撃級や戦術機級を斬殺していく。F/A-14やF-2は全機爆装しており、またA-10NTのようにガトリング砲を背負った状態では近接戦闘が厳しい戦術機については守ってやるしかない。

 菅井麗奈中尉機は斬りかかってきた戦術機級の刃を半身になって躱すと、右主腕から展開した固定型カーボンブレードの刺突で、生体装甲に覆われた胸部を刺し貫いた。それを引き抜きながら右主腕を振り回し、生体長剣を振りかぶった戦術機級の頭部を切断する。

 

「全機、速やかにSW115に集結せよ」

 

 複座型のシート、その前方に座る櫻麻衣大尉は幻聴と幻覚を無視しながら、網膜に投影される戦況図を眺めていた。乱戦の中で、彼女の機体――武御雷を素体としたATD-X-2だけが無視されている。後席に座るスェーミナがぶつぶつと呟くのを無視して、櫻麻衣大尉はS-11弾頭を保有している攻撃機に次々と射撃指示を出していた。その強力すぎる威力のため、どうせハイヴ坑内では使い道が限られるのだから、野戦でどんどん使ってしまった方がいい。

 近傍の門W114の付近で、爆装したラファールMADが放ったS-11弾頭が炸裂し、国連軍機を追跡していた中隊規模のBETA群が一気に吹き飛ばされる。その一方で別方向へもう1発放たれていた誘導弾は、光線級の迎撃を受けて空中で蒸発した。

 

「まず、重金属雲が薄くなってきた!」

 

 保科龍成少尉のラファールMADが空中を舞う戦術機級を長刀の一撃で叩き落とし、叩き落しながら予備照射を振り切るように急降下する。その先では彼の直属の上官である井伊万里中尉が狂ったように要撃級を殺し回り、同小隊機の2機が突撃砲で周辺を制圧している。

 

「こちらアリゲーターリーダー、やっとSW115に辿り着いた。長距離砲撃で支援――といいたいところだが、この人形(ドール)ども!」

 

 部隊単位でSW115に辿り着いたF-22Aは得意とする長距離砲撃で要塞級や光線級を狩り始めたが、数分と経たず上空から襲いかかる戦術機級との近接戦に巻き込まれていた。

 

「ぢぐ、助け゛、え゛――」

 

 戦車級に集られている国連カラーのF-15Eを、テンペストを駆る宇佐美誉大尉は120mmキャニスター弾で吹き飛ばし、続けて押し寄せる戦車級の群れを突撃砲の4門斉射を粉砕した。

 ここから戦闘は厳しさを増す、と彼女は理解している。重金属雲が薄れれば、こちらはミサイルによる長距離攻撃が難しくなり、加えて三次元機動を封じられる。その一方で西部方面司令官いわく“キルレシオが高い戦術機に対するカウンターとして出現する”という戦術機級は、自由自在に三次元的な攻撃を仕掛けてくるのだから、始末に負えない。

 

「イツマデ、ラビットはSW115外縁部を確保。ゼノサイダは小隊規模で重光線級を狩れ」

「了解!」

 

 SW115に到着した第33中隊のA-10NTがガトリング砲による自動対空砲撃を開始し、宙を舞う羽虫を次々と叩き落とし、生残しているF-22Aが長距離砲撃戦を再開する。

 

「くそったれ、陽動どころじゃねえ!」

 

 本来ならばSW115周辺の重光線級、光線級を狩りながらSW115を離れる陽動戦術を採るはずの国連軍機だが、物量に勝るBETA群を押し退けるにはいかんせん火力が不足していた。

 

「エンジェルリーダー、こちらゼノサイダリーダー。一度、SW115に集結し、そこから態勢を立て直してはどうだ」

「ゼノサイダリーダー、こちらエンジェルリーダー。そのとおりだな。ユニオン各機、SW115に集結する!」

 

 F-15Eが主力の国連軌道降下兵団は、近接戦闘の連続ですでに複数機が撃破されていた。

 SW115に向けてサーフェイシングで後退するF-15Eとすれ違う形で、武御雷二一型の1個小隊が小型種の群れを吹き飛ばし、数体の要撃級を瞬く間に撃退する。その頭上をF/A-14が放った127mmロケット弾が飛び越し――半数が迎撃されたが、残る半数は光線級が密集する小型種の群れを吹き飛ばした。

 

(やはり被撃墜ゼロとはいかん……)

 

 F/A-14から成る第22中隊バトル・シスターズの中隊長、大島将司大尉は中隊内ステータスを一瞥した。小隊単位、中隊単位で集結する前にすでに2機がやられている。が、彼はこの戦場では無意味な連想ゲームを始めるつもりはさらさらなく、127mmロケット弾を撃ち終えたランチャーを投棄し、迫る戦術機級を見据えた。

 大上段から振り下ろされる一撃を短噴射で躱し、120mm砲の単射で腰部を吹き飛ばす。

 その2秒後には後背から迫る突撃級を上方への跳躍で躱し、36mm機関砲にモードを切り替えた突撃砲で射殺している。

 

「富士教導隊との演習も、たまには役に立つ!」

 

 F-15SEX眩愛の1個中隊は戦場を疾駆し、戦術機級を容易く退けつつ、国連軍機を助けて回っていた。

 第92戦術機甲連隊は対BETA戦・対戦術機戦双方と幾度も刃を交えてきた。

 その経験が、いま活きている。

 

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