(BETAの個体数が多いオリジナルハイヴの方が人類側に地の利がある、ということで本話はひとつよろしくお願いいたします)
爆装したF-15Eが誘導弾を斉射する。垂直方向に伸びる数十発の弾体は、下降する前に四方八方から伸びてきた破壊光線によってすべて破壊された。舞い散る破片と炎。その下を他のF-15Eが翔け、背面ガンマウントで要撃級を屠りながら、再照射に備える光線級と重光線級を両主腕で保持する突撃砲で狙撃していく。
門の周辺に構築された禍々しい地上構造物を盾にしつつ、国連カラーのF-15Eは膝射姿勢で押し寄せる戦車級と要撃級の群れを阻止していた。すでに無数の死骸が周辺には積み上がっており、その死骸が敵味方の障害物となっている。衛士からすれば長距離射撃の邪魔になるが、一方でBETAの突進や機動力を封じているのもまた事実であった。
光線級の対地照射が閃き、足を止めていたF-15Eが爆散する。
その脇をサーフェイシングで駆け抜けたJAS-39CBは短噴射をかけて跳躍すると、光線級の群れの中心に着地し、主脚で2体の光線級を轢殺しながら、固定型のカーボンブレードを振るって巨大な眼球を撫で斬りにしていた。
軌道降下強襲から数十分、事前の作戦は半ば崩壊していたといっていい。
陽動を担うはずの国連軌道降下兵団は数で優るBETAの圧力に抗しきれず、
米軍機はすでにSW115からハイヴ坑内に突入している。ただし距離としてはさほど進んでいない。最初の広間に繋がる
「やっぱ敵さんの御膝元なだけあって、数多い!」
峯岸成少尉が操るA-10NTは、203mm大口径連隊支援砲“屠龍”の連続砲撃で要塞級を突き崩していく。大型種と小型種が入り乱れるこの戦場では、突撃級はさしたる脅威ではなかった。他の個体を巻きこまないようにするため、彼らは時速200km近い突撃を行えないでいる。
崩れ落ちる要塞級の向こう側で、閃光が奔った。第21中隊が敷設したS-11弾頭が起爆し、凄まじい垂直方向への爆風とともに要撃級や戦車級の死骸を巻き上げるのが見えた。
第92戦術機甲連隊は、といえばF/A-14から成る第22中隊やA-10NTの第33中隊をSW115の守備に廻し、残りの中隊は積極的に打って出て近傍の重光線級、光線級を狩り回っているところである。
「……」
しかしながら死闘の中でもどこか余裕がある第92戦術機甲連隊の衛士たちは、違和感を抱いていた。
(想定よりも重光線級の数が少ない)
それは櫻麻衣大尉も同様である。
現状は彼女が妄想する“状況”とは、全く違っていた。あと30分もすれば、重金属雲下でA-04――凄乃皇四型の投入が許容できるまでに重光線級の個体数を減じることが可能だろう。
(メインシャフトの防御に廻されている?)
……その数分後、答え合わせが始まった。
「む――」
要塞級を斬殺し、胴部から生成されたばかりの光線級たちをフルオート射撃で薙ぎ払った第32中隊・中隊長の田所真一大尉は、真東の方角に巨大な影を認めた。一瞬、近距離に新たな要塞級が出現したのだと勘違いしたが、レーダーの測距によると相当距離は離れている。
「中隊長、あれは」
前衛小隊を指揮する上杉優太朗中尉も巨影に気づいて声を上げた。
それと同時に、全高100mに達しようかという怪物――その胴部と両肩部が発光した。
田所真一大尉は本能的に「BETAを盾にしろ!」と叫び、自らも擱座した突撃級の背後に廻った。
次の瞬間、暴虐が撃ち下ろされた。
単なる閃光ではない。光の塊が連射される。
レーザーが1秒未満の発射間隔で撃ち出されるという想像だにしない悪夢が、いま衛士たちに叩きつけられた。
「え――」
約30発という一連の連続照射が終わった後、運良く兵士級や闘士級といった小型種の群れの中にいた若狭理央少尉は、絶望を洩らした。中隊内ステータスを見れば前衛C小隊が全滅していた。先程まで戦車級の群れに連射を浴びせていた上杉優太朗中尉機も、腰部ユニットから上方を失って崩れ落ちている。
「ミツバチ! すぐに指定ポイントに集結!」
普段は冷静な口調で指揮を執る田所真一大尉が、声を荒げて命令を下した。
BETAはBETAを誤射せず、またハイヴの構造体を攻撃することもない。
いまは地表に突出している黒曜色の構造物を遮蔽物とするのが、最も安全だと判断したのである。
「くそったれ、反則だッ!」
SW115の直上で守備にあたっていた第33中隊・中隊長の五十嵐良則大尉は、いまの攻撃で中隊機を3機失った。
(インターバルも、予備照射もない――!)
要塞級のスケールを2倍にした怪物は、両肩部と頭部があるべき部位に、それぞれ3枚の巨大な照射膜を有している。単純に考えれば重光線級9体分の攻撃力であってしかるべきなのだが――いまのは本照射に近い威力のレーザーの速射だった。
「
櫻麻衣大尉の声に五十嵐良則大尉は我に返り、「付いてこいッ」と怒鳴った。
巨体が再び発光を始めたのと、A-10NTとF/A-14が
その3秒後、怪物は中央から突き出ている照射膜からSW115の近傍目掛け、先程とは異なる収束型のレーザーを発射していた。
逃げ遅れたF-15Eが一瞬で爆散する。
吹き荒れる電磁波と、大熱量、そして衝撃波。
直撃を受けずとも次々と爆発する戦術機たち。空中に居合わせた戦術機は四肢を破壊されるか、吹き飛ばされて地表に叩きつけられた。
「あんなのどないせいっちゅうねん!」
怪物の登場とは無関係に光線級との攻防の駆け引きのため、多くの大型種を擱座に留めていた第11中隊はまったく損害を受けていなかったが、手詰まりになっていた。重光線級の集合体ともいうべき巨体は、続けて両肩部からレーザーを速射し、戦術機たちを再度制圧している。
◇◆◇
(バカな)
重金属雲が晴れ始めたことで第92戦術機甲連隊との衛星通信が回復した作戦司令部――そこで作戦の進展を見守る西部方面司令官の昏い瞳には焦りが生まれていた。
(超重光線級がオリジナルハイヴに――)
逆行者の弱点ともいうべきか。
西部方面司令官はこれまで甲26号目標に出現してきた超重光線級が、まさかオリジナルハイヴに出現するとは夢にも思わなかった。何度も経験した逆行で、オリジナルハイヴ攻略作戦を経験したことは一度や二度ではない。故に未確認種――超重光線級の存在は知っていても、対策を考えることはなかった。
作戦参加部隊ステータスを一瞥すると、超重光線級の出現から15分で夥しい数の被撃破機が出ていることがわかる。
国連軌道降下兵団はすでに作戦機の過半数を喪失していた。
第92戦術機甲連隊も――第11中隊を除いて――各中隊、数機ずつ被撃墜機を出している。
「……」
モニターの向こうにいる香月夕呼も言葉がない。
西部方面司令官もそうだが、香月夕呼もまた、櫻麻衣大尉機が送信してきたガンカメラの映像を見て、その大威力と速射性に絶句せざるをえなかった。連射されるレーザーの1発1発が重光線級の本照射と同等の威力を有している。
いま凄乃皇四型は武装面を除いてはほぼ万全の状態だが、あの猛攻をラザフォード場で防ぎ切るのは不可能だ。
「どうすれば――」
香月夕呼の視線がすがるものを探してさまよったとき、衛星を介した声が響いた。
「こちらゼノサイダリーダー。30分であれを殺します」