【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■120.人類の最大の武器は、超兵器ではなく“戦術”だ。

 

「作戦を説明する」

 

 横坑(ドリフト)からS-11弾頭を備えた誘導弾を2発撃ちこんで占領した広間(ホール)。そこに集結していた第92戦術機甲連隊の衛士たちは、散発的なBETA側の反撃への対応を米軍機に任せ、ブリーフィングを開始していた。

 

「やつの照射を躱して反撃するにはこれしかない」

 

 超重光線級の存在とは無関係に、第92戦術機甲連隊は(ゲート)からハイヴ坑内にいったん退避し、それから地表のBETAに反撃する訓練を積んでいた。想定よりも重光線級、光線級の個体数が多かった場合、ハイヴ坑内に身を隠して態勢を立て直すしかない、とシミュレーションの前後で打ち合わせていたからである。事前にSW115近傍の広間を集結ポイントとしていたことも効を奏した。

 いまこの広間には約90機の連隊機がいた。

 

「あの怪物もふって湧いたわけではない」

 

 櫻麻衣大尉の言葉で、宇佐美誉大尉は一瞬で作戦を理解した。

 

「成程。ハイヴ内を突破して一気に肉薄するというわけか」

 

「ああ。あれはおそらく(ゲート)SW110から出現した。まあ実際のところ、それはどうでもいい。重要なのはあいつがSW110の西方約1000mの位置にいるということだ」

 

 単純な作戦だ。

 ハイヴの横坑を敵中突破し、SW110から肉薄攻撃、超重光線級を仕留める。

 BETAが絶対に友軍誤射をしないのと同様に、彼らは絶対にハイヴを傷つけない――つまり安全に移動できる。少なくともSW110から飛び出す瞬間までは。

 

「この戦場が単なる平野であったら、絶対に勝ち目はなかった」

 

 第92戦術機甲連隊の衛士たちは、口の端を歪めた。

 

「だがこの戦場は違う。皮肉だがBETAが造ったハイヴが、我々に地の利をもたらす」

 

 ハイヴ坑内を移動しての奇襲。

 常識的に考えれば不可能だが、第92戦術機甲連隊には横浜基地から提供されたオリジナルハイヴ内部構造のデータがある。もともと門SW115周辺もBETAの(リーディング時点の)配置個体数が少なく、そのため最も敵との交戦が避けられるあ号標的への侵攻路の起点として選ばれたのである。

 実際、第32中隊をはじめSW115以外の門からハイヴ坑内に退避した中隊も、デタラメな火力を有するS-11弾頭を使いつつも、ハイヴ坑内を突破してこの広間に集結することができていた。

 

「あのデカブツを殺せなければ作戦は失敗する。が、あのBETA側の超兵器を潰すことができれば、このオリジナルハイヴ殴りこみは成功する――こちらの超兵器がBETAを鎧袖一触に殺し尽くす。刺し違えてでもあれを斃すぞ」

 

◇◆◇

 

「こちらヘルハウンド3ッ、こっちはもう2機しか残ってない!」

「ヘルハウンド、こちらエンジェルリーダー! スコル1に合流しろ!」

「くそ、また照射だ――誰がやられたッ!?」

「コカトリスのマーカーが全部消えてる!」

 

 巨大な柱、とでも表現したくなるような12本の脚は、いま止まっている。

 超重光線級はSW115周辺の制圧のために、出現した(ゲート)SW110の近傍に留まっていた。実際、その眼下には未だ100機以上の国連軍機が散在する地上構造物を盾にしつつ、押し寄せる小型種、大型種を撃退していた。ただし機動は制限されている。地上構造物や大型種の影から戦術機が飛び出た瞬間、超重光線級は光速かつ正確無比の一撃でこれを破壊していた。

 

 ジリ貧というにはあまりにも絶望的な状況。

 

 不利なこの状況を覆す術が、見つからない――。

 

「友軍マーカーッ!?」

 

 戦術機同士、あるいは衛星を介した部隊間のデータリンクが回復し、怪物の周囲に青いマーカーが出現するまでは。

 それに反応したのは国連軍衛士だけではない。

 超重光線級も自身の後背に突然現れた戦術機に、速やかに対応した。

 その巨体に似つかない素早さで、照射膜を有する首を異様に長く伸ばした。後方に向いた両肩部の照射膜が発光する――その数秒前に近接戦闘に長じる第13中隊のF-3Iテンペストと、第33中隊のJAS-39CBアララトグリペンは超重光線級の股下に滑りこんでいた。

 

「このA-10が――撃ち合いで負けるかぁあああああ!」

 

 それだけではない。

 門から這い出し、地上構造物の合間から第33中隊のA-10NTナイトホークが咆哮する。発光する照射膜にも怯まない。高速回転するGAU-8アヴェンジャーが、焼夷徹甲榴弾を叩きこむ。

 突撃砲よりも遥かに高速、高威力の砲弾は確かに照射膜の一部を傷つけた。

 と、同時に照射膜は破れ、砕けながらも、レーザーの速射を開始する。

 

「お前ら退が――!」

 

 言いながら第33中隊の中隊長、五十嵐良則大尉は照射膜の前に立ち塞がるように跳躍した。

 

「――ッ!」

 

 五十嵐良則大尉機がその身をもって防げたレーザーは、ほんの数発に過ぎない。瞬く間に胸部ユニットが撃ち抜かれ、続いて右肩部、腰部ユニットが破壊され、次の瞬間には巨大な火球になっていた。

 それでも彼が防いだ1秒間で、数機のA-10NTは地上構造物の影に隠れることができた。

 

「なにか来るぞッ!」

 

 一方、股下に滑りこんだテンペストとグリペンは、予想外の反撃を受けていた。

 

(フォー)だあ゛っ゛」

「竹島ァ!」

 

 竹島繭子少尉の駆るJAS-39CBは胴体下部から伸びる触手を躱すことができず、吹き飛ばされ――吹き飛ばされながら強酸で溶かされていた。

 続けて巨大な尾部の付け根に刺突を繰り出し、74式近接戦闘長刀の刀身を半ばまで(うず)めていた第13中隊前衛小隊長の佐久本翔中尉が衝角の一撃を受け、一瞬で絶命している。

 得意とする近接戦闘に持ちこもうとしたパッパ3・立田一司少尉機と、パッパ4・貝淵朝士少尉機も、カーボンブレードの間合いに入れぬままに衝角に刺し貫かれていた。

 

「そっちまで反則!?」

「砲撃だ、近づくな!」

 

 それを見ていた湯川進中尉は、左主腕で保持していた長刀を棄てた。と同時に右主腕の突撃砲で、120mm滑腔砲のバースト射撃で巨大な衝角を収納する尾部の一部を吹き飛ばす。宇佐美誉大尉機が放った120mmキャニスター弾が炸裂し、無数の鋼球が触手を引きちぎってから青白い胴部の生体装甲にめりこんだ。

 

「タイミング合わせるぞ、3、2、1――!」

 

 門周辺の地上構造物の向こう側から、127mmロケット弾が撃ち出される。

 背面に向けられた両肩部の照射膜は先のGAU-8の連続砲撃によって傷つけられてもなお、その大半を撃墜していた。が、いかに速射が可能といっても、空中の127mmロケット弾を撃墜しながら、同時に地を這うように現れた新手の機影を攻撃するのは難しい。

 

()ィ――」

 

 鈍色の武御雷二一型。74式近接戦用長刀だけを備えた日高大和中尉機が追い縋る衝角を無視し、高速垂直噴射――そしてその無防備な上背、中央の首の付け根に長刀を突きこむ。と同時に日高大和中尉は長刀の柄を手放しながら、流れるように手甲から突出させた隠し刃で照射膜を備えた首を切り裂いた。

 

「落とすには至らぬか」

 

 が、F/A-14が放った127mmロケット弾とともに飛び出した戦術機は、かの1機のみではない。

 ロケット弾を迎撃するために上方を向いていた照射膜が、再び戦術機を攻撃するために下方に向き直った瞬間を狙い、鵜沢心菜中尉が率いる後衛小隊の武御雷が120mm徹甲弾の集中射撃を照射膜に浴びせ、今度こそ照射膜を完全に破壊してみせた。

 

「どうせ三胴構造!」

 

 さらに残る5機の武御雷は超重光線級の背面にまで達すると、両肩部の付け根に渾身の刺突を叩きこんだ。

 派手な火力は要らない。

 狙い澄ました一撃は、弱点を衝いていた。

 小型とはいえ大重量の反応炉を格納する胴部――それを支える両肩部が脆くも裂けはじめた。

 BETAが慌てるわけはないが、重光線級はそれまで前方――SW115の方向に向けたままだった中央の首を大きく反らして後方に向けようとする。が、武御雷はその動きよりも遥かに優速だった。反らされるその首にすれ違いながら、無数の斬撃を繰り出す。

 それに前後して、下方から120mm砲のバースト射撃を三胴構造の接合部に叩きこまれたことが、その巨体の致命傷になった。

 

「崩れるぞ!」

 

 即座に第92戦術機甲連隊機は、門SW110に再び撤退した。

 次の瞬間、全高約90mの怪物は大きく3つに裂けた。

 膨大な体液と内部組織が破けた表皮から噴き出し、巨大な脚が倒れ、上体はそのまま地に伏して自重に耐えきれないまま潰れた。

 

「やりやがったッ――あいつら!」

鉄屑(スラッグ)がやった!」

「HQ、こちらエンジェルリーダー。92TSFRが未確認種を撃破! 繰り返す、92TSFRが未確認種を撃破!」

 

 快哉を叫んだのは国連軍衛士だけではない。

 作戦司令部も沸いた。西部方面司令官も、香月夕呼も、勝利を確信したといっていい。

 特に前者はこの後の展開を知り尽くしていた。

 

(第3次軌道爆撃は常に学習されAL弾が迎撃されなくなる一方で、第2次軌道爆撃までのAL弾は絶対に迎撃され、重金属雲の展張に成功する。A-04の戦闘加入は成った)

 

 次なるフェイズ3はAL弾の第2次軌道爆撃による重金属雲の展張。

 

 そしてA-04――人類側の超兵器である凄乃皇四型の投入である。

 

 XG-70dは一時的に艤装作業が停滞していたが、いまや開発・設計時の9割近い戦闘力を有して、オリジナルハイヴの上空に姿を現した。

 無意識のうちに西部方面司令官の迅速な行動に引きずられていた香月夕呼の働きと、地上施設をすべて破壊された代わりに基地内部施設のダメージが僅少だった(XG-70dはまったくの無傷ですんだ)こと――様々な要因が、XG-70dを不安の残る決戦兵器ではなく、名実ともに最強の決戦兵器に仕上げていた。

 間に合わなかったのは2700mm電磁投射砲だけだ。

 荷電粒子砲の複数回使用やラザフォード場を転用した攻撃も勿論可能である。

 

 複数の重光線級の本照射を退けたXG-70dは、その両腕を地表に向ける。

 

 その数秒後に始まったのは、先程の超重光線級に対する意趣返しか。

 

 8門の120mm電磁投射砲が地を引き裂いた。

 重光線級、光線級が潜むBETAの群れが地表ごと抉り取られる。

 土煙と血煙の入り混じった濃霧が生じ、それが晴れたあとには何も残っていない。

 

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