あと3、4話で完結です。
よろしくお願いいたします。
「すげえ……」
XG-70d凄乃皇四型に搭乗する白銀武少尉は眼下の光景にそう洩らしたが、それはふたつの事柄についてであった。
ひとつはXG-70d凄乃皇四型の大火力。荷電粒子砲に次ぐ2700mm電磁投射砲の実装が間に合わなかったことに一抹の不安を覚えていた彼であるが、一方でXFJ計画に協力する形ですでに実地試験を終え、XG-70dに搭載されていた120mm電磁投射砲の威力は、まさに絶大だった。8門の斉射で屠ったBETAは約4万――しかも砲身命数、残弾数ともに相当余裕を残している。
もうひとつは
超重光線級の脅威が去ったことで、生残している国連軍機約100機はSW115を輪形陣で固め、要撃級や戦車級を撃退し、戦術機級を叩き落していく。周囲には重金属雲を突破して地表に辿り着いた補給コンテナもあったため、可能な限り新しい突撃砲や弾倉を引っつかみ、押し寄せる波のように現れる新手を粉砕した。
その戦術機と異形の死闘の最中をXG-70dは巨体に似つかない速度で突き進み、侵攻路の起点となるゲートをくぐった。
「ユニオン、こちらエンジェルリーダー。われわれはA-04の殿だ。あの
続けて国連軍機はA-04に追随し、ハイヴ坑内に抵抗線を張り直した。陽動作戦がふいになってしまった以上、光線級や重光線級の視界が開けている野戦よりも、敵の出現方向が限定されるハイヴ坑内で押し寄せる敵を撃退し、XG-70dの後背を守った方がよいという判断である。
一方、第92戦術機甲連隊はSW110周辺の縦坑・横坑を確保していた米軍機と合流すると、ハイヴ坑内を再び突破してXG-70dに合流した。
「A-04。こちらは日本帝国軌道決戦軍第92戦術機甲連隊、ゼノサイダリーダーだ。あ号標的まで随伴、支援する。適宜、支援砲撃を要請することになるだろうが、よろしく頼む」
「A-04。こちらは米国戦略軌道軍地球規模攻撃軍団、アリゲーターリーダー。深度2700mで本格的に分岐し、以降はい号標的の占領に向かうが、それまでは援護する。あ号標的撃破の勝報、頼んだぞ」
「ゼノサイダリーダー、アリゲーターリーダー。こちらA-04、了解。こちらこそよろしく頼む!」
横浜基地にて新型OS・XM3のトライアルに協力していた八倉世理子大尉ら第31中隊の面々は、すぐにA-04を操る衛士が“動きがよかった6番機”の衛士だと気づいたが、ここでは口を差し挟まなかった。
「A-04、こちらゼノサイダリーダー。早速だが10分、武器弾薬の補給時間をくれ」
XG-70dは2700mm電磁投射砲とその給弾機構、弾薬庫が装備されるはずだった空間に、戦術機用の補給物資やハイヴ坑内で必要となる工兵装備を格納していた。死闘に次ぐ死闘で弾薬が底を尽きかけている戦術機は、速やかにXG-70dが持ちこんだ補給コンテナから新しい弾倉を受け取った。
その間も人類軍全体の攻撃は、停滞しているわけではない。
F-3Iから成る第13中隊の残存7機が、次の広間につながる下降気味の横坑に待ち構えるBETA群に斬りこみをかけている。
「やっぱりこんな役回り!?」
素っ頓狂な声を上げながらも、空中の西迫杏少尉は迫る戦術機級の動きを見切っている。その頭部を左主腕で斬り落とし、続けざまに右主腕のスーパーカーボンブレードで敵の腰部を刺し貫いていた。間髪入れずに上方から降ってきた2体の戦車級を、流れるように斬り刻んでいる。
その眼下では続く第12中隊、第22中隊が押し寄せた増援の要撃級を連続砲撃で粉砕し、突撃級を飛び越えて一気に次の広間の入り口にまで取りついた。
(もう3個中隊で22機――)
F/A-14を駆る第22中隊の荒芝双葉少尉はシミュレーションよりも厳しい現実と、無数のBETAの双方と直面していたが、その一方で以前のような息苦しさは感じていなかった。人類勝利が懸かったこの一戦、始まってみればBETAに対する恐怖も、気がつけば脱落している戦友に対する悲しみも、ほとんど感じていない。
「さっさと終わらせる――!」
針みほ少尉や中野将利中尉、鈴木久実少尉を皮切りに多くの先輩衛士を殺されてきた牟田美紀少尉は、赫怒とともに広間へ飛びこもうとして、複数の戦術機級のインターセプトを受けた。
「牟田さん、無茶だって!」
左へ機体を急旋回させる牟田美紀少尉機――それに追随しようとして自らも急旋回のために速度を殺した戦術機級たちを、僚機の村野欣也少尉は速射で撃ち落とす。体液をぶちまけて落下していく羽虫。
「……やっぱ数、半端ねー」
その向こう側に、村野欣也少尉は広間全体を覆い尽くす突撃級と要撃級を見た。
「こちらイツマデ12。S-11を使います」
即座に横坑の底にへばりつく村野欣也少尉機と牟田美紀少尉機。
その頭上を1発の誘導弾が翔け――広間に進入した瞬間に炸裂した。
指向性を持った爆風が広間の表面を削りながら、大型種の群れを血煙と肉片に変えた。宙を舞っていた戦術機級もみな一様に壁面に叩きつけられ、粉々になっている。同時に生じた火球は、小型種を瞬く間に炭化させてしまった。
「イツマデ12、こちらイツマデ1。よくやった。
服部忠史大尉は言いながら、無意識のうちに渋い表情を浮かべている。
これで第12中隊の爆装機が持ちこんだS-11弾頭は終わりである。まだ第92戦術機甲連隊全体でみれば相当数が残っているが、深度4000mまで潜ることを考えると安心はできない。ハイヴ攻略戦や大規模な野戦に臨む帝国軍仕様の戦術機は、みなS-11を腰部装甲の下に搭載しているが、残念ながら第92戦術機甲連隊機は外国製戦術機が主であり、生残機=S-11弾頭の数とはならない。
数分で必要最低限の補給を終えた第92戦術機甲連隊機は米軍機、XG-70dとともに前進を開始した。速度としては、かなりのハイペースである。すでにオリジナルハイヴの構造は割れている。どちらかといえば、立ち塞がる敵群よりも、攻撃ルートの側道から出現するかもしれない増援の方が面倒であり、速やかな前進が優先された。
潜る、と一口に言ってもハイヴ坑内は曲がりくねっており、垂直に下りていけるわけではない。むしろときには上方へ進むこともある。衛士たちはときには計器で天地を確認しつつ、上方下方のBETAと渡り合う必要があった。
攻撃の陣頭に立って戦術機級や突撃級を撃退するのは第92戦術機甲連隊の役目だが、あまりにも多数のBETAがわだかまる広間に対しては、XG-70dが制圧のために前に出る形になっている。
人類軍は瞬く間に最大到達深度を更新し、気づけば深度2500mを超えて第57層にまで至っていた。
「エンジェルリーダー、こちらゼノサイダリーダー。そちらは大丈夫か?」
「こちらエンジェルリーダー。むしろ楽だ。こっちは後を付いて行っているようなものだからな。敵の追撃も緩い」
「エンジェルリーダー、こちらゼノサイダリーダー。了解した。まずそうならすぐに報せ」
「有難い、あのデカブツに斬りかかった君たちと一緒であることを神に感謝するよ」
殿は引き続き国連軍機が務めていた。
とはいえ単にXG-70dに続くのではなく、突破したあとの広間に残り、そこに接続されている複数の横坑から這い出してくる新手を追い落としたり、ときにはその横坑へ進入して攻防戦を繰り広げたりしている。
撃ち洩らしを掃討し、XG-70dを守っていた米軍機もまたそろそろ陽動ルートに入る頃合いであり、別行動を取り始めていた。
「ゼノサイダリーダー。こちらA-04」
途中、確保した広間で弾倉の補給を兼ねた小休止がとられたとき、櫻麻衣大尉機にXG-70dからの通信が入った。
「A-04、こちらゼノサイダリーダー。どうした」
「ここから二手に別れましょう――いま共有した基地司令部の最新のシミュレーションでは、俺たちがこのルート、92TSFRがこのルートを通った方が、作戦成功率が高くなってます」
櫻麻衣大尉は網膜に投影された立体的な内部構造のルートを見つめた。
一言でいえばよくわからない、というのが彼女の感想だった。
確かに先程の超重光線級のような想定外の事態を考えれば、一塊ではなく分派してあ号標的を目指した方が作戦成功の可能性が高まるかもしれない。
が、この一瞬で判断はつきかねた。
「我々がAルート、A-04がBルート。分派してあ号標的を狙う、か。戦力分散は愚、だと私は思うが」
櫻麻衣大尉はわざと回線をオープンチャンネルに切り替えている。
「たぶんBETAはこの凄乃皇の方に集まってきます」
「……」
「そうなればこっちのもん――92TSFRはあ号標的まで楽に到達できるはずです」
「
櫻麻衣大尉の問いかけに最も早く答えたのは、宇佐美誉大尉であった。
「我々の作戦目標のひとつにXG-70dの随伴・直援がある以上、XG-70dから離れた作戦行動は認められない」
意地悪そうに臙脂色の瞳を輝かせる彼女に追随して、第32中隊長・田所真一大尉も無言のまま頷いた。
「でも――」
それに反論しようとする白銀武少尉を、第22中隊長の大島将司大尉が制した。
「なぜそんな話が急に出てきたんだ? 最新のシミュレーションの結果とは言うが、俺たちはそれを聞いてないし、事前の想定が通用しないのはもう証明済みだ。だったら戦力を集中させて突破した方がいい。俺たちは君と一緒に行くぞ」
白銀武少尉は、一呼吸おいた。
……実際、最新のシミュレーションなど行われていない。
実は夕呼先生と示し合わせて、XG-70d以外の国連軍機・米軍機・92連隊機は地上に向かうルートに誘導することに決めていたのだ。純夏なら戦術機をハッキングし、また同時に戦域マップのデータやナビゲーションシステムを改ざんすることが可能である。実際、国連軍機と米軍機は地上に向かって前進を開始している。犠牲を最小限に留めるためだった。あ号標的に向かう途中にある隔壁などは、荷電粒子砲で吹き飛ばせる、という結論に至っていた。
しかしどう説得するべきか。
……そんな彼の軽い動揺が伝わったのだろう。
「二手に別れる? 貴様をひとりで行かせるかよ」
と、氏家義教大尉は軽く笑った。
「笑わせるな。俺たちがそばで守ってやる」
白銀武少尉はごまかして説得することを諦めた。
「……正直に言います。俺たちだけであ号標的を撃破するつもりです」
「私たちが足手まといになっているつもりはないが」
八倉世理子大尉も口を挟んだ。
彼女の発言のとおりである。国連軍機も引き連れての大所帯であっても、事前の計画と同等のスピードでこの地点まで来ることができている。ここで国連軍機・米軍機が離れても、前進速度が速まることこそあれど、遅くなることはないだろう。
F-2星青スーパー改から成る第21中隊の中隊長、
「A-04。もう遅い――」
服部忠史大尉はどちらかといえば困惑していた。
「もう俺の中隊から6名がやられている。一中隊長としては、いまさらここで引き返すことはできない」
おそらく彼の言葉が他の隊員の共通見解であっただろう。
数分後、若干のわだかまりを残しつつ、XG-70dと第92戦術機甲連隊はあ号標的ブロックに向け、前進を再開していた。