【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■125.鉄屑戦記。

「XG-70d・装甲連絡艇のビーコン信号を受信!」

「成功したか――それとも」

「監視衛星からの映像を回してちょうだい」

「……」

 

 香月夕呼やパウル・ラダビノッド准将が詰める作戦司令部に、緊張が走った。

 XG-70dの装甲連絡艇がオリジナルハイヴから飛び出した、ということは桜花作戦になにがしかの終止符が打たれた、ということだ。00ユニットと白銀武少尉、社霞少尉は作戦成功時、作戦失敗時、ともに装甲連絡艇で脱出することになっていた。つまり装甲連絡艇から発せられる信号を受信しただけでは、作戦の成否はわからない。

 

「監視衛星からの映像、出ます――」

 

 次の瞬間、誰もがモニターに釘づけになった。

 すでに重金属の粉塵は地表に降り積もり、オリジナルハイヴ直上の空は晴れ渡っている。そして地上では複数の門(ゲート)から這い出したBETAたちが、南北に――甲6号目標と甲13号目標の方向へ移動を開始していた。すぐにその姿は巻き上がった砂煙で隠されたが、彼らが近傍のハイヴに向けて疾駆しているのは間違いなかった。反応炉を喪失したBETAの帰巣行動――。

 

「……」

 

 香月夕呼はそれを数秒間眺めてから、左右に告げた。

 

「桜花作戦参加将兵に告げてちょうだい。カシュガルに葉桜見ゆ」

 

 おお、と作戦司令部が湧いた。

 “葉桜”。散りゆく桜花とともに、芽吹く新たな若葉。

 桜花作戦成功の符号であった。

 

 歓呼の声を上げたのは、香月夕呼の周囲だけではない。帝国軍参謀本部は勿論のこと、ユーラシア大陸外縁部に設置された陽動作戦司令部のスタッフから前線将兵に至るまで、作戦に携わった人類の過半が歓喜し、思い思いの声を上げた。

 

(……)

 

 そんな中でも香月夕呼は、眉間に皺を寄せたままモニターを眺めている。

 これは人類の最終勝利ではない。未だ地上には多くのハイヴが残っており、無数のBETAが太陽系を蚕食している。故にこれは時間稼ぎでしかない。

 加えて短期的にいえばBETAとの闘争ではなく、人類間の暗闘が激化することが予想された。それはすでに始まっている。米軍機はG元素製造プラントであるい号標的を確保している。おそらく米国戦略軌道軍はオリジナルハイヴからの撤退ではなく、資材を投下してオリジナルハイヴの一部に米軍基地と研究施設を建設しようとするだろう。

 対する国連、世界各国はどう出るか――。

 

「日本帝国本土防衛軍西部方面司令官閣下から電文です」

 

 香月夕呼の思考は、オペレーターの言葉によっていったん打ち切られた。

 

「“これより第92戦術機甲連隊に対する救援物資投下を開始する”とのこと」

 

 ……。

 

 帝国航空宇宙軍によるオリジナルハイヴ直上への補給物資投下が始まってから、ようやく西部方面司令官は安堵の息を吐き出した。

 勝利。待ち望んだ勝利。しかしその喜びは想像よりも遥かにちっぽけで、瞬く間に不安と恐怖に押しつぶされていく。

 ここからは“未知”が待っている。オリジナルハイヴを陥とし、直近のG弾大量使用だけは回避できた。が、未来もまたそうであるとは限らない。月や火星をはじめ、太陽系内に存在するハイヴに対してG弾使用による早期決着を図る形になってしまえば、元の木阿弥である。

 

 未だ西部方面司令官の戦いは――。

 

 否、第92戦術機甲連隊、日本帝国、人類の戦いは続いていく。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「だっるー……」

 

 櫻(さくら)智葉(ちは)は貸し切りバスから降りるなり、開口一番そう言った。

 実際、彼女は疲れている。本州から飛行機で種子島空港に渡り、そこからバスに乗り換えての移動。普段から長距離旅行に慣れているわけではない彼女にとっては、苦痛そのものであった。ずれかけていた銀縁の伊達メガネの位置を直す。

 

「沖縄じゃなくて種子島って……」

 

 彼女のぼやきに、周囲の友人たちも同調した。

 飛行機やバスを乗り継いでまで彼女たちが行く先は、戦争博物館である。テンションが上がっているのはもともと歴史が好きな友達や、銃とか戦車が出てくるゲームで遊んでいる男子くらいなものだ。

 人類統合体種子島宇宙基地に隣接している“旧国連航空宇宙博物館”――ガラス張りのやけに大きな建物は、彼女も見覚えがあった。教科書の片隅に載っているのだから当たり前である。とはいえどんなものがかざられているかについては、まったく記憶になかった。

 

「うわ、F-2じゃん!」

 

 いつも休み時間に戦争のゲームで遊んでいる男子が声を上げた。

 その視線の先――前庭には複数の支柱によって固定された青いロボットがかざられている。青い塗装は一部剥げかけているところもあり、またところどころ削られたようなあとも残っていた。そのまま櫻智葉ら一行は、ガイドや担任に引率されるまま青いロボットに近づいていき、ロボットの前に設けられたボードを順番に読んだ。

 

――戦術歩行戦闘機、か。

 

 櫻智葉は後日のレポートのため、いちおうメモをしておいた。

 

(……“戦術機”、“ベータ大戦”、っと)

 

 こうして言葉をメモしておいて、くわしいことはあとで調べればいい。

 教科書の太字になっているのでベータ大戦くらいは知っている。宇宙人との世界大戦だ。この前のテストでも「ベータ大戦に登場した新兵器として誤っているものを記号ですべて答えなさい」という問題が出て、原子爆弾を選んで失敗した覚えがある。

 

「櫻さん」

「おわ!」

 

 メモをとっているところで、櫻智葉は突然うしろから声をかけられた。

 

「……せんせー、おどろかさないでくださーい」

 

 相手は外見年齢16歳、老化防止処理で実年齢は三桁(らしい……)の担任である。

 櫻智葉は笑みを浮かべるとともに、思いつくままに聞いてみた。

 

「ベータ大戦ってすごい昔ですよね。そんとき先生、もしかして生きてました?」

「さすがに私も生まれたばかりだから、BETA大戦については詳しく知らないよ」

「生まれたばっか!?」

 

 周囲で驚きの声が上がる。

 が、それを大したこともない、と彼女はさらりと流して言葉を続けた。

 

「でもこのロボットに乗って、BETAっていう宇宙人と戦った人々のことは知ってる。みんなすごい人たちだったな」

 

「へーこんなんで宇宙人と……」

 

「こんなポンコツじゃなくて爆弾で吹っ飛ばせばよかったんじゃない?」

 

「たしかに」

 

 そんな会話を聞きながら、彼女は表情を緩ませていった。

 瞬間、爽やかな5月の風が吹いた。

 緑がかった黒い髪が、風になびく。

 

(閣下、大尉――鉄屑作戦は成功しました)

 







鉄屑戦記(完)
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