【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■13.F-14Nノラキャット(3)

 新月。どこか厳かな冷たい大気を切り裂いて、“睨み眼”が往く。

 

 純白の機体、青紺のセンサーアイ。

 92式多目的追加装甲と87式突撃砲を構え、周囲を警戒しながら主脚歩行で前進する。

 警戒するのは、遠距離からの砲撃だ。捜索範囲の差から、間違いなく先手はとられてしまうだろう、というのが彼らの予想。故に追加装甲等でまず敵の攻撃を凌ぐ腹積もりであった。逆にいえば82式瑞鶴の厚い装甲と追加装甲(盾)ならば、撃墜判定はそう簡単にとられない。

 相手の突撃砲が火蓋を切れば否が応でもその所在を暴露することになり、こちらも反撃が可能だ。防御力で優っている82式瑞鶴と、軽量化を図った第2世代戦術機のトムキャット――速度を緩めての長距離砲撃戦であれば、耐弾性の面で82式瑞鶴の方が敵機撃墜判定を取りやすいといえた。

 

「愛宕各機、こちら愛宕101。演習設定区域の都合上、そろそろ仕掛けてくるはずだ。稜線を見張れ」

「愛宕102了解」

「愛宕103了解」

「愛宕104了解」

 

 愛宕101――82式戦術歩行戦闘機瑞鶴を駆る斯衛軍試験小隊の衛士、上寺三省大尉は内心おかしいと思い始めている。ここ大矢野原演習場は96年の市民に対する退避勧告とともに拡張され、九州地方において最大級の広さを誇る。が、万事すべてに終わりがあるように、演習場のスペースも、一戦に設けられた時間も、限りがある。

 

「愛宕101、こちら愛宕102。連中はセンサーをばら撒いた有利な狙撃エリアを設けて、我々が接近するのを待っているのではないですか」

「愛宕102、愛宕101。確かに“鉄屑”でこの最新ブロックの瑞鶴に勝つならばそれしかなかろう。だが今回は――むっ」

 

 言いかけて上寺三省大尉は電子の瞳越し、夜空に異常を認めた。

「来るぞッ」

 稜線から4つの影が飛び出した。

 短噴射跳躍から噴射地表面滑走に流れるように移行。センサーアイが迸らせる金色の軌跡を残して、大型の機影が翔ける。その左右主腕には、87式突撃砲。一列横隊、8門並べての制圧射撃を瑞鶴から成る愛宕小隊に浴びせかける。

「慌てるな、この距離では当たらん」

 対する4機の瑞鶴は、地表面に92式多目的追加装甲を突き刺して遮蔽物とし、その場に踏みとどまって敵影を狙撃する。滑走間射撃を実施する相手方よりも、腰を据えて射撃するこちらの方が命中率の上で有利と踏んでの戦術だ。

 

「ブレイク」

 他方、肩口に犬の頭骨を描いた機影――F-14Nはバラバラに跳躍して、82式瑞鶴から放たれた砲弾を躱す。躱しながら各機が保持する突撃砲2門を撃ち続ける。完成する火網、十字砲火。たまらず後退する瑞鶴に、遮二無二エレメントを崩したままの狂犬が迫る。

「FOX0」

「了」

 長距離砲撃戦をかなぐり捨てて、瞬く間に彼我の距離を詰めてくるF-14Nを前に、動揺する斯衛軍衛士たち。そのF-14Nの背部兵装担架が小爆発を起こした。爆圧ボルトが稼働し、CIWS-2Aが跳ね上がる。

 対する4機の瑞鶴は近接戦闘への移行を妨害するために、“3機の”F-14Nに向けて弾幕を張った。

 

「待てッ、残り1機は!?」

 

 愛宕104を操る衛士が悲鳴のような叫びをあげるとともに、答え合わせが行われた。

 

「ゼノサイダ3、FOX0」

 

 警戒が疎かになりやすい、頭上からの強襲。

 新月と星々と夜空を背負い、大上段に構えたF-14Nが愛宕102・香弓彦中尉機に凶刃を振り下ろし、撃墜判定をとる。

 と、同時に着地したF-14N――ゼノサイダ3・日高大和中尉機は駆け出しながら、再びCIWS-2Aを振りかぶった。振り向く愛宕101・上寺三省大尉機目掛け、逆胴の一撃を繰り出そうとする。

「愛宕103、104、俺を援護するな!」

 と、怒鳴った上寺三省大尉は、すでに突撃砲を捨てている。必殺の斬撃を放つF-14N、ブレードマウントから74式長刀が引き抜く82式瑞鶴。後者が僅かに早く、腰部・胴部ユニットの接合部を狙った一撃は防がれる。

 そこからは両者、剣戟の応酬。

 3対4となった上寺三省大尉は数的不利を意識して、敵陣に斬り込んだ格好の日高大和中尉は位置的不利を意識して、周囲からの射撃を防ぐために目まぐるしく位置取りが変わる剣舞に臨んだ。

 

(投機的すぎる――)

 

 CIWS-2Aをさっさ棄てて後方へ跳躍し、狙撃戦に移行した鵜沢心菜中尉は心底そう思う。

 近接戦闘に長ける日高大和中尉を長刀のレンジに送り出すためだけにCIWS-2Aを抜いてみせる陽動――その場の勢いで採用される櫻麻衣大尉の戦術に、最新ブロックの試験を任された斯衛軍衛士は完全に翻弄されている。

「包囲殲滅陣」

「了」

 櫻麻衣大尉機とゼノサイダ4――渋井克典少尉機は副腕も合わせ全6門の突撃砲で制圧射撃を行い、愛宕103と愛宕104に回避運動を強いる。

 そして鵜沢心菜中尉は瑞鶴の機体性能と操縦癖が生み出す回避リズムを読み切り、トリガーを引いた。

 

◇◆◇

 

 4-0。

 4-0。

 82式戦術歩行戦闘機瑞鶴・最新ブロックの対戦術機想定試験のため、ということで斯衛軍の依頼が急遽舞いこみ、慣熟訓練にちょうどいい、と仮想敵となった第92戦術機甲連隊第11中隊は2度に亘る模擬戦闘において完勝を収めた。

「当然の結果です」

 と、櫻麻衣大尉は胸を張ったが、お通夜状態の斯衛軍技術関係者をみていると、少しは華をもたせてやったほうがよかったのではないか、と鵜沢心菜中尉は思った。なにせ手も足も出させなかったのだ。

 初戦は長距離砲撃戦を警戒するであろう瑞鶴隊に吶喊し、動揺のうちに日高大和中尉を斬りこませて4-3の状態を作り出し、続けて隊長機を日高大和中尉に拘束させることで勝利。

 2戦目は相手方がエレメント単位で行動し、36mm機関砲の間合いでのドッグファイトを仕掛けてきたが、最高速度で時速100km以上の差がある上、可変翼機構で旋回性能も劣らないF-14Nに追いすがるのは、瑞鶴では無謀にすぎた。

 要は機体性能においても敗北したというわけで、改良によって性能向上を図っても、純然たる第2世代戦術機とまともにやりあえば厳しい戦いを強いられるという結論になる。数的優位を作り出す、あるいは地の利を活かす格好でなければ勝ち目は薄いというわけだ。

 

(2戦目は手を抜け、と遠回しに伝えておいた方がよかったかな。あーでもあの“エース櫻”だから、遠回しに言っても全然伝わらなかっただろうな……)

 

 などと、演習場外れに設けられた幹部用の天幕で、第92戦術機甲連隊の作戦・訓練計画を取りまとめる園田勢治少佐が後悔していると、帝国斯衛軍大宰府基地・大宰権帥の黒月陣風少将が突然笑い出した。

「園田少佐、気にすることはない」

「はい。いや、しかしですね……」

「まあ体裁は悪いが、旧式機である瑞鶴や、中高生に毛が生えた子弟たちに投与する薬品に血道を上げる連中にはいい薬になるだろう。それに最精鋭の衛士と最も強力な戦術機を出してくれ、と頼んだのは斯衛軍の側だ。気にすることはない。むしろ感謝している」

 黒月陣風少将は痛快、痛快、と膝を打った。

 

 とはいえ、だ。

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊が、京都から遠征してきた斯衛軍試験小隊に完勝を収めたという話は、驚きと斯衛軍への侮りとともに広まった。西部方面司令官が骨を折って創設した第92戦術機甲連隊は当初、横流しされた殲撃八型や、欧米で用廃となった機体を掻き集めて恰好をつけていた。その頃のイメージが未だ中部方面隊や京都の斯衛軍関係者はもちろんのこと、西部方面隊でも強いからかもしれなかった。

 

「もしかして、いいように利用されたのかもしれない」

 

 西部方面司令部に呼び出されていた東敬一大佐は、八代基地に戻って事の次第を聞くなり、そう思った。

 現在、斯衛軍では次期主力戦術歩行戦闘機開発計画「飛鳥計画」が大詰めを迎えており、先行量産機が完成しつつあるという。組織というものは決して一枚岩ではいられない。城内省・斯衛軍の中に「飛鳥計画」をさらに加速させたい派閥があり、彼らが瑞鶴の限界を喧伝し、「飛鳥計画」にリソースをより割かせようとして今回の悪だくみが行われたのではないか――と想像を巡らせたが、なにぶん証拠があるわけでもなかった。

 

 それよりも次の作戦、である。

 

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