【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■15.1/100スケール 77式戦術歩行戦闘機F-4J撃震

「このたびは――」

「いや、そんな堅苦しいご挨拶は要りませんよ。どうぞおあがりください、お線香をあげていただければ幸いです」

「……」

「美知も喜びます。どうぞ」

 

 久しぶりに代休をまとめてとった第92戦術機甲連隊第2大隊第2中隊の雨田優太少尉は、広島県海田町にある中華料理店『藤井中華』を訪れていた。

 準備中の札がかかった引き戸の向こう側は、カウンター席とお座敷。

 そしてカウンター席の端には、F-4J戦術歩行戦闘機撃震の模型が飾られていた。肩部ユニットには、高等練習機であることを表すオレンジの塗装が施されている。そしてその隣には、F-8Eクルセーダー。塗装はグレーの帝国軍仕様。そして肩口には大剣をふりかぶる少女のエンブレムが、丹精な筆致で描きこまれている。

 

(親父さんの作、なのかな。そういえば、藤井も休みの日は残留組になってよく模型作ってたっけ。親父さん譲りってことか)

 

 その反対側の壁には、いくつかのペナントが飾られている。

 熊本城、阿蘇山、そして日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊のペナント。

 

(あれ、中隊費の足しにするために基地祭で売りさばいたやつだ)

 

 深紅のセンサーを輝かせた殲撃八型の装甲頭部モジュールと、92TSFRと大書したデザインはよく目を惹くので、飛ぶように売れたのを覚えていた。

 店内を横切り、2階へ上がる。そして奥の和室に、仏壇と骨壺を収めた白い箱があった。49日がまだなのでまだ遺骨は墓地に納められていないのか、といまさらながら雨田優太少尉は気づいた。

「葬儀には西部方面司令部の方や連隊長の東さんまで来ていただいて――」

 頭を下げる藤井美知少尉の父・藤井知男に、雨田優太少尉こそ恐縮しきりであった。

 

 仏前で手を合わせて去ろうとする雨田優太少尉は、娘を失った初老の男に「粗餐はいかがですか」と引き留められた。断るのも気が引けた彼は了承し、1階のカウンター席に招かれた。

 振る舞われたのは、炒飯であった。

 

「美知は料理の腕はからきし、でしてね」

「俺――いや私も、藤井少尉と基地祭で出店の手伝いをしたとき、思い知りましたよ。レシピじゃなくて、直感頼りでしたねあれは」

「ははは……」

 

 力なく笑う藤井美知少尉の父にかける言葉が見つからず、ただレンゲで炒飯をかきこみ続ける。

 数分、沈黙の時間があった。

 それから藤井知男が口を開いた。

 

「本望、だったでしょうね」

「……」

「道路の向かい側は海田市駐屯地で、美知が衛士やヘリのパイロットを夢見るのは当然といえば当然でした。夢をかなえることができたんですから。衛士として死ねたのですから」

「……」

「西部方面司令部の方は美知の最期について“最前線にて赫々たる戦果を挙げた後の御戦死”と仰ってくださりましたが――雨田さんは娘の分隊だったんですよね。実際はどうだったのですか」

 

 問われた雨田優太少尉は、迷いなく言った。

 

「わかりません」

「どういうことですか?」

「俺たちは光線級というBETAを排除するために敵中へ斬りこみをかけたんです。光線級は戦車さえも10秒程度で破壊してしまううえ、攻撃の命中率は100%に近いという強力な敵です。それが、高地に現れました。周囲には光線級を援護するBETAがたくさんいました。放っておけば、戦線は間違いなく崩壊していました」

「……」

「その光線級への突撃を敢行中に、藤井少尉は撃墜されました。要撃級という光線級を援護するBETAにやられたことになっています。が、あの混戦の中では、誰がどんな活躍をしたかなんて本当はわかりません。わからないんです」

「……」

「ですが、あの瞬間、藤井少尉がいなければ突撃は失敗し、戦線は崩壊し、多くの避難民がBETAに殺されていたかもしれません」

「……」

「とんでもないことを言います。藤井さんからすれば藤井少尉は娘かもしれませんが、あの場にいた将兵や、後方にいた避難民からすれば、間違いなく藤井少尉は英雄です。俺も、藤井少尉同様に死ぬまで戦うつもりです」

「そう、ですか」

「……すいません、なんかいろいろ偉そうに」

「いえ、ありがとうございました」

 

 頭を下げた藤井知男に、雨田優太少尉も軽く頭を下げ、ふたりで英雄の死を悼んだ。

 

 ……。

 

「あ、それから、ですね」

「なんでしょう」

「実は八代基地からまだ開封されていない模型がたくさんお送りいただきまして。たぶん、美知の私物だと思うのですが」

「ああ……。確かに藤井少尉は作りきれてなかったと思います」

「もしよろしければ、雨田さんに差し上げます」

「……お父様がお作りになっては?」

 

 嫌な予感がした。

 

「実は私、中華料理はともかく、工作はからきしで」

「じゃあ、これは」

「カウンターの模型は全部、美知が作ったものです」

「……」

「10箱以上あるみたいなのですが……」

 

 雨田優太少尉は溜息をついた。

 

「申し訳ありませんが後日、八代基地に私宛にお送りいただいてもよろしいでしょうか?」

 

――禁煙といい模型といい、本当に課題、宿題ばっかり残しやがる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「え、なにこれは」

 

 奇しくも同刻、コトブキヤから1/144スケールF-8Eクルセーダー(再販版)が30個も八代基地に届き、東敬一大佐を困惑させていた。

 

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