【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

19 / 125
■19. F-14Nノラキャット(8)

「ウィスキー、こちらHQ。風薫る、繰り返す風薫る――」

 

 1998年5月11日、甲20号目標鉄原ハイヴに対する漸減作戦『薫風作戦』が発動した。

 

 極超音速で突入するAL弾頭――朝鮮半島東海岸から鉄原ハイヴに至る一帯で無数のレーザーがこれを迎え撃ち、重金属雲が生み出される。その鈍色の雲を、補給コンテナを搭載した多目的再突入殻が突破し、次々と地表に到達した。

 

 それと同時に朝鮮半島東方沖に展開する連合艦隊の火力投射が始まった。

 商船に戦時改装を施したロケット砲艦が240mmロケット弾を斉射、それに対応するために地上側の光線級・重光線級は照射を繰り返し――照射時に吐き出される膨大な熱量と、本照射とともに発生する上昇気流が生み出すレーザークラウドによって、彼らの所在が暴露されていく。

 虚空で派手に爆散していくロケット弾。

 しかしながらそれは、光線級どもに対する“目くらまし”にすぎない。

 計算し尽くされたインターバルの隙を逃さず、日本帝国海軍のミサイル駆逐艦が放った艦対地ミサイルが殺到。

『金剛』が放った一弾が、重光線級の頭頂部に直撃するとそのまま胴体中央部にまで至って爆発し、爆風と肉片と破片がないまぜになった塊が周囲の光線級を薙ぎ倒し、『霧島』が連射した艦対地ミサイルが、空を仰ぐ光線級の頭上で炸裂し、爆圧で彼らを破裂させた。

 

「HQ、こちらハーミーズ131。潜望鏡深度偵察を実施する」

 

 そして潜航中の第7戦術機甲攻撃中隊のA-6J海神は、センサーを海上まで突出させ、臨海部の情報を収集――共同作戦司令部が設置された最上型重巡洋艦『三隈』に送信し、『三隈』は大和型戦艦『大和』・『武蔵』と情報を共有する。

 轟、と46センチ砲が吼えた。

 衝撃波が海面を圧し、地表面にへばりつく異形どもを挽肉に変える砲弾が撃ち出される。

 空の一角が、崩れた。

 空中で炸裂した榴散弾は無数の炎の矢となって要撃級を射殺し、戦車級の群れを蒸発させ、光線級を引き裂いていく。

 

「HQ、こちらハーミーズ131。銅湖海水浴場周辺に光線級なし」

「ハーミーズ131、こちらHQ。了解した。ハーミーズアルファ、ブラボーは、銅湖海水浴場に橋頭堡を確保せよ」

 

 帝国海軍戦術機輸送艦『大隅』――自機の座席に身体を預け、オープンチャンネルの交信に耳を澄ませていた櫻麻衣大尉は、そろそろ発艦頃合い、と思った。事前の打ち合わせでは、A-6Jから成るハーミーズ中隊が海岸線のBETA群を制圧するとともに、第92戦術機甲連隊第11中隊は一気に海上を翔け、そのまま戦闘加入することになっていた。

 

(うまくいきすぎている)

 

 と、歴戦の衛士である櫻麻衣大尉は思ったが、一方で

 

(あまりにも負け戦に慣れすぎたかな)

 

 とも自嘲した。

 人類側の企図するところがうまくいっている盤面が、想定外の地中侵攻やハイヴからの増援でひっくり返される、という経験が多すぎて、計算どおりに作戦が進んでいると不安になるのである。

 

 事態は櫻麻衣大尉の想像通りに運んだ。

 海面を割って現れた120mm滑腔砲が砂浜にわだかまるけばけばしい色彩の塊を吹き飛ばしたかと思うと、特撮映画の怪獣めいて鈍色の巨体が姿を現した。振り回す両腕には、左右併せて12門の36mmチェーンガン。生み出される弾幕、まさに鋼鉄の肉挽き機。

 そしてA-6J攻撃機は強力な制圧火力を有しているだけではない――先にも触れたとおり、彼らの電子の瞳は洋上の黒鉄と、地表を這いまわる存在を地形ごと削り取る巨大な艦砲に接続している。A-6Jの火力誘導。榴散弾が、ロケット弾が、艦対地ミサイルが、有力なBETA群を根こそぎ殲滅していく。

 

「ハーミーズ101、こちらゼノサイダ1。援護は必要なりや?」

「ゼノサイダ1、ハーミーズ101。射線に入らないように大暴れしてくれ!」

「ハーミーズ101、ゼノサイダ1了解。アルファ、ブラボー、突っこむぞ!」

「サクラ姐さん、こりゃシミュレーターと大違いだ!」

 

 事前の演習とは異なり、いきなり連隊規模のBETA群と会敵できた小清水仁中尉が快哉を叫ぶ。とともに、彼は2門の突撃砲を振り回しながらBETA群に吶喊し、それを包囲しようと旋回する要撃級を、日高大和中尉機が叩き斬った。

 蛮勇では決してない。機動力が皆無に近いA-6Jでは突撃級に狙われたり、要撃級に近接されたりすればもう一巻の終わりだ。だからこそ近接戦闘、砲撃能力、機動力のバランスが取れたF-14Nが積極的に前に出て、敵を惹きつけなければならないのである。

 この斬りこんだB小隊を援護するのが、櫻麻衣大尉が直卒する中衛のA小隊であり、菅井麗奈中尉は何やら悪態をつきながら、斬りこんだ4機に向かう要撃級たちを狙撃していった。

 

「ゼノサイダ1、こちらスピアー1。こっちの分も残しておけよ――各機ッ、ここは朝鮮だ、日本人どもに負けるなよ!」

 

 続いてスカイグレイの機体が、BETAの体液で赤く染まり始めた波打ち際に着地。36mm機関砲による弾幕を形成して、迫る戦車級の群れを破砕する。KF-16――韓国陸軍第51戦術機甲大隊機だ。

 その頭上を鵜沢心菜中尉が率いるC小隊が発射した92式多目的自律誘導弾が舞い、海岸線に押し寄せる戦車級や要撃級、突撃級の増援を焼き払う。この一撃で、BETA側に勢いは完全に失われた。橋頭堡は確保され、周辺の残敵掃討に移る。

 

「幸先のいいスタートだ、もう旅団規模のBETAどもが吹き飛んだぜ!」

 

 韓国軍衛士の歓喜に、櫻麻衣大尉はどうだろうと冷ややかに思った。戦闘は未だ始まったばかりだ。

 洋上から発進した無人偵察機が戦術機の頭上を飛び越し、砂浜の西側に連なる丘を迂回して、旧襄陽国際空港まで進出――闘士級・兵士級から成る小型種の群れを確認した。が、そこに光線級はいない。

 

「スピアー1、こちらHQ。旧襄陽国際空港と南側のゴルフリゾートを確保せよ。補給コンテナをそこに投下する」

「ゼノサイダ1、こちらHQ。旧襄陽市街地・襄陽ICを確保し、誘引作戦の準備を整えよ」

「HQ、こちらゼノサイダ1了解。ゼノサイダ各、聞いていたな。まずウェッジ・ワンで旧襄陽大橋まで進出する!」

「了」

 

 鉄原ハイヴへの進出路、その起点となる旧襄陽ICは旧市街地の南西端にある。

 その旧市街地から戦車級と要撃級を叩き出すのに、第11中隊は多少手こずった。120mm滑腔砲で廃墟ごと戦車級の群れを吹き飛ばし、旧市街地から這い出して迫る要撃級を躱して射殺する。

 

「いやー艦砲射撃のおかげでだいぶ楽させてもろたわ、櫻大尉こら楽勝かもしれへんで」

「そうだな――だがここからだ」

 

 周辺の地形をざっと見て、櫻麻衣大尉は以前、似たような風景・体験をした覚えがあると思った。

 

「ゼノサイダ1よりHQ、無人偵察機に雪岳山と点鳳山周辺を偵察させてほしい。いま稜線から光線級が顔を覗かせたら、一方的に撃ち下ろされる」

「HQ、了解。パイオニア611、パイオニア612を廻す」

「ゼノサイダチャーリーは雪岳山と点鳳山の麓から稜線を監視せよ」

「了」

 

 そう、ここからが本番だ。

 旧襄陽ICから鉄原ハイヴSE14に至るためには、ひたすら山間部を縫うルートを進むことになる。丘陵や山地は光線級の盾になるが、同時に光線級から見下ろされる危険性も孕んでいる。

 全滅も、容易にあり得るのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。