「HQ、こちらゼノサイダ1。A-01に対する援護命令を了解した。ワンワン・ジェノサイダーズはA-01の特殊任務終了までこの虫ケラどもを殺し尽くす。ジェノサイド、だ。それから」
櫻麻衣大尉は息を吐いた。
「A-01が特殊任務を終えると同時に12機揃って帰投し、貴様らを皆殺しにしてやるから覚悟しておけよ」
そんな彼女の言葉から、大虐殺が始まった。
肩部に犬の頭骨が描かれた野良猫どもが吼える。突出する前衛が半死半生の防壁を築き、後衛が放つ正確無比の射撃が次から次へ現れる要塞級を粉砕していく。
そして悠久の闘争を記憶する中隊長が、指揮を執る。
ここは照射を躱せぬ洋上か?――否!
ここは100km先から照射を受けるような無限の大平野か?――否!
ここは軍集団規模のBETA群が巣食うようなオリジナルハイヴ直上か?――否!
ならばここで負ける道理はない!
「ゼノサイダ7、8。旧史内体育公園に退いて補給を行え。燃料補給コンテナがある。ゼノサイダ3、4は、ゼノサイダ7、8の後退を援護せよ」
「了」
突撃級と要撃級の合間を縫って“目玉”の視線を切りながら前進し、光線級を射殺――流れるように迫る要撃級を斬り殺した2機のF-14Nが後方へ飛び退る。
その着地点へ殺到しようとする戦車級の群れが、一瞬で弾ける。
36mm機関砲の掃射――今度は弾雨を縫うように、2機のF-14Nは後退していく。
「ゼノサイダ10、オソ山斜面の要塞級が産み落としつつある光線級を排除せよ」
「了」
稜線の向こう側から姿を現し、斜面で要塞級が光線級を産み落とした瞬間、ゼノサイダ10――松葉晋太郎少尉機が支援突撃砲の照準を合わせる。
彼にとって1500mという距離は、短すぎた。
「スプラッシュ・レーザーワン」
放たれた36mm弾の弾道は低伸し、一撃で産み落とされたばかりの黄緑の塊を吹き飛ばした。
「スプラッシュ・レーザーツー」
放たれた36mm弾の弾道は低伸し、生成されたばかりの眼球を貫くばかりか、衝撃で上半身を吹き飛ばした。
「スプラッシュ・レーザースリー」
放たれた36mm弾の弾道は低伸し、できあがったばかりの光線級の両眼の合間に命中し、光線級を瞳のない脚が生えたゴミに変えた。
「スプラッシュ・レーザーフォー」
放たれた36mm弾の弾道は低伸し、一対の脚が生えて立ち上がらんとする光線級の腰を粉砕――目玉の化け物を上半身と下半身とに両断した。
「レーザー級排除完了」
「HQ、こちらゼノサイダ1。ファイアスカウト501、502による航空攻撃を要請する。進入経路および火力投射範囲は送信した」
「ゼノサイダ1。こちらHQ。受信した。ファイアスカウト501、502の攻撃開始まで約90秒」
櫻麻衣大尉は口の端を歪めた。
このワンワン・ジェノサイダーズはいま、まったくの孤立無援というわけではない。
彼らF-14Nとそれに食らいつかんとするBETA群の東方にそびえる土堡山と頭流山の影に待機していた2機の無人回転翼機ファイアスカウトが、56号線を時速200kmで突っこんでくる。その両脇に抱えられているのは誘導ロケット弾。2機併せて16発。わずか16発であっても第11中隊の衛士たちにとっては慈雨に等しい。
擱座した突撃級を迂回し、南西から突っこもうとしていた戦車級の群れが4、5発のロケット弾の炸裂とともに消し飛んだ。
F-14Nの頭上を翔け抜けたロケット弾が稜線を越えたばかりの要撃級の顔面に命中し、禿山の斜面を滑り落ちていく要撃級は後続の戦車級数体を巻き込み、衝角で圧し潰す。半死半生の突撃級を前に渋滞を起こしていた要撃級の群れのど真ん中に、数発のロケット弾が撃ちこまれ、彼らを一瞬で肉塊に変えていく。
「ゼノサイダ1。HQ。ファイアスカウト501、502の航空攻撃は終了。帰投させる――」
加えて櫻麻衣大尉らが受ける恩恵は、直接的な火力支援のみにあらず。数百メートル級から1000メートル級の山々が連なるこのエリアなら、航空偵察を可能とする無人回転翼機がF-14Nに敵後続群の情報をもたらしてくれる。
南西の石龍山をやっとのことで踏破してきた要撃級は、それを予期していたゼノサイダ11、ゼノサイダ12の長距離砲撃を浴びる。ロケット攻撃や長距離砲撃を潜り抜けた数少ない要撃級や戦車級の群れもまた、中衛を担うA小隊によって瞬く間に掃討されていく。
「自分、連隊規模か旅団規模かわからへんけど、一度にかかれるわけでもあらへん――楽勝や!」
菅井麗奈中尉は半ば強がり、半ば本気でそう叫んだ。
彼女の言うとおりだ、と櫻麻衣大尉は思う。周囲を取り巻く山岳と、擱座した要撃級や突撃級が障害となり、多勢のはずのBETA群の攻撃にばらつきが生じている。これだけ粘れるのは第11中隊の“人”の練度によるところだけではない。明らかに“地”の利がある。
そして最後――第11中隊に殺到するBETA群に、“天”からの一撃がもたらされた。
「マイク01からマイク32、着弾予定地点まであと10秒」
地形追随巡航機能によって山間部を縫うように飛行してきた純白の弾頭が、F-14Nの頭上に現れる。
瞬間、F-14Nと弾頭の間で、データリンクが完成。
ミサイル駆逐艦『金剛』・『霧島』からF-14Nに受け渡された艦対地ミサイル群は、亜音速でBETA群に突入した。直撃弾を浴びた要塞級が崩れ、その直下に居合わせた戦車級がすり潰される。虚空で炸裂した弾頭が小型種を薙ぎ倒し、破片が要撃級の背中に突き刺さる。爆風によって吹き飛ばされる戦車級の群れ――そして乱れたその敵群に、日高大和中尉の率いるB小隊が斬りこみをかける。
可変翼がもたらす自在の戦闘機動。
CIWS-2Aを逆手に持ち直した日高大和中尉機は、突撃級をすれ違いざまに斃し、要撃級の感覚器を刺突で破壊し、顔面に刃を突き立てて殺す。
それに追随する小清水仁中尉機が、長刀と突撃砲を振るって彼の退路を守る。
さらに側面にわだかまる戦車級の群れが、櫻麻衣大尉機の掃射によって溶けていく。
「C小隊は史内面の稜線を見張れ。そろそろ重光線級が上がってきてもおかしくない」
「ゼノサイダ1、こちらゼノサイダ9。了」
無我夢中の死闘の中、C小隊を率いる鵜沢心菜中尉の櫻大尉に対する不信感も溶けてなくなっていた。