【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■25.殲撃八型(3)

 横殴りの暴風雨――水滴を蒸発させながら伸びる十数本の光芒が227mmロケット弾を次々と撃ち落としていく。生残する数十発のロケット弾は猛烈な横風に流され、半数以上が放置されたままの畑地を吹き飛ばした。泥土の柱が立ち上がり、泥の雨が降り注ぐ。その中を前進してきた戦車級の群れを、紅の82式瑞鶴が突撃砲の掃射で粉々に破壊していく。

 

「こちらは大宰権帥の黒月陣風である。多連装噴進砲による砲撃支援を即刻停止されたし」

 

 装甲を纏って戦場に姿を現したカイゼル髭の男は、泰然自若――弾倉を交換すると戦車級の死骸を踏みつけて迫る要撃級を射殺した。

 その脇に噴進剤を補給して戻ってきた黄の瑞鶴が並び立つ。

 

「少将閣下、お下がりください」

「田上くん、君こそ下がりたまえ。婚約者が都にいるのだろう」

「お戯れをッ!」

「その意気よ――大野101より大野各機。西部方面戦車隊が北方から、92連隊12中隊が南方から突撃をかけるようだ。我々は西部方面戦車隊の側面を守る!」

「応ッ!」

 

 泥土に塗れた純白の瑞鶴が延翼を試みる戦車級、要撃級の群れを叩き、血肉の海を翔けていく。

 その西側の畑地を破壊しながら進出した87式自走高射機関砲や74式戦車は機関砲弾やキャニスター弾で小型種の群れを制圧――さらに64式対戦車誘導弾を背負った60式装甲車が現れ、瀕死の要撃級が邪魔になってまごついている突撃級目掛けてミサイル攻撃をかけた。

 

「風が強すぎる、姿勢保持に注意しろ!」

 

 74式戦車の車体後部や60式装甲車上部にタンクデサントしていた機械化装甲歩兵たちが降車し、より西方に広がる市街地から現れるかもしれない戦車級に対する警戒に就く。

 

「演習がなんでこんなことに」

 

 西部方面戦車隊の最先頭を往く74式戦車。その薄暗い車内で装填手の清水達也伍長は105mm弾を持ち上げる。外の戦況など、彼にはわからない。自身の生命を同じ車輌の仲間と、僚車と、部隊に預け、自分の仕事をこなすしかない。

 戦車隊の戦列を引き裂こうとした突撃級が105mmライフル砲の集中射を浴びて擱座する。その頭上に155mm榴弾が現れ――爆散する。橙の爆炎によって煌々と照らし出される戦車隊。風に流された2発の榴弾が74式戦車から成る1個小隊の頭上で炸裂し、残る9発は戦車級の群れを吹き飛ばし、要撃級に破片を浴びせて半死半生の状態に追いやった。

 

「無事か!?」「損害は軽微!」

 

 装甲化された74式戦車は榴弾の破片と爆風に耐えた。1輌の74式戦車が、リモコン式の重機関銃やアンテナに損傷を受けた程度。

 その次の瞬間、2本のスポットライトが74式戦車に向けられる。

 生身の人間が熱傷を負う“程度”の強さ。いまは、まだ。

 光線級の、予備照射。

 

「照射警報ッ」

「アジサイ21と22、回避運動を――!」

「必要ないですよ」

 

 その2km南方で、黒い暴風が吹き荒れた。無防備を晒す光線級の背中を蹴り飛ばし、予備照射を切って旋回する緑色の色彩を36mm機関砲弾の斉射でズタズタに引き裂く。

 

「牟田少尉、援護してください」

 

 急旋回して殴りかかってきた要撃級の衝角を後方短噴射で躱した針みほ少尉機は、36mm機関砲弾で前面の敵を破壊したが、後方にわだかまる数体の戦車級に対処する時間はない。遅れてやってきた牟田美紀少尉は36mm機関砲弾をその戦車級の群れへばら撒き、辛うじて全滅させた。

 

「イツマデ、こちらヤマザクラ01! 突撃級と光線級をやってくれ! あとは戦車隊(われわれ)がやる!」

「了解ッ」

 

 センサーの赤光を曳きながら、殲撃八型が敵群をかち割った。前衛を担うB小隊はラウンドバックラーと74式長刀を振り回して要撃級を殴り殺し、緩旋回に移行した突撃級の背中に刃を突き立てる。

 大陸製の戦術機は、日本帝国同様に――否、“ようやく”本土決戦が始まったばかりの日本帝国以上に――密集戦闘を重視してきた。その威力を、いま発揮する。泥濘と血肉に足をとられることもなく、彼らは死の舞踏を踊る。爆発反応装甲が作動して要撃級の死骸の向こう側から飛びかかった戦車級が四散し、BETAの間隙を衝いてC小隊機が光線級を射殺していく。

 そして、退く。

 それとともに重迫撃砲と榴弾砲による鉄火が降り注いだ。

 

「え」

 

 必死の思いで死闘に臨んでいた牟田美紀少尉は、そこで初めて気づく。

 BETA群から脱した青いマーカーは、9つしかない。

 着地した牟田美紀少尉機は緩慢に姿勢を整える。

 その様子を横目で見ていた針みほ少尉が声を上げた。

 

「牟田少尉! しっかりしてください。すぐに生き残りの要撃級が来ますよ!」

 

 その遥か北方――福岡市では、洋上で分派したとおぼしきBETA群が押し寄せていた。

 民間船舶は当然のことながら、駆逐艦や揚陸艦に補給が行える博多湾・博多港周辺に機雷を敷設するわけにもいかず、彼らはほとんど無傷のまま福岡市西区に着上陸を果たしつつあった。

 海浜公園に続々と姿を現す大型種・中型種の群れに対し、日本帝国本土防衛軍西部方面隊第23師団は猛烈な攻撃を加え始めた。内陸に展開した96式多目的誘導弾を斉射し、機械化装甲歩兵から成る第64歩兵連隊が対戦車戦闘に打って出る。

 浜辺の突撃級へ殺到する96式多目的誘導弾。突撃級を確実に死へ至らしめるトップアタック。ただし3割程度は強い横風を受けて突撃級の背中ではなく、その脇に居合わせた要撃級や戦車級の群れに突入するか、大きく逸れて何もない砂浜に突き刺さった。

 要塞級の頭部が海面を割り、続けて肩部が現れる。その2秒後、1発の多目的誘導弾が彼の肩部に直撃した。生体装甲をぶち破り、内部で炸裂する。が、要塞級は僅かに身じろぎしただけで、緩慢に前進を続けた。

 

「ダメだ――水際で殺し切れない!」

 

 福岡空港周辺に展開した第23師団第17砲兵連隊の58式155mm榴弾砲が火を噴き始め、浜辺へ揚がったばかりの硬直する戦車級の群れや要撃級、突撃級を殺戮する。が、殺すペースよりも海面を割って現れるBETAの個体数の方が、そして順応を終えて動き出すBETAの個体数の方が多い。

 海水を垂れ流しながら、豪雨に打たれながら、浜辺に乗り上げた要塞級は黄緑の液体をひねりだす。

 

「照射警報ッ――!」

 

 海面から頭を出した巨大な目玉。

 浜辺に誕生した多くの目玉、目玉、目玉。

 そのすべてが発光し、誘導弾が爆散する。前衛集団の間隙を衝いた照射が機械化装甲歩兵を呑みこみ、60式装甲車を貫いた。プラズマが吹き荒れ、歩兵連隊の無線通信が乱れる。衝撃波が木々を薙ぎ倒したかと思えば、大熱量に晒された枝葉が燃え始めた。

 そして突撃級の吶喊が第64歩兵連隊の陣地と、福岡市街地をぶち破った。

 が、反撃も早い。第23師団第72歩兵連隊の機械化強化歩兵たちは、無防備な背中を晒す突撃級に対戦車ロケットや無反動砲を浴びせて次々と撃破し、市街地への浸透を試みる戦車級に機関銃弾を浴びせかける。

 

「ドラグン21、FOX2」

 

 そして暴風雨の夜を、青い眼光が引き裂いた。主脚走行で国道202号線沿いを西走してきた第4師団・第4戦術機甲連隊第412中隊――12機の94式戦術歩行戦闘機不知火が、ようやく戦闘加入を果たした。

 

「各機、ビル風に注意しろッ」

 

 大通りを驀進してきた数体の要撃級が36mm機関砲弾を浴びて肉片となる。と、同時に風に流された機関砲弾が雑居ビルの上部に直撃し、外壁や看板の一部を吹き飛ばした。小学校の校舎に掴まり、屋上まで登り切った戦車級を36mm機関砲弾が擦過し、その脚をへし折る。戦車級が浸透した森林公園に次々と120mmキャニスター弾が撃ちこまれ、無数の鋼球が戦車級と木々をぶち破っていく。

 ビルの合間で吹き荒れる突風が闘士級を転倒させ、不知火の上体を煽る。

 155mm榴弾砲と迫撃砲の連射が始まり、それに対抗するように重光線級、光線級が迎撃照射を放つ。と、その直後、96式多目的誘導弾が光線級の頭上に姿を現し、無防備な彼らの瞳へダイブした。

 激しい砲爆撃をくぐり抜けた突撃級が住宅街を突破し、ビルをぶち破って最前衛の不知火に吶喊する。迫る突撃級に気づいた不知火は跳躍してこれを躱す。が、激しい横風に煽られて着地に失敗――偶然その場に居合わせた要撃級の前腕の餌食となった。

 

「日野中尉ッ!」

「くそ、滅茶苦茶だッ――姿勢を制御するだけで精一杯だ!」

「愛宕大橋前ッ、要塞級2が揚がってくるぞ! B小隊、阻止しろ!」

「福岡タワー前、要塞級が光線級を産み落とした。光線級6!」

 

 死闘は、始まった。

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