「MLRSによる支援砲撃、30秒後!」
「小学校方向ッ、突撃級2!」
「C小隊、先に駐車場の戦車級を阻止しろ!」
「ウォーリア5、6! ハンガー前の要塞級を撃破せよ!」
「くそったれ、簡単にいってくれる!」
同時刻、激戦が繰り広げられていたのは北九州市と福岡市の合間にある芦屋町――日本帝国本土防衛軍芦屋基地であった。芦屋基地の敷地北辺は海岸線から300メートルも離れておらず、混乱の中で突如として上陸したBETA群と即座に攻防戦を繰り広げることとなった。
要塞級が産み落としたのであろう光線級や、芦屋海水浴場に巨大な目玉を現した重光線級が空中へ破壊光線を放つ。その標的とならなかった227mmロケット弾が、芦屋港や芦屋基地の北東に広がる芦屋市街地を焼き払う。
「HQ、こちらウォーリア1だ! いまの支援砲撃はほとんど東に流されている! 効果なし! それからMLRSによる支援砲撃はやめてくれ、南に流れたら俺たちは全滅する!」
「ウォーリア1、こちらHQ。了解した。別手段による支援砲撃が可能か検討する」
煌々と東の空が明るくなる中、第37戦術機甲部隊の94式戦術歩行戦闘機不知火約10機と、第227歩兵連隊は芦屋基地に侵入を続けるBETA群に対して抵抗を続けていた。
すでに芦屋基地の北部にある駐車場、滑走路北端、駐機場はBETAの死骸が積み上がっており、その上に要撃級や戦車級、小型種が殺到している。次々に36mm機関砲弾や歩兵連隊の擁する迫撃砲弾が死骸と彼らを一緒くたに吹き飛ばしているような状態だが、彼らの勢いはとどまることを知らなかった。
「要塞級を殺れッ!」
87式対戦車誘導弾が肩部に直撃したにもかかわらず、平然と死骸を蹴り飛ばしながら駐機場に足を踏み入れる要塞級。
2機の不知火が衝角の届く範囲外から120mm徹甲弾を胴部に浴びせ、ようやくその巨体は前のめりに崩れ落ちる。が、分厚い生体装甲に覆われた要塞級は死してなおBETA側に有利な遮蔽物として機能する。
要塞級の死骸の影から戦車級と要撃級の群れが現れ、滑走路南方に広がる防空陣地を転用した第227歩兵連隊の陣地に迫る。
「ウォーリア3、キャニスター! FOX2!」
迫撃砲や対戦車ミサイルが配されている歩兵陣地に戦車級や小型種を近づけまいと、1機の不知火が120mmキャニスター弾を連射し、機械化強化歩兵たちも重機関銃や擲弾銃で闘士級や戦車級を排除する。
その右翼にあたる芦屋基地内の隊員用自動車教習場では、61式戦車がじりじりと後退を続けながら発砲を繰り返していた。第37戦車大隊――二線級の第37師団に所属する戦車部隊である。
丸みを帯びた砲塔に、対レーザー加工がなされた楔形増加装甲を纏う61式戦車は、90mm戦車砲で以て芦屋基地防衛戦にあたっていたが、対BETA戦をまったく想定していない基本設計が祟り、すでに第37戦車大隊は10輌以上を失っていた。
「次波来るぞ、戦車級100!」
「遠賀01よりウォーリア1、教習場を放棄したい!」
回転翼機・戦術機用ハンガーを乗り越え、あるいはその中から湧き出した戦車級の群れが滑走路を横断し、教習場に雪崩れこんでくるとともに第37戦車大隊は、白兵戦はかくやという状況に陥った。
「遠賀06が戦車級に取りつかれている、遠賀05が援護しろ!」
「無理だ! こっちももう鼻先まで戦車級どもが――!」
「随伴はもう俺たちだけか……全員抜刀!」
90mmキャニスター弾と砲塔上の12.7mm重機関銃が赤い奔流を砕くが、生まれた空隙を埋めるようにまた新手が現れる。1輌、また1輌と戦車級に砲塔をむしられ、あるいは要撃級の横殴りの一撃に吹き飛ばされていく。直協のために廻されていた随伴歩兵たちも自身を守るだけで精一杯であり、白刃煌めかせて迫る戦車級と殺し合うのが精一杯であった。
第37戦術機甲部隊の後衛を担うC小隊が突撃砲で援護を開始するが、あまりにも数が多すぎる。
「こちらHQ。現時刻を以て、芦屋基地を放棄。第37戦車隊は遠賀総合運動公園まで後退。その後、第227歩兵連隊は旧ボートレース場へ後退。第37戦術機甲部隊は両隊の後退を支援し、最後に旧ボートレース場へ後退する」
やむをえず司令部は、芦屋基地の放棄を決定した。
すでに基地機能の過半が要塞級から戦車級まで多数のBETAに蹂躙されている以上、芦屋基地に拘泥しても仕方がない。戦力を大きく減じながら守備部隊が後退を終えた直後、強襲上陸ゆえに未だ少数にすぎない光線級の迎撃網を押し切るMLRSと155mm榴弾砲の面制圧が、芦屋基地と周辺市街地ごと異形を破砕した。
「よし、よしッ――!」
帝国軍参謀本部の作戦参謀たちは無意識のうちに拳を握りしめて、喜びを発散させていた。
日本帝国本土防衛軍西部方面隊の九州北部戦線――通称“防人ライン”は、着上陸したBETA群の内陸部への進出を阻止していた。
その中核を担うのは、1970年代から戦術機甲師団として整備されてきた第4・第8師団。本土決戦を見据えて90年代に新設された機械化歩兵から成る第23・第37師団と協同し、師団規模のBETA群に対して優勢を保っていた。
福岡県南部への地中侵攻は“鎮西98”と災害派遣のために展開を終えていた西部方面戦車連隊と第92戦術機甲連隊第12中隊、そして帝国斯衛軍大宰府基地から出撃した大宰府警備隊によって退けられ、最後には第5地対地ロケット連隊の砲撃によって殲滅された。
「本土防衛軍西部方面隊は机上演習よりも速やかに反撃作戦に移行。上陸したBETA群は6時間以内の殲滅に成功する見込み」
政治・経済・国防の中心となっている京都および東京は、狂喜した。
「西部方面司令部に全兵力を以てBETA群を殲滅するように命じましょう! それで朝にはケリがつく!」
この日ばかりは、西部方面隊司令部を快く思っていない帝国軍参謀本部の将官・佐官も手放しに西部方面隊を称えたであろう。師団規模のBETA群が九州北部の広い範囲に着上陸するという事態に容易く対処してみせた彼らに、「これまで日本帝国と帝国軍が積み上げてきた施策は正しかった」という一種の勇気をもらったというのもある。
実際、この段階において西部方面隊司令部が苦戦していたのは、BETA群に対してではなく極めて遅い速度で進む超大型台風に対して、であった。
砲撃精度の低下から始まった西部方面隊に対する“デバフ”は、土砂災害による熊本県・宮崎県を結ぶ国道218号線の不通や、市街地への散発的なダウンバースト、竜巻による部隊移動阻害など、徐々に顕在化してきていた。
「九州北部・中部の避難が完了していてよかったな……」
帝国斯衛軍大宰府警備隊が接収していた築日高校の職員室兼事務室でラジオを聞いていた服部忠史大尉は、心の底からそう思った。避難民がいないからこそ、西部方面隊は集中して敵と戦える。この暴風雨の中、避難誘導に輸送力を割きながら戦うなど考えたくない悪夢であった。
非常用電源が使えるため、明るい事務室。
職員用の革張りの回転椅子に座ってぼうっとする牟田美紀少尉に、針みほ少尉が缶を差し出した。
「コーヒー、飲みます?」
「……要らないです」
「もしかして紅茶党でしたか」
「いえ、針さん……」
牟田美紀少尉は蛍光灯を見上げていた。
BETA九州上陸の第一報と、西部方面隊の勇戦と損害軽微である旨を伝えるラジオの声が遠い。損害軽微。大局を見れば、そのとおりなのだろう。第92戦術機甲連隊第12中隊も未だ3機しか損失機を出していない。
イツマデ7・小林和也少尉。
イツマデ8・豊田速人少尉。
イツマデ10・斎藤好江少尉。
前衛を張るB小隊から2名、後衛のC小隊から1名――3名とも新人である牟田美紀少尉に心遣いをしてくれた先輩ばかりであった。乱戦の中とはいえ、誰にも気づかれないまま行方不明になる。目の前で撃墜されるよりも遥かに衝撃的だった。
本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊第12中隊、帝国斯衛軍大宰府警備隊の戦術機が帝国斯衛軍大宰府基地にて簡易修理と燃料・弾薬補給を受けている間に、彼らを追い抜く形で西部方面隊第92戦術機甲連隊第13中隊のF-4EJ改を搭載したトレーラーが北上していった。
彼らが目指すのは、戦術機甲部隊の補給拠点であると同時に砲兵陣地にもなっている福岡空港である。