自身の火力ではなく、機動で翻弄し、砲迫で叩き潰す。
装甲で敵の打撃を受け止めるのではなく、機動力で回避する。
そんな現代の戦場に、いま火力と装甲の発達を競った前時代の遺物が咆哮する。
――堅牢な突撃級と要塞級を、真正面から撃破する。
開発コンセプトどおり。
F-4UKの背負う砲塔が爆炎を吐くとともに、突撃級の生体正面装甲が粉砕され、小隊集中射で要塞級が崩れ落ちていく。8門の36mm機関砲は、要撃級と戦車級の大海をかち割った。F-4UKが海岸線に布陣した主力戦車ならば、BETAは海から這い上がる歩兵ども。銃火器をもたない上陸したての歩兵が、主力戦車に勝てる道理はない。
「ラビット各、こっからだぞ! 最優先目標は光線級、続いて突撃級!」
「了解!」
声を張り上げながら、ラビット2――平林雅弘少尉は戦車級の群れの中に現れた巨大な瞳を見落とさなかった。
その2秒後、平林雅弘少尉機が放った砲弾は衝撃波で戦車級を薙ぎ倒し、光線級の下半身を吹き飛ばした。残る上半身もまた宙を舞い、後続の突撃級に激突して水風船のように破裂している。
「スプラッシュ・レーザーワン! くそっ……スプラッシュ・レーザーツー!」
真正面からの殴り合い、火力と装甲の鍔迫り合い。
この戦場においてF-4UKの脅威となるのは、火力で優る光線級と、装甲で優る突撃級。
異形の海、その間隙から伸びてくる予備照射が夜闇を引き裂き、無数の曳光弾がその源に殺到する。
「ラビット7、キャニスター!」
「ラビット8、キャニスター!」
「ラビット1、こちらHQ。30秒後に支援砲撃、同時にエアカメラ01、エアカメラ2を進出させる」
「こちらラビット1! 聞いてたな! 光線級の炙り出しだ!」
西部方面戦車連隊の自走砲が火を噴くとともに、海岸線から約30の閃光が伸びる。途端に、噴き上がる蒸気。光線級が発する莫大な熱が海水を蒸発させ、大気を焦がし、レーザークラウドが発達していく。と同時に、F-4UKの影に隠れていた無人回転偵察機が飛び上がり、光線級の位置を西部方面戦車連隊の自走砲部隊とF-4UKに情報連接する。
(光線級はまだ海面に頭を出したばかりか)
F-4UKから成る第33中隊をまとめる五十嵐良則大尉は、網膜に投影された光線級予想位置を確認しつつ、「B・C小隊は行進間射撃を継続しながら、指定座標まで後退」と指示を出した。前衛の突撃級や要撃級の後背にいる光線級を直射で殲滅することは難しい。が、一方で光線級の側も突撃級や要撃級が邪魔になり、こちらを視界に収めることは困難だ。
「ラビット、こちらHQ!
「HQ、こちらラビット1。了解した。各、コケてナナヨン潰すなよ!」
無限軌道の音を轟かせ、戦車砲を連射しながら現れる74式戦車――爆発反応装甲を纏い、リモート式重機関銃と新型徹甲弾を配したG型が現れるとともに、F-4UKは後退を開始する。と、同時に背負った120mm滑腔砲の砲口が持ち上がり、曲射モードに移行する。
「ラビット1、こちらHQ。マイク・アルファとデータ連接」
「HQ、ラビット1了解。データ連接を確認」
「ラビット1、マイク・アルファ到着は60秒後」
「HQ、ラビット1了解。ラビット各、30秒後に全力射撃!」
不格好な自走砲となったF-4UKの120mm砲が火を噴く。隙だらけの弾道を描く榴弾。BETAに埋め尽くされた海から次々と光芒が走り、F-4UKが放った砲弾は空中で蒸発していく。戦果挙がらぬ攻撃。新たに生成されるレーザークラウド。
その水蒸気の塊を、冷徹な電子の瞳が捉えた。
第5地対地ロケット連隊が放った88式地対地誘導弾は、センサー・情報処理機能の塊である戦術機からの誘導を受け、光線級の頭上に姿を現した。
感情なき光線級・重光線級が88式地対地誘導弾の弾頭に視線を遣る――が、照射は始まらない。
彼らは十数秒前にF-4UKが放った榴弾を迎撃したばかりであった。
――故に88式地対地誘導弾は、ほとんど抵抗を受けないまま彼らの直上で炸裂した。
「正気じゃねえ――」
その北方、八代市と境を接する八代郡竜北町では、着上陸した異形の海目掛けて12機の軽戦術機が吶喊していた。噴射地表面滑走。無数の曳光弾とともに、長剣を抜刀したフランス・ダッスオー社製戦術機シュペルエタンダールが、文字通りに地を這い、北上せんとしていたBETA群の後背――要撃級と要塞級、そして重光線級から成る後衛集団に、南方から斬りこみを敢行する。
中衛を担う保科龍成少尉の網膜が、重光線級が放つ予備照射の光芒を映す。と同時に、肩部にファンシーな蜜蜂の絵をあしらった軽戦術機たちは、左右に姿勢を大きく傾けながら散開する。頭頂部のセンサーマストは、飾りではない。敵の布陣を高速で捕捉・分析し、光線級の死角に衛士を素早く誘導する。
それでも前衛小隊の1機は躱しきれなかった。主力戦車を溶解せしめ、主力戦艦の装甲にさえダメージを与える本照射が、シュペルエタンダールを掠る――と同時に大気がプラズマ化し、生じた衝撃波で鋼鉄の塊は体勢を崩して転倒。次の瞬間には本照射を真正面から浴びて大破炎上していた。
「正気で戦争ができるか」
その火焔曳く残骸を飛び越えた井伊万里中尉機は、行進間射撃で重光線級の脚部を破壊し、また別の重光線級の瞳に120mm徹甲弾を叩きこんでいく。そのまま前衛小隊が3機がかりで要塞級を撃破したことでこじ開けられた空間に飛びこみ、BETAとの乱戦にもつれこむ。
僚機である保科龍成少尉もまたそれに追随する。といっても回避するのが精一杯。予備照射を要塞級の影で躱し、戦車級の群れを避け、立ち塞がる要撃級を突撃砲で何とか撃退する。
「ミツバチ各機! 奴ら食いついた、中衛・前衛集団が戻ってくるぞ! 後退!」
比較的後方で指揮を執っていた田所真一大尉が叫ぶとともに、井伊万里中尉機は接近戦を挑んでくる要撃級を鎧袖一触に斬殺し、要塞級の衝角を跳躍で躱しながらBETA群を脱する。
保科龍成少尉もそれに便乗しようとしたが、そうもいかなかった。
「待って、置いていかないで――ッ!」
「理央ッ、こっちだ! 俺の――ミツバチ6の方向に跳べッ!」
僚機を見失った状態で前方から戦車級、後方から要撃級が迫っていた若狭理央少尉機を認めるや否や、保科龍成少尉は機首を転じて36mm機関砲弾で要撃級を排除し、彼女の周囲に走りこむ戦車級を120mmキャニスター弾で吹き飛ばした。
そこに厳格な叱責の声が飛んだ。
「ミツバチ6、何をしているッ」
「井伊小隊長、見りゃわかんでしょ!」
「阿呆ッ――」
言うが早いか。
踵を返した井伊万里中尉機が、騎兵が如く猛然と再突入。保科龍成少尉が生み出した空隙を一気に広げ、過入力で硬直状態になっていた若狭理央少尉機の近傍にまで達した。
「若狭理央少尉ッ、私だ! ついてこい!」
3機が退き始めると同時に、田所真一大尉率いる後衛小隊が援護射撃を開始する。
ところが反転・南下してきた中衛・前衛集団の勢いは、ほとんど衰えない。
背面へ連続射撃しながら逃走する3機に、異形の怪物どもは食らいつかんと追い縋る。
(それでいい)
危機にある部下を網膜で捉えながら、田所真一大尉は薄く笑っていた。
企図したとおりであった。F-4UKや西部方面戦車連隊の布陣するエリアから外れた地点に上陸したBETA群を攻撃し、北上を阻止――むしろ南下させ、八代平野に連中を留めることで、福岡県内に布陣する一線級師団の後背を守る。これこそが第32中隊が無謀な吶喊を仕掛けた理由であった。
田所真一大尉は中隊内ステータスを一瞥し、被撃墜機が4機出ていることを確認すると、溜息ひとつ漏らさず西部方面戦車連隊所属の自走砲に支援砲撃を要請した。
こうした戦況を把握していた八代基地の東敬一大佐もまた、自身が狂気の只中にいることに気づいていた。
「第3梯団のBETA群をこの八代に惹きつける」
「たとえ第92戦術機甲連隊と八代基地が全滅したとしても、第3梯団を釘づけにし、北方に展開する第4師団・第8師団が二正面作戦に対応する時間を稼ぐことができれば我々の勝ちだ」
「いま九州戦線の存亡は、我々に懸かっている」
基地の防衛ではなく、着上陸したBETA群への攻撃と足止めのために八代基地はみなことごとく武装することとなった。後方職種とて例外ではなかった。
(自らこの八代を死地とするとは)
東敬一大佐は心中で自嘲したが、大局を思えばこうするほかないこともわかっていた。