【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■34.F-4EJ改(2)

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊の東敬一大佐は、八代基地と健軍基地を繋ぐ直通電話で西部方面司令官に中国・四国方面作戦の救援を意見具申したが、対する西部方面司令官はこれを一蹴した。

 その余裕がない。

 端的にまとめれば、その一言に尽きる。

 事実、状況は楽観視できるものではなかった。

 

「関門海峡ミュージアム建設予定地にBETA群が強襲上陸」

 

無人偵察機(レイヴン)は大連通りに進出直後、撃墜されました」

 

「偵察隊からの報告では、対岸の埠頭公園上空にレーザークラウドの発生を認めたとのこと」

 

 朝鮮半島・中国大陸からの渡洋侵攻を退けた直後に、今度は山口県下関市を発したBETA群が福岡県北九州市に強襲上陸したのである。

 もちろん至極当然の事象。

 なにせ関門海峡の最狭部の幅は1000mもない。踏破能力の高いBETAどもからすれば、渡洋というよりも渡河といった感覚であろう。

 福岡県北九州市に強襲上陸したBETA群の個体数は大隊規模に過ぎなかったが、それでも西部方面隊は手こずった。

 それは本州側に潜む光線級が上陸したBETAを援護していたからにほかならない。

 これにより戦術機はおろか、比較的小型である無人偵察機の投入にも制約がかかった。

 

「敵BETA群を県道25号線に沿うように南へ誘引。光線級の対地照射が届かない山間部に引き摺り出し、袋叩きにする」

 

 そこで、本州側の光線級と強襲上陸したBETA群を分断するため、94式戦術歩行戦闘機から成る戦闘偵察部隊が囮となり、BETA群を光線級の援護が届かない山間部まで誘引を試みた。

 結果は、成功。

 

「パッパ1、ジャッカル1だ――223へ脱ける!」

「ジャッカル1、パッパ1了解ッ!」

 

 そして山間部で待ち伏せていたのは、12機のF-4EJ改であった。

 4機の不知火が東へ延びる県道223号線に入るとともに、F-4EJ改から成る第92戦術機甲連隊第13中隊と、殺到してくる敵前衛集団との間に射線が成立する。

 

 迫る突撃級。

 射撃体勢をとる撃震改。

 

 次の瞬間、最前列の突撃級たちが絶命して前のめりに崩れた。有線誘導用ワイヤーを曳く8発の64式対戦車誘導弾が迎え撃ち、彼らの生体装甲を容易にぶち破ったのだ。

 死骸となると同時に後続に対する障害物となった最前の突撃級に、後続の突撃級が衝突する。

 数体の要撃級は突撃級の死骸を乗り越えた瞬間に36mm機関砲弾を浴び、醜悪な肉塊となった。

 

「福岡市から応援に駆けつけていきなりこれかよッ――!」

「ジャッカル1、パッパ1。クロスファイア」

「パッパ1、ジャッカル1了解。ジャッカルアルファ、FOX2」

 

 渋滞したBETA群に、横殴りの弾雨が降り注ぐ。県道223号線に脱した4機の94式戦術歩行戦闘機が反転し、36mm機関砲弾と120mmキャニスター弾を連射し始めたのだ。

 

「パッパ5、パッパ1だ。パッパ・ブラボーは前進し、死骸の向こう側をグレネードで攻撃せよ!」

「パッパ1――パッパ5。了解した。ブラボー、ついてこい!」

 

 中隊長である宇佐美誉大尉の指示に、正気かよ、とB小隊の小隊長である湯川進中尉は反駁したくなったが、確かに死骸で作ったバリケードの向こう側に攻撃するなら、グレネードが最も適している。

 

(手榴弾じゃなくて、ライフルグレネードやグレネードランチャーにはならなかったのかよ)

 

 そう思いながらも積み重なる死骸の100m手前まで前進したB小隊のF-4EJ改は、次々と手榴弾を空中に投擲した。

 柄付き手榴弾が描く軌道は、想像以上に安定する。

 そして死骸を這い上ろうとしていた戦車級や、戦車級のために動きが緩慢になっていた要撃級の直上で炸裂し、彼らに破片の雨を浴びせた。

 しかしその傍から新手の戦車級が死骸の斜面を駆けのぼり、その頂上からB小隊のF-4EJ改に躍りかかる。

 それをパッパ6――浅石友季少尉は速やかに捕捉し、突撃砲のバースト射撃で迎え撃った。

 血肉の花が咲き誇り、咲き誇ったそばから花弁が散っていく。

 

「これ31中隊の仕事ですよ――!」

「パッパ6、無駄口NGッ。パッパ7、8は後退! パッパ6は俺と殿(しんがり)だ!」

 

 福岡市街からそのまま転進してきたB小隊はグレネードの補給を受けていないため、すぐに品切れ状態となった。なにせ戦術機用の柄付き手榴弾など大量配備されているわけがない。そのためグレネードの補給は八代基地でしかできず、余計にこの巨体を誇る擲弾兵らの使い勝手を悪くしていた。

 

 第92戦術機甲連隊第13中隊ら西部方面隊諸部隊の迎撃により、福岡県北九州市に着上陸したBETA群が殲滅されつつある頃、東敬一大佐の西部方面司令官に対する意見具申が跳ね除けられたらしい――という噂が八代基地内に広がり始めていた。

 

「まずいかもしれません」

 

 会議室に集まった連隊本部の面々は、低い声色でささやき合った。

 人の口に戸は立てられぬ、とはよくいったもので、豆枝幸路大尉はガンルームで水落美歩中尉と氏家義教大尉が口論になりかけた一件や、菅井麗奈中尉が近畿方面の作戦へ西部方面隊が参戦しないことに不満を募らせていることなどを、この場で東敬一大佐らに伝えた。

 

「気持ちはわからないでもないが――」

 

 東敬一大佐は溜息をついた。

 

 九州出身者が多い第4師団や第8師団では、こんな問題は起きていないだろう。

 伝統的に日本帝国軍の地域配備部隊には、その地域の出身者が優先されて配属されるようになっている。隊員たちの土地勘を活かし、平時から高い士気を保つためである。

 

 が、西部方面司令官が機材と人材を掻き集めて創設した第92戦術機甲連隊は、そうではない。

 沖縄・九州・中国・四国・東北・北海道地方と、衛士から整備兵、警備兵に至るまで、出身地は多種多様となっている(一方で、近畿・中部・関東出身者は少ない)。このまま本土防衛戦が長期化すれば、中国・四国・近畿地方以東の出身者たちも同様の不満を抱く可能性があり、さらに第92戦術機甲連隊の衛士は多少問題があっても腕さえよければいい、という実力主義の下で集められている。

 

(しかし大局をみれば西部方面隊もいつまでも九州に引きこもっているべきではない、と俺も思うが――)

 

 東敬一大佐もまたいろいろと思いを巡らせている中、警備担当幹部の関完太郎中尉が口を開いた。

 

「第23中隊機と衛士まわりの警備を強化しましょうか」

 

 彼の意見は、半ば反射的・本能的なものだった。

 特に殲撃八型から成る第92戦術機甲連隊第23中隊は、素行不良など様々な問題を抱えた衛士たちが集中している。もしも動きがあるとすれば、この第23中隊が中心になる可能性が高い。ならばいまのうちから芽を摘む意味でも、警備(かんし)を強化しておくべきではないか。

 

「いや、下手をすれば藪蛇では……」

 

 それに対して、副官室の立沢健太郎中佐が慎重論を唱えようとする――。

 

 その1秒後、会議室に急報が伝えられた。

 

「第11中隊2番機が、無断起動!」

「はあ?」

「ノラキャットの2番機――くだんの菅井中尉かっ!」

「くそ、大穴を警戒する前に本命をなんとかするべきだったか。対応が一手遅かった」

「菅井中尉の現在地は?」

「野外整備キャンプですっ、いま整備兵や警備兵が止めようとしています!」

 

 燦燦と輝く太陽の下、F-14Nノラキャットが上体を起こしていた。

 

 八代基地の野外整備場は正規の格納庫に比較すると整備能力は低い。が、補給を実施する分には問題はない。高度な即応態勢を是とする戦術機が駐機していることは少なくないし、先の佐世保防衛戦で損傷を負わなかった菅井中尉機がそこにあってもなんら不自然ではなかった。

 

 ここで連隊本部のスタッフたちにとって不利に働いたのは、この野外整備場に留め置かれている戦術機たちは衛士と数名の協力者がいれば、容易に起動できることだった。

 

「第11中隊2番機の搭乗者に告ぐッ――出動命令および起動許可は下りていない! 繰り返す――!」

 

 F-14Nを取り囲む数名の警備兵たちは小銃を構えながら、拡声器および無線で呼びかける。

 が、次の瞬間、立ち上がろうと膝を立てたF-14Nの周囲の空気が震えた。

 

「やかましいわアホッ!」

 

 F-14Nの外部スピーカーが、菅井麗奈中尉の肉声を大音量で放つ。

 

「連隊長でどないもならへんなら直談判しかないやろ――!」

 

「菅井さん、冷静になってください」

 

 偶然その場に居合わせた第11中隊C小隊長の鵜沢心菜中尉が、整備士から無線機をひったくりオープンチャンネルで呼びかけた。

 

「状況が状況です。ときには待つことも――」

 

「待っていられるはずがあらへんわッ! いまこの瞬間もBETAの前進は続いとるんや!」

 

「なぜ帝都防衛線の友軍を信じて待つことができないのですか!?」

 

「三重の帝都防衛線でございとぬかしても、正味んとこは総崩れのままようやっと踏みとどまった連中がほとんどやろ!? そないなやつに故郷の守りを託せるわけないやろ!」

 

 菅井麗奈中尉機は、傍らに置かれていた74式近接戦用長刀を握るとともに直立し、一歩踏み出した。背中にはガンマウントに収まった突撃砲――装填弾数は不明だが、マガジンはしっかり差さっている。

 

「どかんかい!」

 

 警備兵たちを轢かぬように慎重に主脚歩行、そして主脚走行へ移行する菅井麗奈中尉機――。

 

「おい」

 

 その前方でもう1機、戦術機が起動していた。

 

 漆黒の装甲を纏い、鉄兜を目深に被った鎧武者。

 

 右肩には「01」の白文字。

 

 そして左肩に描かれた中隊章は、鎖で封じられた長剣。

 

「……」

 

「プリズナー1、どかんかい!」

 

 菅井麗奈中尉機の前に立ち塞がった殲撃八型――プリズナー1・氏家義教大尉機は、74式近接戦用長刀を下段に構えた。

 精神宿らぬはずの無機の鎧武者から、殺気が放たれる。

 瞬間、それに相対する菅井麗奈中尉のF-14Nもまた、74式近接戦用長刀を構えていた。ほとんど反射であった。

 

「菅井中尉、貴様の絶望は痛いほどわかる」

「自分、何言うとるん!?」

 

 と、反駁しつつも菅井麗奈中尉は氏家義教大尉機がとった下段の構えに、見覚えがあった。

 

――これは、お武家さんの構えや。

 

「だからこそ、貴様を行かせるわけにはいかない。ここで待つのも戦うのも俺たちの任務だ。上方(かみがた)出身の衛士――その名誉を守るために俺は貴様を止める」

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