「はあ? 傭船を輸送船に仕立てるのも
「帝国軍参謀本部は四国のことなんざこれっぽっちも考えてないな」
「成功したら自分らの手柄、失敗したら
第92戦術機甲連隊の衛士たちは覚悟を固めていればよい。
が、日本帝国本土防衛軍西部方面司令部の参謀たちはそうもいかない。日本帝国本土防衛軍西部方面司令官は四国救援作戦となる“出梅作戦”の作戦計画を帝国軍参謀本部に提出。帝国軍参謀本部は即座にこれを認め、それ以上何かを言ってくることはなかった。逆に言えば、段取りについては日本帝国本土防衛軍西部方面司令部に一任するような形であった。
といっても、西部方面司令部は四国方面の戦況をリアルタイムで把握しているわけではなく、四国島内の戦術機用補給拠点や物資集積所を知悉しているわけでもない。どこに前線司令部を進出させれば効率がよいのか判断できず、武器弾薬を満載したフェリーをどこに廻せばいいのかもわからない。人口密集地である高知市が未だ戦場になっていないのであれば、武器弾薬を満載したフェリーを高知市に廻し、空になったフェリーで避難民を九州へ移したいところだ。が、もしも高知市陥落が秒読みであれば、四国西部の港湾を使うほかない――そのあたりの判断さえできなかった。
たまらず西部方面司令部は、日本帝国本土防衛軍中部方面司令部に連絡をとったが、帝都防衛線から後方の中部地方の守りまでを担当する中部方面司令部は、四国地方の状況まで手が回っていなかった。事実上、第14師団司令部・第55師団司令部に遅滞作戦と避難援護を命じ、積極的な作戦指導を行ってはいないような形だった。
彼らの中では四国戦線は半ば“終わっていた”のである。
それも中部方面司令部にかかる負担を考えれば、やむをえないことではあろうが。
「第14師団司令部および第55師団司令部と連絡をつけろ。直接だ」
「別府の輸送船『まりも』『かめりあ』に武器弾薬を搭載させます」
「鹿児島湾に退避したまま残っている国連太平洋艦隊・帝国海軍連合艦隊・大東亜連合艦隊の諸艦艇へ支援要請」
それとは対照的に九州戦線が小康状態を迎えている西部方面司令部のスタッフは、思考力・行動力のリソースをこの四国方面に割り振ることができた。
◇◆◇
「艦長、日本帝国本土防衛軍西部方面司令部からの報告です」
「ありがとう」
韓国海軍駆逐艦『忠北』の艦長、車賛浩海軍大佐は受け取ったメモに目を落とした。
(地方都市・高知市より第14師団は撤退中――)
間に合わなかったか。車賛浩海軍大佐は爪を噛もうとして、やめた。
果敢に戦い、命を助ける――駆逐艦乗りになったことを後悔した日は一日とないが、伸ばした掌から零れ落ちていく命のなんと多いことか。
「行き先は決まった。輸送船団は四国島西部の都市、宇和島に向かうことになるだろう」
四国救援作戦“出梅作戦”の先陣を切ったのは、偵察部隊や補給部隊から成る先遣隊を乗せた輸送船団と、それを護衛する水上艦艇であった。
先導は日本帝国海軍駆逐艦『朝雪』。
それに続くのが車賛浩海軍大佐の操艦する駆逐艦『忠北』で、少し離れて徴用したフェリーの『まりも』ら輸送船が付いてくる形だ。
駆逐艦『朝雪』・『忠北』の役割は単純明快。
身を以て警戒の“鳴子”となることだ。彼女たちが無事ならば、輸送船もまた何の心配もいらない。万が一、後方に浸透した光線級から攻撃を受けるとなれば、『朝雪』・『忠北』の両艦が真っ先にやられる。が、輸送船たちは遠目に炎上する両艦を見て、即座に引き返し、光線級の視線を躱せる水平線の向こうに身を隠すことだろう。
駆逐艦乗りはこの程度のこと、了承済みである。
なにせ『朝雪』は満載排水量4000トン、『忠北』は満載排水量3500トンの小艦艇。
一方で後続する輸送船は、駆逐艦よりも遥かに価値が高い。たとえばフェリー『まりも』は大型トラックを約70輌、オートバイ等を装備する偵察部隊を載せており、続くフェリー『みやざきエキスプレス』も同様で100輌近い車輛を輸送している。フェリー『かめりあ』も『まりも』と同様の能力を有しており、山岳戦・森林戦に長けた対馬警備隊の人員と装備品を運んでいた。そして帰路に就く際には、避難民を乗せられるだけ乗せることになっていた。
要するに駆逐艦がいくら失われても出梅作戦の成否に影響はほとんど出ないが、輸送船が失われては渡洋作戦・輸送計画に大きな狂いが生じるのである。
警笛とともに駆逐艦『朝雪』・『忠北』、続けて輸送船が四国島西部の愛媛県宇和島市入りした後、出梅作戦前線司令部が宇和島市役所に設置された。
と同時に、小回りの利くオートバイに乗ったレンジャー隊員たちが方々に散り――そして洋上の帝国海軍戦術機輸送艦『大隅』から飛来した8機の戦術機が青空の下、海沿いにある総合体育館の駐車場に降り立った。
「戦術機だっ!」
「ゲキシンでもシラヌイでもないよっ!」
体育館や道の駅に押し込められていた子どもたちの中から、歓声が上がる。
高々と右親指を立て、外部スピーカーで「西部方面隊・第92戦術機甲連隊、F-14Nノラキャット! ただいま推参!」とカッコつけた小清水仁中尉は、即座に櫻麻衣大尉に注意された。
「こちらCP、園田だ」
到着早々、彼らは機体に収まったまま現在の状況を耳にした。
「園田少佐。こちらゼノサイダ1、櫻です」
「ゼノサイダ、CP。現在わかっている戦況図と戦術機用補給拠点を送信する。確認せよ」
「はい」
四国島内においては現在、北部戦線と東部戦線が構築されている。
北部戦線は陥落した松山・伊予の南方にある大洲市を中心として第55師団が再構築したものであり、東部戦線は高知市の西方にある土佐市に撤退した第14師団が支えている。
が、全体的にみれば北部戦線と東部戦線の合間には大きな間隙が空いており、無防備を晒していた。
「成程、だからこの宇和島市なのですね」
櫻麻衣大尉は合点がいった。
宇和島市は港湾施設が整っているだけではなく、北部戦線(大洲市)・東部戦線(土佐市)の狭間に所在する。ここから戦術機の足なら、両戦線とも火消しに向かうのは容易い。また対馬警備隊や歩兵部隊を北東の山中に遣れば、浸透を企む小型種どもを察知し、反撃ができるだろう。
「ゼノサイダ1、そのとおりだ。さて、続いて良いニュースと悪いニュースがある」
「CP、ゼノサイダ1。悪いニュースについては見当がつきます。幹線道路は避難する市民で埋め尽くされており、山中を往く際には山間部を走る幹線道路沿いに移動するのが難しい、というところではないですか」
「ゼノサイダ1、CP。……驚いたな。そのとおりだ、大尉。悪いニュースはそのとおりだ。良いニュースは光線級の過半数は瀬戸内海側に張りついており、残りは高知市内――つまり山々に囲まれたこのあたりは照射を浴びる心配がない。市民の避難にはCH-47といった大型輸送ヘリも投入可能とわかった。戦術機も高度に気をつければ跳躍ができる」
「CP、ゼノサイダ1。了解しました」
「早速だがゼノサイダには北部戦線にて前衛集団を殺し尽くしてもらう」
F-14Nが飛び去ったその30分後に、今度はフィアットG.91Y攻撃機が同じく総合体育館の駐車場に降り立ち、ブリーフィングを受けた。
フィアットG.91Y攻撃機はかつてBETAの大規模西進に直面したかつてのイタリアがF-5戦術機をベースに開発した戦術歩行山岳攻撃機である。
地続きの大規模侵攻を想定するイタリア軍にとってイタリア北部の山岳部は遅滞戦術に有利な地形であると同時に、同国を破滅に導くかもしれない存在でもあった。
もしも光線級を格納した要塞級が高地に進出すれば、高地から数百kmに渡って地上部隊は一方的に照射を浴びることになる。そこでイタリア陸軍は山頂の奪回、山岳戦を念頭においた戦術機の配備を急いだ。
主機強化による垂直方向への機動力向上と、光線級に対する囮や稜線の向こう側への攻撃のため、兵装担架を改造した迫撃砲の装備が特徴であり――最終的にイタリアは国土を失ったが、いま大部分が山地を占める四国地方において、山岳戦機としての本領を発揮しようとしていた。