【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■40.万の命まで距離2000。

「地中侵攻先の予想は!?」

 

 祭田美理大尉は5分とかからず衛士強化装備を纏い、重金属雲下でも活動可能な気密兜(きみつとう)を小脇に抱えて外に駆け出し、小学校のグラウンドを横切って隣接する野球場に待機する自機に取りついた。と、同時に左右の整備士たちに状況を問う。

 

「大洲市を通過したらしいですッ!」

 

 誰かの叫びを聞きながら、彼女は操縦席に潜りこむ。

 

(大洲市……前線をすり抜けた。じゃあどこに――!?)

 

「作業中止ッ! 31中隊が出る!」

「野球場前のトラックをどかせ!」

「自衛戦闘用意! 繰り返す、自衛戦闘用意! 総員、強化装備を着用せよ!」

「そんな暇あるか、パンツァーファウスト3(RAM)もってこい!」

 

 外部の喧騒を無視して祭田美理大尉は自機を起動させる。フィアットG.91Y攻撃機が低い唸り声を上げるとともに、彼女の翠の瞳に自機情報、センサー情報、部隊内情報、そして戦況図が投影される。

 

「は?」

 

 祭田美理大尉は次の言葉を吐く前に、その場で機体を180度旋回させると、右主腕で保持する突撃砲をスタンド越しにみえる純白の小学校校舎に向けた。

 次の瞬間、3階建ての小学校の一部が崩壊した。

 激甚災害に備えて頑丈に造られた鉄筋コンクリートの塊を抉り、速度が緩むとともにわずかに側面を晒した突撃級に、祭田美理大尉機が放った120mm徹甲弾が突き刺さる。側面生体装甲が貫かれ、周囲に血肉と体液を撒き散らした突撃級は、そこで絶命した。

 続いて警備兵が放った対戦車榴弾が奔り、後続の突撃級が擱座する。が、その脇をすり抜けた別の突撃級は、73式中型トラックを踏み潰しながら小学校脇の道路を突き進み――祭田美理大尉機の射撃によって巨大な肉塊となった。

 

「みんなどけッ」

 

 祭田美理大尉は外部スピーカーで周囲に注意をうながすとともに自機を噴射跳躍させた。宙に躍り出る鈍色の機体。野球スタンドを越え、虚空で状況を確認する――次の瞬間、予備照射を受けている旨を報せる照射警報が鳴り響き、やむをえず彼女は野球場前のロータリーに着地した。

 

「CP、こちらサイウン1! CP、こちらサイウン1ッ――」

 

 状況がまったくわからない。祭田美理大尉は指示を仰ぐべく無線を使いながら、目の前の事象に対応していた。周囲の住宅地よりも高台にある小学校を襲撃するために這い上がらんとする要撃級、戦車級にめがけて36mm機関砲弾を浴びせかける。

 

「サイウン1、こちらサイウン5ッ! 指示を!」

「サイウン5はB小隊を率いて東町3丁目に進出、敵を迎撃して!」

「了解!」

 

 祭田美理大尉には広域戦況図を読み解く余裕がなかった。

 が、敵が予土線――北宇和島駅方面から前進してきていることはわかった。

 B小隊機に左翼を、遅れたC小隊に小学校前面の伊吹町を守らせる。

 

「祭田大尉ッ、どうなってんですかこれえ――」

 

 津野英梨佳少尉は目の前に迫る異形たちを前に、悲鳴まじりの声を上げた。主腕で保持する2門の突撃砲で木造住宅ごと戦車級、要撃級を破砕していくが、そのそばから倒壊した家屋と死骸を踏みしめて新手が現れる。

 

津野英梨佳少尉(サイウン12)、黙れッ!」

 

 祭田美理大尉が何か言う前に、C小隊の小隊長を務める佐藤仁中尉が怒鳴った。

 

「連中はここにきた、それだけだ――突撃級来るぞッ!」

 

 公民館を圧し潰しながら向かってくる要撃級を射殺し、民家を乗り越えながら突っこんでくる戦車級の群れ目掛けて薙射しながら、祭田美理大尉は苦笑いを浮かべていた。

 500m以内の近中距離戦闘。あまりにも分が悪すぎる。120mm迫撃砲・弾薬庫・給弾機構を背負ったF-5――フィアットG.91Y攻撃機。戦術歩行山岳攻撃機などと大仰な名前がついているが、要はローコストの支援専用機だ。F-5が誇る軽快な運動性は死んでおり、近接戦闘は一切考えられていない。

 

「あ゛」

 

 戦車級や要撃級の合間を抜けてきた突撃級が、民家を踏み潰しながら疾駆する。

 それを5秒前まで眼前に迫る戦車級に対応していた津野英梨佳少尉は躱せなかった。左主脚と左主腕部を切断されたフィアットG.91Y攻撃機が、まるで人形のように宙に放り出され――そして無残にも青い屋根の民家に叩きつけられる。

 

「サイウン12――! 応答しろ!」

 

 C小隊長の佐藤仁中尉が呼びかけたが、返事はない。

 が、まだ生きているのだろう。新手の戦車級たちが津野英梨佳少尉機に襲いかかる。

 

「サイウン11、サイウン12を援護しろ!」

「無理ですッ、要撃級どもが――!」

「サイウン3、4! こちらサイウン1だ。サイウン12の救援に行けるか!?」

「こっちが抜けたら小型種が素通しになりますよ!」

「くそったれ――!」

 

 佐藤仁中尉機が120mmキャニスター弾で眼前に迫る戦車級の群れを吹き飛ばし、これによって生じた僅かな猶予を以て、サイウン12の方向へ向かう戦車級を36mm機関砲弾で掃討し、同機の上に這い上がった戦車級を狙撃で排除した。

 

「サイウン12ッ、ベイルアウトしろ!」

「う゛む゛、無理です、助けて祭田大尉゛ッ!」

 

 それが彼女の最期の言葉となった。

 再び新手の突撃級が津野英梨佳少尉機を轢き、胸部ユニットを滅茶苦茶に破壊した。

 その頭上では情報収集のために飛んでいた無人偵察機スキャンイーグルが、光線級の照射を浴びて爆散している。

 

「全機、こちらCP・園田だ」

 

 津野英梨佳少尉機の骸から1500mしか離れていない宇和島市役所近傍に、作戦担当幹部の園田勢治少佐が搭乗した指揮通信車はいた。

 

「コード911。敵は地中侵攻により北宇和島駅にまで進出し、同駅から南侵を開始している」

 

 と、インカムで話しながら園田勢治少佐は、平時の声色を意識していた。

 

「宇和島港・宇和島市役所周辺には、未だ多くの市民が残っている」

 

 BETAが湧き出す北宇和島駅――ここ宇和島市役所と避難船待ちの市民が収容されているエリアまでは約1500m、宇和島港までは直線距離で約2000mしか離れていない。

 北宇和島駅と宇和島港の間には約200mの高地があるが、油断すれば突撃級の高速突撃で蹂躙されかねない位置関係だ。この高地をBETA側が避け、北宇和島駅――第31中隊がいる小学校――宇和島港というルートをとったとしても約3000mの道のりでしかない。

 

「我々は刺し違えてでも()を撃滅しなければならない」

 

 なぜ宇和島市(ここ)に、という問いはまさに愚問であろう。

 

(頭が固い帝国軍参謀本部の連中は認めたがらないが、BETAには戦術眼がある)

 

 単なる生態ではない、と園田勢治少佐は思う。

 最前線を無視して後方へ進出できるのであれば、誰でもそうするであろう。であるからこれは予想できなかった敵の一手、というわけではない。加えて大陸でもやつらは何度もこの手を使ってきているのだから。

 

「第13中隊は宇和島港の防御。第12中隊は宇和島駅にまで進出し、北宇和島駅方面から南下するBETAを迎撃しつつ、東方の第31中隊の側面を防御。第31中隊は現在地を死守。まず他中隊は指定エリアまで後退、状況に応じて宇和島市内の戦闘に加入する」

 

 宇和島市内に居合わせた3個中隊は、みな守備に廻す。九州地方から宇和島港に到着したばかりのF-4EJ改から成る第13中隊は宇和島港におき、残りは南下するBETA群を迎え撃たせる。

 もちろん守勢だけでは事態は好転しない。

 

「現在、宇和島市北方には第55師団の戦術機甲部隊が集結しつつある。彼らは北宇和島駅を攻撃し、光線級を排除する。攻撃成功後、第12・13・31中隊は跳躍反復攻撃を実施し、第3対戦車ヘリコプター隊と協同してBETA群を空から掃討する」

 

 光線級さえ排除してしまえば、というのが園田勢治少佐の考えであった。

 光線級さえ、光線級さえ排除してしまえば――250m以下という制限つきではあるが自由に高度をとって一方的に攻撃することが可能になる。そうなれば旅団規模だろうが、師団規模だろうがBETAなど恐るるに足らず、だ。

 

(逆にいえば、それしか勝ち目はない)

 

 園田勢治少佐は祈るような気持ちで、第55師団による攻撃成功を待つこととなった。

 

 ……が、第55師団の戦術機甲部隊は、光線級の排除に失敗した。

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