誰もがベストを尽くした結果であった。
第55師団司令部は必勝を期して園田勢治少佐に支援を要請――そして園田勢治少佐はそれに応えた。
まず殲撃八型から成る第12中隊とF-4EJ改の第13中隊を斬りこませて囮とする。これによって大型種が両隊へ惹きつけられ、余裕が生まれた第31中隊に120mm重迫撃砲で北宇和島駅を砲撃させた。さらに宇和島港内外に居合わせた駆逐艦が第55師団・戦術機甲部隊の突撃に合わせ、速射砲による艦砲射撃を実施――重迫撃砲と速射砲、戦術機甲部隊に付随する自走砲による火力支援の下、第55師団の戦術機は攻撃を開始した。
が、第55師団の戦術機甲部隊は北宇和島駅に布陣する光線級の駆逐に失敗した。正確には同隊は重光線級・光線級の過半数を撃破することに成功したが、すべてを殺し尽くすことが出来ないまま反撃を受け、彼らは全滅した。
(要塞級が、光線級の直掩についている――)
園田勢治少佐は目眩に襲われた。
第55師団の衛士たちが直面したのは、砲弾の破片や戦術機の突撃から光線級を守るための要塞級による輪形陣であった。この堅牢な輪形陣の内側にいる光線級は落下してくる砲弾を、要塞級の足下にいる光線級は戦術機を優先的に照射。斬りこみをかけた戦術機は、要塞級の衝角と光線級の迎撃を受けて瞬く間に被撃墜の憂き目に遭った。
第55師団の戦術機甲部隊の奮闘は、決して無駄だったわけではない。
それでも未だに50体以上の重光線級・光線級が北宇和島駅周辺にいた。
「CP、こちら拝鷹P! まずいぞ、連中は藤江トンネル直上の高地へ登り始めているッ!」
次善策を考える時間もなく、北宇和島駅を望むことができる南東の高地に登った監視部隊から園田勢治少佐に通報があった。光線級・重光線級・要塞級から成る一群は、北宇和島駅と宇和島港の間にある約200mの高地に登らんと動き始めていた。
(……)
その高地からは宇和島港のフェリー乗り場が容易く見下ろせてしまう――否、フェリー乗り場どころではない。宇和島港のほとんどと、避難民が待機している施設すべてが光線級の視界に収まってしまう。
そうなったが最後、すべてが焼き払われる。
園田勢治少佐に恐慌状態に陥るほどの余裕はない。何か策はないか、と思考を巡らせた。
……そして2分で決断した。
「サイウン、こちらCP・園田だ。命令を伝える。中隊は全機、120mm重迫撃砲システムをパージ。所定の迂回ルートで宇和島港、高地の南側に進出。そこから跳躍して高地の北側を登攀中の光線級・重光線級を攻撃せよ」
「CP、こちらサイウン1――パージして本当によろしいのですか」
祭田美理大尉はそう聞き返した。
実はフィアットG.91Y攻撃機が背負う重迫撃砲システムは、衛士側の操作によって切り離すことが可能である。しかしながら一度切り離したが最後、再装備には整備隊の手を借りなければならない。そのため重迫撃砲システムの放棄は、この戦域における支援砲撃の一部を喪失することにほかならなかった。
が、同時に彼女は状況をよくわかっていた。
多くの大型種を誘引した第12・13中隊は、目前に迫る敵と相対するので精一杯であり、光線級狩りには使えない。であるから今すぐに
「サイウン1、こちらCP。高地の南側から接近すれば稜線を越えるまでは照射を受けることはない。攻撃成功の公算は高い」
響く、園田勢治少佐の淡々とした声色――。
「私は作戦参謀として君たちに命令するとともに、ひとりの人間として君たちを頼る。君たちしかいない。いまここで命を、希望を、自由を守れるのは君たちだけだ。第31中隊“サイウン・トルネーダーズ”は光線級吶喊を実施せよ!」
――その声の中に熱を感じた祭田美理大尉は、ああ、と生命を擲つ覚悟を固めた。
(光線級吶喊なら民間人誤射誤爆の可能性なんか考えなくていいや)
などと見当違いなことを考えながら。
「サイウン1よりサイウン各機。全機、120mm重迫撃砲システムをパージ!」
「了解!」
爆圧ボルトが弾け、迫撃砲・給弾機構・弾薬庫が離脱。
そして大重量の重迫撃砲システムから解放され、突撃砲2門を携えた軽量級戦術機たちが空を仰ぐ。フィアットG.91Y攻撃機あらためF-5フリーダムファイター。否、いま宇和島に立つこの戦術機は、ただのF-5フリーダムファイターではない。
イタリア軍仕様高機動型F-5――F-5I HMU。
前述の通りフィアットG.91Y攻撃機は山岳戦を意識して、垂直方向への機動力向上のために主機等が強化されている。その状態で重迫撃砲システムをパージすれば、最大速度・機動性能が向上するのは自明の理。ある意味では“副産物”。F-5I IDFトーネードとは別系統の派生機である。
「ハンマーヘッド・ワン、ついて来い!」
高地の南側に設定した攻撃発起点まで、たったの1500m。
噴射地表面滑走で1分とかからず彼らは移動を終え――そして生死を分かつ稜線を睨む。
と、同時に宇和島港の内外に遊弋する日本帝国海軍駆逐艦『朝雪』・『島雪』・『望月』、韓国海軍駆逐艦『忠北』・同海軍フリゲート『全州』が、高地の北側斜面に向けて速射砲による支援砲撃を開始した。
そのほとんどは立ち上がる光芒によって空中で蒸発する。
が、その光景は第31中隊の衛士たちを励まし、そして多少なりとも衝くべき隙をもたらした。
「我に追いつくBETAなし、行くぞ――ってらしくないなあ!
「応ッ!」
F-5I HMUが火焔を噴き、垂直方向に翔け上がる。
直線距離にすれば光線級までわずか数百メートル――鈍色の機影は稜線を越えた。
そのコンマ5秒後、光線級の予備照射とフリーダムファイターが放つ36mm機関砲弾が交錯する。
ぶちまけられる緑色の体液。
迎え撃つ要塞級の衝角。それを躱したF-5I HMUが斜面を滑りながら着地し、バースト射撃で重光線級の脚部を破壊する。
稜線を越えた直後に急降下するという制動がうまくいかず、バランスを崩した1機が要塞級に激突――火達磨になりながら光線級の群れに突っこみ、彼らを轢殺した。
「要塞級は無視してッ」
短く叫びながら祭田美理大尉は要塞級の合間を縫って滑走し、兵士級や光線級を吹き飛ばしながら120mm弾を重光線級の照射膜に撃ちこんだ。破裂する重光線級。光線級は照準用の予備照射を始めるが、近距離を機動するF-5I HMUに振り切られ、あるいは誤射防止のために本照射に移行できないままでいる。
「あと29体――!」
要塞級の輪形陣中で暴れ回るF-5I HMUに反応した要撃級が一気に襲いかかり、重光線級を狙撃で次々に撃ち倒していた中家梢中尉機が、横合いから前腕の一撃を受けて大破する。が、その僚機は容易く仇を討った。人体のそれとは異なる戦術機の構造を活かし、正面・背面へ同時に突撃砲を向けて脅威となる要撃級と、光線級を射殺していく。
祭田美理大尉は中家梢中尉機の大破を視界の端で捉えていたが、リアクションをとる余裕すらなかった。光線級の予備照射を振り切り、要塞級の巨体と衝角を躱し、要撃級を回避するので精一杯――その合間で、彼女の翠の瞳は両腕を失った機体を映した。
「佐藤、ひいてッ」
「退けますかよ! 大尉、では!」
要撃級の打撃で右主腕を、要塞級の衝角が掠めたことで最後に残っていた左主腕を失い――射撃能力を喪失した佐藤仁中尉機は、最大速度で跳躍して光線級を轢き殺すと、そのままその延長線にいた重光線級に衝突。そしてそのまま、腰部の自決用爆弾を作動させた。
爆風と火焔とともに撒き散らされる重光線級の死骸。それでも指向性をもった衝撃波は漸減することなく、その背後の要撃級を吹き飛ばし、小型種の群れを薙ぎ倒した。
「あと12体――」
「大尉、ダメです、囮になります」
頭部ユニットを失い、右主腕部を喪失したF-5I HMUが垂直方向に飛び上がる。
障害物もなく、BETAもいない空中――そこから満身創痍の機体は左主腕部の突撃砲を乱射する。途端に周囲の光線級が空中のF-5I HMUと彼が発射した120mm弾に反応して照射を開始した。
と同時に、地表面に残存するF-5I HMUが翔ける。
祭田美理大尉はもはや口を開こうとはしなかった。口を開けば、何かを言わなければならない。突撃砲で間近の光線級を殺し、弾切れとなった左主腕の突撃砲を投げ捨てて膝部装甲から展開した近接戦闘短刀を引き抜く。
そして迫る要撃級を飛び越し、始まる重光線級の照射を無視したまま突撃――その薄桃色の胸に刃を突き立てて股下まで引き裂いていた。
「やっちゃいました?」
次の瞬間、重光線級は崩れながらも本照射に移行。
祭田美理大尉機を
◇◆◇
「アタッカー1。こちらCP、園田だ。送信した経路で航空攻撃を実施せよ」
「CP、こちらアタッカー1了解。各機、聞いていたな。宇和島港周辺の光線級は排除された。我々の出番だ。連中を殺し尽くす」
その10分後。宇和島港周辺空域に、AH-1Sから成る第3対戦車ヘリコプター隊が進出。対戦車ミサイル、ロケット弾、20mmガトリング砲で第12・第13中隊に向かう要塞級、要撃級、戦車級の群れを散々に叩いた。
それだけではなく宇和島港の駆逐艦隊は、守るべき光線級を失った要塞級の輪形陣と要撃級の群れに激しい艦砲射撃を実施し、異形の戦陣をズタズタに引き裂いた。
「イツマデ1、こちらCP。跳躍反復攻撃で北宇和島駅周辺のBETAを殲滅せよ」
「CP、こちらイツマデ1。了解した」
「イツマデ1、サイウンは――?」
第12中隊長の服部忠史大尉は針みほ少尉を失ったときと同様に、再び牟田美紀少尉の問いかけに対して、聞こえないふりをした。
殲撃八型、漆黒の怪鳥が空中に舞い上がる。
憎悪の赤き瞳が光る、雲ひとつない大空――。