【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【東敬一(あずま・けいいち)】

 大佐。第92戦術機甲連隊連隊長。神奈川県三浦市出身。
 衛士畑出身の気性穏やかな幹部。作戦立案や前線戦闘の指揮は部下に任せることが多く、自身は西部方面司令部や他部隊との連携、隊内の和を保つことに心を砕く調整型の連隊長である。非常時には予備機に搭乗することもある(32話)。
 西部方面司令官の介入がなければ第13師団司令部の幕僚を務めることになっていたらしい(31話)。

【服部忠史(はっとり・ただし)】

 大尉。第92戦術機甲連隊第12中隊長。コールサインはイツマデ1。
 乱戦の中でも状況を判断する能力があるが、戦場ではドライな性格で、九州防衛戦・四国救援作戦では、牟田美紀少尉の問いかけを無視している(28話・41話)。
 BETAには戦略眼・戦術眼があると考えている衛士のひとり。





■43.FC-1 閃電(2)

 四国救援作戦“出梅作戦”以降、東敬一大佐の日課がひとつ増えている。

 

 それは新たに八代基地の一隅に設けられた墓碑を洗い、線香を供えることであった。決して立派とはいえない鈍色(にびいろ)の墓碑。敷石の下の空間は、多くの骨壺が収納できるようになっている。この墓所は第92戦術機甲連隊の隊員たちがカンパし合って作ったものであった。

 

「東大佐」

 

 秋の早朝、ひんやりとした空気の中、しゃがんで代用茶の缶を供えていた東敬一大佐の背中にひとりの男が声をかけた。

 対する東敬一大佐は「服部大尉か」と振り向かずに答えた。

 ジャージ姿の服部忠史大尉は立ったまま合掌し、目を瞑った。

 

「殊勝だな、服部大尉は」

「いつも一目、私が入る予定の墓を見るようにしているんですよ」

「であれば大尉も掃除してくれ」

「了解です。それでは掃除は私がやりますので、大佐は線香とお供え物のグレードアップをお願いいたします」

 

 東敬一大佐と服部忠史大尉はふたりして笑った。

 服部忠史大尉が言った「私が入る予定の墓」というのは比喩表現ではない。

 この墓は、そういう墓だ。

 

 BETAの西日本侵攻に伴い、肉親・親戚縁者・自身が入るはずだった先祖代々の墓所を失った者は多い。衛士では、宇和島市内の戦闘で全滅した中家梢中尉がそうだった。彼女は京都市中京区出身であるが、骨壺を引き渡すべき遺族が行方不明になっていた。法的には無縁仏は地方自治体が引き取ることになっているらしいが(このあたりは東敬一大佐も詳しくない)、その地方自治体が機能していない。さりとて西部方面司令部を通じてどこぞに放り出すのにも抵抗があり、当面の間、第92戦術機甲連隊で供養することになったのである。

 そして服部忠史大尉には諸事情により縁者もいなければ、墓もない。

 それを東敬一大佐は知っていたため、世間が平和になってどこかの寺院に永代供養が依頼できるようになるなり、新たな戦没者墓苑が完成するまでに服部忠史大尉が戦死してしまえば、遺骨はここに納められることになろう。

 

 ……。

 墓から引きあげる道すがら、東敬一大佐はああ、と気づいた。

 何にかと言えば、服部忠史大尉があの墓に入ると平然と言ったことに、何の違和感も、抵抗感も覚えなかったことに気づいたのである。

 

(それもそうか)

 

 人も、国土も、あまりにも死にすぎている。

 

◇◆◇

 

 10月下旬、八代基地から約250km離れた南洋。

 轟音とともに電磁カタパルトが起動し、AL弾が搭載された弾薬用カーゴが衛星軌道に向けて射出される。発射フェイズが終了するとともに新たな弾薬用カーゴが牽引されてきた。内容物は同様にAL弾であり、すべて明星作戦、あるいはそれに付随する作戦に使用される予定のものだった。これらの弾薬用カーゴは衛星軌道上にて回収され、軌道爆撃用プラットホームへ輸送されることになっている。

 東アジア最大級の宇宙軍基地・種子島基地において、日本帝国航空宇宙軍の“戦争”はすでに始まっていた。

 

 そしてこの種子島近海に、FC-1閃電(サンダー)から成る第12中隊機はいた。

 西部方面司令官の命令を受け、渡洋攻撃の演習を実施するためである。

 この渡洋攻撃演習の実施命令に第92戦術機甲連隊全体が「すわ、横浜ハイヴ攻略作戦に前後して、佐渡島に対する間引き、あるいは陽動作戦を任されるのか」、と色めきたったが、実際のところはそうではないらしい。牟田美紀少尉が小耳にはさんだ噂では、国連軍・日本帝国軍・大東亜連合軍の間の調整がうまくいっておらず、作戦計画がなかなか固まらないのだという。であるから現時点では、明星作戦自体に第92戦術機甲連隊の出番があるのかどうかもわからない。

 要は何をさせられるかわからないから経験を積ませておこう、ということなのだろう。

 確かに渡洋攻撃に慣れておけば、佐渡島ハイヴに対する漸減・陽動作戦を任されても、東京湾を渡って横浜ハイヴの南方に布陣して囮になる作戦を任されても、うまくやれるであろう。

 

「イツマデ5、発艦する」

「イツマデ6、発艦する」

 

 洋上に浮かぶ帝国海軍戦術機輸送艦『南鳥(みなみとり)』から空中接触を防ぐため、まず誘導役の2機が飛び出し、続けて2機ずつ銀翼が空に舞い上がる。『南鳥』は補給能力こそあるものの、発艦用カタパルトを有しているわけではないため、跳躍ユニットで飛び上がらなければならない。

 牟田美紀少尉は網膜に投影される発艦許可信号を確認するとともに、スロットルを全開にした。

 

(――ッ!)

 

 途端に全身を襲う加速の負荷。

 が、その最中でも高度計にだけは注意しなければならない。これだけは慣れないし、慣れてはいけない。高度と速度を稼がなければ海面に激突し、高度を取りすぎれば光線級の餌食になる。

 姿勢を安定させながら時速500km前後の速度で、一気に海岸線を目指す。

 殲撃八型と比較すれば、FC-1の速度・加速性能は段違いである。なにせ中国製部品で模倣・再現したとはいえ、外装と仕様はF-16Aと変わらない。

 12の鈍色の機体は薄黄(はくおう)に輝くセンサーアイを輝かせながら、紺碧の色彩の直上を翔けていく。

 

 勿論、実戦でも訓練でもただ飛んでいればいいわけではない。

 牟田美紀少尉機は海岸線にポップした電子上の敵に突撃砲を向け、仮想の砲撃を実施する。

 予備照射があれば自動で機体側が高脅威目標を示してくれる。

 光線級の予備照射を受けた際の対応だが、第92戦術機甲連隊内においては回避機動をとるのではなく、洋上からの長距離砲撃戦で光線級の排除を試みることに決めていた。

 理由はふたつ。まず逃げも隠れもできない洋上で回避運動を試みたところで、光線級の視界からは逃れられないため。二つ目は回避機動をとることで墜落や僚機との接触につながる恐れがあり、純粋に速度が落ちるからだ。

 

 白浜を崩しながら着地すると、息つく暇もなく12機は踵を返して『南鳥』に戻る。渡洋攻撃訓練とは勇ましいが、その中身の肝は神経を使う発艦と着艦を複数回に亘って実施するというものである。

 

(衛士の訓練課程であれだけ走らされたのは、やっぱり体力勝負だから、か)

 

 2回目の発艦時には、すでに牟田美紀少尉は汗でぐっしょりになっていた。

 

 着艦すれば第92戦術機甲連隊から派遣されている整備兵と『南鳥』のクルーが高速で機体チェックを行い、武器弾薬と推進剤の補給を行う。

 この訓練は衛士の技量向上のみを目的にしたものではなく、戦術機輸送艦『南鳥』側の慣熟も兼ねている。

 戦術機輸送艦『南鳥』の同型艦はこの地上に存在しない。

 もともとは90年代初頭に韓国政府が日本帝国に発注していた戦術機輸送艦であったが、国土を喪失したことで韓国海軍での就役が絶望的となったため、帝国政府が引き取った代物であった。

 基本設計は『大隅』のものを流用しているため、強いて言うならば大隅型戦術機輸送艦改、にあたるであろう。根本的に異なるのは大隅型戦術機輸送艦『大隅』は16機の戦術機を格納可能だが、戦術機輸送艦『南鳥』は戦術機格納スペースを14機(1個中隊定数12機+予備機2機)に留めた点だ。余った2機分の空間は、戦術機用の武器弾薬、推進剤、交換部品の搭載スペースに充てている。

 原型艦の『大隅』が正面戦力の投射を重視しているとするならば、『南鳥』は継戦能力を重視した、と言ってもいいかもしれない。

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