【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【連緯(Lian・Wei)】

 中華人民共和国蓉都殲撃工業集団有限公司の技術者兼営業担当。
 完璧ではないが日本語での会話ができる。最前線に近い日本帝国本土防衛軍健軍基地を訪れ、輸出用戦術機FC-1の売り込みに成功。狙いは第92戦術機甲連隊を利用してFC-1の運用実績を作り、海外市場への足がかりとすることにある(38話)。

【夏露(Xia・Lu)】

 中国共産党政治委員。日本語は日本帝国大陸派遣軍の衛士から習った。合法・非合法を問わず、手段は選ばないタイプ。

【笠原まどか(かさはら・まどか)】

 大尉。第92戦術機甲連隊整備補給隊・戦術電子整備担当。東京物理学校卒。
 幹部にもかかわらず容儀がなっていない(11話)。自衛戦闘訓練・自衛戦闘の際には対戦車火器を使用している(22話・31話)。

【大伴忠範(おおとも・ただのり)】

 中佐。日本帝国軍参謀本部の参謀。国粋主義者。
 東敬一大佐は彼を「欧米嫌い」と評しており、巌谷榮二中佐もそれを否定しなかった(17話)。横紙破りをする西部方面司令部を快く思っていない(18話)。後にはXFJ計画の下で国産戦術機“不知火”の改良を推進する巌谷榮二中佐らに反対の立場を採り、ソ連製戦術機の導入を画策した(TE)。






■44.FC-1 閃電(3)

 一連の訓練を終えて戦術機輸送艦『南鳥』に戻った牟田美紀少尉らは、降機直後から質問攻めにあった。質問者は『南鳥』に乗りこんでいた蓉都殲撃工業集団有限公司の技術者たちである。通訳として中国共産党の政治委員たちもおり、衛士や周囲の整備兵たちは煙たがっていた。

 

「いかがでしょうか、弊社の殲撃は?」

 

 中でも目をつけられたのだろうか。

 牟田美紀少尉は西部方面司令官と直談判した担当者の連緯に声をかけられた。ダーク系のスーツに身を包み、営業スマイルを浮かべる中年男性に、衛士強化装備の姿のままの牟田美紀少尉は曖昧な笑みを浮かべた。

 そして遠慮なく言った。

 

「FC-1閃電よりも練習機の吹雪の方がいいです」

 

 偽らざる感想であった。

 牟田美紀少尉は高等練習機吹雪に搭乗した経験がある。FC-1と吹雪を比較すれば、携行弾数や稼働可能時間についてはほぼ同等。反応速度は遥かに吹雪の方が優っている。最高速度はFC-1が上回っているが、これは主機の問題であろう。主機を換装してしまえば吹雪に軍配が上がるはずであった。

 勿論、殲撃八型と比較すれば雲泥の差ではあるが――。

 

「正直、無理してFC-1を輸入するよりも、生産数に余裕があるなら主機を強化した吹雪を配備した方がいいと思います」

 

 連緯は表情を崩さないように注意しながら、FC-1をフォローする言葉を口にしようとした瞬間、その横に笠原まどか大尉が立っていた。

 

「……詐欺」

「……」

「……」

 

 笠原まどか大尉が言いたいのは「ぜんぜんF-16C相当じゃないじゃん」、ということだった。連緯たちの売り文句は安価かつF-16Cと同等の戦術機、であった。ところが実際に納入されたFC-1の性能は、F-16Cよりも劣るF-16A相当に過ぎなかったのである。

 

(それは、ねえ)

 

 沈黙したまま圧をかけてくる笠原まどか大尉を前に、連緯は言い逃れの言葉を口にしながら思った。

 

(本当にF-16Cよりも高性能だったら輸出できるわけがない……)

 

 1994年に部隊配備が始まった殲撃10型がF-16Cと同等の性能であり、それよりも安価ではあるが性能面で劣るからこその輸出用戦術機なのである。もしも売りこみ文句通りにFC-1がF-16C相当であれば、党は統一中華戦線に優先的に廻せと言うに違いなかった。

 

 衛士から聞き取った使用感はともかく、洋上発進の貴重なデータを不機嫌な笠原まどか大尉からもらい受けた連緯たちは割り当てられている艦内の部屋に戻った。

 

(夏露政治委員もなんか言われてるかなあ)

 

 連緯は椅子に座った夏露政治委員の表情を盗み見た。顔面に火傷の痕が残る彼女は、衛士上がりの政治委員である。戦功を挙げて党に注目され、政治委員に推薦されたらしい。誰かを陥れたり、政治力を振るったりしたような噂は聞いたことがなかったが、それでも連緯からすれば恐ろしかった。

 

「好かった!」

 

 当の夏露政治委員の第一声は弾んでいた。

 

「殲撃八型やF-4よりはいい、と評判でしたね!」

 

 それで部屋の雰囲気は多少良くなった。

 夏露政治委員もまた第12中隊の衛士から「不知火の方が」「吹雪の方が」と言われていたのだが、あまり気にしていなかった。FC-1を売りこむ先は未だに第1世代戦術機の運用を続けており、第2世代戦術機の導入計画がない、あるいはあっても資金難で頓挫してしまっている国家だ。高性能だが同時に高価であり、技術移転・権利問題がどうなるか不透明な第3世代戦術機の不知火、吹雪と比較されてもなんら問題はない。

 

(しかし)

 

 夏露政治委員は笑みを浮かべたまま、思った。

 

(安価なだけが取り柄の第2世代戦術機では、海外市場から早晩駆逐されるのは明白。安価な第3世代戦術機が登場すれば、FC-1の優位性は即座に崩れる)

 

 実際、その萌芽はある。

 スウェーデン製のJAS-39グリペンがそうだ。

 かなり小型な部類の戦術機であるが、その導入コストの低さは魅力になるだろう。

 

(が、党は第3世代戦術機の導入に見通しを立てられずにいる――盗むか、それとも共同開発を打診するか)

 

「今後もこの調子でいきましょう! データが取れ次第、次はスーダンです!」

 

 まあ焦っても失敗するだけだ。

 日本帝国大陸派遣軍に助けられたこともある。

 いまは善意5割、打算5割、陰謀はなしで販売してやろう。

 

 そう夏露政治委員は心に決めた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「以上のように九州戦線においてBETAは、地中侵攻を以て交通の要衝を遮断。加えて渡洋侵攻によって九州中部を衝き、西部方面隊に対して背撃を加えました。また四国戦線においては宇和島市内の港湾施設と前線司令部の至近に地中侵攻を実施しています」

 

 BETAの東侵に伴って帝国軍参謀本部は、東京から日本帝国本土防衛軍仙台基地へ移転している。その仙台基地の一角で、東敬一大佐は参謀本部の人間を相手に、九州・四国戦線においてBETAがみせた特異性を説明していた。

 書画カメラはBETAの地中侵攻によって、宇和島市内に開いた巨大な掘削跡を映している。

 

「そして宇和島市内に進出したBETAは光線級、重光線級を要塞級によって守るように布陣。光線級を叩かんと攻撃を試みた宇和島市内の戦闘で、第55師団の戦術機甲部隊は、要塞級に阻まれて全滅」

 

 書画カメラは続いて、俯瞰で要塞級の輪形型を映した。

 

()の要塞級、光線級はその後、港湾を一望できる高地への移動を開始。西部方面隊直轄部隊・第92戦術機甲連隊第3大隊第1中隊が光線級吶喊を実施し、同隊の全滅と引き換えに光線級の排除に成功しましたが――」

 

 東敬一大佐の眼鏡の奥にある瞳は、鋭くなった。

 

「BETAが“生態”による原始的戦術ではなく、明確な意図をもった戦略、戦術を駆使していることは疑いようのない事実と考えられます。その対応としましてはお手元の資料にまとめましたとおり、司令部の機動力向上、兵站の自衛戦闘力向上、RF-4前線偵察戦術機の機種更新……」

 

 西部方面司令官とともに東日本へ上った東敬一大佐が指摘したのは、BETAが戦略的・戦術的軍事行動を取っており、その対策が必要であるという旨であった。

 BETAは軍事的な戦略眼・戦術眼を有していない、というのが一般的な考え方だが、一部の将兵の中では優先順位が人類側の価値観と異なるだけで、実際には人類並みの思考があるのではないかという声も高まっている。

 東敬一大佐は正直いえば懐疑的な立場であるが、特殊な例にしても報告をしておくことは必要だと思っていた。

 

「西部方面隊が経験した特異なケースについては理解しました」

 

 東敬一大佐の発表が終わると、数名の参謀や将官が声を上げた。

 

「しかしながらBETAに軍事戦略・戦術を解し、運用する知能があるとは思えません」

 

「そのとおりだ。東大佐が報告してくれた事実を疑う余地はないし、提案があった対策については検討をしていくべきだろう。だが、戦術のセオリーを理解しているかといえば……」

 

「もしもBETAに軍事的な知識があるのであれば、なぜ彼らは無策にみえる物量ありきの戦術を採用しているのか。彼らはおそらく外宇宙からやってきた生命体であり、レーザーを実戦化している以上、曲射や、より近接戦闘に特化した属種を出してきてもおかしくはないではないか」

 

 そこで議場の最後方にいた昏い眼の男が割りこんだ。

 

「なぜBETAが物量ありきの戦術を採るか。それは単純な話だ。BETAの増産ペースが人類側による撃破ペースを上回っており、現状の戦術を転換する必要がないからだろう。73年から始まった地球上における我々の抵抗は、未だ彼らに危機感を抱かせるには至っていない、というわけだ」

 

 西部方面司令官は、無表情のまま大きな溜息とともにそう言った。

 彼のその様子と口にした内容に、議場の空気は悪くなった。

 東敬一大佐は慌てて「えー、BETAの増勢データ、人類軍の撃破数を正確に記したデータはありませんので……そこまでは……」と声を上げたが、帝国軍参謀本部運用第1課長(警備担当)の平尾秀和大佐は不満げに「根拠のない話だ」と吐き捨てるように言った。

 しかしながら西部方面司令官は怯むことなく、

 

「光線級の出現がその証拠だ」

 

 と言いきった。

 要は航空戦力で一方的に打撃され、BETAの個体増加数と被撃破数が釣り合わなくなったため、光線級が実戦投入された、というわけだ。裏を返せばそのあと(兵士級を除けば)新属種が現れないのは、人類側が相手にされていないからだと言いたいのだろう。

 そこで帝国軍参謀本部の大伴忠範中佐が声を上げた。

 

「兵士級はともかく、光線級は原種が捕獲されています。単に転用されただけであって、彼らは新しい新属種を投入しているわけではない。それに我々の抵抗がまったく相手にされていないとは思えません。現に西部方面隊は鉄原ハイヴや九州戦線において、最低限の損耗率で多くのBETAを撃破しているではありませんか」

 

「そのとおりだ。故に、私は九州戦線あるいは他方面戦線において、新属種が今後登場する可能性はあると考えている」

 

「ではその新属種、とやらにどう対応されるおつもりか」

 

 西部方面司令部を常日頃から快く思っていない大伴忠範中佐の口調には、棘がある。

 が、西部方面司令官は平然と「戦術機だ」と返した。

 

「人類の剣を鍛える。奴らが新戦術を試そうが、新属種が現れようが、戦術機をもって勝利する――そのために戦術機部隊の強化を図る。図り続けるのだ。でなければ……」

 

「でなければ?」

 

「人類は滅ぶ」

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