【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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(次回更新は1月20日を予定しております)



■本話登場人物紹介

【鈴木久実(すずき・くみ)】

 少尉。第92戦術機甲連隊第12中隊所属。コールサインはイツマデ9(28話)→イツマデ5で前衛小隊長を務める。同中隊の少尉の中では先任。
 九州戦線では戦死者の穴を埋めるように後衛小隊から前衛小隊にスライドし、激戦を戦い抜いた。鬼として知られていた前衛小隊長の中野将利中尉に背中を任されるなど、衛士としての技量は優れている(28話)。

【立沢健太郎(たてざわ・けんたろう)】

 中佐。第92戦術機甲連隊本部の幹部。
 連隊本部内では慎重な意見を唱えることが多い(18話・34話)。衛士畑出身ではなく、装備畑出身の幹部である。





■45.FC-1 閃電(4)

 次々と打ち上げられる弾薬用カーゴを、牟田美紀少尉は浜辺でただ茫然と眺めていた。

 ジャージ姿で彼女はただぼんやりと空を見上げている。

 戦争など別世界の出来事のように感じられる、のどかな風景。

 

(いや、のどかではないか。だってあのカーゴにはたくさんの砲弾とか、なんかが詰まってるんだから)

 

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊第1大隊第2中隊の面々に、休暇がふって湧いた。

 戦術機輸送艦『南鳥』が突如として機関不調を起こし、帝国海軍種子島基地に急遽入港することが決定したのである。艦載機のFC-1はやむをえず『南鳥』から帝国海軍種子島基地の海軍機用格納庫に移動。そして第12中隊の衛士たちは暇になり、第12中隊の面倒をみるべく付いてきた整備兵や警備兵、本部要員もまたチェックリストの確認を終えると暇になった。

 

「海水浴してえ」

 

 戦死した針みほ少尉の代わりに牟田美紀少尉の僚機・イツマデ3を務めることとなった村野欣也少尉は、三角座りで海を見つめながらタバコを吸っていた。

 

「このへん、サメとか出ないっすよねえ」

 

「入らなきゃ関係なくないですか?」と牟田美紀少尉は、彼の言葉に思わず突っこんだ。

 

 そう、海に入らなければ関係はない。

 そして海には入れない。

 万が一にも大丈夫だと思うが、ここ3、4か月の間、日本列島の全域でAL弾が使用されている。劣化ウラン弾、タングステン弾については言うに及ばずだ。第92戦術機甲連隊本部からは休暇中の遊泳は差し控えるように、と命令が出ている。

 

「……映画見たことない感じですか? サメ映画だと一気に浜辺まで食らいつきにきますよね」

「それ映画じゃん」

「いやーでもデカいやつだったら来そうじゃないっすか」

「……」

 

 村野欣也少尉は携帯灰皿に吸い殻をしまいこんだ。

 小柄な彼だが、F-5Cを装備した第21中隊で九州戦線を戦い抜いた猛者である。

 が、普段は気の抜けた雰囲気を漂わせている衛士だ。北海道出身で常々、南方の海に憧れがあったらしい。種子島到着直前は海が見たい、海に入りたいと何度もつぶやいていた。

 

「タバコ吸ったらコーヒー飲みたくなっちゃいました。牟田さん、コーヒー飲みます? 要るなら取ってきますケド」

「要らない」

「イツマデ4、イツマデ3了解」

 

 のっそりと立ち上がった彼は、自動販売機を捜索に出た。

 

 それから数分。

 しかしそばに他人がいなくなると、それはまた様々なことを考えてしまう。

 牟田美紀少尉は溜息をついて、立ち上がった。

 

 浜辺から離れた帝国海軍種子島基地の敷地内――その端で服部忠史大尉は太陽の下、タバコを吸っていた。

 置かれている煙缶を使っているのは、彼だけである。

 その表情は、厳しい。リラックスしている、というよりは何かを待っているようであった。

 

(BETAには戦略眼がある)

 

 それは身を以て知っている。最前線の後方、かつ交通の要衝である福岡県南部・大刀洗町が地中侵攻先となったのは、偶然ではないだろう。偶然ならば出来すぎている。そしてもしもいまこの瞬間、BETAが地中侵攻を仕掛けるとすれば。俺だったらどうするか。

 

(仙台か。あるいは――)

 

 思考が最悪の結論を出そうとした瞬間、鈴木久実少尉の声が飛んできた。

 

「服部大尉、花札(フダ)やりません?」

「やらん」

 

 小走りでやってきた鈴木久実少尉を、服部忠史大尉は即座に断った。

 

「鈴木、貴様はイカサマ――傷つけたガン札使っているな?」

「……」

「気づいてないのは32中の保科と、若狭くらいだ。あまり後輩をいじめるなよ。いまだからバラすが、中野も気づいていたぞ。気づいてて付き合ってやっていたんだろう」

「マジですか」

「ああ」

「それでは戻ったら保科と若狭に加えて新しいカモを調達いたします」

「反省してないな」

 

 鈴木久実少尉は花札で遊ぶのを諦めた。大尉が気づいているのならば、他の衛士や整備兵連中も気づいている可能性がある。あるいは今後、気づく可能性が高い。

 そうなると途端に、暇になる。

 

「服部大尉、もうそろそろ交代ですね」

「何の話だ」

「訓練計画ではもうすぐそこまで『大隅』が来ているはずですよ」

 

 確かに予定では、戦術機輸送艦『南鳥』と第12中隊はそろそろ引き揚げるはずであった。その代わりに渡洋攻撃訓練に実施する戦術機輸送艦『大隅』と殲撃八型から成る第23中隊が、本日中にこの帝国海軍種子島基地にやってくる予定である。

 

「次は第23中隊だったか。あいつらと花札をやってみればいい」

「イカサマがバレたら半殺しにされますよ」

「違いない」

 

 笑ってから服部忠史大尉は、急に真顔になった。

 

――ザッ。

 

 スピーカーに走るノイズ音。

 ああ、恐れていたものが来たか、と服部忠史大尉は思った。

 

 ……。

 

「こちらはCP、立沢だ――まずいことになった。東シナ海に敷設された海底・海上センサー類がBETAの渡洋侵攻の兆候を捉えた。現在の経路を維持するようであれば、BETA群は屋久島の北方を通過し、この種子島に着上陸する可能性が高い」

 

 FC-1に搭乗した服部忠史大尉は、連隊副官・立沢健太郎中佐の声を聞きながら、やはりか、と思った。

 

「知ってのとおり種子島は宇宙軍基地、海軍基地が整備されている東アジア最大級の軍事拠点である。単純に比較できるものでもないが、九州島を守って種子島をやられては――いや、とにかく種子島は重要拠点だ」

 

 西部方面司令官が九州の防衛に拘泥した理由は、噂では種子島宇宙軍基地にあるとさえ言われていた。確かに種子島、あるいは九州島南部を失陥して重光線級の進出を許すようなことがあれば、日本帝国航空宇宙軍の作戦は大きく制限されるであろう。

 

「現時点でのこちらの地上戦力は、種子島の第12中隊、『大隅』の第23中隊。また第11中隊が鹿屋基地に到着、現在補給を受けている。幸いにも東シナ海を渡るBETA群の速度は、通常よりも遅い。第11中隊は間に合うだろう。また鹿屋基地の海軍第7戦術機甲攻撃中隊もまた出撃準備を進めているが、こちらはわからない。他の増援があるかも不明だ」

 

 第12・第23・第11中隊。たった36機か、と牟田美紀少尉は思った。

 この種子島には戦車部隊も、砲兵部隊もいない。機械化装甲歩兵と自動車化歩兵から成る警備中隊があるようだが、こちらには期待してはいけないだろう。

 

 この種子島を守り抜けるか?

 

 一瞬、そんな疑念が頭をよぎったが、それを彼女は強気に否定した。

 

(この種子島には、島民だっているんだ――)

 

 いざとなれば第31中隊のように、刺し違えてでも全滅させてやる。

 

◇◆◇

 

 海底を東進するBETA群との戦闘は、洋上の山雲型駆逐艦『山雲』・同型駆逐艦『巻雲』・峯雲型駆逐艦『峯雲』・初雪型駆逐艦『白雪』による攻撃から始まった。

 

 山雲型駆逐艦・峯雲型駆逐艦は満載排水量3000トンに満たない小艦艇に過ぎない。

 が、その対潜能力は強力であった。

 安全圏から海中のBETAを一方的に攻撃できる対潜用ミサイル8連装アスロックに加え、ボフォース375mm対潜ロケットランチャーと324mm3連装短魚雷発射管を有している。

 そして初雪型駆逐艦『白雪』もまたアスロックと短魚雷発射管を備えている上、SH-60J対潜ヘリを1機搭載しており、極めて高い目標捕捉能力をもっていた。

 

 地上よりも海中のBETAは、移動速度が緩慢になる。

 鈍色の餓狼たちは縦長になったBETA群に併走する形で、アスロック、ロケットランチャー、短魚雷発射管を以て彼らを叩き続けた。

 海中で炸裂した弾頭は、衝撃波となって要撃級や戦車級の群れを吹き飛ばし、その四肢をバラバラに引きちぎってしまう。突撃級も例外ではない。致命傷には至らなかったものの、海底で転覆して身動きが取れなくなった個体や、吹き飛ばされた先で戦車級を圧し潰してしまう個体が続出した。

 

 並の技量の海軍であれば、対潜兵器が生じさせる大音響と海中に巻き上がる砂と死骸で目標を失探してしまい、第一次攻撃で終わってしまうことがある。

 ところが日本帝国海軍の駆逐艦隊はSH-60J対潜ヘリを駆使することでしつこく東進するBETA群を追跡し、第二次攻撃、第三次攻撃と激しい対潜攻撃を継続した。

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