【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【氏家義教(うじいえ・よしのり)】

 大尉。第92戦術機甲連隊第23中隊長。コールサインはプリズナー1。
 初登場は31話。問題を抱えた第23中隊をまとめあげるためか、戦場での言葉遣いは荒い。しかしながらTPOはわきまえるタイプであり、また部下、後輩衛士を助けることを躊躇しない人格者でもある。
 F-14Nを以て氏家義教大尉と対峙した菅井麗奈中尉は、彼が操る殲撃八型の挙動から武家(斯衛軍)の剣技を連想した(35話)。






■52.F-15AA(1)

 日本帝国に戦術機を売り込みたい勢力は、ごまんといる。

 

 その筆頭はスウェーデン王国と大規模な戦術機開発部門を有するサーグ社である。

 サーグ社はBETA大戦以前からジェット戦闘機ドラケンをはじめとする航空機メーカーとして名を馳せており、BETA地球襲来以降はダッスオー社と協力してJ-35ドラケンを、続けて第2世代戦術機としてJA-37ビゲンを開発した。

 

 しかしながらJA-37ビゲンは、北欧諸国やオーストリア陸軍といった諸外国への輸出に成功したJ-35ドラケンとは異なり、スウェーデン陸軍でのみの採用に留まった。

 その理由はJA-37がJ-35ドラケン以上に守勢作戦を重視した設計となったためだった。森林や山岳といった地形に身を隠した砲撃戦で敵を撃退する、という戦術に適するように設計されており、近距離砲撃戦・近接戦闘の連続となるハイヴ突入戦はまったく考慮されていない。

 F-5、F-16シリーズの比ではない小型・軽量級戦術機として完成したために、平野部における光線級吶喊も苦手であった。光線級吶喊は本照射を避けるため、大型種を盾に光線級へ突進する必要があるが、その際には近接戦闘が生起しやすい。

 ところが小兵のJA-37ビゲンでは、要撃級にさえ苦戦を強いられるのである。

 また小型・軽量化を突き詰めたことで、継戦能力も“祖”であるF-5未満となってしまっていた。

 補給用コンテナや補給拠点をあらかじめ数多く設置できる防衛戦ならば問題はないが、光線級の照射を掻いくぐった補給用コンテナに頼らざるをえない攻勢作戦では心もとない性能である。

 

 自国にハイヴが存在せず、山地を活かして立ち回れるスウェーデン陸軍はともかく、ハイヴ突入戦や平野部での決戦に臨む可能性がある諸外国軍事組織からすれば、JA-37ビゲンよりもF-16やミラージュ2000、ADVトーネードの方が魅力的に映ったことであろう。

 

 この反省を活かして、続く第3世代戦術機のJAS-39グリペンは完成した。

 軽量機、防衛戦に特化というコンセプトはそのままに、肩部や膝部に固定型ブレードを、両主腕に展開式のカーボンブレードを備えて不足している近接戦闘能力を確保。

 また第3世代の標準に至ったことで――つまりJA-37よりも優れたアビオニクスと機動力を有したことで、小柄であっても大型種との混戦に耐えうるまでのマルチロール戦術機にまで至ったのである。

 

 そうなると次にスウェーデン政府、サーグ社が望むのは対外輸出。

 

 しかしながら先の蓉都殲撃工業集団有限公司同様に、足がかりがなかった。

 サーグ社は諸外国の次期主力戦術機選定作業に次々と手を挙げるも、やはりJA-37のイメージもあってか敬遠されがちであり、また第1世代戦術機を運用している外国軍は順当に第2世代戦術機、準第2世代戦術機の採用を決めることが多かった。

 高度なアビオニクスを有するJAS-39は導入コストこそ第1・第2世代戦術機に劣らない破格の安さであるが、運用を継続する上でのランニングコストはかさんでしまう。“兄弟機”である不知火よりは安価だが、第2世代戦術機よりは高価。

 故にすでに市場を席巻している強力なライバルたちに競り勝つには、コスト面だけではなく、費用対効果の“効果”の部分をよりアピールしなければならなかった。

 

――こんなにいい戦術機なのに。

 

 サーグ社の関係者、アンナ・サミュエルソンは売りこみのために諸外国を飛び回り、そして徒労に終わるという2年間を経験し、すっかりしょげていた。

 そんな折、彼女のもとに一報が入った。

 

「日本帝国は、深刻な戦術機不足に陥っているらしく、どんな戦術機でもいいから欲しいらしい」

 

 そんなバカな、とアンナは最初こそ取り合わなかった。

 なにせ日本帝国は第3世代という概念を確立し、世界で初めて第3世代戦術機実戦配備を成し遂げた国家である。

 公然の秘密となっているがJAS-39は日本帝国からの第3世代技術供与を受けて誕生した戦術機であり、スウェーデン王国の一歩先を往く帝国ではすでに第3世代戦術機“不知火”が大量生産されていたはずだ。

 

「はあ!?」

 

 ところが少し調べてみると、噂は事実らしいことがわかった。

 日本帝国軍最精鋭といわれる92TSFRは欧州では博物館でも飾られていない英国製デファイアント攻撃機や、米国製第1世代戦術機F-8Eクルセーダー、また中国製の第1世代戦術機を運用している。

 鉄原ハイヴ漸減作戦や離島部の攻防戦で活躍しながら不知火を与えられていないのは、明らかに不知火の供給が追いついていないからに違いなかった。

 

「すぐ帝国へ行きます!」

 

 アンナ・サミュエルソンの申し出をサーグ社は快諾し、サーグ社の新たな営業活動を、スウェーデン政府は許可した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 与り知らぬところで騒動に巻き込まれている第92戦術機甲連隊はといえば、政争の類とは切り離されて平穏そのものであった。

 ただし業務量は確実に増えている。

 

「我々は夜明けに輝く明けの明星を待たず、絶望の闇を払う月光となろう」

 

 西部方面司令部からの命令の下、正式に望月作戦に参加することが決まった第92戦術機甲連隊では、園田勢治少佐が隊員たちの前でそう訓示をしたが、帝国日日新聞の記事のとおり御託では勝てない。

 第92戦術機甲連隊では整備兵はもちろんのこと、衛士以下全隊員が協力しての新戦術機の戦力化に注力することが決まった。

 

 現時点での第92戦術機甲連隊の勢力は、以下のとおりである。

 

 

 

■ 第92戦術機甲連隊:作戦機数(81機/定数108機)

 

● 第11中隊:F-14N(12/12機)

● 第12中隊:FC-1(12/12機)

● 第13中隊:MiG-29SEK(12/12機)

(※稼働機数は5機)

 

● 第21中隊:一時解散中

● 第22中隊:F-8E(12/12機)

● 第23中隊:J-8(9/12機)

 

● 第31中隊:一時解散中

● 第32中隊:F-5FS(12/12機)

● 第33中隊:F-4UK(12/12機)

 

 

 

 第92戦術機甲連隊本部では続けて以下のような方針を立てた。

 

○ 衛士・機体の補充が容易な第23中隊の定数を速やかに満たす。

 

○ 第13中隊のMiG-29SEKの稼働率向上を図る。

 

○ 第33中隊のF-4UKをA-10Cに更新するため、A-10Cの再整備を実施する。

 

 

 

「新規機体の取得は西部方面司令官の匙加減ひとつですからね……」

 

 と戦術機整備担当幹部の久野平太大尉は会議の場でそう漏らしたが、東敬一大佐も甚だ同感であった。

 西部方面司令官には気まぐれなところが多少ある(と東敬一大佐は思っている)。

 光州作戦以前は特にそうで、久野平太大尉は振り回されっぱなしであった。

 故に新規に導入される機体をアテにするよりも、まず手許にある予備機や非稼働機を計画的に戦力化していった方がよい、というのが整備畑の意見だった。

 

 かくしてまずは第23中隊が装備する殲撃八型の非稼働機の再整備に移ろうとしたところで「待った」がかかった。

 

「もはや第1世代戦術機では、BETAに抗しえないのは自明の理」

 

 第23中隊を取りまとめる氏家義教大尉が、東敬一大佐にそう直談判したのである。

 

「少なくともBETAとの近接戦闘が想定されうる近距離・中距離戦向けの戦術機は、準第2世代以上で揃えるべきです」

 

 連隊長室に響く声に、東敬一大佐は是とも否とも言わず表情も変えずにただただ聞き手に回っていた。

 

(氏家大尉の言は、正しい)

 

 今後、BETAが本格的に戦術を解するようになれば、第1世代戦術機で固めた中隊は早晩、手も足も出なくなるだろう。

 実際に種子島防衛戦では殲撃八型から成る第23中隊だけが3機の被撃墜機を出していた。それだけではなく、第23中隊だけが要塞級と光線級から成る敵陣を抜けなかった。逆に戦死者が3名で済んだのは、第23中隊所属衛士の練度と氏家義教大尉の指揮能力の高さを証明している。

 

「不知火を、とは申しません。しかしながら死地へ赴く衛士に――その技量に足るだけの剣を渡せないのは痛恨の極み。陽炎、あるいはそれに比肩する戦術機の配備を陳情いたします」

 

 東敬一大佐は、氏家義教大尉の気持ちがよくわかった。F-14Nが廻される以前、「不知火を」と西部方面司令官に直談判したこともあった――その代替として配備されたのはF-14Nノラキャットであったが。

 が、新規機体の調達は、西部方面司令官頼りである。

 東敬一大佐はここで何かを約束することはできない。

 

「それとも」

 

 ところが東敬一大佐の沈黙をどう捉えたのか、氏家義教大尉の口調は険を帯びはじめた。

 

「第23中隊を“懲罰中隊”のままに据え置くおつもりか」

 

 東敬一大佐は毅然とした態度を取り続けていたが、内心では溜息をついていた。

 

 西部方面司令官は衛士を選り好みする。

 北部方面隊や中国・四国方面に配属される予定だった衛士の引き抜きには積極的だったが、中部方面隊や東部方面隊からはほとんどしない。またどちらかといえば、本来ならば表舞台には出てこないはずの衛士を第92戦術機甲連隊に引っ張ってくるケースが多かった。

 

 そうなると後ろめたい経歴を有する者もまわってくる。

 

 第23中隊は23(つみ)の連想からコールサインが“プリズナー”であり、警備等の観点から本来ならば軍法会議にかけられるはずだった衛士たちを集中させているが、東敬一大佐は第23中隊を懲罰中隊として運用したことはなかった。

 

「氏家大尉。私は第23中隊を懲罰中隊だと思ったことはないし、全滅必至の作戦に投じた覚えもない。それは君がいちばんよくわかっているはずだ」

 

「ならば東大佐、どうか彼らに相応しい“剣”を」

 

 氏家義教大尉の瞳がぎらりと光った。

 

「この連隊は自由闊達としていて、かつ精強です。ゆえにそれに相応しい得物が必要なのです。いつまでも92(くず)連隊でいていい部隊ではありません」

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