【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■54.F-15AA(3)あるいはアララトの枝。

「空飛ぶ重戦車、A-10C見参」

 

「瑞サーグ社、戦術機供給の協力を申し出」

 

「統一中華戦線、ミラージュ2000-5提供を提案」

 

「米ロックウィード・マーティン、日米戦術機共同開発へ意欲」

 

「米議会にてF/A-14ボムキャット輸出承認」

 

「熊本に結集、人類の剣」

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後、仙台の帝国軍参謀本部で装備調達会議が実施されていた。

 といっても装備調達会議とは半ば儀式の名前でしかない。

 集められた主要幹部たちは分かりきっている結果に意見する気にもならない。

 さらに西部方面司令官が持ちこむ案件の数は多数すぎるため、この会議の場で噛みついても何の意味もない――時間を空費するだけである。

 

「茶番はやめていただきたい、西部方面司令官閣下ッ」

 

「大伴中佐、口を慎みたまえ。私を愚弄しても私は何も減りはしないが、貴重な時間は減っていく――国防装備調達本部長、案件【F-15A改良型の戦時緊急調達】のご説明をお願いいたします」

 

「はい。えー、案件【F-15A改良型の戦時緊急調達】につきまして、ですね。こちらは畏くも政威大将軍殿下がご認可あそばされております。加えて内閣もまた閣議にて調達を決定しております」

 

「いまさらF-15Aなどという鉄屑を購入してどうするというのだ!」

 

「それは貴官らがよくわかっているはずだが?」

 

「よ、よってですね。えー国防省装備調達本部といたしましては、案件【F-15A改良型の戦時緊急調達】に異論はございません」

 

「では議長、議決をお願いしたい――」

 

 結局のところ戦術機調達という一面においては、何も変わっていない。

 西部方面司令官は内閣に通じており、帝国軍参謀本部の頭越しに海外製戦術機の調達を閣議決定させてしまう。

 閣議決定がなされれば文官がひしめく国防省装備調達本部は、国会議員(せんせい)たちの決定だからとそれに従う。

 逆にこれに反旗を翻すことは、内閣と、閣議決定にいちいち口出しなどせずに追認する政威大将軍殿下に反旗を翻すのと同然、というわけだ。

 そして輸入された鉄屑は西部方面隊へ廻される。

 

 国粋主義者の大伴忠範中佐は歯噛みして悔しがった。

 西部方面司令官と繋がっていた作戦参謀らの排除はうまくいき、彼を失脚させるための作戦計画を立てることには成功した。

 が、調達関係は文官が絡むだけに難しい。

 

「では続いて案件【ミラージュ2000-5の戦時緊急輸入】につきまして――」

 

「では続いて案件【A-10C保守部品の戦時緊急調達】につきまして――」

 

「では続いて案件【JAS-39の戦時緊急調達】につきまして――」

 

「では続いて案件【MiG-29保守部品の戦時緊急調達】につきまして――」

 

 国粋主義の参謀たちは憤怒の形相で、腹はどうであれ表面的には中立の立場をとっている将官たちは無表情で、ただ西部方面司令官が持ちこんだ案件がすべて議決されていくのを待っているような形になっていた。

 

(大伴ら国粋主義者以外の本音は、わからぬな)

 

 議決の連続から成る会議を半ば聞き流している巌谷榮二中佐は、ちらと横目で他の参加者たちを見た。

 西部方面司令官を嵌めるための望月作戦の立案にかかわった帝国軍参謀本部・作戦計画部長の永原新一郎少将や、部隊運用部長の宮北正則中将などは明らかに反・西部方面隊の立場のはずだ。

 

 しかしながら彼らは表立って西部方面司令官を批判するようなことはしない。

 

(保身のため、だな)

 

 思いを巡らせているうちに、装備調達会議は予定されていた最後の案件の議決を終えた。

 やれやれ、と議長が会議の終了を告げようとしたとき、西部方面司令官が「あとひとつ」と挙手をした。

 瞬間、議場がどよめいた。

 

「最後に畏くも政威大将軍殿下に未だご奏上申し上げていない重要案件がございます。予定されていた会議時間も未だ余っているわけでありますし、どうか忌憚なき意見をお聞かせいただきたい」

 

 議長は上座の参謀総長にアイコンタクトを送った。

 

「よろしい。この場での案件追加提出を許可する。案件名称と内容を発表せよ」

 

「はい。それでは申し上げます。案件名は【軽量級火力支援戦術機の戦時緊急日米協同開発】です。こちらは帝国軍全体の数的優位、火力優位を確保するために94式不知火を補佐する火力支援戦術機を、F-16をベースに開発・配備する計画です」

 

 誰もが、顔を見合わせた。

 

「日本帝国第3世代戦術機として実戦配備された不知火に続き“2番目”の国産第3世代実戦配備機になれば、と愚考しております」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「JAS-39の輸出成約に!」

「祖国スウェーデンに」

「乾杯!」

 

 アンナ・サミュエルソンと駐日スウェーデン大使館関係者のグリーン・スヘーデルは装備調達会議の結果を知らされたその日、健軍基地内に設けられた客室で祝杯を挙げた。

 アンナが持ちこんでいた蒸留酒をショットグラスで飲み干す。

 肴はないがJAS-39グリペンの契約成立だけで、アンナもスヘーデルも満足であった。

 

 JAS-39グリペン、18機(中隊定数12機+6機)の輸出決定。

 米国製戦術機F-15シリーズやF-16シリーズの輸出機数と比較すれば10分の1にもならない数である。

 しかしながら0と1以降では話はまったく違う。

 これを足掛かりにすれば、諸外国への輸出も弾みがつく。

 

 勿論、良いことばかりではない。

 60日以内にJAS-39グリペン18機を技術面の助言が行えるスタッフとともに、西部方面隊八代基地に送り届けなければならないことになっていた。

 またスウェーデンとは異なる日本帝国の高温多湿環境でも、高い稼働率が維持できる改良型の開発も要請されている。

 それでもアンナは持ち前の楽天性でなんとかなるだろう、と思っていた。

 

「スヘーデルさんのおかげでうまくいきましたよ~!」

「いやいや、私は何もしてません」

 

 と、スヘーデルは謙遜したが、実際のところ彼女は本気でそう思っていた。

 

 実は西部方面司令官に会うなり、スヘーデルは開口一番に英語で

 

「本日は後輩たちに新たな剣を引き渡すために参りました」

 

 と啖呵を切ったのであった。

 

「80年代にJAS-39があれば、我々は国土を失うことはなかったでしょう」

 

「私が脚を失うこともなかったでしょう。当時の第1世代戦術機は、BETAに立ち向かうにはあまりにも貧弱だった。が、いまは違います」

 

「私は異国の傷痍衛士として、異国の後輩衛士たちにJAS-39を引き渡しに参りました。これは商談ではございません。否、といわれても八代基地に送りつける所存です」

 

 スヘーデルは紳士然としながらも熱い思いを抱いて、この任に就いていたらしい。

 西部方面司令官は興味がなさそうに「御託はいい」と受け流していたが、おそらくは心動かされるものもあったに違いない。

 故にアンナはスヘーデルこそ功一番であると思っていた。

 

「ところで」

 

 ショットグラスの注いだ酒を3杯ほど乾かし、酔いもまわってきたところでスヘーデルはアンナに聞いた。

 

「対日輸出されるJAS-39のタイプ名や愛称はどうなるんでしょうかね」

「あー。JAS-39AとかJAS-39Jじゃつまんないですよね。ただのグリペンっていうのもねー」

 

 実際、サーグ社は枠に囚われない符号や愛称をつけることがある。

 構想中のグリペンNG(New Generation)がその好例だ。

 

「今回の成約を成し遂げたアンナさんのご提案なら自由に通るのではないですかね」

 

 うん、とアンナは頷いた。

 

「それじゃあースヘーデルさんがタイプ名を、私が愛称を考える。どうですか?」

「いいですね」

 

 ふたりは4杯目のショットグラスを飲み干してから、考えついた案を口にした。

 

「JAS-39CB」

 

 最初に切り出したのはスヘーデルである。

 先行量産型のJAS-39AにもかかわらずCBとは常識外の符号の振り方だが、スヘーデルには並々ならぬ思いがあった。

 

「クロスとボーダーですよ」

「成程“越境”ということですね」

「ではアンナさんもそろそろJAS-39CB――最初の輸出機に相応しい愛称が考えついたのではないですか」

 

 スヘーデルが振ると、アンナもまた恥じらいなく言った。

 

「アララトグリペン!」

 

「アララト、ですか」

 

 アララトとは旧約聖書に登場するノアの箱舟が辿りついたとされる山のことだ。

 

 唯一神は堕落と闘争を続ける人々に失望し、彼らを滅ぼすべく大洪水を引き起こした。

 その折、ノアをはじめ選ばれた者だけがノアの箱舟で助かった。

 が、神が地上を洗い流すために起こした大洪水が一瞬で終わるはずがない。

 ノアの箱舟はアララト山に漂着して水が引くまで待つことになるのだが、箱舟の者たちすれば地表から水が引いたのかを直接確認する術がなかった。

 

 そこでノアは烏や鳩を放つ。

 そして鳩は枝を咥えて戻ってくる。

 100日を超える大洪水は終わり、水は引いたことがわかったというわけだ。

 

「希望を咥えて帰ってきて欲しい、って願いをこめてます」

 

 

「いいですね。しかし烏や鳩では非力すぎる」

 

「ですからアララトグリペン」

 

 アンナは笑った。

 

「アララト山の有翼獅子なんか、すごい強そうじゃないですか?」

 

 確かに、とスヘーデルもまた笑った。

 

 

 

 

 

 紺碧の海を越えたグリペンが、

 

 帝国に広がる群青の空を越えて、

 

 生命と希望とともに

 

 常に基地へ戻ることを

 

 祈るばかりである。

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