【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■57.多摩川の鉄砲タマちゃん!?(中)

(逆の立場なら恨むだろうなあ)

 

 土田大輔中佐はガンルームを背にしながらつくづくそう思っていた。

 

 彼らは、運が悪すぎた。

 外国製戦術機の活躍を許せぬ国粋主義の参謀たちが、うまいこと第92戦術機甲連隊の勢力を漸減できまいかと考えているときに、多摩川防衛線へ派遣されてきたこと。

 第35師団の戦術機部隊が数多くの光線級を撃破しつつも、あと一歩のところで後退を余儀なくされてしまい、光線級の駆逐が中途半端に終わってしまったこと。

 第92戦術機甲連隊に含むところはないが、新年を迎えるとともに一定の戦果を挙げたいと望んだ参謀総長ら軍高官の意思。

 

 すべてがピタリと嵌まってしまったわけだ。

 

 土田大輔中佐は国連や米国に嫌悪感を覚えているものの、西部方面司令部や第92戦術機甲連隊に敵意をもっているわけではない。

 確かに西部方面司令部は横紙破りを繰り返している。

 とはいえそれは多くの市民の救助に役立っており、彼らを批難する気にはなれなかった。

 が、彼自身は一介の中佐だ。

 庇いだてできるような立場にいるわけでもない。

 

 彼に出来ることといえば、帝国軍参謀本部・東部方面司令部に

 

「92連隊を利用して第1師団に戦功を挙げさせては。第1師団・第1戦術機甲連隊の最精鋭を抽出して協同させてはいかがでしょうか。33中隊が壊滅して1連隊が戦果を挙げればよし、33中隊が血路を拓くことに成功しても1連隊との協同戦果となります」

 

 と進言することぐらいだ。

 作戦の裏目的である「第92戦術機甲連隊第33中隊を最先鋒に据えて減勢させる」を揺るがすことはできないが、第1戦術機甲連隊といえば日本帝国が誇る最精鋭。練度が並の戦術機部隊を後衛に充てるよりは、第33中隊の生存率は上がるであろう。

 しかも真面目かつ清廉そのものという性格の沙霧尚也大尉ならば、仮に国粋主義の作戦参謀からA-10Cを見棄てるように圧力をかけられても、容易く跳ね除けてしまうに違いなかった。

 

 それでも数機のA-10Cは墜ちるだろう。

 

(A-10Cは見るからに鈍重そうだしな)

 

 土田大輔中佐も、発案者である国粋主義の作戦参謀らもそう思っていたからである。

 第92戦術機甲連隊第33中隊は前衛を担うと決まった時点で、もう戦死者が出ることは確定している。

 恨んでくれて構わんし、俺は謝らんぞ、と土田大輔中佐はつぶやいた。

 

(死んでくれ)

 

 それが命令をする者の責務だと土田大輔中佐は思っている。

 敵中に斬りこんで死ね、と言った者が、潔く憎まれなくてどうする。

 命令を出すということはその責を受くことであり、誰かに指弾されても、遺族に罵られても言い訳だけは口にしてはいけない。

 

「合成緑のたぬきはうまかったがな」

 

 合成緑のたぬきを見る度に、彼は第33中隊にまつわるこの一件を思い出すことになるだろう。

 

「……」

 

「いや、まずかったな……」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

(軍閥の対立ほど醜いものはない)

 

 沙霧尚也大尉はといえば、そんな思いで第92戦術機甲連隊第33中隊の面々と接していた。

 帝国軍人たるもの、帝国軍参謀本部からの命令には絶対に服従しなければならない。

 それはなぜかといえば、帝国軍参謀本部を統べる参謀総長は畏くも政威大将軍殿下が直々にご任命あそばされた親補職(しんぽしょく)である。

 つまり帝国軍参謀本部の命令をないがしろにすることは、政威大将軍殿下の御心をないがしろにすることに等しい。

 

 しかしながら現実はどうか?

 

 この次の作戦が第92戦術機甲連隊の減勢を謀ったものであることは明らかだ。

 沙霧尚也大尉個人としては、海外勢力に媚を売り、国内での伸張を助ける西部方面司令部のやり方は好ましいものではない。

 が、目の前の衛士たちが死んでいい理由にはならぬとも思っていた。

 

「ま、命令なら仕方がない――」

 

 ところが第33中隊の中隊長、五十嵐良則大尉は飄々と言ってのけた。

 彼からしてみればこの作戦は、合理的と理不尽の合間にあるギリギリのラインである。

 確かに瞬間火力に優れるA-10Cを前衛に据えて光線級への血路を拓く、というのは作戦としては“アリ”だ。

 加えて彼は、沙霧尚也大尉にひとつだけ依頼をした。

 

 ……。

 

 1999年1月3日は、はらはらと雪が降っていた。

 その雪中、24機の戦術機が起動する。

 

「ラビット。こちらCP、立沢だ。すべて手筈どおりにやってくれ」

「CP、こちらラビット1。了解した――連隊長からお年玉をもらうまでは死なん」

 

 五十嵐良則大尉機をはじめ、A-10Cがセンサーアイを輝かせながら曇天を睨む。

 天を衝くGAU-8アヴェンジャー。

 加えて中衛のB小隊機、後衛のC小隊機は両主腕に突撃砲を携えている。

 A-10の火力は、1機でF-4ファントム4機分の火力に匹敵するといわれているが、それが正しければいまこの狭い空間にF-4ファントム48機分の火力が存在していることになる。

 

「ランサーリーダー。こちらラビット1。こちらのタイミングでよろしいか」

「ラビット1。こちらランサーリーダー。……武運を祈る」

「それはこっちもだ――」

 

 その10秒後、六郷土手要塞の土手から12の巨影が飛び出した。

 一斉に手を振る稜線に潜む機械化装甲歩兵たちを背に、彼らは重力に曳かれて多摩川南岸に着地した。

 途端に高性能CPUと人間の存在に惹かれたか、廃墟から数十体の小型種が姿を現す。

 が、五十嵐良則大尉が直卒する前衛A小隊は突撃砲のバースト射撃で容易くこれを駆逐した。

 

「こいよ、バケモンどもッ!」

 

 そして第92戦術機甲連隊第33中隊は旧川崎競輪場まで進出。

 俯瞰すれば三角形――傘壱型(ウェッジ・ワン)の戦陣を固めた。

 

 目標は臨海部の工業地帯に潜む光線級の一団。

 当該エリアは高架や運輸会社の支社、倉庫など背の高い建物が密集しており、多摩川北岸からの砲撃はほとんど意味をなさない。六郷土手要塞からは6000m、旧川崎競輪場からは約5500m離れているため、第33中隊はもっと前進しなければならないが、五十嵐良則大尉は焦らなかった。

 

「予想通りだ――6時方向、要撃級100、戦車級500ッ!」

 

 まずは辺り一帯のBETAどもを誘い出し、掃討する。

 A-10Cが布陣した旧川崎競輪場の南側に広がるのは、突撃級に蹂躙されてスタンドが崩れた旧川崎スタジアム、旧市民球場、そして背の低い建物が連なる市街地。

 つまり射界が開けており、要撃級どもを迎え撃つにはちょうどいい。

 

 GAU-8アヴェンジャーが高速回転する。

 途端に、要撃級が木造住宅とともに虚空へ粉々になって吹き飛んだ。

 4階建てのマンションの外壁を這い下る戦車級の群れが、外壁ごと貫かれて体液をぶちまける。

 

(この局面で怖いのは突撃級だけっ!)

 

 後衛C小隊長の草水虹華中尉はそう言い聞かせて芽生えようとする恐怖心を踏み潰し、戦況図を見定めていた。

 彼女の機体は第92戦術機甲連隊第33中隊本部が放った小型無人偵察機と連接しており、周辺の監視にあたっている。

 ここまでは作戦通り。

 光線級が潜む臨海部方面からも次々と大型種が北上してくる。

 そして圧倒的物量を誇るBETA群の突撃は、第33中隊の圧倒的火力によって破砕されていった。

 

「ラビット1。こちらCPだ。旧県道101号線まで進出せよ」

「了解。ラビット1より各、旧101号まで前進する。続け!」

 

 怪獣映画さながらの光景。

 A-10Cの戦陣は主脚歩行でBETAの死骸を踏み潰し、体液の池を踏み越えながら、前進を開始する。

 この間も射撃は継続している。

 時速20kmで歩きながら周囲を破壊して進む鋼鉄の巨兵。

 立ち向かう生身の要撃級、戦車級たちは一指も触れることができないまま惨たらしく破壊されていく。

 

「こちらラビット1。旧追分交差点を確保。繰り返す旧追分交差点を確保」

 

 第33中隊は容易く旧県道101号線と旧富士見鶴見線が交わる旧追分交差点に進出。

 この交差点は六郷土手要塞から2000m離れた地点であり、先日光線級吶喊を試みた第35師団が残していった補給コンテナが散在しており、何機かは突撃砲用の機関砲弾を補給することができた。

 この旧追分交差点でも第33中隊は立ち止まり、向かってくるBETA群を撃退して個体数の漸減に努める。

 

 その後、第33中隊はさらに前進し、開業予定であった旧小田栄駅前まで到達――臨海部から要撃級や戦車級を引き剥がし続けた。

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