【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■58.多摩川の鉄砲タマちゃん!?(後)

 放置車両を踏み潰し、襲いかかるBETAを廃墟とともに粉々にしていく鋼鉄の怪物。

 旧市街地に残っていた可燃物に曳光弾が引火したのか、火柱が噴き上がる。

 燃え盛る火焔に、粉雪は一瞬で雨水に還った。

 

 旧小田栄駅前から血肉と煤煙で汚れた廃墟を縫って前進する第33中隊は、横浜ハイヴのメインシャフトから数kmの鶴見川東岸にまで至る。

 攻撃目標エリアまではあと約2.5km――戦術機の機動性と携行する突撃砲の射程を考えれば、もう目と鼻の先だといえた。

 

「お、始まったな」

 

 その光線級が存在すると目される臨海工業地帯に対して、MLRSによる長距離火力投射が実施された。

 瞬く間に高架や高層建築物の合間から破壊光線が伸びはじめ、227mmロケット弾のほとんどは虚空で燃え尽きた。

 が、それが狙いだった。

 光線級の本照射と排熱によって生じた水蒸気と周囲の膨大な熱量は、あまりにも目立ち過ぎる。

 

「ラビット1、こちらCP。光線級現在地の特定は完了した。ランサーが合流する」

 

 第33中隊が血路を切り拓いた六郷土手要塞から鶴見川東岸までの距離はわずか4km。

 

「ラビット1。こちらランサー1。あとは任せよ」

 

 しかしながらこの距離を多目的誘導弾を装備した12機の不知火が、戦闘を経ずに前進できた意味は非常に大きい。

 噴射地表面滑走――1機あたり32発の92式多目的誘導弾を備えた鈍色の不知火が、次々と第33中隊が築いた火力と屍体の防壁の後背に着地する。

 沙霧尚也大尉機はすでに光線級の位置を受信していた。

 

(想像以上に光線級の直掩個体は少ない――!)

 

 やれる、という確信とともに第1戦術機甲連隊選抜中隊は地を蹴り、南南西の工業地帯へ突撃を仕掛けた。

 

「さて、こっちももう一仕事かな」

 

 翔ける不知火の背を見送り、五十嵐良則大尉は小さく呟いた。

 彼、彼らの任務は未だ終わっていない。

 沙霧尚也大尉ら不知火の退路を確保するのもまた第33中隊の任務であり、むしろ六郷土手要塞からここまで進出するよりも、これからの方が厳しい戦いを強いられると覚悟をしていた。

 

 実際、そうなった。

 

「来ます」

 

 小型無人偵察機からリアルタイムで映像を受信していた後衛C小隊長の草水虹華中尉は、緊張とともに報告する。

 

(ゲート)N4からBETA群が出現、9時方向!」

 

 甲22号目標横浜ハイヴはフェイズ2。大陸のそれに比較すれば未だ小規模ではあるが、それでも発達した横坑と複数の門、そして万単位のBETAを抱えている。

 メインシャフトから数kmの位置で暴れ回っていれば、敵増援との交戦は当然考えてしかるべき事象であった。

 第1戦術機甲連隊選抜中隊が光線級直掩個体を抜き、誘導弾を発射して戻ってくるまでの数分間――第33中隊はこの増援と対峙し、押し留めなくてはならない。

 N4ゲートから湧き出した異形の群れ。

 そこから数十体の突撃級が突出する。

 

「こちらラビット1。分隊単位で散開(ブレイク)! 突撃級を躱せ!」

「了解!」

 

 旋回能力の低い突撃級は、装軌車輌や歩兵部隊はともかく戦術機の脅威にはなりえない。

 故に不知火の退路を守る、という意味では無理して撃破する必要はない。

 五十嵐良則大尉は突撃級を真正面から射撃して擱座を狙うというハイリスク・ハイリターンの選択肢を棄て、戦陣を解いて戦闘突撃を回避することを選んだ。

 けばけばしい黄緑の奔流。

 その“合間”に鈍色の巨兵たちは、身を滑りこませていく。

 

(生きた心地がしねえ――!)

 

 平林雅弘少尉は最先頭の突撃級を短噴射で躱し、2体目の突撃級を上方への跳躍で躱す。

 着地した先にも突撃級。これもまた横っ飛びのステップで躱した。

 鶴見川によって突撃級の速度が鈍っていることもあるが、A-10CはA-10Aとは異なる第2世代戦術機相当の機体――腕に覚えのある第33中隊の衛士たちは自機の反応の良さと機動性に助けられつつ、突撃級の群れを捌いた。

 そして今度は要撃級の群れに直面する。

 

「A小隊、再集合ッ」

 

 前衛A小隊が再び戦陣を組み、迫る白濁の海に向けて36mmガトリング砲の掃射を浴びせる。

 砲弾に衝突して弾ける血肉の波濤。

 だがBETAの増援は“海”だ。砕けても砕けても、BETAの波は押し寄せる。

 A小隊機のGAU-8アヴェンジャーが弾切れを起こすのが先か、要撃級が死に絶えるのが先か。

 

「ラビット1、こちらラビット2。アウト・アヴェンジャー!」

 

 平林雅弘少尉の網膜に投影される兵装ステータス、その肩部主兵装が赤く明滅する。

 それは自機の肩部弾倉が空になったことを示していた。

 が、平林雅弘少尉は慌てることなく、右手で緊急排除レバーを引く。

 

「こちらラビット1。ラビット・アルファは全機、近接戦闘!」

「了解!」

 

 GAU-8の砲弾払底など、予想済みの事象に過ぎぬ。

 前衛小隊機は肩部弾倉と肩部装甲の一部を切り離す。と同時に中距離砲撃戦に特化しているはずのA-10Cは、沙霧尚也大尉らから借り受けた近接戦用長刀と突撃砲を構え直し、大鎧を纏った武者と化した。

 

「デファイアントじゃできなかった芸当だ」

 

 五十嵐良則大尉はにやりと笑いながら、要撃級の突撃を受け止めにかかる。

 

 

 

――A-10の機動性は低い。

 

――見るからに鈍重そうな機体。

 

――敵地に出せば数機の被撃墜機は出るであろう。

 

 

 

 笑止。

 

 そこからは紙一重の攻防。

 

 前述のとおり、A-10CはA-10Aよりも軽量化が為されており、巨大な肩部弾倉を排除してしまえばむしろF-4系列よりも機敏に動ける。もともと背部兵装担架もなければ、ガンマウントを稼働させるためのサイドアーム自体とその機構もなく、その分だけ軽いのは自明の理。

 

 故に前衛小隊機は要撃級の衝角を躱し、反撃の一撃を食らわせ、集る戦車級をキャニスター弾で吹き飛ばし、それでも襲いかかってくる個体を文字通り鎧袖一触で破壊する。

 粉々になった戦車級の死骸が、後続の戦車級たちに降り注いだ。

 

 ハード・ソフトともに改修が施されて機動性が向上したことで、むしろ全身に凶器を備えたA-10Cは、密集近接戦闘に適した機体に様変わりしていた。

 脚部から胸部装甲にまで格納されている爆圧式の鋼槍――ジャベリンは、機関砲弾の雨をくぐり抜けた戦車級を貫いて組みつくことを許さなかった。

 そして未だ残弾に余裕のある36mmガトリング砲と、両主腕に突撃砲を携えたB小隊、C小隊は周囲の要撃級、戦車級の群れを薙ぎ倒し続けた。

 

 そして何事にも、終わりはやってくる。

 

「こちらランサー1」

 

 青いセンサーアイが、閃いた。

 途端に吹き抜ける新たな砲弾の突風。

 第33中隊A小隊に食らいつく要撃級の集団に、横合いから4機の不知火が斬りこみをかけ、瞬く間にこれを斬殺してしまった。

 

「ランサー1、こちらラビット1。仕事は終わったか」

「無論――退くぞ」

 

 沙霧尚也大尉機は74式近接戦闘長刀を振るい、刀身に纏わりつく血肉を一瞬で払った。

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