【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【黒月陣風(くろつき・じんぷう)】

 日本帝国斯衛軍少将。同軍大宰府基地・大宰権帥。家格は“赤”。
 カイゼル髭と燃え上がるような赤の戦装束がトレードマーク。豪胆な性格であり、斯衛軍の伝統として瑞鶴を駆り、最前線に立つことも多い(25話)。

【園田勢治(そのだ・せいじ)】

 少佐。第92戦術機甲連隊本部第3科・作戦担当幹部。
 第92戦術機甲連隊の戦術レベルの作戦は、彼が中心となって練られている。
 前線指揮能力も高く、決断力もある。ウイングマークを擁しており、八代会戦の折にはF-4EJ改を駆って八代基地の防衛に就いた。





■59.JAS-39CB アララトグリペン(1)

 1999年1月3日に実施された日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊と第1戦術機甲連隊による光線級駆逐作戦は、撃破推定個体数約2000、損害なしという戦果を挙げた。

 作戦自体がさしたる規模ではなかったため、彼我の戦略的状況を劇的に変えるまでには至らない。

 しかし一時的に横浜ハイヴ周辺における光線級の個体密度が極端に低下したことで、砲兵火力が通りやすくなったため、BETAの間引きを目的とする作戦がより効率的に実施できるようになった。

 

「土田中佐の献策どおりにしてよかったよ」

 

 第92戦術機甲連隊の減勢を図るという目的を達せられなかった国粋主義の作戦参謀たちは内心、期待外れであったに違いない。

 ただし第1戦術機甲連隊を作戦に絡ませていたおかげで、最低限の面子は保たれた。

 国産戦術歩行戦闘機の不知火から成る1連隊と、海外産戦術歩行攻撃機A-10Cの92連隊による共同作戦として報道発表がなされる予定であり、戦功を92連隊に独占されるという最悪の事態だけは避けることができた。

 実は当初、大伴中佐らは92連隊が参加した事実を伏せてしまおうとしたが、それはブレーキ役になりつつある土田中佐がとめた。

 

(んなことをしてみろよ、沙霧が黙ってねえだろ)

 

 清廉潔白を地でゆく沙霧大尉が真相を洩らす可能性は十分にあったし、軍閥対立によって生じる記事のタネに味をしめつつある報道関係者がこれをすっぱ抜けば大変なことになる。

 故に土田中佐は報道発表から第92戦術機甲連隊第33中隊の存在を取り除くことはしたくなかったし、合成緑のたぬきを馳走になったことと、彼らが挙げた戦果を思えば、心情的にその功を無碍にしたくもなかった。

 

 一方、旗色を明らかにしていない参謀たちは驚き半分、喜び半分といった面持ちであった。

 戦術機甲科の非出身者であってもA-10攻撃機について一通りの評判は聞いているので、まさか第33中隊の損害がゼロに留まるとは思ってもみなかったのである。

 また年始から帝都前面での攻撃的な防御作戦がうまくいったことを喜んだ。

 幸先が良い、というわけである。

 

 日本帝国本土防衛軍西部方面司令部は、といえば、A-10C攻撃機の整備と横浜ハイヴ漸減作戦“望月作戦”の準備を名目に、第92戦術機甲連隊第33中隊の引き揚げを命じた。

 

 望月作戦の発動は、5月上旬が予定されている。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「大変なことになりましたなあ」

 

 日本帝国斯衛軍大宰権帥(だざいごんのそち)黒月陣風少将は、八代基地にて東敬一大佐ら幹部と会食を行っていた。

 例のごとく彼らが口にしているのは、合成丸餅でできた雑煮であった。

 当局は国防省をはじめ関係省庁を総動員、民間企業と協力して、合成おせち料理のレシピを研究していたようだったが、試作過程で満足のいくレベルのものがなかなかできず、正月には結局間に合わなかったらしい。

 黒月陣風少将はやはりうま味という概念の乏しい汁を吸った餅を食べ終えてから、

 

「望月作戦は5月上旬、でしたかな」

 

 と確認した。

 

「はい」

 

 東敬一大佐ら幹部たちは、頷くほかない。

 現在のスケジュールでは5月上旬に西部方面隊が主体となる横浜ハイヴ漸減作戦・望月作戦を発動し、徹底的に同ハイヴが収容するBETAを狩ることになっていた。

 そして5月下旬には横浜ハイヴ攻略作戦“明星作戦”を発動する予定である。

 

 5月下旬の明星作戦の発動を予定している理由は、梅雨入りを嫌ったからだろう。

 日本帝国航空宇宙軍および国連宇宙総軍の軍事衛星は悪天候下でも問題なくその能力を発揮するが、それでも雨雲がないに越したことはない。また長雨によって災害が誘発され、兵站に負担がかかる恐れもあった。

 またもたもたしておれば横浜ハイヴの規模がフェイズ2からフェイズ3に移行し、攻略がより困難になってしまう。

 

 黒月陣風少将が大変なことに、と言ったのは望月作戦自体に対してではない。

 

 帝国軍参謀本部が立案した現時点での作戦計画は次のとおりである。

 

 まず日本帝国航空宇宙軍が衛星軌道上から偵察を実施。

 続けて日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊が多摩川防衛線から横浜ハイヴ方面へ攻撃を開始。地表の巡回個体を撃破して、メインシャフト北方のゲート周辺を占領する。

 その後、ゲートから出現するであろうBETAの第一次増援、第二次増援を待ち、これを殲滅。これを以て横浜ハイヴ内に収容されているBETAの過半数を無力化する。

 

 つまり望月作戦は実質的に日本帝国本土防衛軍西部方面隊一手で担う、ということになっていた。

 航空宇宙軍による軌道爆撃も、帝国海軍の巡航ミサイルによる長距離火力投射もない。

 国連太平洋方面第11軍や大東亜連合軍もこの望月作戦には参戦しないことになっていた。

 

 確かに方面軍単位が漸減作戦をやるのだから、特別な支援は必要ないという考え方もあろう。

 が、西部方面隊は望月作戦だけ考えていればいいわけではない。

 九州地方の防衛も引き続き任されており、94式戦術歩行戦闘機不知火を備えた精鋭戦術機甲師団である第4師団・第8師団は動かせない。

 戦車部隊や砲兵部隊から関東へ割ける部隊も限られている。

 にもかかわらず航空宇宙軍の軌道爆撃や帝国海軍連合艦隊の火力支援、帝国斯衛軍の戦術機甲部隊、国連太平洋方面第11軍と大東亜連合軍の増援は、すべて明星作戦に廻されることになっていた。

 前述のとおり国連太平洋方面第11軍司令部は、望月作戦の存在自体と使用兵力について疑義を差し挟んでいるが、帝国軍参謀本部は

 

「国土防衛を目的とした軍事作戦については干渉されない、というのが原則のはず」

 

 と突っぱねている。

 望月作戦に国連太平洋方面第11軍が参戦することは帝国に対する介入であり、先のとおり国連太平洋方面第11軍は、安保理が承認したハイヴ攻略作戦である明星作戦に参戦されたし、というのが帝国軍参謀本部の主張であった。

 

 が、これでは第92戦術機甲連隊は全滅必至ではないか。

 

「せめて斯衛軍だけでも望月作戦に参戦できぬか、と城内省には申し伝えたが……」

 

 黒月陣風少将は(こうべ)を垂れた。

 帝国軍参謀本部はいわずもがな。先の大戦で被った汚名を返上せんと息巻く城内省は、斯衛軍を明星作戦の最先鋒とすることを熱望している。

 斯衛軍の望月作戦参陣は、絶望的といってもよかった。

 

「しかしわれわれ大宰府警備隊は、貴隊に与力すると決めた」

 

「なんですと」

 

 今度は東敬一大佐たちが驚く番であった。

 冷静になっていただきたい、と園田勢治少佐が口を挟んだ。

 

「閣下の御心は嬉しい限りです。しかしながら城内省がそれをお許しになるとは、私には思えません。また大宰府は歴史ある要衝の地。その防衛の任を軽々しくお棄てになってはなりません」

 

 ところが黒月陣風少将は呵呵大笑してみせた。

 

「我らがお仕え申し奉るは、畏くもこの日の本におわす皇帝陛下と政威大将軍殿下のほかにおらぬ! かの御方からお許しを賜り奉れば、城内省が何事か口を相挟んでも無関係であることよ!」

 

「……」

 

「大宰府の名など、もはや有名無実。日ノ本が滅びて大宰府が残っても何の意味もなかろう。……まあ横浜へ下るための路銀は、西部方面司令部に用立ててもらうとするがな」

 

「閣下……」

 

 東敬一大佐は、低く頭を下げた。

 大宰府警備隊の陣容は1個戦術機甲中隊と平時は礼砲を専らとする58式105mm榴弾砲24門から成る砲兵部隊にすぎない。

 が、それでも心強い援兵であった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 幾ら作戦計画を秘匿していても、人の口には戸は立てられぬ。

 

 加えて悪事万里を走る、という諺もあろう。

 

 故に望月作戦と明星作戦は奇妙な展開をみせていく。

 

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