【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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次話更新は2、3日後となります。

また望月作戦の終了までタグに現在の92連隊の運用機体を列挙しようか検討しています。



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■60.JAS-39CB アララトグリペン(2)

「東欧州社会主義同盟・ポーランド陸軍海外兵站部のルドルフ・タンスキーだ」

 

 1999年1月、東欧州社会主義同盟から後方支援を専門とするスタッフと、MiG-29SEKのための部品が送られてきた。

 責任者はルドルフ・タンスキー少佐。

 母国語、英語、独語、そして日本語に通じた偉丈夫で、今回は自ら志願して第92戦術機甲連隊に対する支援任務に就いたのだという。

 ただし彼自身は技術者ではない――ポーランド統一労働者党に籍をおく政治将校である。

 MiG-29SEK稼働率向上作業の中心となるのは、ザルツィワ・アッシュ中尉以下の整備兵であった。

 

「地球の裏側からありがとうございます。本当に手を焼いてまして」

 

 頭を下げる戦術機整備担当幹部の久野平太大尉に、ルドルフ・タンスキー少佐はにやりと笑った。

 

「だろう? 我々もこの鉄屑には困っている。“シベリア”はMiG-29系列に見切りをつけている。東独がせっついてくれてはいるが。連中のザマをみれば、今後のアップグレードがどうなるかわかったものじゃない。ウチではコイツをNATO規格に強化改修するか、F-16Cに置換するかという話になっている」

 

「“シベリア”のご批判とは、大胆ですね」

 

「武力で他国を従えた連中が、その武力を失えばあとには何も残らん。それに礼を言われる筋合いはない。俺たちも日本のやり方や海外製戦術機の中身を盗みに来たわけだからな。無論“見て”だが」

 

 ルドルフ・タンスキー少佐が申し出たのはMiG-29SEKの稼働率向上作業だけではなく、他機種整備作業の手伝いもやらせてほしい、ということであった。

 これについては久野平太大尉も即答できず、上へ伺いを立てることになったが、実のところ同様の申し出はかなり多い。

 日米安保条約破棄以前は米海軍関係者が出入りすることは少なくなかった。

 現在はスウェーデン王国サーグ社の人間がJAS-39CBの整備・運用方法のレクチャーのために八代基地に留まっており、同時にスウェーデン陸軍関係者がJAS-39CBの搬入作業にかこつけて基地内を見て回っている。

 また噂では西部方面司令部に対し、蓉都(ようと)殲撃工業集団有限公司の監察役となっている中国共産党政治委員の夏露から「次作戦では人民解放軍から整備兵を派遣しましょうか!?」と提案があったらしい。

 

 夏露の内心は海外製戦術機の機構はどのようなものか知りたい、という打算が半分。

 

 そして統一中華戦線・中国共産党の“威信”FC-1を最大限サポートしたいという思いが半分、といったところか。

 

 単純に整備兵の頭数が増えることは、第92戦術機甲連隊整備補給隊としては願ってもない話だが、機密・技術漏洩の可能性や第92戦術機甲連隊に戦術機を提供しているメーカー側が他国軍出向者をどう思うかなど、問題は多い。

 いずれにしても久野平太大尉が判断できることではなく、彼はすぐに目前の問題――A-10Cの修理準備にとりかかった。

 

 多摩川防衛線に派遣された第33中隊のA-10Cは全機分解整備に出し、3月末には帰隊となることが決定している。

 分解整備先は、鹿児島県川内市にある大空寺グループ・大空寺重工川内工場である。

 大空寺重工はA-10攻撃機を開発・製造したフェアチャイルド社と提携しており、在韓米軍が運用していたA-10Cの保守作業を請け負っていた時期があるため、第33中隊機の大規模整備作業にはうってつけであった。

 

 手隙となる第33中隊の衛士たちは連隊本部の幹部とともにA-10Cの運用方法の研究や、問題点の洗い出しを行うことになった。

 衛士からのA-10Cに対する評価は概ね良好であったが、共通して問題視された面が1点だけあった。

 

「デファイアントは突撃級を真正面から確実に撃破できたが、A-10Cはそれができない」

 

 中隊長の五十嵐良則大尉でさえ、突撃級の正面生体装甲を破れる火力を欲した。

 はっきり言って、今回の作戦で被撃墜機が出なかったのは奇跡だといえた。

 河川の存在とA-10Cの機動性を念頭においても、再び突撃級の攻撃を全機が回避できるとは思えない。

 

「真正面から突撃級の殻を撃ち抜ける、といえば欧州の大口径支援砲しかない……」

 

 報告を受けた幹部たちは唸った。

 突撃砲に備えられた120mm弾でも撃破は可能だが、弾倉には6発しか装填できない。加えてA-10Cは通常の戦術機とは異なり副腕がないため、マガジン交換は主腕を使うしかないのだが、そうなると突撃砲の両腕保持は諦めることになる。

 対要撃級、戦車級には36mmガトリング砲で事足りるのだから、今度は突撃級や要塞級を念頭においた、より装弾数の多い大口径中隊支援砲を求めるのは当然だといえた。

 

「と、お困りだという噂を聞きましてね」

 

 その数日後、“大空寺重工営業部 特命商品アドバイザー 西人志”の名刺を持った男が第92戦術機甲連隊本部を訪ねてきた。

 

 

 

「やっぱり真正面から突撃級を撃破したいなあっと思いますよね?

 私も大陸派遣軍にいたころですねえ、あの装甲に悩まされました。

 突撃級の正面装甲って120mm砲で撃っても弾かれたりするんですよねえ~。

 

 そこできょうはこちら!

 じゃじゃあーん!

 

 大空じるし“つらぬく! 203mmれんたくん!”です。

 

(大空寺重工製203mm大口径連隊支援砲)

 

 こちらのVTR、ご覧ください。

 

 この要塞級の外殻。

 分厚いですよねえー36mm弾で撃っても……。

 

 あら、まったく、効き目がないっ。

 そこで203mmれんたくんならほーら簡単。

 いいですか、ご注目。いきますよ?

 

 ほらこんなにぽっかり穴が空いちゃいましたあー!

 

 はい、続けて突撃級の外殻。

 

 瞬き禁止でご覧ください。いきますよ?

 

 ほらこのとおり!

 

 突撃級の高速突撃、衛士のみなさんは慌てちゃいますけど、203mmれんたくんならあのデッカい体に向けて引き金を引くだけ!

 

 それだけで重金属入り突撃級(デストロイヤー)が簡単にできちゃうんです」

 

「……西部方面司令部の方にあたっていただければ、と思います」

 

 

 

 大空寺重工は国防省と取引のある国内企業としては変わり種だ。

 機械化歩兵装甲など堅実な装備品もある一方で、

 

 試製近接戦闘用爆圧式戦杭(パイルバンカー)(ぱい)るくん”

 試製近接戦闘用鉄鎖(てっさ)“ゲキシンハンマー”

 試製有線型遠隔無人攻撃機

 米国製高出力化学レーザー改修型JAL-1“メガワットン”

 試製180mm自動擲弾砲“玉屋”

 

 など一風変わった兵器を開発していることでも有名である。

 新機軸、大口径、大威力――浪漫ともいうべき代物ばかりだが、いかんせん採用されることは少ない。

 

 

 

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(てつ)(くに)連隊に配属となり、光栄です!」

 

 前述のとおり、JAS-39CBを装備する第31中隊は第3世代戦術機不知火に慣れ親しんだ衛士か、実機訓練を吹雪で終えた新人衛士で編成することとなっているが、そこで第92戦術機甲連隊関係者を困惑させる出来事が起きていた。

 94式不知火を駆ってきた熟練・中堅衛士はともかく、訓練を修了したばかりの新人たちは、鉄屑と渾名されてきた92(くず)連隊への配属をなぜか心底喜んでいたのである。

 

「父っちゃー! 92連隊さ配属になった!」

 

 新品少尉たちはやる気満々であり、サイウン4――比氣恵名少尉は公衆電話で東北の実家に嬉々として連絡を入れたほどであった。

 

 対照的に複数回の実戦経験がある少尉や、小隊長を務める中尉らの表情は厳しい。

 その理由は第92戦術機甲連隊に配属されたから、ではない。

 

「八倉中隊長、まずいですよ」

 

 後衛C小隊を率いる古野義一中尉の言葉に、八倉世理子大尉はわかっている、と返事をした。

 新編された第31中隊は過半数が衛士訓練課程を修了したばかりの少尉から成る。

 JAS-39CBの慣熟訓練、小隊戦闘・中隊規模での小隊連携訓練、戦場での振る舞いを覚える……。

 やらなければならないことは、山積している。

 

 望月作戦まであと約4か月である。

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