【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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次回更新は2、3日以内を予定しております。

また当話以降、本格的に始動する新戦術機開発計画は後のXFJ計画とは競合いたしません。

ボーニング社の協力を得て不知火弐型の開発も史実と同様に進展いたします。

ただし不知火弐型の完成と生産は西部方面司令官が念頭においている最終決戦に間に合わない可能性があるため彼は不知火弐型の開発を後援することは(現状)ない形です。



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■63.JAS-39CB アララトグリペン(5)

 

 

 

 

 

 

 

 

――XF-2計画。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1999年2月某日。

 日本帝国本土防衛軍西部方面司令部において行われた西部方面司令官、帝国技術廠関係者、光菱重工、富嶽重工、河崎重工ら帝国企業関係者、旧ゼネラルダイノミクス社戦術機開発担当者による初回の打ち合わせのあと、巌谷榮二中佐は複雑な心境で仙台へ戻っていた。

 

 XF-2計画とは、西部方面司令官が先の会議にて触れた案件【軽量級火力支援戦術機の戦時緊急日米協同開発】の下に動き出した戦術機開発計画の通称、である。

 

 コードが“XF-2”である理由は、94式戦術歩行戦闘機不知火を日本帝国における“1番目”の第3世代実戦配備機(97式吹雪は高等練習機)に見立てた際、これが“2番目”となるからであった。

 計画自体は未だ研究段階であり、開発自体は本格化していない。

 とはいえあの会議のあと、畏くも政威大将軍殿下がご認可あそばされており、同時に閣議も通っている――あとは実際にモノになるか、というところであった。

 

 しかしながらすでにポンチ絵は完成していた。

 

 その外見は端的にいえば、F-16C――。

 

 ただし94式戦術歩行戦闘機不知火と同規模にまで大型化したF-16C、である。

 

「外見こそF-16Cですが、実際には機体構造の50%以上に94式戦術歩行戦闘機不知火の部品が使用される予定です。ですから日本企業による生産は容易。F-16Cのコストパフォーマンスと94式戦術歩行戦闘機不知火の整備性の高さ、そして両機の戦闘力を併せもつ支援戦術機となります」

 

 ロックウィード・マーディンに売却された旧ゼネラルダイノミクス社戦術機開発部門の人間――ジョー・オ・フィッシャーは立て板に水、XF-2の特徴を語った。

 

「【軽量級火力支援戦術機の戦時緊急日米協同開発】において要求されているのは、

 

①92式多目的自律誘導弾ランチャーを4基装備可能であること(16発×4基)。

 

②あるいはS-11弾頭を搭載可能な地対地・地対艦誘導弾4発を携行可能とすること。

 

③ランチャー投棄後も94式不知火と同等の戦闘能力を保証すること。

 

 私どもの試算ではこの機体規模でクリアが可能であるはずです」

 

 カナダ系米国人のジョー・オ・フィッシャーはその後も現段階で見込めるXF-2の性能とメリットを10分ほど語り続けた。

 その後に訪れたのは沈黙、である。

 やむなく巌谷榮二中佐は挙手をした。

 

「ジョー氏の気分を害してしまうかもしれませんが、前提を覆しかねない根本的なことについてこの場で述べさせていただきたい。司令官閣下、なぜ不知火の純改良によって火力支援戦術機としてはいけないのですか」

 

 巌谷榮二中佐はまるで国粋主義者のような発言だな、と自嘲しつつ、聞かずにはいられなかった。

 国産技術の粋を結集した純国産戦術機に行き詰まりを感じつつある彼であるが、さりとて不知火とF-16のクロスオーバーを無抵抗に容認するほど、海外由来の技術に飢えているわけではない。

 むしろ94式不知火の開発のために骨を折った光菱重工、富嶽重工、河崎重工のことを思えば、94式不知火の改良によってではなく、F-16Cに不知火に用いられている技術と部品を組み込んで新戦術機を開発・製造するという発想は許されるものではなかった。

 加えてこの開発計画が進んでいけば、94式不知火に用いられている帝国由来の技術が、ロックウィード・マーディンに渡ることになりかねない。

 

「司令官閣下、お答えください」

 

 西部方面司令官は相変わらず昏い瞳で、一同を見やった。

 

「私も純国産戦術機である不知火の改良作業に異存はない。不知火は優れた主力戦術機であり、ぜひ私としても応援をしたいと思っている」

「ならば」

「が、それでは間に合わぬのだ」

「何にですか」

「人類の存亡を賭けた最終決戦に、だ」

 

 西部方面司令官はこの2、3年の間にそれが生起すると断言した。

 が、巌谷榮二中佐からすれば納得できるものでは到底ない。

 故に西部方面司令官は「いずれにしろ」、とこの場を力で押し通す。

 

「これはこの国の決定だ」

 

 再び訪れる沈黙。

 

「日本側の皆さんの思うところは理解できます」

 

 続いてそれを破ったのは、ジョー・オ・フィッシャーであった。

 

「要は日本製戦術機に用いられている技術が漏洩する、あるいは拡散するのを恐れていらっしゃる。一部をブラックボックスとしていただいても、私どもは構いません。我々は決して不知火に用いられている技術を盗用いたしませんし、流出もさせません。信ずる神に誓ってもよろしい。しかし巌谷中佐には大変失礼ですが――」

 

 ジョー・オ・フィッシャーの青い瞳が、巌谷榮二中佐を映した。

 

「盗みたいと思えるような帝国由来の戦術機系技術は我々にはひとつもありません。日本技術は、我々には要らないのです。故に何も心配されることはありません」

 

「……」

 

「帝国の技術を貶めているわけではございません。ただ戦術機に求める能力の日米間の意識、両軍双方の軍事ドクトリンが違いすぎるのです。弊社で開発と先行量産計画が進行としているF-22と、近接戦闘の連続であるハイヴ攻略戦を意識した不知火をイメージしていただきたい。故に米国政府も米国軍も米国企業も、日本帝国の技術を必要とはしていない、というわけです」

 

「成程」

 

 彼の言葉が信用に値するかはわからないが、巌谷榮二中佐はうなずいてみせた。

 と同時に横目で居並ぶ国内企業関係者を見やる。

 意外にも光菱重工、富嶽重工、河崎重工ら帝国企業関係者は、いっさいの反発を抱いていないようにみえた。

 

 彼らは現実を知っている。

 まず軍需産業がもたらす利益は想像以上に少ない。それでも帝国軍に戦術機を送り出すのはそれが国家に対する“御奉公”であり、また帝国防衛の一翼に担っているという覚悟を固めているからだ。

 しかしながら日本帝国の戦術機事情は、覚悟だけではどうしようもない状況に陥りつつあることに彼らは気づいていた。

 以前より東南アジア諸国への軍需工場の移転は進められてはいたものの、中国・四国・近畿・中部地方が壊滅したことで帝国国内の主となる工業地帯・地域は消滅。取引のある中小企業もまた吹き飛んでしまった。

 

 つまり単純に日本帝国の工業力が供給する戦術機部品の総量自体が、目減りしてしまっている。

 工業原料を扱う外国企業の中には凋落する日本帝国の足元を見るような輩も現れ始めており、そうでなくとも東南アジアでの生産が主となった軍需物資はすべて海運頼み。

 94式戦術歩行戦闘機不知火1機あたりにかかるコストは、今後高くなることさえあれど、安くなることはない。

 

 日本帝国製戦術機にかけてきた矜持はある。

 膨大な時間と労力を注ぎこんで完成した94式不知火を蔑ろにはしたくない。

 が、矜持と辛苦の結晶にこだわって日本帝国が滅ぶのであれば――。

 

「フィッシャーさんに2点、確認したいことがあります」

 

 手を挙げたのは光菱重工の関係者だった。

 

「なんでしょう」

 

「まずXF-2に用いられる予定の94式不知火の部品は、御社の工場でも生産・供給が可能であるのか。またXF-2に50%以上が94式不知火の部品ということは、40%以上がF-16Cのパーツということになります。こちらの大量安定供給を約束していただけるのか。逆に我々がF-16Cの部品をライセンス生産することも可能なのか」

 

「もちろんです」

 

 ジョー・オ・フィッシャーは即答した。

 

「弊社と御社――というよりも帝国は利益を共有できます。米国政府は戦術機関連予算を削減し続けており、我々はいかなる手を使ってでも海外で生き残りを図らなければならない。あなたがたはロックウィード・マーディンからの部品供給を受けることができ、自前で生産しなければならない部品量が減る。我々はXF-2のみならず、94式不知火用の部品を大量生産することになっても異存ございません」

 

 飛びつくこともなく顔色さえも変えず、帝国企業関係者は押し黙っている。

 しかしながら、そこに希望を見出していた。

 94式不知火と帝国の命脈を保つためならば、魂も売り渡そう。

 どうせ第3世代戦術機に供された基礎技術はすでに国際政治の名の下で欧州連合に渡っているのだ。

 

 沈黙を是とみたジョー・オ・フィッシャーは畳みかける。

 

「F-4ショックの悪夢を思えば国内供給にこだわるのも理解できますが、残念ながらF-16Cは当時のF-4ほどに需要があるわけではございません」

 

 そして、と彼は言葉を継ぐ。

 

「私の故郷は大量破壊兵器によって蹂躙されました。それは当時としては致し方ないことでした。が、いまは違います。2度目は絶対に許されないのです。つまりこれは利益のためだけではありません」

 

 宇宙の深淵じみた昏い、それでいて青い瞳を彼はしていた。

 

「人類防衛のためです」

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