【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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次回更新は2、3日後を予定しております。

次回からは望月作戦です。

しかし横浜ハイヴって子安駅のあたりだったんですね。
(横浜駅のあたりだと思っていました)



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■64.JAS-39CB アララトグリペン(6)

 日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊が主力を担う望月作戦は、帝国軍参謀本部の国粋主義者たちが思い描いた絵図から乖離していた。

 

 まず帝国斯衛軍大宰府警備隊の参陣。

 これは畏くも皇帝陛下および政威大将軍殿下がご認可あそばされたため、帝国軍参謀本部の作戦参謀たちも認めざるをえない。城内省に抗議すらできない。第二次世界大戦後に形骸化が進んでいるとはいえ、軍政は政威大将軍殿下がご統帥あそばされることが原理原則である。

 

 続いて韓国義勇市民戦闘団の受け入れ。

 これは外務省がねじ込んできたものである。

 要は韓国政府に貸しのひとつも作ってやろう、というところであった。

 また韓国義勇戦闘団のスローガンのひとつに

 

「救民中将の恩義に報いるべし」

 

 が掲げられたことが、一部の国防省関係者と高級将官の琴線に触れた。

 国連との関係に配慮して名前こそ出されなかったが“救民中将”とはすなわち、刑場の露と消えた彩峰萩閣陸軍中将であることは明らかであった。

 

「どこに戦術機と戦車をもった市民がいるんだよ」

 

 と、土田大輔中佐は呆れたが、後の祭りだ。

 当初、韓国義勇市民戦闘団は第51戦術機甲大隊(実質1個中隊規模)とその後方支援部隊で構成されていたが、関東に到着する頃には済州島から掻き集められたM48主力戦車、韓国陸軍第7軍団から抽出されたM109 155mm自走榴弾砲(K55自走榴弾砲)、これを護衛する機械化装甲歩兵から成る機械化部隊に変貌を遂げていた。

 これらの部隊が出撃したことで済州島の防衛体制には当然空隙が生まれたが、これは元・在日米軍が吸収された在韓米軍司令部からの申し出で、米海軍艦上機部隊と米海兵隊が埋めることになった――要は間接的な望月作戦への協力となる。

 

 また事情は不明だが帝国情報省の介入で、日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊第12中隊機(中国製戦術機FC-1)の整備に、統一中華戦線から派遣された後方支援部隊が参加することになっている。

 よって機密保持等の観点から第12中隊は六郷土手要塞ではなく、要塞エリアの北方にある平和島公園周辺に整備キャンプを構えることとなった。

 

 そして最後に国連太平洋方面第11軍・第1戦術戦闘攻撃部隊A-01の参戦が決まっている。

 国外において敵個体数の漸減を図った薫風作戦や、国際協調が求められるハイヴ攻略戦とは異なり、国内における漸減作戦は自衛戦闘に位置づけられるため、作戦の主導権は日本帝国が主で、国連が従となる。

 が、オルタネイティヴ第4計画とその直属の第1戦術戦闘攻撃部隊A-01だけは、それを超越することができる。

 

 かくして望月作戦の陣容は固まった。

 

 それとは対照的に、本命ともいえる明星作戦の参加兵力と作戦計画は、迷走を続けている。

 その理由は参戦を期する勢力間の暗闘にある。

 

■ 日本帝国

■ 大東亜連合

■ 国連オルタネイティヴ第4計画派

■ 国連オルタネイティヴ第5予備計画派(米国)

 

 まず帝国政府が思い描く明星作戦は、関東以西にわだかまるBETAが横浜ハイヴへ増援に向かうのを阻止するため、近畿地方・東海地方に対する個体数漸減、陽動作戦からはじまる。日本海・太平洋上からの長距離砲撃で一方的に敵を打撃する。

 これは明星作戦成功後の本州奪還に向けた布石でもあった。

 続いて強力な水陸両用部隊を擁する国連軍が、横浜ハイヴ南方の神奈川県茅ケ崎市から逗子市一帯に強襲上陸を仕掛け、BETA群を横浜ハイヴから引き剥がす陽動を実施。

 そして最後に横浜ハイヴ北方から日本帝国本土防衛軍を主とする突入部隊を出撃させ、速やかに横浜ハイヴの反応炉を破壊する。

 

 大東亜連合は横浜ハイヴ南方への強襲上陸と陽動、横浜ハイヴ無力化には賛同したものの、冒頭の近畿地方・東海地方への攻撃は不要ではないかと疑義を呈した。

 そのための砲弾と火力プラットホームはすべて横浜ハイヴに対する攻撃に使われるべきであり、関東以西の増援については彼らが大挙長駆する前にすべてを終わらせてしまえばいい。またBETAの属種間の速度差から、BETAはバラバラになって東進してくるであろう。戦術機甲連隊から成る予備戦力を拡充しておいて、各個撃破すれば問題はない、というのが彼らの主張だった。

 要は日本本土の奪還に興味はなく、まずはハイヴ攻略に集中したいというわけである。

 

 国連第4計画派、第5予備計画派に共通しているのは、まず指揮系統を国連太平洋方面第11軍司令部、あるいは国連太平洋方面総軍司令部に集約し、全参加部隊を国連の下で統率したいというところであった。

 彼らの多くは朝鮮半島の一件から、日本帝国と大東亜連合を信用していない。

 明星作戦は人類の命運を賭けたハイヴ攻略作戦であり、国家に認められた自衛戦闘にはあたらない。1から10まで国連のコントロール下に置かれるべきだ、というのが彼らの主張であった。

 

 さらにその中でも第4計画派と第5予備計画派の間で対立が生じている。

 第4計画派は帝国軍参謀本部が提示した作戦の流れに異存はないが、使用兵力に注文をつけた。

 強力な水上打撃戦力を有し、水陸ともに長距離砲撃戦を得手とする米軍を陽動作戦に廻し、横浜ハイヴへの突入部隊は近接戦闘に長けた日本帝国本土防衛軍と第4計画が有する第1戦術戦闘攻撃部隊が担当すべし、という意見を述べている。

 これはもちろん、横浜ハイヴ内に存在するであろうG元素生産施設を米軍に占領されないためである。

 

 ハイヴ攻略に欠かせない絶大なる火力を有していることを背景に、国連の名の下で明星作戦への参加を周囲に承諾させた米国政府(オルタネイティヴ5)は、帝国軍参謀本部の作戦計画を根本的に覆そうとしていた。

 関東以西、横浜ハイヴ南方への陽動作戦は一切行わない。

 横浜ハイヴ北方から戦術機甲部隊を主力とする機械化部隊で長距離砲撃戦を挑み、第2次増援を確認した時点で新型爆弾を投下して、地表に出現していた多数のBETAを消滅させる。

 その後、国連軍(米軍)と日本帝国本土防衛軍を主体とする突入部隊が横浜ハイヴを占領する。

 つまり新型爆弾のデモンストレーション、G元素確保の双方を横浜でやってしまおうというのである。本土防衛軍の突入を認めるのは、国際的批判を躱すためと、G元素生産施設占領の場に居合わせれば、国連の権限で同施設を接収してしまえるからだ。

 

 翻って帝国軍参謀本部は、まず国連太平洋方面軍の下に指揮機能が集約されることに反発した。

 帝国議会は米軍が国連軍として参戦することで大荒れに荒れ、オルタネイティヴ4を後援する内閣も、明星作戦の主導権を国連に譲り渡したあと、オルタネイティヴ5推進派が力を盛り返して新型爆弾が使われてはたまらないため、横浜ハイヴ攻略作戦の進行は帝国軍参謀本部に手綱を握らせたいところである。

 また大東亜連合は国連に対して不信感を覚えたアジア諸国から成るため、国連に指揮権を譲り渡すのにいい顔をするはずがない。

 

 作戦計画の立案は暗礁に乗り上げた。

 悪辣なのは第5予備計画派に話をまとめるつもりがないことだった。

 正直なところ彼らからすれば、この作戦が迷走してもいっさい構わないのである。

 むしろ嫌がらせのために引っ掻き回し始めているきらいがある。

 

「作戦は5月下旬」

 

 西部方面司令官を失脚させるという政治のために立案されたがゆえに、望月作戦は非常にシンプルでわかりやすい。

 とにかくBETAを横浜ハイヴ直上で殺しまくり、生きて帰れば勝ち。

 G元素という“利”もなく、そのため第92戦術機甲連隊を救う、あるいは日本帝国の首都圏防衛線を好転させたいと思う正直者しか集まっていない。

 

「にもかかわらずこの有様か」

 

 明星作戦のグダグダぶりに、大東亜連合や国連軍に兵力を拠出している各国政府はむしろ望月作戦への参加を希望しはじめていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 F-15AAから成る第23中隊とJAS-39CBの第31中隊の異機種間戦闘訓練の後、両隊は共同の勉強会を開くことが増えていた。

 望んだのは第31中隊の新人たちの側であった。

 

「回避先は、次の場面を考えて選ぶこと!」

 

 第31中隊の実力者、望野更沙少尉はノウハウの提供を惜しまなかった。

 敵の攻撃を回避する際には、次の中隊連携、小隊連携を考えた先に身を置く。先の演習の射撃も、突撃級も同様。中隊長は攻撃を回避したあとは敵側面に反撃したいに決まっているのだから、それができるように動くべきだ、と彼女は言った。

 

(悔しいが、いまの俺の技量は不良品(こいつら)に劣ってる……)

 

 対する実方成也少尉ら新米衛士たちは熱心にメモをとっている。

 

「まずは斜め前か、横に跳ぶことを考えた癖をつけた方がいいよ」

 

 後方へ下がりながら引き撃ちの方が安全に思えるが、実際のところBETAは前方への追撃を得手とする。後方に跳んで100mを稼いだとしても、戦車級でさえ時速80kmで突っこんでくる。しかも複数で。

 つまり事態はあまり好転していない。

 一方でBETAはみな後退、急旋回が苦手だ。

 要撃級でさえ1対1の格闘戦であれば恐れるに足らず、である。

 

「望野少尉」

 

 勉強会がお開きとなった後、第23中隊の深川正貴少尉は望野更沙少尉を呼び止めた。

 

「なに?」

「親切ですね」

 

 深川正貴少尉の声色は、冷たさをはらんでいた。

 彼の中はそれを無駄な労力だと思っている。

 望月作戦は間違いなく、死地に立つことになろう――そこを切り抜けた者だけが戦場を縦横無尽に駆ける衛士になれる。対して何をしても駄目なやつは駄目、というのが彼の直感であった。

 そのあたりの感情の機微を感じ取った望野更沙少尉は笑顔とともに「それはどうかな」と切り捨てた。

 

「全員無事生還。それがいちばんでしょ?」

 

「……無理なこと、わかってますよね?」

 

「変なこと聞くけどさ、家族は無事?」

 

 全滅です、と深川正貴少尉は無感情に言った。

 

 感情を激してもBETAには勝てぬ。(ヒナ)と名前すら与えてやれなかった我が子の仇、と叫んでBETAを殺せるのならばそうしよう。そして前述のとおり、いまやそれは“当たり前”の事象。

 

 故に望野更沙少尉は動揺もせず、屈託のない笑顔を浮かべている。

 

「私もだよ。だから――」

 

 一瞬、深川正貴少尉は望野更沙少尉の笑顔の中に、狂気を見出したような気がした。

 

「だから私は92連隊のみんなを家族だと思うようにしてるわけ。家族だから助けてあげたいと思うのは当然。おかしくないよね?」

 

 後に深川正貴少尉が調べたところによると、望野更沙少尉は度重なる命令違反によって軍法会議にかけられるところを西部方面司令部に拾われたらしい。

 命令違反、というのは友軍機の救援のため、待機命令や退却命令を無視するような類のものだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

1999年5月“望月作戦”時:92連隊勢力

 

■ 第92戦術機甲連隊:作戦機数(96機/定数108機)

 

● 第11中隊:F-14N(12/12機)

● 第12中隊:FC-1(12/12機)

● 第13中隊:MiG-29SEK(12/12機)

 

● 第21中隊:一時解散中

● 第22中隊:F-8E(12/12機)

● 第23中隊:F-15AA(12/12機)

 

● 第31中隊:JAS-39CB(12/12機)

● 第32中隊:F-5FS(12/12機)

● 第33中隊:A-10C屠龍(12/12機)

 

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