【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■ 本話登場人物紹介

【豆枝幸路(まめえだ・ゆきみち)】
大尉。第92戦術機甲連隊本部・作戦担当幹部。
頭の回転は早い方。衛士上がりで八代基地を巡る攻防戦ではF-4EJ改に搭乗した(32話)。

【鈴木久実(すずき・くみ)】
少尉。第92戦術機甲連隊第12中隊所属。コールサインはイツマデ9(28話)→イツマデ5で前衛小隊長を務める。同中隊の少尉の中では先任。
鬼として知られていた前衛小隊長の中野将利中尉に背中を任されるなど、衛士としての技量は優れている。趣味はトランプや花札で平然とイカサマをする(45話)。

【服部忠史(はっとりただし)】
大尉。第92戦術機甲連隊第12中隊長。コールサインはイツマデ1。
BETAには戦略眼・戦術眼があると考えている衛士。乱戦の中でも状況を判断する能力があるが、戦場で他人を慰めるまで余裕があるわけでもない(28話・41話)。何らかの事情で、戦死すれば八代基地の墓に入るであろうと確信している(43話)。

【氏家義教(うじいえ・よしのり)】
大尉。第92戦術機甲連隊第23中隊長。コールサインはプリズナー1。
問題を抱えた第23中隊をまとめあげるためか、戦場での言葉遣いは荒い。が、部下や後輩を助けることを躊躇しない。対峙した菅井麗奈中尉は、彼の操る殲撃八型の挙動から武家の剣技を連想(35話)。実際、彼が修める剣術は煌武院家に関係があるらしい。






■66.発動、望月作戦!(後)

 最初の2、3時間の戦闘がワンサイドゲームとなった理由は、約4kmと極めて狭いエリアに100機以上の戦術歩行戦闘機と小型無人偵察機が一挙投入されたためである。戦術機甲部隊の機動力ならば相互援護など容易い距離でもある。構築された濃密な火網に対して、BETAは迂回や回避を試みずにただ突撃を繰り返し、そのまま落命していった。

 しかしながら逆にいえばこの狭い戦域に、数百体の光線級・重光線級が姿を現せばどうなるか。

 

「光線級の現在地です」

 

 第92戦術機甲連隊本部では第92連隊・韓国陸軍・斯衛軍大宰府警備隊の幹部たちが額を突き合わせていた。

 光線級は無秩序に散在するわけではなく、数体から数十体の群れとなって行動することが多い。

 そして複数個体が複数回に亘って砲弾へ本照射を実施することで放たれる熱量と、生じる水蒸気の塊(レーザークラウド)によって、その位置は特定可能となっている。

 

「まずは旧伊藤洋華堂・鶴見店の光線級小隊を叩きましょう。東側のマンションが目隠しになります」

 

 作戦担当幹部の豆枝幸路大尉の意見具申は、速やかに受け容れられた。

 

「弾種、97式――」

 

 無人機と戦術機の連携に万全を期すため、それまで榴弾を緩やかに発射するに留めていた砲兵部隊は、一斉にAL弾に弾種を切り替えた。

 帝国斯衛軍大宰府警備隊の砲兵部隊が放った97式105mm重金属発煙弾――要はAL弾――は狙い通りに鶴見川直上で迎撃され、濃密な重金属雲を生成する。

 くすむ青空。

 その下を、雷撃が閃いた。

 廃ビルの影から飛び出した12機のFC-1は一瞬で鶴見川を飛び越え、亀裂が走る外壁と破砕された窓が痛々しいマンションを盾に――そしてその南側から回りこむ。

 崩落した純白の百貨店、残骸の上に立っている瞳の群れをFC-1のFCSは確実に捉える。

 一斉に反応する戦車級。そして、40体の光線級。

 その瞳に映ったのは、鈴木久実少尉が操る鈍色の機体である。

 

「イツマデ・ブラボー、FOX2!」

 

 36mm機関砲弾が一帯を蹂躙した。

 直撃を受けて上半身を切断される光線級。

 炸裂した砲弾が撒き散らした破片を浴びて、体液を噴きながら廃墟から転げ落ちる光線級。

 向かってくる戦車級は瞬く間に瓦礫に縫いつけられていった。

 

「イツマデ1ッ――」

 

 が、これで終わりではない。

 

「――旧潮鶴橋交差点に光線級30ッ!」

 

 側方警戒を怠っていなかった後衛C小隊はわずか500m南方の交差点、崩落したマンションの合間に群れる光線級を発見した。

「チャーリー、突撃砲(ガン)! 誘導弾(ミサイル)!」と第12中隊の服部忠史大尉は命令を下す。

 30体程度の光線級にC小隊の誘導弾を使うのはもったいないかもしれないが、確実を期す。1個体でも本照射に移行されては、衝撃波と吹き荒れるプラズマの余波で複数機がやられるかもしれない。

 

「了解!」

 

 C小隊の4機は両肩部に備えられた16連装地対地ミサイルランチャーを斉射し、同時に突撃砲を連射した。

 30体の光線級は垂直に浮き上がった誘導弾を追随して空を仰ぐ。

 その状態で36mm機関砲弾の暴風を真正面から浴び、吹き飛ばされていった。

 

 と、同時にC小隊の頭上を膨大な熱量とプラズマが吹き荒れた。

 虚空で爆散する誘導弾。辺り一帯に炎を曳いた破片が降り注ぐ。

 

(む――!)

 

 服部忠史大尉は即座に状況を理解した。

 

「落ち着け。重光線級がミサイルを撃っただけだ」

 

 戦術機が装備する誘導弾は水上艦艇が装備するVLSと同様に垂直方向へ発射され、その後目標に向かうような仕組みになっている。

 故に垂直方向へ飛び上がった誘導弾は、遠方にいるであろう全高20mの大目玉に撃墜されてしまった。

 ただそれだけだ。

 

(光線級の相互援護――)

 

 連中がそこまで考えているかはわからない。

 が、高い捕捉能力、無限に思える有効射程、そして対レーザー加工が為されていない飛翔体ならば容易く撃墜してしまえる破壊力。

 この3つが揃っている以上、この戦域にいる数百の光線級は相互に援護し合えてしまう。

 しかしいまは考えるよりも行動が先だ。

 

「イツマデ各機、主脚走行(ラン)でマンションの東側へ。そこから渡河し、予定通りいったん補給拠点まで戻る!」

 

 ……。

 

 旧鶴見橋周辺においてシュペルエタンダールから成る第33中隊が、戦車級と要撃級から成る中衛集団を制圧する最中、旧鶴見市場駅周辺まで進出した第22中隊“バトル・シスターズ”のF-8Eクルセーダーが、36連装127mmロケットランチャーを斉射する。

 空中へ解き放たれる127mmロケット弾は一帯の全光線級の視線を集めた。

 途端に閃く光芒。

 光線級の正確無比の照射が弾頭を破壊し、重光線級の本照射は衝撃波によって直撃せずとも複数の弾体を無力化する。

 が、1個中隊12機で864発の127mmロケット弾は敵防空網を物量で押し切り、3割ほどが光線級の集まる旧花月園競輪場を直撃した。

 

 この隙を逃さずに2個中隊が鶴見川以西へ斬りこみをかけた。

 第11中隊のF-14Nノラキャットと、第23中隊のF-15AAである。

 前者は重光線級が進出しつつある旧鶴見大学付属学校。

 そして後者は旧鶴見駅周辺の光線級の駆逐と、旧横浜商科大学跡地に設けられたNE6ゲートを占領するための布石として、前線を押し上げることが目標である。

 

「くそったれ、砲撃支援がなさすぎるッ!」

「しゃーねーだろ! 俺らを殺すための作戦なんだからなッ!」

「オープンでごちゃごちゃ喋るなッ!」

 

 第23中隊のF-15AAは超低空飛翔で戦車級を吹き飛ばし、京急本線の高架を飛び越えて鶴見駅前ロータリーに突っこんだ。

 

「小型種に構うなッ! 赤蜘蛛なんざあとで振り落とせばいい!」

 

 氏家義教大尉は着地点にいた戦車級と兵士級の群れを轢き殺しながら接地する。

 飛び交う血肉と、体液で主脚部が汚れるのを気にせず、彼が操るF-15AAは副腕も合わせて3門の突撃砲を崩落した歩道橋の上に佇む光線級に向けた。

 光線級の照射膜が光り、予備照射が始まるが、それだけである。

 周囲でも続々と着地したF-15AAが光線級を始末していく。

 

「こちらプリズナー6! 旧花月園前駅方面からタコ助多数!」

「くそっ、中隊長(チュータ)! 線路の上から戦車級が降ってきやがるぞッ!」

 

 相手は光線級だけではない。

 旧鶴見駅周辺は突撃級や要撃級でさえ破壊し難い頑丈な高架鉄道と、マンション、雑居ビルに囲まれており、守りやすい地形となっているが、それだけに南方に続く大通りを要撃級が大挙して押し寄せる。

 さらに高架の上から次々と戦車級が出現し、衛士たちを苛立たせていた。

 そんな彼らを氏家義教大尉は一喝した。

 

「落ち着け! 各機、円壱型(サークル・ワン)へ移行、守りを固めつつ敵の漸減を続ける」

 

 ……。

 

「やはり国連軍は動きませんな……!」

 

 寄り合い所帯の司令部で、韓国陸軍大佐の金道春大佐は苛立たしげに言った。

 実のところ参戦予定の国連太平洋方面第11軍・第1戦術戦闘攻撃部隊――A-01を、彼らはアテにしていなかった。

 A-01が国連の秘密計画に直属する部隊であることは、知っている。

 故にこの間引きの段階では前線には出ない。

 出るとすれば、門に取りついたときであろうという確信があった。

 

 作戦開始から6時間が経過している。

 未だ第92戦術機甲連隊をはじめとする戦術機甲部隊は善戦を続けているが、圧されはじめてもいた。

 

 1時間前に旧森永橋から旧末吉橋までの一帯にかけて、要撃級と戦車級から成る旅団規模のBETA群が渡河した。

 これに対しては韓国陸軍第51戦術機甲大隊と帝国斯衛軍大宰府警備隊が頭を抑え、再補給を終えていた第33中隊(A-10C屠龍)が過半数を殲滅するも、未だ多くの戦車級が市街地に残っている状況だ。

 

 旧鶴見大学付属学校の重光線級を殲滅した第11中隊(F-14N)は、第23中隊が押さえていた旧鶴見駅前まで後退に成功。

 が、次は旧鶴見橋周辺に戦車級から成る旅団規模のBETA群が殺到したため、第32中隊(シュペルエタンダール)がこれを迎撃し、第11中隊・第23中隊は側面から戦車級の群れを攻撃――クロスファイアで殲滅しつつある。

 

(手も、火力も足りぬ)

 

 口にも顔にも出さないが、東敬一大佐もまたそう思った。

 一方で生粋の戦術家である園田勢治少佐は、そんなことを考えている余裕すらない。

 

「第32中隊を後退させて補給をさせましょう。第31中隊と交代させます」

「よろしい。……第23中隊は大丈夫か? F-15AAの継戦能力は低いが……」

「ここは機動を最小限にした固定砲台になってもらうほかありません。第11中隊がついているので大丈夫でしょう。第12中隊の補給が終了次第、彼らと第11中隊を交代させます」

「では、そうしてくれ」

 

 戦闘推移のほとんどが頭に入っている園田勢治少佐は、戦闘・予備・補給のローテーションを更新し続けている。

 正直なところ、ギリギリ廻している状況だ。F-8EクルセーダーとA-10C屠龍の絶大なる火力がなければ、鶴見川周辺で持ちこたえることは難しかっただろう。

 園田勢治少佐ほどではないが、それを東敬一大佐も理解している。

 だからこそ、1個中隊でも構わないので増援が欲しいところであった。

 

「――デリング1から各機」

 

 が、国連太平洋方面第11軍・第1戦術戦闘攻撃部隊は、やはり動く気がなかった。

 

 安全な六郷土手要塞。

 強化された土手の裏側からセンサーのみを突出させ、第92戦術機甲連隊機の性能およびBETAの行動パターンの解析にだけ、心を割いている。多摩川以南の死闘、オープンチャンネル、秘匿回線の会話問わず、すべてを傍受している。

 

 故にA-01連隊・デリング中隊の中隊長である大和田大尉は釘を刺さざるをえなかった。

 

「もう1度確認しておく。我々の任務は現段階では情報収集だ。いいな」

 

 返答には、2種類のそれが混じっている。

 イリーナ・ピアティフ少尉のように“割り切れている”もの。

 一方で日本――それもこの横浜市出身の衛士のように、納得しきれていないもの。

 

「ミツバチ5、後退しろ。前に出すぎだ」

「パッパ5、こちらパッパ1。B小隊を率いてミツバチ5を援護せよ!」

「パッパ1、パッパ5了解。てか井伊さんマジ!?」

「旧市立中学校前に光線級3! 撃ちます!」

「パッパ5、こちらパッパ9! 旧森永橋方面から戦車級300がそっちに行く!」

「陽さんとふゆさんが対応して!」

「了解!」「了解」

「肩のやつ使わんでね!」

「こちらサイウン1だ。もうすぐ到着する。状況は――」

「ミツバチ1だ。サイウン、頭が高すぎるぞ」

「初期照射――」

「全機、緊急着地!」

「あ゛」

「サイウン3が墜ちた!」

「HQ、こちらサイウン1。サイウン3が回避運動の最中に墜落」

「こちらHQ。状況を詳しく知りたい。戦闘、自走、脱出。いずれが可能か?」

「HQ。こちらゼノサイダ1だ。(ゲート)NE6方面に動きあり。……増援だろうな。突撃級が出てきたようだ。土煙の雰囲気からして、200は固い」

「こちらHQ。ゼノサイダ、プリズナーも含め全機、鶴見川東岸まで後退。繰り返す、全機後退。指定ポイントに集結せよ」

「ゼノサイダ1、了」

「プリズナー1、了解」

「HQ。こちらサイウン1。サイウン3は主脚が大破している。搭乗者のバイタルサインはあるが応答しない」

「おいサイウンの新人どもッ、覚悟はいいか!?」

「あんたいまそんなこと言ってる場合かよ!」

「言ってる場合だ実方ァ! 突っこんでくる阿呆をぶち殺すか、擱座した馬鹿を見棄てるか――だったら阿呆の方ぶち殺すに決まってんだろ! 気合入れろ、飯の数じゃねえってこと見せてくれや!」

「くそったれ、やってやるよ!」

「その気概や良し! こちら防人01。黒月陣風だ。我々も混ぜてもらおうか!」

「ゼノサイダ、こちらHQ。突撃級の最先頭を狙撃して擱座させろ。できるな?」

「ゼノサイダ1、了」

「少将閣下、お下がりください」

「田上くん、君こそ下がりたまえ。婚約者が多摩川(すぐそこ)にいるのだからな」

「お戯れを……!」

 

 オープンチャンネル上で繰り広げられる死闘に耳をそばだてているのは、国連軍だけではない。

 

 第92戦術機甲連隊本部要員から、多摩川防衛線を構成している国連軍・斯衛軍・帝国軍将兵の誰もが、気にしていたといってもいい。

 

 故に、事件は起こる――。

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