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次回更新は2月19日(日)6時、あるいは20日(月)0時を予定しております。
コールサイン“リーダー(リード)”の設定が固まりきっていなかったのですが最前線で2隊以上に対して指揮を執る指揮機を“リーダー”とします。
今後ともよろしくお願いいたします。
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「この駅も、あの学校も、あの丘もッ――全部!」
1機の94式戦術歩行戦闘機不知火が突出する。
「全部! 俺たちの街なんだよッ!」
デリング8、鳴海孝之少尉機は廃ビルの合間を翔け抜けて、一気に鶴見川近傍のBETA群に突撃を仕掛けた。
続けて彼の僚機デリング9、平慎二少尉機がその近傍に立ち、突撃砲を連射する。
「なんだこの餓鬼ッ――!?」
補給を終えたばかりのF-15AAを駆る第23中隊長の氏家義教大尉は、毒づきながらも突撃砲の砲口を、鳴海孝之少尉と平慎二少尉を狙う要撃級の群れに向けた。側面を晒していた要撃級が弾け、その死骸を踏みつけていく戦車級もまた同様に虚空へ肢体を四散させていく。
「あんたたちは俺たちの街を取り戻すために戦ってくれてんだろッ!?」
「こいつ、日本人か!?」
「来るな、死ぬぞ!」
「あんたアホかいな!?」
「こちらデリング1だ、デリング8、9、すぐに戻れ! これは命令だ!」
デリング中隊を率いる大和田大尉の命令を、彼は無視した。
というよりも耳に入っていない。
鳴海孝之少尉機は宙を翻って要撃級の一撃を躱し、36mm機関砲弾で反撃する。
「なのにそのまま俺の街で見殺しになる!」
「デリング8、こちらサイウン1だ! 貴様の気持ちはわかった、戻れ! ここは大丈夫だ!」
「水落、あいつを狙う光線級を撃て! 旧佃野公園!」
「プリズナー1、プリズナー2了解! おいクソガキ、戻ってこい!」
水落美歩中尉機が膝射の姿勢を取り、120mmキャニスター弾で鳴海孝之少尉機を狙う光線級を惨たらしい肉片に変えた。
が、鳴海孝之少尉は吼える。
「俺はもうそれに耐えられないんだ!」
吼えながら単機で前線を押し上げにかかった。
「デリング1。こちらヴァルキリー1だ。何が起きている?」
「デリング1、こちらデリング2。私が引き戻しに行きます」
飛び出した3機目の不知火は、ポーランド出身のイリーナ・ピアティフ少尉であった。
理性的な彼女はこの吶喊に参加する腹積もりはまったくなかっただろう。
が、単機で多摩川を越えたのは浅慮であった。
「ピアティフ少尉――デリング3、4! 援護してやれ!」
「了解!」
「了解!」
戦術機は必ず2機単位のエレメント以上で行動することが原則。
故に4機目、5機目の不知火が飛び出していく。
「デリング8! こちらヴァルキリー1――私だ。伊隅だ! 同郷の者としてその気持ちはわかる、だが!」
「おい、あの不知火はなんだ!」
「ミツバチブラボー。ミツバチ1だ。あれの退路を確保せよ」
「ミツバチ5了解! ついてこいッ!」
「応!」
敵中、深く斬りこむ鳴海孝之少尉機。
群がる戦車級と要撃級、蠢く要塞級がその退路を塞ぎ始める。
が、そこに4機のシュペルエタンダールがその身を割りこませた。機関砲弾から成る暴風が戦車級と要撃級を吹き飛ばし、長剣を腰溜めに構えた機影が要塞級に突進する。
「伊隅大尉ッ! 大尉ならわかるでしょう!?」
「……」
「この横浜で、この白陵で――俺はもう誰も死んでほしくないんだッ!」
「パッパ5、こちらパッパ1だ。あいつを殺させるな!」
「宇佐美大尉、それどういう命令ですか!?」
「言ったとおりだ、あいつを殺させるな! 行け! この一戦、あいつが生き残れば勝つ、死ねば負ける!」
「パッパ1、よくわかんないですけど了解! パッパ6、7、8、やってやるぞ!」
シュペルエタンダールと対戦中だったBETA群を全身凶器のMiG-29SEKが粉砕し、さらに突進――彼らは2機の不知火に追随する。
夕闇の中、曳光弾が奔る。
迫る要撃級の群れに、2機の不知火は肩を並べた。
「孝之! お前だけにいい格好させるかよ!」
「慎二――!」
「帝国の衛士さん、俺たちはこの街出身でね! だから戦わないわけにはいかないんですよ!」
鳴海孝之少尉機と平慎二少尉機は、仁王立ちになって迫る要撃級の群れと対峙する。
「おい」
その要撃級の群れが、横合いから突撃してきた機影に吹き飛ばされる。
「こちらゼノサイダ1、92連隊の櫻だ。タカユキとシンジ、といったか。悪いが戦っているのは貴様らふたりだけではない」
血肉に汚れた鈍色の装甲板。
体液をしたたらせる長大なる刀身。
淡く光る黄金のセンサーアイが、両機を捉えた。
「“われわれ”もいる。全員の力で、この街を取り戻すぞ」
歴戦のF-14Nは一瞥すらせず、背後を駆けてくる戦車級どもを、背面ガンマウントの砲撃で退けた。
(無駄だよ)
櫻麻衣大尉の清澄明瞭な思考の中で、誰かがささやく。
(彼の義憤も、皆の奮戦も、すべて大海崩で海の底に沈む)
しかし、と彼女は己の内にあるささやきを嘲笑った。
(それはいま戦わない理由にはならない。最後に我々人類は勝つ)
(何度も繰り返してきたのに――)
(ならば私は人類の勝利を信じて、何度でも戦場に立ち続けよう)
櫻麻衣大尉は声を上げた。
「HQ、こちらゼノサイダ1。指示を」
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「HQ、こちらゼノサイダ1。指示を」
寄り合い所帯の作戦司令部は、混乱していた。
デリング8、デリング9を最先鋒として戦陣は大いに崩れている。
どう立て直すか、と頭脳をフル回転させ始めた園田勢治少佐。
「園田少佐」
それを、東敬一大佐は制した。
そして、マイクをとる。
「こちらHQ。第92連隊長の東だ」
東敬一大佐はこれが戦機だ、と思った。
「われわれ人類軍は、旧横浜商科大学の
無理に諸隊を後退、整理しては元の木阿弥。
守勢に甘んじれば、敵の勢いに呑まれて壊滅するのが目に見えている。
ならばここはこの勢いのまま前進して敵を圧倒し続け、出血を強いた方がよい。
「日本帝国第92戦術機甲連隊は国連軍第1戦術戦闘攻撃部隊と協同」
「帝国斯衛軍大宰府警備隊および韓国陸軍第51戦術機甲大隊は側面防御を担当」
「このあと第二次増援の突撃級が姿を現すだろう。と同時に、諸隊は92連隊11中隊および33中隊と
「ゼノサイダ1を
「HQ。ゼノサイダリーダー了解。横浜に集った諸君、明日のために勝つぞ」
闘志を宿した櫻麻衣大尉の声が、オープンチャンネルに響いた。
「……」
よろしいのですか、と聞いた園田勢治少佐に、東敬一大佐は溜息まじりに戦域図を指さした。
「これを見ろ。俺たちはどうやらこれを捌くので精一杯になりそうだ」
鶴見川以西を埋め尽くすBETA群を示す赤いマーカー。
対して鶴見川以東には作戦参加機を示す青いマーカーが続々と出現していた。
いつのまにか雨は上がり、雨雲は去っている。
高速突撃を仕掛ける戦術機の頭上に浮かぶのは、勝利の居待月。